――国家公務員新規採用を抑制するなら、せめて経済が回復し、有効求人倍率が1を十分に超えた雇用状況になってからすべきであろう。――
温情政治家岡田副総理が2013年度国家公務員新規採用を2009年度上限(8511人)比で各府省全体で7割以上削減するよう指示を出したという。《国家公務員採用、7割以上削減を…岡田副総理》(YOMIURI ONLINE/2012年3月9日16時04分)
記事、〈実現すれば上限は2500人程度となる。〉
8511人(1-0.7)≒2533人。約6000人カットすることになる。
再び記事。〈政府は(3月)6日の行政改革実行本部(本部長・野田首相)で、09年度比で4割超、12年度比で2割超の新規採用削減を目指す方針を決めているが、消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革に国民の理解を得るため、削減率の上積みを図ることにした。〉・・・・
約6000人が仕事にあぶれる。「社会保障・税一体改革」国民理解獲得のために血祭りに上げようということなのか。
府省ごとの削減率は業務内容に応じて違いを設ける方針だそうだが、〈ただ、政府内では「業務遂行に支障が出る」との指摘も出ており、岡田氏の指示通りに削減が実現できるかどうかは見通せない状況だ。〉と早くも反対姿勢が出ていることを伝えて記事を結んでいる。
違いを言い立てて、特別扱いを求める府省も出てくるに違いない。
政府内の反対姿勢については次の記事も触れている。《副総理 採用抑制“この程度は前に”》(NHK NEWS WEB/2012年3月10日 0時9分)
3月中に抑制規模を決める方針に対して一部の省庁から「業務に支障が出かねない」などと慎重な対応を求める声が出ていると先ず伝えている。
岡田副総理「改革を進めようとすれば抵抗する声は出てくる。しかし、今の国の財政状況や民間企業の厳しさに比べれば、この程度のことは前に進めなければならない」
記事、〈国家公務員の新規採用の大幅抑制に意欲を示しました。〉
原理主義者らしい意欲満々の姿勢だったということなのだろう。
国家公務員を志望する若者への影響について一刀両断。
岡田副総理「公務員を志望する人は、公のために働くことを目指していると思うので、今の国の状況を理解してほしい。競争は厳しくなるかもしれないが、勝ち抜いてほしい」
言っていることが自己都合に満ちている。
公務員志望者は倒産もなく、一度勤めれば先ずリストラもなく、民間より給与はいいし、うまくいけば天下りもできるといいこと尽くめを狙うケースも無視し難く存在するだろうが、「公のために働くことを目指し」たとしても、そのことだけが目的ではなく、公務を通して生計を立てることをも目的としている。
その機会を奪うのである。「競争は厳しくなるかもしれないが、勝ち抜いてほしい」と安易にエールを送っているが、確実に6000人超が負け抜くことになる。
岡田福総理は金持ちのボンボンで生活に苦労がないだろうから、試験も競争、それで篩にかけられたなら、本人の努力の結果だから、仕方がないと言うかもしれないが、篩いにかけられた6000人超の生活の問題で終わらないことが何よりの問題のはずだが、そこまで頭が回らないことがまた問題である。
いわば就職とは生活である。国のために尽くす、あるいは会社のために尽くすということは人生である。
両者は分け難く密接につながっている。
昨3月13日の参院予算院会でも取り上げられた。《首相 公務員採用抑制に理解を》(NHK NEWS WEB/2012年3月13日 20時1分)
小野次郎みんなの党参議院議員、「私たちは、公務員制度改革を訴えているが、『既得権を打破しろ』ということで、天下りや高すぎる退職金などを批判している。そういう批判を受けても、公のために働きたい若者が公務員を希望しているのに、大幅カットは天下の愚策だ。新規採用の大幅削減はしないと約束すべきだ」
野田首相「国家公務員を目指して日夜頑張っている若者に恐縮だが、厳しい国難の状況を理解してほしい。今までよりも大幅に抑制することは、行政改革実行本部で確認しているので、方針どおり進めたい」
岡田のボンボンと同じことを言っている。岡田ボンボンは採用抑制の理由を「今の国の状況を理解してほしい」と言い、野田首相は「厳しい国難の状況を理解してほしい」と言っている。
二人共、その「国の状況」、「厳しい国難の状況」の具体的な全体像と全体像を構成している各個別性を把握もせずに財政難解決策の消費税増税のみに目を奪われて抽象的に現況を形容しているに過ぎない。
だから、短絡的に新規採用抑制だと結論づけることができる。
大体が2割や3割ではなく、7割以上削減としていること自体がその短絡性を如実に証明しているばかりか、国難の全体像とその各個別性を把握していないことを証拠立てている。
尤も7割以上削減は要請を受けている各省庁でははかばかしい受け止め方はなされていないようだ。
《岡田氏“採用抑制で閣僚折衝も”》(NHK NEWS WEB/2012年3月13日 21時52分)
岡田副ボンボン「総務省と各省庁の交渉状況を見ると、踏み込みがかなり足りないので、各大臣にはリーダーシップを発揮してもらいたい。いくつかの省庁は趣旨を理解して受け入れたが、そうでない役所もかなり残っており、政務レベルでもしっかり交渉したい」
抵抗に遭っているということになる。だが、ボンボンにふさわしくなく、抵抗に一向にめげない。この点、「社会保障と税の一体改革」ではご都合主義者をなり振り構わずに演じているのに反して、原理主義者像を存分頑なに発揮している。
岡田副ボンボン「総務省が各省庁に示した規模を抑制すれば業務に支障が出るかもしれないので、仕事のやり方を変えるのは当然だ。従来と同じ仕事のやり方でかなり人が減らせるなら、人が余っていたことになる」
記事は書いている。〈採用の抑制にあたっては業務内容を見直す必要があるという考えを示し〉たと。
要するにより効率性の上がる仕事の組立てを行えば、人手を減らすことができ、新規採用削減を相殺できると言っている。
だが、このことは民間企業なら殆どが実施している、日々努力しなければならない実現項目であって、新規採用を削減しますから、仕事の効率化を図ってくださいという問題ではないはずだ。
それに何回か行なっている事業仕分けは単にムダな予算・ムダな事業を洗い出すだけではなく、業務の効率化も含まれていて、そのことを通した予算と事業のムダの部分の排除をも目的としていたはずだ。
それを今さらながらに「仕事のやり方を変えるのは当然だ」と言っている。
だが、こういったことよりも、「仕事のやり方を変え」て必要人員を削減すれば新規採用抑制はクリアできるとしていること自体が、国家公務員の新規採用抑制にしか視線が向いていないことを物語っている。
いわば抑制される側の大学生とそのことに影響を受ける他の大学生や高校生には視線を一切向けていない。「競争は厳しくなるかもしれないが、勝ち抜いてほしい」と、試験に合格する大学生にしか目を向けていない。
6000人カットされて、止むを得ず民間に向かう。ただでさえ就職難の時代に就職戦線はより厳しくなる。国家公務員だけの問題では終わらないだろう。
当然、国家公務員志望を諦めたか、試験不合格の暗記学力優秀な元公務員志望の大学生が民間試験で優位な位置を占めた場合、押し出され、落ちこぼれていく元々民間志望の大学生のうち、非正規社員を選択せざるを得ない大学生も出てくるに違いない。
このこと一つを取っても、大学生、高校生等の若者を取り巻く経済環境は厳しい。
内閣府と警察庁が3月9日(2012年)公表した2011年の自殺統計(確定値)は自殺者数3万651人は前年比マイナス1039人ではあるものの、1998年から14年連続での3万人超え。
《若者自殺、初の千人超え…学業不振・進路で悩み》(YOMIURI ONLINE
目立った特徴は、「学生・生徒」が初めての1000人超えの1029人(前年比+101人―+10.9%)。
大学生529人(前年比+16人)
高校生269人(前円比+65人)
大学生・高校生で8割弱を占めるという。
年代別
19歳以下622人(前年比+12.7%)
20歳代3304人(前年比+2%)
主たる動機は「学業不振」(140人)や「進路の悩み」(136人)。
就職難も影響している動機のはずだ。
全体としては前年比マイナス1039人の14年連続3万人超えであっても、若者の自殺者は増加傾向を辿っている。
《自殺者:14年連続3万人超 震災関連で55人》(毎日jp/2012年3月9日 11時19分)
統計を分析した内閣府は年間を通じて最も多かった5月に自殺者数が急増したことを特徴に挙げたという。
内閣府「東日本大震災を背景とする経済的なリスクの広がりが原因」
震災関連の自殺と判断されたのは55人。
「経済的なリスクの広がり」とは従来の不況に重ねた新たな不況要因による広がりを指しているはずだ。
ピークは3~4月や秋にくるのが例年の傾向だという。
大学生や高校生にとっては就職、勤労者にとってはリストラや配置転換、出向等が影響しているはずだ。
5月自殺者数3375人(4月比+24%)
年代別
30代、+44%
職業別
「被雇用者・勤め人」、40%
動機・原因別
男性「経済・生活問題」、+27%
5月最多自殺者の背景として、〈5月に倒産件数の増加を示すデータがある。〉と記事は伝えている。
大学生・高校生の就職できなかった失望も背景として挙げることができるはずだ。
記事。〈5月は20~40代の女性の自殺者が4月より45%も多く、特に5月12日から急増していた。8月まで内閣府参与として政府の自殺対策に関わった清水康之・ライフリンク代表は、24歳の女性タレントが同日に亡くなったと報じられたことに着目し、「過剰な自殺報道の影響が大きかった」と指摘している。
11年の自殺者のうち男性は2万955人、女性は9696人で女性が32%を占め、14年ぶりに女性の割合が3割を超えた。年代別では19とし以下が622人と前年を13%上回り、若年層の増加も目立った。【鮎川耕史】〉――
内実を眺めてみると、より深刻な状況に至っているように見える。
5月最多自殺者現出に24歳の女性タレントの自殺が影響していると言っているが、動機は多くが単純ではなく、複雑・複合的である。元々深刻な状況を抱えていた中で自殺決意の引き金となったということもあるはずである。
内閣府発表の2月(2012年)の消費動向調査は雇用や所得を取り巻く環境が悪化するという懸念から、消費者の購買意欲を示す指数が3か月ぶりに低下している。《購買意欲指数 3か月ぶり低下》(NHK NEWS WEB/2011年3月12日 16時35分)
「消費者態度指数」――39.5(1月比-0.5ポイント)
原因。〈国家公務員の給与が平成24年度から引き下げられることなどを背景に向こう半年間の「暮らし向き」や「収入の増え方」に対する消費者の見方が悪化したことによる。〉
内閣府「消費者の購買意欲は持ち直しの傾向が続いているとみているが、震災前の水準よりも依然、低い状況だ。今後は、世界経済の動向や原油価格の高騰などを受けた物価の動きが消費者心理にどう影響するかを注視する必要がある」
このように勤労者のみならず、これから就職を目指す大学生、高校生全体にとっても厳しい経済環境に取り囲まれた中での国家公務員新規採用7割以上カットである。「競争は厳しくなるかもしれないが、勝ち抜いてほしい」とか、「仕事のやり方を変え」れば人手は少なくても支障は起きないといった問題のみで済むわけではなく、特に大学生、高校生に他に累を及ぼす形でより厳しい就職状況に立たせることになる。
いわば消費税増税正当化のためのなり振り構わない国家公務員血祭りは民間企業に就職を目指す大学生・高校生向けの血祭りにもなるということである。
岡田副総理にしても野田首相にしても、このことに気づいていないのだから、視野狭窄としか言いようがない。
国家公務員新規採用を抑制するなら、せめて経済が回復し、有効求人倍率が1を十分に超えた雇用状況になってからにすべきであろう。
このことは消費税増税についても言える。
国家公務員試験がダメだったなら、民間に行くよと深刻な気持ちにならずに受け止めることができるような経済状況になってからということである。
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