カネをかけるべきは科学予算か社会制度か

2009-11-26 11:06:05 | Weblog

 今話題の事業仕分けでスパコン開発を初め、各科学技術関係の予算が削減、あるいは廃止の判定が下されたのを受けて科学者たちが猛反撃に出た。

 先ずどのような予算が事業仕分けの俎上にのぼったかを《13日の仕分け結果の詳報》(47NEWS/2009/11/13 22:31 【共同通信】)記事から関連箇所を抜粋してみた。

 

 ▽文部科学省
 【理化学研究所(1)次世代スーパーコンピューティング技術の推進】世界最高速の計算性能を持つスパコンを神戸市に整備することを目指し、10年度は267億円を要求

 仕分け人は「1位でなければ駄目なのか」「国民生活にどう役立つのかが分かりにくい」などと指摘。今年5月に一部メーカーが撤退しシステムを大幅に変更したことへの疑問や責任を問う意見が続出。「一度立ち止まって戦略を練り直すべきだ」との声が上がった。判定「(予算計上の)限りなく見送りに近い削減」だった。

 【理化学研究所(2)大型放射光施設SPring―8など】兵庫県内に設置された、強力な電磁波(放射光)を用いて物質の構造を詳しく解析できるSPring―8という施設の運転や維持管理に文科省が108億円を要求

 「需要や相場を考え、精緻に費用分析するべきだ」「(施設を利用する)企業の売り上げに応じて費用負担を求めるなど(収益を上げる)努力を」との意見があり、判定は「3分の1以上の削減」。遺伝子を調べて植物の機能を活用する植物科学研究事業(要求額12億円)と、マウスなどの生命科学の研究材料を収集・提供するバイオリソース事業(同31億円)は、ともに「3分の1程度削減」を求めた

 【海洋研究開発機構】「深海地球ドリリング計画推進」(要求額107億円)は、地球深部探査船「ちきゅう」で東南海地震震源域の和歌山県沖・熊野灘の海底を約6千メートル掘り、巨大地震が起きる環境を調べる。

 仕分け人からは「国際共同研究なのに日本の負担が大きくないか」などの意見があり、判定は「予算要求の1割~2割の削減」となった。地震や火山の原因に迫る観測などの「地球内部ダイナミクス研究」(同12億円)の判定「少なくとも来年度の予算の計上は見送り」または「予算要求の半額削減」の両論併記。

 【競争的資金(先端研究)】国などが課題を募り、審査で採択された研究に資金を配分する制度で、6事業で計1228億円を概算要求。

 財務省の査定担当者は「1人で10種類以上の資金を受けている研究者もいる」と指摘。「制度をシンプル化し、削減するべきだ」と判定

 【競争的資金(若手研究育成)】博士課程修了者らに経済的不安を感じさせず研究に専念させることなどを狙った特別研究員事業(要求170億円)

 「雇用対策の色合いが強い」「民間に資金を出してもらえないか」との意見が相次ぎ、予算削減となった。若手研究者養成のための科学技術振興調整費(同125億円)と科学研究費補助金(同330億円)削減との結論。

 【競争的資金(外国人研究者招聘)】ノーベル賞級の学者から若手まで多くの外国人研究者を招き、人材育成や国際化を図る資金で、141億円を要求。

 「2週間程度しか滞在しない人もおり、研究(資金)ではなく交流資金でやるべきだ」などの意見が相次ぎ、削減と判定された。

 【地域科学技術振興・産学官連携】地域の大学や産業界の特色を生かして科学技術を振興し、日本全体の研究のすそ野を広げる狙いで、数種類の事業やプログラムを用意。概算要求は総計268億円

 仕分け人は「これまでも多額の国費を投入してきたが、地方に人、物、金はどれだけ増えたのか」「地方に自主的にしてもらった方がいいのではないか」などと述べた。判定は「廃止」

 【科学技術振興機構】理科支援員等配置事業は、子どもの理科離れを改善するため、小学5、6年生の一部授業に、研究者や大学院生などを理科支援員や特別講師として派遣。来年度に5500校分、22億円を要求したが、

 仕分け人は「すべての子どもに平等に機会が与えられるべきだ」「理科専門の教員を採用できるような抜本的な改革が先だ」などと指摘し「廃止」と判定。東京・お台場の「日本科学未来館」(要求額22億円)は、館長で元宇宙飛行士の毛利衛さんが来館者増などをアピール。仕分け人は、運営体制の整理を求め、判定は「削減」とした。(以上引用)

 対して科学者側の反撃。

 野依良治(理化学研究所理事長・ノーベル賞受賞者/25日午前の自民党本部での会合で)

 「科学をコストでとらえるのはあまりに不見識」

 「先進各国がオリンピックと同じように国の威信をかけてスパコンの開発にしのぎを削っている。いったん凍結すれば瞬く間に他国に追い抜かれる」

 「凍結を主張する方々は、将来、歴史という法廷に立つ覚悟ができているのか」

 「科学技術は我が国の生命線。短期的な費用対効果ではなく、将来への投資と考えるべきだ」

 (自民党議員の質問)「科学にムダはつきものか?」

 「うまく行かないこともたくさんあるが、先進国の平均寿命も、科学技術がなければこんなに延びなかった」

  (以上《科学技術予算削減 待った…ノーベル賞・野依さん「我が国の生命線」》(2009年11月25日YOMIURI ONLINE

 「先進国の平均寿命も、科学技術がなければこんなに延びなかった」と言っているが、このことが事実だとしても、寿命の延びに貢献した科学技術が寿命の延びが原因の一つともなっている高齢化社会の加速に対する抑制――バランスのよい人口構成――にまで貢献していないことの事実は、例え医学が難産で生まれてくる赤ん坊の命を沢山救って人口増にいくらか貢献したとしても、差引きマイナスの現実が証明している。

 勿論高齢化は科学の課題ではなく、政治の課題だと言うだろうが、それを正当付けるためには科学技術が社会のすべの問題を解決するわけではないという事実も正当性あるものと認めなければならない。

 また、生まれながらに難病を抱えて医学の助けを借りなければ生き延び得ない生命(いのち)といったケースは除いて、当たり前に生きてきた人間に関して言うと、医学で寿命を延ばして懸命に生きる生命(いのち)を基本とするよりも、素(す)のまま懸命に生きる生命(いのち)の方がより貴重だということを基本の生き方とすべきだと思うが、そうではないだろうか。

 カネが大いなる解決力を持っていても、カネがすべてではないと同様に科学が大いなる力を持っていても、社会のすべてを解決する力を有しているわけではないということなら、科学技術開発に国の予算に頼る場合、必要として付けただけ寄こせと聖域化してはならないはずだ。赤字国債や税収を含めた国の財源とのバランスも視野に入れて要求しないことには、バランスの良い社会の発展は望めない。

 いわば国の財源や経済動向をも睨んで「コストでとらえる」姿勢も必要となる。「科学をコストでとらえるのはあまりに不見識」と一刀両断するのは科学だけのことを考えた利己主義と言われても仕方がないのではないのか。

 日本人の思考自体が道路を造った、橋を造った、発電所を造った、東京タワーを造った、新幹線を造ったといった造形を尊ぶモノづくり思考(ハコモノ思考)に出来上がっているから、ハコモノ系インフラが頭でっかちの日本の社会となっていて、このことと連動して車やコンピューターといった同じくハコモノ系の科学技術が頭でっかちに発達した日本の社会の姿となっているが、科学技術の発達によって日本の平均寿命が男女合わせて世界一になれたとしても、その一方で医師不足、救急医療体制の不備が解決を見ぬまま存在し、救急患者がたらい回しされて治療を受けずに命を落とすケースが跡を絶たない。

 このアンバランスこそが問題ではないだろうか。 

 科学が社会のすべての問題を解決する力を有しているわけではないと言った。この事実からすると、「科学技術は我が国の生命線」は大袈裟に過ぎる。ある国が自動車産業を持たず、すべての車を外国からの輸入に頼って国内を走らせ交通手段としたとしても、優れた社会制度が整っていて、国民が精神的に余裕を持った、当然経済的にもそれなりに豊かな生活を送ることができたなら、その国にとっての生命線は整備された社会制度ということになる。

 逆に優れた自動車産業を抱えていて、自国産自動車を多くの外国に輸出し、世界的シェアが高くても、その国の社会制度が不備だらけで、国民が精神的に余裕を持てない、当然経済的にも豊かとは言えない生活を送ることしかできなかったなら、自動車産業はどれ程の意味が生じるだろうか。

 日本のように科学技術が発達していないように見えるデンマークとスウェーデンの相対的貧困率は5・3%と低く、科学技術が世界的に高い日本の相対的貧困率はOECDの03年のデータで加盟30カ国の中で4番目に高い堂々の14・9%に位置している。

 厚労省が発表した06年時点の日本の相対的貧困率は15.7%である。

 科学技術が発達した日本に於いて精神的にも経済的にも豊かな生活を送ることができない層が先進30カ国中、4番目に多く占めている。これは日本の高度な科学を以てしても解決できていない問題であることを示している。

 言葉を変えて言うと、日本の科学は社会を豊かにし、国民の生活を経済的にも精神的にも充実させる十分なツールとはなり得ていないということであろう。勿論、科学のみで解決できる問題ではなく、政治が絡んでこなければならない問題でもあるからだ。

 となると、ノーベル賞受賞者野依良治が言うように「先進各国がオリンピックと同じように国の威信をかけてスパコンの開発にしのぎを削っている。いったん凍結すれば瞬く間に他国に追い抜かれ」たとしても、それ程の問題ではなくなる。

 「科学技術の頭脳に当たる部分なのに、海外から購入すればいいというのはその国に隷属すること」(《「見識欠いている」ノーベル賞受賞者が“仕分け”批判》スポニチ/ 2009年11月25日 11:00)とも言っているが、「海外から購入」してもいいことで、そうしたからといって、問題は社会の向上に如何に役立てるかであって、「その国に隷属すること」にはならない。

 日本はパソコンの基本ソフトの大方をウインドウズの技術に頼っているが、だからと言って、日本はアメリカに「隷属すること」になっているだろうか。

 「費用対効果」から言っても、スパコンに国のカネをかけるよりも、社会制度の整備にカネをかけて制度の向上に「費用対効果」を見い出すべきということにならないだろうか。

 「将来への投資」という観点から見ても、これ程までにも世界的に見て高度に発達した日本の科学技術が社会の矛盾まで解決する力を有していないのだから、社会的矛盾の改善に国のカネをより多く予算付ける方が「将来への投資」となるに違いない。

 そういった方向性こそがより正しい選択であるなら、「凍結を主張する方々は、将来、歴史という法廷に立つ覚悟ができているのか」の批判はそっくりそのまま科学者に向けなければならない言葉となる。

 25日付の「日経ネット」記事――《野依・理研理事長、科学振興の凍結・縮減は「不見識」》は野依良治氏の次の発言を伝えている

 「科学技術は国際水準であればいいのではなく、世界をしのぐ水準が必要だ。危機意識の希薄を憂慮する」

 世界水準を求めることに何ら不都合はないが、すべての国の科学技術が「世界をしのぐ水準」にあるわけではない。高い科学技術を備えた国が相対的に経済的に豊かな国となっているだろうが、その経済の豊かさがその国の国民すべてにより公平に再配分されなかったなら、その豊かさはかなりの価値を損なう。

 また科学技術は社会に巣立った科学者のみが背負うわけではない。イギリスの教育専門誌『Times Higher Education』が行った2009年の「世界大学ランキング」は日本の東大はアジア圏ではトップであるものの第22位、〈米ハーバード大学がトップ。2位は英ケンブリッジ大学(前年3位)、3位に米エール大学(同2位)、4位に英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(同7位)、5位に英インペリアル・カレッジ・ロンドン(同6位)と、英オックスフォード大学(同4位)が並び、以下15位までは米国の大学勢が占めた。〉《世界大学ランキング、東大が22位でアジアトップ - アジア圏の躍進目立つ》マイコミジャーナル/2009/10/09)とする実態が示している日本の大学の「国際水準」と野依良治氏が要求してやまない「世界をしのぐ水準」との落差はどう説明したら埋め合わせることができるのだろうか。

 勿論、「世界大学ランキング」は根拠がないという議論も成り立つ。だが、根拠ないことを以てしても、貧困率、生活格差、待機児童、医師不足、高齢化社会、都市と地方の格差、年間自殺数、貧困母子・父子家庭、無年金生活者等々を生み出して解決できないままとなっている社会制度の不備は解消されるわけではない。

 科学関係の予算が大胆に削減・廃止の判定を受けて多くの科学者が事業仕分けに反撃に出たが、どうも科学という針の穴から世の中の科学にまつわる事柄だけを見ているような気がする。

 科学予算を否定するつもりはない。スパコンの開発も結構。だが、「先進国の平均寿命も、科学技術がなければこんなに延びなかった」といった科学がすべてであるかのような思い上がりだけはやめて貰いたい。


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ノーベル賞ヤクザにだまされるな!日本の科学者はほんとうにいらない! (まりあ)
2009-11-27 14:42:03
日本の科学者はほんとうにいらない。日本の科学者はすべてを国営にして他人のカネを強盗して食いまくってきた。この島の科学者は国や国家の何かになったような仮面をかぶっている。科学はてめえの満州国じゃないんだぞ。官営工場、官営産業、国鉄、八幡製鉄所、日本陸軍、日本海軍、電話公社、専売公社、日本航空、日本放送協会、国策基幹産業、国営科学、日本学術会議、官営理化学研究所、日本の各大学などなど欧米化官営機関が暴力団となって国民を食い殺している。日本の科学者は自分では科学ができない。それでいて日本の科学者は太平洋戦争中の建艦競争のように日本がすべて一位にならないと気がすまない。これでは単なるだだっ子だ。そんなことは穴のあいたザルに莫大なカネを注ぎ込むようなものだ。自腹で科学もできない日本の科学者などまったくいらない!
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Unknown (あるす)
2009-12-10 06:41:26
日本は何の資源もなく国土も狭い上人口密度だけが無駄に高い。人口も多いから観光で国民を養うには無理がある。
こんな状況で外貨を稼ぐ手段がなくなったらどうなるんでしょうね。
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