ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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教育、第129号、静岡大学のセクハラ問題

2005年10月26日 | サ行
 去る(2003年)05月08日、静岡大学の学長と副学長は静岡県庁で記者会見を行い、教育学部の男性助教授をセクハラ行為を理由として懲戒解雇した、と発表しました。

その発表によりますと、昨年の09月その助教授は面識のある女子学生をホテルに連れ込み、性的関係を伴うセクハラをしたとのことです。つまり、一種のレイプをしたのです。

静岡大学でのセクハラによる教員処分はこれで2ヵ月間に3件となりました。最初は、やはり男性助教授が女子学生の体に触ったということで、停職2ヵ月の処分でした。2度目は、非常勤講師が数年間にわたって自分の指導するサークルの複数の女子学生に対してホテルへの同宿を要求したというもので、この講師は解雇されました。

このように同じ大学で何度もセクハラ事件が起きたので、遠山敦子文部科学大臣も談話を発表しました。

「大学という知の拠点でこういう事が頻繁に起こるとすれば、大きな問題である。大学関係者は襟を正して本来やるべきことに力を尽くして欲しい」というものでした。

マスコミや有識者などからは、大学側の対応についても批判が寄せられました。特に、対応が遅すぎるという点が批判されました。それに、被害者保護の名目で事実の公表、処分者の氏名公表を避けている点も問題視されました。

05月10日の朝日新聞はスクランブル欄でこれを詳しく取り上げ、「大学の対応にはこの問題に真剣に取り組もうとする姿勢が伝わってこない」と酷評しました。

その記事の最後にこう書いてありました。

 「(記者)会見では、『なぜ静岡大学でセクハラが相次ぐのか』という質問に、大学側は無言で考え込むしかなかった。それを明確にできない限り、『再発防止に取り組む』という決意の言葉もむなしく響く」。

これほどひどい状況を考えるにはやはり大学全体を視野に入れなければならないでしょう。私は次の諸点を考えました。

第1に、静岡大学ではこの4月から新しい学長が赴任しているということです。ということは、これは前学長(佐藤博明氏)の6年間の任期の最後に起きた事件だということです。

2つ目のそれは数年間にわたって行われていたそうですから、そっくりその6年間と重なります。他の2つは昨年に起きた事件ですから、前学長の任期の文字通り最後の時期に起きたわけです。

つまり、これらのセクハラ事件は前学長時代に大学全体が沈滞していたことの最も醜悪な現れにすぎないのではないか、と思うのです。いずれにせよ、この事件については前学長に大きな責任があると思います。前学長が謝罪しないのはおかしいと思います。

第2にこれと関連して注目したい点は、この3回目の事件は昨年(2002年)の09月に起き、被害者は11月に大学の学生相談室に相談したのに、処分の発表されたのはこの05月だということです。

この時間差は単に「遅すぎる」というような量的な問題ではないと思います。なぜなら、前学長の時に起きた事件であり、その任期の終わりの3月末までに十分に時間があったのに、前学長はそれを処理しないで辞めたからです。

これはいったい責任感のある人のする事でしょうか。

06月26日、桃山学院大学の社会学部の助教授がやはりセクハラで処分されました。この時は「女子学生の胸に触った」ということでしたが、処分は停職1ヵ月でした(本人は辞職したと報じられました)。しかし、同時に、学長は自分自身にも「役職手当て1ヵ月分返納」という処分を課したのです。

静岡大学でも教育学部長が「監督不行き届き」で訓戒の処分を受けてはいますが、前学長は全然処分されていません。ここに昨年09月に起きた事件を今年の05月にようやく処分し発表したことの真相があると思います。

前学長は、もし自分の退職直前に3件ものセクハラ処分を発表したら、自分の責任が問われ、場合によっては退職金の一部返納という事態になる、と危惧したのだろうと思います。普通に考えればそうなると思います。

第3に、更に根本的な問題を考えてみましょう。最近、経済系の週刊誌が相次いで「大学の実力ランキング」の特集を組みました。1つは「週刊東洋経済」で、もう1つは「週刊ダイヤモンド」です。

前者は種々の客観的なデータを一覧表にまとめたものが中心です。後者は、主要企業の人事部の人たちにアンケート調査した結果をまとめたものです。

これらのランキングに静岡大学はどのように出てきたでしょうか。ほとんど出てきていないのです。今でもはっきり覚えていますが、10年ほど前、その「週刊ダイヤモンド」の人事部長に対するアンケートで静岡大学は総合力で38位にランクされていました。

しかし、今では「卒業生が大企業の役職などについている」という点で45位にランクされているだけです。つまり、静岡大学は過去はまあまあだったが、今ではいかなる点でもベスト50にすら入らないということです。

悪い方には名前が出てきます。この10年間で志願者数の減った大学の一覧表がありました。静岡大学は国立大学の中では佐賀大学に次いでワースト2でした。つまり静岡大学は魅力のない大学であり、入りやすい大学になってしまったのです。

第4に、文部科学省のいわゆるCOE(卓越した拠点。いわゆる「トップ30」の名前だけを変えたもの)が昨年度から始まりましたが、静岡大学は3件申請したようですが、1件も通りませんでした。しかも、その通らなかった事を反省するような事柄もHP上に発表されていません。

同志社大学は昨年の惨敗を恥じて、その決意をHP上で述べている、と有名です。昨年、その選に漏れた時、大学幹部は卒業生から「立命館に負けるとは情けない」(立命館は3件採択された)と、厳しく叱責されたそうです(1月5日付け朝日新聞)。

第5に、静岡大学は2006年から始まる法科大学院にも申請しなかったようです。静岡大学の法学部を出て法曹関係に進んでいる人々は大いに失望したと伝えられています。

要するに、静岡大学については悪いニュースは沢山聞かされるのですが、好いニュースがほとんどないのです。これらの事実は静岡大学が容易ならぬ退化過程にあることを推察させます。

今回のセクハラ事件の後、静岡大学の学長はHP上に「お詫び」の文章を発表し、「対策が決まり次第公表する」と誓いました。しかし、その対策が公表されたという話を私は聞いていません。その「お詫び」の文章だけは知らないうちに削除されています。

(2003年06月30日発行)