大阪市が5月1日(2012年)から全職員約3万8000人を対象に入れ墨の有無を調べる書面調査を始めたという。《大阪市:入れ墨調査始まる 記名式で回答義務付け》(毎日jp/2012年05月02日 15時12分)
調査のキッカケは今年2月に市職員が児童福祉施設で児童に入れ墨を見せていたことが発覚したためで、橋下徹市長が調査を指示したという。
橋下市長名通達「入れ墨が見えるような服装で業務を行うことは不適切で、市民の目に触れれば不安感や威圧感を持ち、市の信用失墜につながる」
このような通達文書を全職員に配布、人目に触れる腕や足などについては、入れ墨の大きさや部位を記入するよう記名式で回答を義務付けているという。
回答は5月10日まで。
調査書はご丁寧にも身体全身の前面と背面の人体イラスト付きで、入れ墨箇所と範囲を記入するよう指示しているとのこと。
例えば龍の刺青なら、肩から背中、さらに胸の当たり、左右の二の腕当りまで入れているということがあるから、人体イラストの相当する箇所を隈なく塗りつぶさなければならない。
龍とか桜吹雪の入れ墨なら、黒のマジックで塗りつぶすのは折角の入れ墨が満足に伝わらないことになるから、赤、ピンク、黒のマジックを使い分けて、より正確に書き写したらいいのではないだろか。
橋本市長がその人体イラスト図を見て、「おっ、これは見事そうだ。実物を見て、実際に見事なら、許してやろう」という気に、・・・・まあ、ならないだろうが。
市人事室「全国の自治体で初めての調査だが、法的な問題はない」
法律上問題はない取っているが、果たしてそうだろうか。憲法が保障する思想・信教の自由、表現の自由を侵す調査ではないと断言できるのだろうか。
調査結果を基に、職員の配置転換やルール化を検討するそうだ。
赤黒い怒りの形相も露な閻魔大王の鎮座した入れ墨を背中中央にデンと彫った職員は市営火葬場(所有しているなら)に配置するのだろうか。
閻魔大王はウソをついた人間の舌をやっとこで抜くというから、市議会開催のたびに一段と高い場所に鎮座させて上半身裸にさせ、ウソを得意としている人種でもある政治家に位置している市議一同に閻魔大王の入れ墨をご開帳させて、ウソをついたら舌を抜かれるぞという暗示としたなら、子供騙しではあっても、後ろめたさぐらいは与える効果があるかもしれない。
いや、そんな玉は政治家人種に存在しないか。
5月2日の記者会見。
橋下市長「人事管理として聞いておくのは問題ない。まともな組織だったら、こんなことやらなくてもいい」
要するにプライバシーの侵害にも当たらないし、思想・信条・表現の自由の侵害にも当たらないと御託宣している。
同じ内容を扱った、《橋下市長「人事配置の参考に」大阪市職員の入れ墨調査》(スポニチ/2012年5月3日 06:00)
記事は調査主体は橋下市長を委員長とした3月発足の「市服務規律刷新プロジェクトチーム」だと伝えている。
右崎正博独協大大学院教授(憲法)「表現の自由やプライバシーに関する事項を申告させるには、よほどの必要性がなければいけない。
市民に威圧感を与えるというだけで大阪市が調査するのは認めにくいのではないか。職務能力には直接関係のない問題で、市が強制力をバックに申告させ、従わなければ処分というのは乱暴だ」
鎌田慧氏・ルポライター「暴力団の構成員だったら問題だが、今はファッションで入れ墨をする人もいる。長袖を着るなど、本人が隠すように気を付ければいい。
思想表現の自由に関わるだけに見逃せない。上からがんじがらめにされて萎縮した職員に柔軟で良質な市民サービスはできなくなるだろう」
大阪市職員労働組合「仕事と入れ墨とどういう関係があるのか。調査に問題がないか、弁護士と検証している」
大阪市役所労働組合「今後、入れ墨だけでなく服装やひげなどまで調査が広がり、個人の自由やプライバシーが侵害される可能性がある」
このような批判がある一方で、インターネット上にはかなりの賛成意見が飛び交っている。その多くが「公務員だから」という理由を挙げていて、一般人よりも公務員に対してより厳しい規律を求めている。
ということは、一般人は公務員よりも規律は厳しくなくてもいいことになる。
職務上の規律にしても社会人としての規律にしても、公務員と一般人と何ら変わらないと思うが、違うのだろうか。
公務員だからと言って、特別な資質を求めるとしたら、その要求に対する相応の代償が必要になる。その代償が一般勤労者よりも高い賃金、公務員宿舎の民間相場よりも遥かに安い家賃に相当するとしたら、何も批判ができなくなる。
かつてのヤクザやその類いが強がるために彫った入れ墨と最近のアクセサリーとしての入れ墨を分けて考えなければならない。
強がるために彫った入れ墨と書いたが、初期的には彫ることで少なくとも強さを感じたい欲求が動機となった入れ墨であるはずだ。
入れ墨は誰もが彫るわけではないゆえに自身を特別な存在だとする意識(=特別な存在意識)が働き、その特別な存在意識がある種の強さを自身に与える。
その強さを自身の中にとどめておくことができずに入れ墨をひけらかして自身が特別な存在であることを他者にも知らしめたい衝動が往々にして働き、ヤクザやその類いが入れ墨をひけらかして暴力を振るったりするのは例外だが、ひけらかしたといっても、それが実際には人間としての強さの証明でも何でもないことから、結果的に他人から見ると強がりが目的の入れ墨となってしまうし、本人からしても強がりで終わってしまうひけらかしとなる。
市職員が児童福祉施設で児童に入れ墨を見せていたことが発覚したことが入れ墨調査のキッカケだということだが、それがどんな入れ墨か記事が書いていないから、前者に入る入れ墨なのか、後者の入れ墨なのか分からないし、単に見せただけなのか、見せた挙句に、「おじさんは強いんだぞ」と何らかの威迫を与えたのか、それも分からないが、例え入れ墨をひけらかして乱暴な口を利いて相手に威迫を与えたとしても、あくまでも個別的事案であって、入れ墨をしている者すべての問題ではないはずだ。
例えば市役所の窓口担当で書類を閉じたバインダーなどを持ち上げると、長袖がまくれて手首にまで彫った入れ墨が市民の目についてしまうといった場合にしても、本人は結構意識して手首の入れ墨が他人目に触れるようにバインダーなどを持ち上げるものだが、いわば自分は特別な存在だという意識を抑えがたくそうしてしまうものだが、このような例にしても、個別的な事案であって、上司が注意するなり、持ち場の配置換え等を行なって個別に解決すべき問題であろう。
もし公務員だからという理由で彫った場所や大きさに応じて入れ墨を断罪するとしたら、必ずしも入れ墨が決める勤務態度でも、本人の規律の程度でもないにも関わらず、入れ墨で勤務態度や規律の程度を決定することになって、プライバシーや思想・信条・表現の自由にまで入り込む、その明らかな侵害に当たるはずだ。
かつて女性が髪を染め出した頃、まともな女性がすることではないと世間は眉をひそめた。ましてや若い男が染め出すと、「何だ、男のくせに」と非難の眼差しを向けた。
染髪の習慣が初期の頃は就職の面接で他に理由を設けて不採用の差別をつけ、市役所等では染髪の習慣が広まるまで髪を染めた女性は一人としていなかったかもしれない。
それが現在、女性のみならず、男性も若い男性だけではなく、結構年のいった、高齢者に属する男性も髪を染めている。
少なくとも現在では髪の色で公務員と一般勤労者を差別する習慣はないはずだ。
染髪の習慣が一般的でなかった時代、他の女性に先駆けて髪を染めた女性はいわば先駆者とさえ言える。
橋下徹市長にしても、確かかつて髪を染めていたはずだ。県知事という名の公務員の身分となったから、髪を染めるのはやめた、その流れで市長になっても髪を染めないままでいるとしたら、職務上の規律にしても社会人としての規律にしても、公務員と一般人と何ら変わらないというルールに反して両者の規律に差別をつけていることになる。
入れ墨にしてもそうだが、髪を染める染めないは規律とは関係しない個人の嗜好が決める問題であるはずだ。その嗜好は勿論、プライバシーや思想・信条・表現の自由の保障が許容する範囲内の決定事項でなければならないが、法律が禁じているわけではないのだから、許容範囲にあるはずだ。
実質的な規律で勤務態度を計るのではなく、髪の色や入れ墨で勤務態度を計る。あるいは人柄を図る。プライバシーや思想・信条・表現の自由の明らかな侵害でなくて、何と言ったらいいのだろうか。
染髪と同様に最近若い男女の間で流行り出したアクセサリーとしての入れ墨が一般男女の間で当たり前となる時代を迎えるかもしれない。
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憲法学者、ルポライター、労働組合のコメントには、公務員の職務の根幹が何であるのかという観点が欠落しています。公務員の根幹=住民へのサービス=住民の快適な暮らしへの貢献であることはゆるぎない事実ですよね。
茶髪の話が出ていますが、捉え方は企業により様々です。若者をターゲットにしている企業であれば、茶髪やジーパンでもOKというだけど、伝統を重んじる企業を取引先にする「企業」は耳にかかる髪の毛の長さまで決められている・・・という具合です。
もちろんそこには、一定の例外を除き、憲法が私人間や企業とその構成員のルールにまで及ばないという拠り所があるから成せる技だともいえます。しかし、公務員の根幹が住民の快適な暮らしへの貢献であれば、そのためには公務員はどうあるべきかを市民感覚で考える必要があります。
おっしゃるとおり、昔とは違って入れ墨もファッション感覚でする人が増えており、恐怖感や抵抗感も昔ほどはなくなっているかもしれませんが、恐怖感や違和感を抱く人がまだまだ多いのが事実です。このような中で、あまねく住民の生活向上に資するべき公務員が「個別」であっても住民に違和感等を抱かせることは「望ましくない」ことです。確かに、もっと時代が進めば、このような議論もナンセンスになるかもしれませんが、今は時期尚早だと思います。
企業の一構成員がどんなに事務能力、折衝能力等が優れていても、利害関係者(ステークホルダー)に違和感を抱かれたら、その構成員、ひいてはその企業への「評価」は相応に低下します。利害関係者はその構成員を企業の「顔」として見ますからね。
クビにまでしてしまったら、公権力による人権侵害・憲法違反になってしまうでしょうが、配置転換や譴責・戒告程度であれば、まっとうな処置だと思いますがね・・・憲法うんぬんというよりは、「コンプライアンス=社会貢献のための企業リスク回避行動」の視点で論じるべきだと思います。