超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

戦争を生きた少女の物語

2017-01-15 14:45:24 | 職場
この記事はいくつかの映画のネタバレになる可能性がありますのでご注意ください。

新年早々、今年のランキングではかなりの上位に入るであろう上映作品を見た。クラウドファンディングという資金調達で上映館を増やしたという、「太平洋戦争時、呉に嫁に行った一人の少女」を描く映画である。他の人気映画のように始めから多数のシアターで上映されたものではなく、「もっと多くの人に見てほしい」という声がプロジェクトとなって日本中に広まった結果らしいのである。さらに今、この作品を世界各国で上映すべく、さらにプロジェクトが進行しているようである。最寄駅の最新シネコン施設で「夫婦で行くと格安になる」という条件をクリアしたので、ここのところ妻とよく映画を観に出かける。共通の著書をあまり持たない妻とは映画を見てその後色々と語り、数少ない趣味化していくのもありだと思う。最近では私のリクエストで(原作を読んであらすじは知っていたが)「海賊とよばれた男」だが、この映画は妻の要望によるものだ。

昨年は年末の「海賊・・・」も含めいくつかの映画を観た。火星に置き去りにされる話、戦国時代へのタイムスリップもの、20年前に妻と見たSFの続きもの、ゴジラ、そして空前のヒットとなったアニメである。息子甘辛とも、本郷猛登場の仮面ライダー、昨年のテーマともなったウルトラマン、そして平成ライダーそろい踏みの話だ。どれも中々味わい深く、仮面ライダー1号のようにこのサイトで語るくらいはできるのだが、今回観た2017年初アニメ映画はある意味、ものすごく思うところを語るのが難しいものだ。戦争末期の一市民の生活や想いを描くものだが、素直においおい泣けるものでもないが、クスクス笑うところもあるし、不思議な深みがある。主人公が「あまちゃん」演じた女優だが、物語中終始ぽーっとしていて、激動の悲しく重い時節と対照的だった。ただ「声」としての主演ではすごい存在感があり、映画の内容そのものの前に「すず」に引き込まれるようなところがあった。

国が戦争をしていようが、それに負けて終わろうが、人間が「息づいている」ことを感じさせられる、というような感想を既にこの映画を観たという友人には送ったが、「取りあえず揚げてはみたが、ソースが見当たらないトンカツ」又は「初めてにしてはうまく打てた蕎麦だが、つゆの作り方が分からない」みたいな、何とも言えない「やり残し感」が漂っていた。この映画の感想をつらつら観ていると圧倒的に絶賛する声が多かった。私が何となく感じたように、主人公「すず」の雰囲気が絶大な存在感に、切ない好感を持てたという感想もかなり見られた。戦争があって「普通でない」世界の片隅で「日本人はこうして生きていた」というほっこりした描写に共感した観客が多いようだ。(「日本人」というか「人」というかが微妙だが)。むろん美しい話のみのわけがなく、泣き笑いする普通の生活も大事なものも忍び寄る戦争の影が容赦なく奪っていく。

ただあののんびり感が「世界がどうなっているかを知らずに戦争に翻弄されて必死に生き抜いていた人たちへの敬意を感じられない」とする感想もあった。また一市民の無力さをことさらに強調し過ぎ、とか日本国民をどうしようもない被害者として描写していることへの違和感なども少数ながら見られた。戦争にとられた彼らの「大切な人」も国外でひどいことをしているかもしれないし、戦時中に旧日本軍も原子爆弾開発を行っていたと聞いている。もし米国よりも先に完成し伊号400潜水艦で西海岸まで運べたら、LAに迷わず落としたかもしれない。かの戦争を一方向からだけとらえて「分かったような気分」になるのはどうかと思う。しかし一方で戦場の兵士でない、一市民から見たらあんな風にも見えたのかな、とも思う。一応この映画は戦争を描きつつも登場人物はフィクションだそうだが、昨年見たいくつかの映画と比較すると何か通じるものもあるし、決定的に異なるところもある。

戦時中、食べ物や衣服などあらゆるモノが不足しても、あらん限りの工夫をして生き長らえようとするたくましさは火星に取り残されたマーク・ワトニーに通じるが、彼のように「いつまで」という期限もないし、待ちわびる救出もない。タイムスリップした主人公が本能寺に向かう信長を制止しようとするが、歴史が変わることはないのは、本作の「8月6日に向かうようなカウントダウン」で心抉られるように知らされる。一方で地球侵略を目的に20年ぶりに再来した宇宙人やゴジラは市民にとっては明確な「悪」であるが、この映画では空襲にやってくる戦争相手そのものは「悪」とは描いていないように見える。また、かの戦争の引き金は「石油」だったと本で読んだこともあり、この「日本にないモノ」を巡って戦後どのように戦ってきたかを痛快に描いた映画を年末に見たが、本作品は敗戦後しばらくで、その後の未来は話に出てこない。最後に彗星落下から村人を救われたように、歴史が変わってほしかった・・・

ところでこの映画の中心地は呉である。呉と言えば戦艦大和建造の地であり、以前広島出張の際にちょっと足を運んで大和ミュージアムなども訪れたのを思い出す。私はこれまでに戦艦大和についての本を結構読んだし映画も見た。世界一の巨艦でありながら、時代が退艦巨砲から航空戦力に移り、その時代遅れあまりにさしたる戦果も挙げられずに海の藻屑となった。しかしこの艦を作り上げた技術がこの国にはあり、これが基礎となって再び海運王国として復興していく・・・大体そんなストーリーで大和の物語は結ばれる。子供の頃読んだ「戦艦大和のすべて」などという本でも、艦そのものや主砲の大きさだけでなく、設計思想や造形フォルム他多くの点で世界最高水準の技術であたことは間違いない。技術そのものに善悪はないだろうから、この技術をもって再び立国したというのは大きな理があるだろう。しかし一方でこうして「本当にここで帰結してよいのかな」とも思うのである。

        

「男たちの大和」で目の当たりにするが、大和はご存知の通り戦争末期に沖縄に向けて出撃し何百何千の米軍機の爆撃、雷撃を受けて沈没する。護衛の戦闘機もがただの1機もいない、そうなることが誰が見ても明らかな「水上特攻」だった。「一億玉砕の先駆け」などという言葉で無謀な作戦に駆り出され3千名もの兵士もろとも犠牲になった。なまじ技術があったから巨艦を建造でき、愚かな人間の所業により鉄の棺桶となってしまった。「技術は生き続ける」などといって完結してよい話ではないような気がする。いかに優れた技術であっても、これを使用する者が愚かであったら、優れている分だけダメージも深刻だ。原爆の製造にいち早く成功していたらどうなったか、という話はたらればに過ぎないが、唯一の被爆国である我が国が人災とも言われる原発事故を発生させたのは技術を持てる者の「学習能力」の欠如を反省しなければならないだろう。

     

つくづく戦争を取り上げた物語というのはその所感を語るのは難しいと思う。久々に色々感ずる映画を観て、このサイトでも紹介し、粋な感想文でもまとめようと思ったが、見事なほどに何も書けなかった。そして仕方がないから、世の人達はどんな感想を持ったかをネットで見ているうちに、この映画の真髄は「多くの人が語り合う」のが大事なのだと思うようになった。学校で習い、色んな方角から本も読み、知識としてある程度形づくることはできても、すべてを理解して語り尽くすなんてことは誰にもできないことだ。私は終戦時中学生だった父にわずかだが話を聞いたことがある。母は疎開したそうだが、父は何度か空襲を経験した。焼野原となった地には亡くなった人の骸が無残に放置されており、街の誰もが「この戦争はいずれ敗ける」と思っていたそうだ。それこそ色んな戦争体験があるだろうが、それを語ることのできる人も年々少なくなってきている。

しかし「語り尽くす」ことはできなくても「語り合い」「語り継ぐ」ことはできる。(逆にたぶんそれしかできない)このため(宣伝するわけではないが)この映画は国内外、老若男女一人でも多くの人に観てもらいたいと思う。小学生は素直に「つまらなかった」と思ってもよいし、お気楽ギャルは「すずちゃん、可愛いー」と笑ってもよい。実際に戦争を体験した人はあれを見てなんとおっしゃるか。それこそ多種多様のコメントが出るだろうが、それを皆で共有すること自体が大事なのではないかと思えるアニメだった。


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4 コメント

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Unknown (月美)
2017-01-17 22:03:06
私もその映画 観ました。思うところを語るのが難しい…まさしくそんな感じの映画でしたね。まだ観ていない友人に どうだった?と聞かれ こんなに答えるのに困った映画はなかったぐらいです。
その後もなんだかすっきりせずにいましたが、「多種多様なコメントが出るが それ自体を語り合うことが大事」…この言葉で なるほど、そうなんだ…!と胸の奥にすとんと落ちました。いろんな映画をご覧になったようですが なんとなく通ずる部分があるのには驚きですね。さすが目の付けどころが違います。私事ですが 今月下旬にはまた観たい映画があります。好きな作家の小説が映画化されたものが一つと、あと 息子達世代に大人気で ヒット曲を次々と出している 未だ顔を公表していない若者グループの映画です。それはなんと近くのイ◯ンシネマに そのグループを演じる若手人気俳優達が初日舞台挨拶に来るそうで、そのチケットが抽選で当たらないかなぁとワクワクしています(^o^)
Unknown (磯辺太郎)
2017-01-17 23:40:18
月美さま

こんにちは。月美さんもご覧になりましたか。私の知人にも「観たよ」という人が多いのですが、「どうだった?」と聞くと「ま、観れば分かる」というような言い方をする人が多かったですね。
自分で語ろうと思っても中々活字にできないので、人の感想を見ていると「語り合う」と逃げるのもありだなー、正直思いました。(苦笑)
やはり「これ映画館で見てみたいな」と思う作品には共通項があるような気もします。月美さんはどんな映画がお好きですか?今月末の「宮本」は見たいと思ってます。顔を出してないグループ・・・感動を呼びそうですね。
今まで舞台挨拶1回だけ観ました。たけしさんと近藤さんと中尾彬さん・・・若手人気俳優、当たるといいですね。
Unknown (月美)
2017-01-18 08:50:34
「宮本」…私も観たいです。例の舞台挨拶の映画は 息子達が騒いでいるのに ちょっとミーハー的に乗っかっている感じです(^o^) 当たったらきっと息子にチケット取られると覚悟しています…トホホ。夫婦割引の魅力は やっぱり大きいですね。すっかり ガラガラの時間の一番後ろで 2人でゆったり観るスタイルにハマってしまってます。
Unknown (磯辺太郎)
2017-01-19 22:25:11
月美さま

ご子息がいらしてたぶん同年代ということは、「宮本」少し気になりますよね。友人の紹介で読んだ本についてこのサイトでも記事にしましたが、妻と見るとどんなことになるか・・・「寝た子を起こす」ようなことにならなければよいが。
夫婦割引は「宮本系」の二人にはちょうどよいチャンスかもしれません。ボクはガラガラの映画館というのは物悲しくて苦手なんですけど。

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