野田首相の対ダライ・ラマ行動基準に見る対中覚悟は尖閣諸島中国人船長逮捕と五十歩百歩

2011-11-12 11:30:27 | Weblog

 チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が高野山大学(和歌山県高野町)等の招きで10月29日(2011年)に来日した。10月31日午後、高野山大で特別法話。11月4日、被災地を訪問、復興を祈願。11月7日午前、民主、自民両党の国会議員十数人と都内のホテルで会談。

 主なところで、民主党は長島昭久首相補佐官、防衛省の渡辺周副大臣。自民党は安倍元首相。ダライ・ラマ14世が民主党政権の政府高官と会談するのはは初めてだそうだ。

 会談出席者のうち、政府高官ということだからだろう、野田政権からちょっとしたイチャモンがついたという。《ダライ・ラマと会談して口頭注意された長島補佐官 外務省は「条件はない」と説明》MSN産経/2011.11.8 22:03)

 藤村修官房長官が11月8日の記者会見でダライ・ラマ14世と会談した長島昭久首相補佐官を口頭で注意したことを明らかしたという。

 藤村官房長官「(国内滞在中は)政治的行動や政府関係者との接触はしないのが通例だ。政府の一員なので、これまでの立場とは違う」

 ダライ・ラマ14世の日本に於ける活動基準がそうなっているというわけである。政府の一員となった以上、軽々しくダライ・ラマとの会談の席に加わらないで貰いたいと言ったことになる。

 これは誰の目にも明らかなように対中配慮なのは言うまでもない。当然、長島氏は首相補佐官でもあることから、一番困るのは野田首相ということになる。いわば野田首相から出た口頭注意と見ることができる。

 対して長島首相補佐官。

 長島首相補佐官「一議員として会談した」

 首相補佐官として会談したわけではないとの、政治家がよく使う使い分けで弁解したが、記事は、〈藤村氏からの注意を「分かりました」と受け入れたという。〉と書いている。

 但し外務省の扱いは野田内閣の扱いと違っていると記事は伝えている。

 外務省&ダライ・ラマ法王日本代表部事務所「ビザ発給に当たり、そのような条件は付いていない」

 どう行動しようと、ダライ・ラマ14世の自由決定にかかっているとしている。

 これが事実とすると、野田内閣はビザ発給でダライ・ラマ14世側にもいい顔をし、中国に対してもいい顔をしようとしたことになる。

 この日本に於けるダライ・ラマ14世活動基準とこの基準に対応させた日本側の活動基準(ダライ・ラマ14世は日本では政治的行動を行わないことと政府関係者はダライ・ラマ14世に接触しないという基準)をアメリカに於けるそれぞれの活動基準と比較してみみる。

 オバマ米大統領は2011年7月15日、中国側の「断固反対」の制止を無視して、ワシントン滞在中のダライ・ラマ14世と2010年2月に続いて2回目の会談を行なっている。

 ホワイトハウスの発表「チベット固有の宗教、文化、言語の保護、チベット人の人権保護への強い支持を強調するものだ」(asahi.com

 一方オバマ大統領は、〈昨年2月以来開かれていない中国政府とダライ・ラマ側の対話への「揺るぎない支持」を表明するとしている。〉と記事は解説。

 アメリカ側のこの対応は中国のチベットに対する思想・信教の自由、表現の自由等の基本的人権の扱いに危惧を抱いていることの現れであり、会談をセレモニーとして中国に警告を発したということであろう。

 いわばアメリカに於けるダライ・ラマ14世の活動基準とアメリカの対ダライ・ラマ活動基準は基本的人権を政治的な核として対応し合っていると言える。

 勿論、中国は会談後も抗議の声明を出している。オバマ大統領とダライ・ラマ14世会談から1週間後の7月22日午前のクリントン米国務長官と中国の楊外相とのンドネシア・バリ島での南シナ海の領有権問題などを巡っての会談。楊外相が中国側の「厳正なる立場」(中国中央テレビ)を伝え、抗議した。(asahi.com

 〈オバマ米大統領がチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談し、中国が反発した後だったが、両氏は記者団の前で握手し、談笑するなど友好ムードを強調した。〉(同asahi.com

 日本の首相はダライ・ラマに会おうともしないし、例え会ったとしても、中国の抗議の手前、一週間後に外相会談をセットするなどといった相手を刺激することはしないだろう。

 この姿はチベットが中国によって人権抑圧を受けていることに無神経なのか、あるいは中国の反発を避けるために触らぬ神に祟りなしでチベットの人権抑圧問題にシカトを決め込んでいるかどちらかであろう。

 もしこの逆でチベットの人権抑圧問題に極めて敏感であるなら、オバマ大統領のように野田首相はダライ・ラマ14世と会談し、会談をセレモニーとしてダライ・ラマの立場を支持して、中国に対して間接的に抗議の意思表示を示すはずだ。

 だが、そんな気配はないどころか、政府関係者はダライ・ラマ14世に接触しないことを日本側の対ダライ・ラマ行動基準とする対中配慮一辺倒となっている。

 ここにあるのは日本を中国の下に置き、中国を日本の上に置く卑屈な態度である。中国に対して自立(自律)できていない姿だと言い換えることもできる。

 自立性(自律性)を基盤とした対等な意識にもし立っていたなら、中国の民主主義や人権に関わる不足は看過できないはずだ。民主主義や人権、あるいは軍事面に於いても相互に対等な土俵に立つことによって警戒心を解き放ち、真に友好な関係を築くことができるからだ。

 相互に対等な土俵に立つには相手の不足を改めることを求めなければならない。日本は中国の国防予算の透明性を求めるが、人権に関しては面と向かってその改善を求めることはしない。多くが沈黙をして見て見ぬ振りをする。

 中国当局に拘束された人権家劉暁波氏の釈放を先進国の首脳の殆どが求めたが、我が日本の菅前首相は中国の反発を恐れて「釈放されることが望ましい」と願望を述べただけで誤魔化した。

 アメリカはチベット人民や自国民に人権抑圧を働く中国とわだかまりの一切ない友好関係を築いているわけではあるまい。軍事力に関してだけでなく、人権問題に関しても常に警戒心を抱いている。

 野田首相は昨日(2011年11月11日)記者会見を開いて、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることにしたと発表している。野田首相のTPP参加に向けた意志は単に自由貿易の活動範囲を拡大して経済的な国益を積み増すことだけではなく、最終的には中国をも引き込んで日米、その他で中国を抱き込む形とする対中安全保障を最終目的としていると伝えている記事もある。

 《「TPPで決断 野田総理の勝算」》NHK NEWS WEB/2011年11月11日) 

 野田総理に近い議員(TPPの)「隠れた主役は中国。安全保障のためだ」

 そして、〈野田総理は、まずは日米が中心となって、ASEANや豪州を含めた自由貿易圏のルールを作り、そこをベースにして中国を引きこんで行きたいという戦略なのです。〉と記事の解説。

 ということは、日本がアメリカと共にTPPを磁場として中国と経済関係を密接且つ濃密に築いて相互必要性を現在以上に強固とすることで中国の政治的・軍事的な動きを抑制する戦略的意志を持っているということになる。

 この覚悟は見るべきものがあると言えるが、もしそのような覚悟が自立性(自律性)に立った覚悟であるなら、日本を中国の下に置き、中国を日本の上に置くような態度を取らずに、如何なる場面でも同じ自立性(自律性)を発揮してダライ・ラマ14世との会談があってもいいはずだ。

 TPPに中国を取り込む大事の前の小事に過ぎないダライ・ラマとの会談だから行わなかったということなら、自立性(自律性)を感じないばかりか、恐る恐るの安全運転にしか見えない。

 このように見てくると、政府高官のダライ・ラマ14世との接触禁止の態度にしても、野田首相がダライ・ラマと会談を行わなかった態度にしても、対中安全保障策を深慮遠謀としたTPP態度にしても、所詮、尖閣諸島中国人船長逮捕と五十歩百歩のヤワな対中覚悟としか映らない。


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