テレビなどの報道に関わっているジャーナリストたちが発起人となって、「『表現の自由』と報道を考える会合における緊急メッセージ発表・記者会見のお知らせ」と題する案内を報道機関に送った。
記者会見の日付は2014年12月11日、場所は参議院議員会館地下1階。「『表現の自由』と報道を考える」キッカケは、案内に、〈自由民主党筆頭副幹事長・報道局長の連名による「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」と題する文書が送られたこと〉としている。
その結果、〈いま、テレビの報道現場では、政権与党から放送局上層部に直接渡された「お願い文書」によって、かつてない萎縮ムードが蔓延しています。〉という状況に陥っていて、このような憂慮すべき状況を受けた緊急メッセージ発表と記者会見ということらしい。
だが、である。なぜ「萎縮ムード」を蔓延させることになっているのだろう。もし蔓延させているとしたら、戦前の軍部や国家権力の検閲を手段とした報道弾圧を学習していないことになる。報道側は国家権力側の意に添わない記事が黒塗りにされて戻ってくると、先ず検閲に引っかからない記事を書く萎縮に基づいた自主規制を学習し、次に国家権力に気に入れられる記事を書く慣れ合いを学習、身につけていったという。軍部や国家権力の意向への一体化である。自らの意向=言論、主義主張を放棄した。
一旦、「萎縮ムード」とう名の自主規制に入ったなら、それを初期的段階として、慣れ合い、そして一体化、自らの言論や主義主張の放棄の段階へと進んでいかないとは限らない。
また、「萎縮ムード」は政治家側の意図の忖度という心理作用から発しているはずだ。
発起人たちも同様の危惧を抱いている。〈番組の準備段階からテーマ設定や出演者の忖度や自粛がおこなわれれば、視聴者にわからないままに事実上、放送番組が政権与党から干渉され、規律されることになってしまいます。いまや、放送法第一条が謳う「放送による表現の自由」や「放送が健全な民主主義の発達に資する」ことが危機に瀕している、と私たちは考えるに至りました。〉――
但し発起人たち自身が「萎縮ムード」に囚われていないだろうか。いわゆる「お願い文書」の差出人名は萩生田光一自由民主党筆頭副幹事長と自民党所属の衆議院議員福井照広報本部報道局長である。
それを役職名のみ書いて名指ししないところに自主規制と言うこともできるある種の忖度=「萎縮ムード」を感じないわけにはいかない。
案内に同封した《「表現の自由」と報道を考える会合 緊急メッセージ》には「お願い文書」の問題点を次のように言及している。
〈(1)「中立」という誤った考え方を放送局に要求……対立する両者から等しく距離を置き、どちらの味方もしない「中立」は、言論報道機関が必ず守るべき原則ではありません。仮に政党Aが独裁政治を目指して政党Bと対立すれば、民主主義社会の言論報道機関が政党Aを批判して当然です。「健全な民主主義の発達」を謳う放送法の趣旨からは、放送局は政党Aを必ず批判しなければなりません。
(2)放送の「政治的な公平」を番組単位で要求……放送法が放送局に求める「政治的な公平」は、単一番組で必ず実現すべきものではありません。政治的な公平は、一定期間に流された放送番組全体で判断すべきです。このことは、放送を所管する総務省(旧郵政省)の過去の答弁からも明らかです。〉――
いわば萩生田光一と福井照広報本部報道局長が差出人となった「お願い文書」が要請している政治的中立性と政治的公平性を否定し、報道に於けるあるべき政治的中立性と政治的公平性を示し、主張した。
後者の「一定期間に流された放送番組全体で判断すべき」だと主張している政治的公平性の根拠として、「放送を所管する総務省(旧郵政省)の過去の答弁からも明らかです」としている。
「過去の答弁」をネットで探してみたが、見つからなかった。根拠として挙げる以上、第何回の衆議院か参議院、いずれの国会の何月何日のどの委員会でその発言があったのか把握しているはずである。
根拠の確かさを自分たちの言論や主義主張に合わせることを求める形の報道規制欲求を抱えている安倍晋三とその一派に伝え納得させるためにも、あるいは表現の自由の危機を憂えている多くの国民に知らせるためにも発言の出所を明白にすべきだし、大体が報道の基本はいつ・どこで・誰が・何をしたかであるはずだが、その基本も忘れて、納得させることができるかどうかも分からないままに自分たちのみの根拠としている。
発起人たちが著名なジャーナリストでありながら、こうも小じっかりしていないところを見ると、現場の放送人たちの間に忖度から発した「萎縮ムード」が蔓延するのも無理はないのかもしれない。
安倍晋三と中川昭一がNHKの番組に政治介入、改変させたとした裁判で高裁は政治介入の事実を認定せず、「NHK幹部が政治家の意図を忖度して番組を改変した」とする事実認定にとどめたことを以って安倍晋三は自身の政治介入を無罪としているが、萩生田光一の「お願い文書」を出す2日前に安倍晋三はTBS「NEWS23」に出演して、番組が景気の実感を街行く人にインタビューした、いわゆる街の声を聞いた際、アベノミクスに否定的な声が多かったことに、「街の声ですから、皆さん選んいると思いますよ。もしかしたら」とテレビ局の情報操作を疑っている。
この関連性から言うと、「お願い文書」がテレビ各局に出演者の発言回数や時間等の公平性等々を要請しているものの、「アベノミクスを評価する声をもっと出せ」と暗に要求することを通して、安倍晋三を背後に置いた報道側に対する政治の側からの安倍晋三とその一派の言論・主義主張を忖度させる意図を含んでいる疑いが濃い。
いわば“忖度”という人間心理を利用した政治利用、もしくは政治介入である。
同じことを繰返すが、何しろ萩生田光一の「お願い文書」一通で報道現場に忖度から発した「萎縮ムード」が蔓延したのである。
高市早苗が総務省としてマスコミに慎重な当確放送を要請したことも、例えそれが政治的圧力や政治的介入を背景としていなくても、そこに否応もなしに報道側からの「何のために」と要請の意味を問う忖度を介在させることになる。報道側が過剰反応して、ありもしない意味づけを忖度に付与するケースも否定できない。
土台、表現の自由、思想・言論の自由を抱えている生きものである人間にいくら報道を職業としているとは言え、「放送の不偏不党」や「政治的公平性」の名の下、自らの言論、あるいは主義主張の表明に不自由を強いる、あるいは封印させる、あるいは忖度という心理的な檻に閉じ込めて、萎縮させたりするのは精神的拷問を与えるに等しい。
この不自由や精神的拷問から解放して、自由な報道をさせるためにも、あるいは報道側が国家権力の言論弾圧に屈する万が一の危険性を奪い取るためにも、あるいは国家権力側が報道機関や国民の表現の自由、思想・信条の自由等の基本的人権を奪う機会を排除するためにも放送法を改定、1987年にフェアネス・ドクトリン(報道の公平原則)を廃止したアメリカのテレビのように「放送の不偏不党」や「政治的公平性」を規定した条文を削除すべきではないだろうか。
後は放送人の良識に恃(たの)む。
このようにでもしなければ、安倍晋三とその一派の自分たちの言論や主義主張に合わせることを求める形の報道規制欲求は最初は“忖度”の心理を利用した政治的圧力であったとしても、徐々にエスカレートして、いつの日か戦前の報道弾圧と似た道のりを二の舞いとしない保証はない。
いずれにしても、報道の自由、表現の自由、思想・信条の自由等々に関して安倍晋三は危険人物という他ない。
生活の党 2014年総選挙公認候補予定者
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