今月2日の朝、小型船で新潟港に向かうつもりの北朝鮮国籍の4人が青森県深浦港に漂着した脱北問題を受けて安倍首相が東京都内で、「日本は自由を守り、人権を尊重する国だ。北朝鮮から逃れ、日本に4名の脱北者の方々が来られた。人道上の観点から、この問題に私たちは対応していくということをお約束したい」と勇ましく街頭演説している。
安倍首相は続けて「自由と人権のない国、よその国の人間を拉致して平気な国だ。人権問題と拉致問題への回答を北朝鮮が拒否し続けているならば、国民が国を捨て脱出する悲惨な状況を変えることはできないだろう」と断固とした口調で訴えていた。
それを聞いたとき、相変わらず政治的創造性のない人間だな、外交オンチだなと思った。元々が自由と人権の無視によって成り立っているキム・ジョンイル政権であり、それが国体となっている北朝鮮である。そのような国体維持のために自由・人権に関して聞く耳を持たない状況は当然の姿としてある。
このことを裏返すなら、拉致問題や脱北問題の解決には自由・人権に関して北朝鮮に如何に聞く耳を持たせるかにかかっているが、それが如何に難しい政治課題であるかを示している。キム・ジョンイルに独裁の国体を変えよと迫るのである。日本は敗戦国でありながら、戦後GHQの民主化要求に国体維持で散々に抵抗する、他国のことは言えない過去を抱えている。
北朝鮮にとっては例え韓国向けと同様の経済援助方式であろうと日本からの戦争賠償と日本との経済関係の確立が北朝鮮経済建て直しに喉から手が出るほどに欲しい最重要な宝の山のはずだが、そのような宝の山を手に入れることよりも拉致問題は解決済みの無視を優先させている。
普通の感覚なら、宝の山を手に入れることが拉致問題よりも優先事項のはずで、拉致解決に早々に取り掛かるはずだが、その逆で、宝の山を自ら遠くに追いやることとなっている拉致解決の引き延ばし、あるいは解決済みとして無視する態度はそれが宝の山に代えてもそうすべき国家的重要事項となっているからだろう。つまり両者を天秤にかけて、宝の山は秤から外せても、拉致問題は秤に乗っけたままにしておかなければならない状況にあるということを意味している。
別の言葉で言い換えるなら、宝の山はキム・ジョンイル体制の強化につながる重要事項の一つでありながら、それを無視すると言うことは、拉致解決抜きをスケジュールに乗せて初めて体制強化の保証となるということだろう。拉致解決への取り組みはキム・ジョンイル体制維持・強化を相殺しかねない、あるいはそれ以上の障害物だということを裏返しに証明している。
ここに拉致がキム・ジョンイルの直接指令による国家犯罪だと主張する根拠がある。
現実問題としても、日本の拉致解決要求に現在のところ聞く耳を持たないし、既に指摘したように自由と人権に関しても聞く耳を持たない、それらを無視することによって成り立っているキム・ジョンイル政権であり、それが国体となっている北朝鮮であって、そのような二重の聞く耳を持たない状況に向けた安倍首相の「人権問題と拉致問題への回答を北朝鮮が拒否し続けているならば、国民が国を捨て脱出する悲惨な状況を変えることはできないだろう」はタテマエ上は「日本は自由を守り、人権を尊重する国だ」となっている日本で日本国民に向けて声を張り上げ、訴えたものに過ぎないということだけではなく、キム・ジョンイルが間接的な情報として伝え聞いたとしても、とても北朝鮮に聞く耳を持たせるだけのインパクトも内容も備えているとは言えず、キム・ジョンイルにはカエルの面にショウベン、犬が遠くから吼えたに過ぎない効果しかない出せない街頭演説としか言いようがない。
内心せせら笑われるのがオチで、安倍首相、自分では強い態度を示したつもりの独りよがりに浸ったといったところが精々で、意味もない虚しい努力に過ぎないし、そのことにチラッとでも気づいていないお粗末な政治的創造性である。
7日(07年6月)の『朝日』朝刊(≪対北朝鮮 「強い意思表明」 G8,日米首脳が一致≫)が、<ドイツ訪問の安倍首相は6日午後(日本時間同夜)、ブッシュ大統領と会談した。安倍首相の日本人記者団への説明によると、両首脳は北朝鮮が核問題をめぐる6者協議で合意した初期段階の措置をとっていないことについて、「G8(主要国首脳会議)の場を通して、力強いメッセージを発するべきだ」という認識で一致した>云々と伝えているが、自身が「力強いメッセージを発」する能力がないにも関わらず求めるのは、安倍首相十八番の言行不一致としか言いようがない。、
北朝鮮が<7日、午前と午後に1発ずつ、黄海に向けて短距離ミサイルを発射した>(≪北朝鮮、黄海に向けて短距離ミサイル2発発射北朝鮮の核実験≫07. 6. 7. 読売新聞インターネット記事)ということだが、ブッシュ大統領がドイツのG8出席途次のチェコで演説した<「北朝鮮の住民たちは政権に反対する人々が野蛮に抑圧される、閉鎖された社会に生きている上、北朝鮮の住民たちは韓国にいる兄弟姉妹とも会うことが禁じられている」と言った。そして「我々は決して皆さんの抑圧者を許さないし、いつも皆さんの自由のために共に立っている」>(2007.06.06/中央日報インターネット記事≪ブッシュ大統領、北朝鮮「最悪独裁国家」また非難≫)とした非難に対する反応が一番に考えられるが、その発射が日本列島を越えて米国に近い太平洋に打ち込んだものではなく、朝鮮半島と中国大陸東部に挟まれたより日本に近い黄海に打ち込んだもので、ほんの少し方向をずらせば日本に向けることができることを考えると、安倍首相の脱北問題に関する都内の街頭演説とブッシュ大統領との会談で打ち出した<「G8(主要国首脳会議)の場を通して、力強いメッセージを発するべきだ」>とする姿勢への返答も兼ね備えたミサイル発射の可能性もある。
そしてこのことは聞く耳を持たない者のそのことを自ら証明する反応でもあろう。自由と人権だって?オレは聞く耳なんか持たないよ、クソッタレめが今回のミサイル発射だというわけである。
少なくとも北朝鮮の聞く耳は持たない状況の変化のないことを証明するミサイル発射だと言うことだけはできる。北朝鮮には効果なしの安倍街頭演説であり、日本国民に向けたものであっても、分かりきっていることを言ったまでのことで、それ以上の意味はない政治創造性なし、外交オンチの街頭演説だったと言うことだろう。
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