森元首相は何のために訪露したのか

2013-03-03 12:17:14 | Weblog

 森元首相が安倍首相の特使として首相の親書を携え、2月20日(2013年)午前、ロシアを訪問するため成田空港を出発、21日午後、プーチン大統領と会談した。

 何てたって首相の特使なのだから、自身の役割をきちっと弁えていて、仕事をきっちとこなしたはずだ。

 国民の関心は、特に北方四島旧島民は、プーチンが昨年2012年3月、大統領選直前の外国メディア(朝日新聞らしい)のインタビューで、北方領土問題の最終解決に意欲を表明、自身が嗜む柔道に擬(なぞら)えて提案した双方の「引き分け」――言ってみれば痛み分けとは何を意味するのか、どのような返還を頭に置いてそう言ったのか、その真意を知ることにあったはずだ。

 当然、森元首相は何てたって首相特使なのだから、その真意を探ることに成功し、帰国後、その真意を国民に対して説明する責任を負ったはずだ。

 ハワイ沖で米原潜浮上時日本の水産高校練習船えひめ丸に衝突、沈没させたとき、当時日本の首相をしていた森喜朗はゴルフを楽しんでいる最中だったが、その一報を受けてもなおプレーを伊達に続けていたわけではあるまい。

 森首相自身も真意を探ることが自身に課せられた役目であることを十分に自覚していた。尤もこの時の首相は野田首相で、森喜朗を首相訪露の先触れとして派遣を考えていたが、敢え無く政権を失い、断ち消えとなった。

 だとしても、首相の顔が替わっても、役目自体は替わらないはずだ。

 《森元首相、来年1月訪露へ 「領土」など大統領の真意探る》MSN産経/2012.11.24 01:32)

 〈産経新聞の取材に対し、今年3月にプーチン氏が海外メディアとの会見で、北方領土について「引き分け」を目指す考えを示したことに触れ〉て――

 森喜朗「『引き分け』っていうのが、何を考えて言ったのか探る必要がある。それを首相に伝えることが大事だ」

 記事解説。〈森氏は首相時代の2001年、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)2島返還と、領土問題に北方4島が含まれることを確認したイルクーツク声明にプーチン氏とともに署名した。森氏は首相退陣後もプーチン氏と交流を重ね、「プーチン氏と一番親しい日本の政治家」(外務省幹部)とされる。〉――

 但し記事が伝えている森喜朗の次の発言が気になる。

 森喜朗「政府の代わりに交渉という気持ちはさらさらない」――

 政府としての権限は持たなくても、自身も首相として関わってきた日本の領土である北方四島の返還問題である。一歩前進の手がかりぐらいは自分の手で掴み取って、政府及び国民への手土産にしようぐらいの熱意を見せてよさそうなものだが、なぜか進展は見ないだろうことを予想して前以て身構えているような発言に聞こえる。

 プーチンの「引き分け」発言当時の野田首相は、この発言に関して2012年3月8日の衆議院予算委員会で東順治公明党議員の質問に答弁している。

 《2島では4島面積の7% 引き分けにならない》IBTimes/2012年3月9日 11時00分)

 野田首相「日露双方が納得できる結果をという意味と思うが、2島返還で半分だから良いというわけでない。返還される2島(歯舞、色丹)の面積は4島面積の7%で、93%が還ってこないのは引き分けにはならない。

 プーチン次期大統領が2島返還以上のことを考えているのかどうか、それ以上のことは真意として分からない」――

 野田首相が「引き分け」にならない例として歯舞、色丹の2島を持ち出したのは上記「MSN産経」記事が解説しているように、日露平和条約締結後の歯舞・色丹の二島返還を明記した「日ソ共同宣言」(1956年)の有効性を森・プーチンが文書で確認した「イルクーツク声明」(2001年)を頭に置いていたからだろう。

 野田首相が2012年3月8日、衆議院予算委員会で「歯舞、色丹2島返還で半引き分けにはならない」と答弁してから4カ月半経過した2012年7月28日に日ロ外相会談のために訪露した当時の玄葉光一郎外務大臣がプーチンを表敬訪問して、会談、「引き分け」の真意を探ろうとした。

 だが、〈プーチン氏はこの日の会談では真意を明かさなかった。〉と《プーチン氏、真意語らず=国後視察でしこりも》「時事ドットコム」/2012/07/29-00:24) は伝えている。

 ロシアは一方で「北方四島は第2次大戦の結果、法的にロシア領となった」を領有権の正当性理論とし、一方で前者との整合性を破ることになる「引き分け」を言っている。

 そして「引き分け」の真意をなかなか明かさない。

 だが、森喜朗は「『引き分け』っていうのが、何を考えて言ったのか探る必要がある。それを首相に伝えることが大事だ」と自分の役目を的確に弁えている。前回とは違って、今回は訪露が実現したのだから、満を持した上にも満を持して国民の期待に応えないはずはない。

 外務省HPが会談の概要を伝えている。 

 《森元総理大臣とプーチン・ロシア大統領との会談(概要)》(外務省/2013年〈平成25年〉2月22日)
 
 安倍総理大臣の特使としてロシアを訪問中の森喜朗元総理大臣は,現地時間21日15時22分から16時35分まで(日本時間同日20時22分から21時35分まで),モスクワのクレムリンにおいてプーチン・ロシア大統領と会談を行ったところ,概要以下のとおり。

1 安倍総理の訪露

 森元総理から,安倍総理の親書をプーチン大統領に手交し,安倍総理の人柄を紹介するとともに,安倍総理の日露関係にかける思いと公式訪露に向けた意欲を伝達した。プーチン大統領からは,安倍総理の訪露を心待ちにしている,来るべき訪露が日露関係の発展のための良いステップとなることを期待している,今日の会談をもって来るべき安倍総理の訪露に向けた準備に取り組みたい,内容が充実した訪露となるよう協力しようと述べた。

2 領土問題

 (1)森元総理から,2001年にプーチン大統領との間で署名したイルクーツク声明の重要性を強調し,また,領土問題を最終的に解決するためには,安倍総理とプーチン大統領が決断することが必要であると強調した。プーチン大統領はうなずきながら聞き,両国間に平和条約がないことは異常な事態であると述べた。

 (2)また,森元総理から「引き分け」の趣旨について質したところ,プーチン大統領は,「引き分け」とは勝ち負けなしの解決,双方受入れ可能な解決を意味すると述べた。これを受け,そのような解決を目指すべく,両国首脳から両国外務省に指示を出す必要があることで一致した。

 領土問題に関する記述はこれだけである。あとは日露経済協力の可能性や北朝鮮問題、レスリングがオリンピック競技から外れたこと、ロシアのソチ冬季オリンピック開催、開催立候補した東京オリンピックなどを話題としている。

 森喜朗は「引き分け」が何を意味しているか質した。プーチンは、「勝ち負けなしの解決、双方受入れ可能な解決を意味する」と答えた。

 具体性も何もない。「勝ち負けなしの解決とは、どのような解決を頭に置いているのか」、「双方受入れ可能な解決とは、例えばどのような返還なのか」と尋ねたのだろうか。

 「『引き分け』っていうのが、何を考えて言ったのか探る必要がある。それを首相に伝えることが大事だ」とマスコミに発言した以上、例え首相が交代しても、発言は生きているはずで、一種の公約となる。何ら言葉を実行させていない。首相親書を携えて訪露し、有言不実行のまま帰国したのと同じである。

 大体が、プーチンの「双方受入れ可能な解決」は今回が初めての発言ではない。

 玄葉光一郎が外相として訪露、2012年7月28日にプーチンと会談したときにもプーチンは言っている。《ロシア大統領“共同で密漁対策を”》NHK NEWS WEB/2012年8月5日 4時0分)

 玄葉外相(北方領土問題を解決、日露平和条約を締結することについて)「外務大臣や次官級の協議を進めたい」

 プーチン「対話を継続し、双方が受け入れ可能な解決策を真摯に模索する用意がある。両国間に平和条約のないことが、協力を推進することへの障害にはならないはずだ。

 信頼関係を深めるため極東地域で、共同で海賊対策の演習や密漁・密輸対策を行うなどの協力ができるだろう」

 玄葉外相「双方の利益のため、お互いの国民感情に配慮しながら前向きに進めたい」

 記事題名が「共同密漁対策」となっていること自体が嘆かわしいが、領土問題に関する話し合いが同じことの繰返しで、何ら進展を見ないからだろう。

 プーチンは「両国間に平和条約のないことが、協力を推進することへの障害にはならないはずだ」と発言している。
 
 だがである。日本側の日露平和条約締結は北方領土問題解決を前提としている。拉致問題で日本側が「拉致解決なくして日朝国交正常化なし」に譬えるなら、「北方領土問題なくして、日露平和条約締結なし」となる。

 ロシア側の平和条約を締結しなくても、経済協力は可能を日本側が受け入れることは日露平和条約締結の前提としている北方領土問題解決のプロセスを日露双方共に排除して経済協力を推進することになる。

 当然、経済協力だけが進んで、北方領土問題解決は置き去りとなる危険性が生じる。

 だが、今回の森訪露ではプーチンは「両国間に平和条約がないことは異常な事態である」と発言した。

 問題は領土問題解決を前提として平和条約を考えているのか、領土問題に先行して平和条約を締結すべきだの趣旨なのか、発言の意図を探らなければならない。
 
 だが、どのマスコミも森訪露に於けるプーチンの「平和条約がないのは異常な事態だ」の発言を伝えるのみで、森喜朗がどう応じたのか、何も伝えていない。

 外務省のHPで伝えていないのだから、当然なのかもしれないが、プーチンの発言を受け入れて領土返還よりも経済協力を優先させる意図を窺うことができる発言を次の記事が伝えている。

 《北方領土の解決策「年内検討を要請した」森元首相》MSN産経/2013.3.2 12:21)

 森喜朗(日本に協力を求めている極東開発について)「素直に(手を貸して)やらなきゃ。島をどうしよう、平和条約がどうだといって手をこまねいていたら中国と韓国ばかり向こうに行く」――

 「島をどうしよう、平和条約がどうだ」と「手をこまねいていたら」、北方四島が生み出す経済的利益は「中国と韓国ばかり向こうに行く」ということは、「島をどうしよう」は考えるな、「平和条約がどうだ」は考えるなと言っているに等しい。

 案外この辺りが森喜朗のホンネなのかもしれない。

 要するに北方四島開発に日本が率先して協力して、経済的利益のお裾分けを受けるべきだと。

 この協力は北方四島の一層のロシア領土化への協力ともなるはずだ。

 記事題名の《北方領土の解決策「年内検討を要請した」》が「検討」のみで終わって、いつどこですり替わって、経済協力優先とならない保証はない発言となっている。

 森喜朗の腹がどこにあるのか明確には分からないが、少なくとも領土問題に関しては安倍晋三の親書を携えて、野田首相が派遣を考えていたときと同じ使命感を胸に秘めていたはずで、その使命感で「『引き分け』っていうのが、何を考えて言ったのか探る必要がある。それを首相に伝えることが大事だ」と土俵に上がったものの、何ら戦わずに土俵から降りたような印象を受ける森訪露だとしか言いようがない。

 それとも軽量の幕下が試しに横綱に挑んでみたものの、回しを掴まれ、身体を丁寧に持ち上げられて土俵際まで運ばれ、土俵の外に静かに降ろされてしまったといったこところか。


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