ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

「ユーゲント」第10号(1999年12月01日)

2007年09月06日 | 教科通信「ユーゲント」
「ユーゲント」第10号(1999年12月01日)

             ドイツ語教室の教科通信

 メーリケの詩を読んでみました。まず原文を再録します。

    Er ist's
         Eduard Moerike

  Fruehling laesst sein blaues Band
  Wieder flattern durch die Luefte;
  Suesse, wohlbekannte Duefte
  Streifen ahnungsvoll das Land.
  Veilchen traeumen schon,
Wollen balde kommen.
  ──Horch, von fern ein leiser Harfenton!
  Fruehling, ja du bist's!
  Dich hab ich vernommen!

 詩心なぞゼロに等しい講師の独断と偏見で以下の解説と批評をし
ます。

  まず、語句を検討します。

 表題の Er ist's については、文中の du bist's及び Ich bin's
という言い方と共に授業で詳しく検討しましたので、繰り返しま
せん。この表題を訳していない人もいましたが、表題も訳して欲し
いと思います。「それは春」、「春だ」、「春よ!」などの訳があ
りました。

  Fruehling laesst sein blaues Band
  Wieder flattern durch die Luefte;

  sein blaues Band は分かりませんが、Fさんは「春の南風」の
ことではないかと提案しています。私はその後、冬の灰色の空にか
いま見えるようになった青空、それが面にはなってなくて帯状のも
のだから「青いリボン」と言ったのではないかとも考えました。O
さんは「空はリボンがはためいたように青く澄み」と訳していま
す。

  Suesse, wohlbekannte Duefte
  Streifen ahnungsvoll das Land.

  wohlbekannte を「懐かしい」と訳している人も何人かいまし
た。「よく知られた」よりは適当だと思います。「親しみのある」
という訳もありました。

  ahnungsvollは、動作の「様相を客観的に形容する」ものではな
くて、それに接した主観の印象を表しているのだと思います。一種
の「評価の副詞」(話者の下す判定)と言っていいと思います。

 「──Horch 」以下はスミレの言葉だと思いますが、単数形にな
っています。Veilchentraeumenですから、 Veilchen は複数形で
す。従って1つのスミレを全体の代表とみなしたのだと思います。
Horch は自分に対する命令ではないでしょうか。Horchet! なら、
仲間のスミレに対する呼びかけ的命令でしょうが。殆どの人は「聞
け」とか、「聴いて」とか訳していましたが、「耳をすませ」とい
うのもいくつかありました。特にK君の「しっ」は面白いと思いま
した。

  ein leiser Harfenton は1格形です。訳は自由ですが、元の意
味は「ハープの音が(聞こえてくる)」だと思います。

  Fruehling, ja du bist's!の Fruehlingは呼びかけです。「春
君」、「春さん」などがありました。この ja は「自分にうなづい
ている」のではないでしょうか。発音としては日本語の「やあ」と
いう挨拶を連想してしまいますが。T君は「春君、本当に君なんだ
ね」と訳しています。

   ではいくつかの訳を紹介します。

    Er ist's
          Aさん

 青い色のリボンを春が
 空の中へふたたびはためかせ
 甘く覚えのある香りが
 予感あふれる大地をかすめていく
 スミレの花はすでに夢をみている
 もうすぐやって来ることを
 聞いて、遠くから届く琴の音を
 春よ、あなたはもうそこにいる
 春よ、あなたの足音を聞いている

 感想

 一読して詩らしいリズムを感じました。この点で出色の出来だと
思います。脚 韻を踏んでいるような所もあって、訳出の苦心がし
のばれます。

   春が来た!
                Mさん

 今年もまた春が青いリボンを空になびかせます。
 甘くて、なじみ深い香りが予感に満ち満ちて丘の上をなぞってい
きます。
 その丘に咲くスミレは一足早く夢を見ています。
 今すぐにでもやってきそうな春にワクワクしながら。
 ──ほら、耳を澄ましてごらん! 遠くからハープの音色がかす
かに聞こえてくるよ。 やあ、春さん! 君が来たんだね!
 僕は君の足音をはっきり聞いたよ!

 感想 

 これは話し言葉で通したところに特徴があると思います。こなれ
た訳になって いると思いました。随所に独特の解釈もあって面白
いと思いました。

    Er ist's
          Oさん

 春が再び青いリボンをひらひらさせ
 甘くなじみ深い香りが大地をなでていく
 スミレはもう芽を出すことを夢みている
  聞こえるよ、遠くから小さなハープの音が聴こえるよ
  春よ、僕だよ
  僕は春を聴いたよ

 感想 

 全体として正確に訳しながら「春よ、僕だよ」の工夫が面白いと
思いました。

    春よ!
             Kさん

 春はまた、青いリボンをそよ風にのせて飛ばす。
 よく知られている甘い香り。地面をなぞっていくそんな予感。
 スミレは夢をみて、咲きたくてうずうずしている。
 よく聞いて、なんて遠く小さいハープの音!
  ──春さん、君が来たんだね!
        私は君の足音を聞いたよ!

 感想 

 随所に体言止めを使って変化を出した所に工夫を感じました。ス
ミレの言葉を 自分へのものと春への話しかけとの2つに分けて訳
した所も面白いと思いました。