ミャンマー問題/中国に対して民主化の歌を忘れた福田カナリヤ

2007-11-25 10:39:59 | Weblog

 中国にこそ、民主化要求せよ

 11月19日(07年)の『朝日』夕刊。(下線筆者)

 ≪「北朝鮮 今のままでは先細り・消滅も」首相、核放棄促す CNNで≫

 【ワシントン=小村田義之】福田首相は18日放映された米CNNテレビのインタビューで、北朝鮮の核開発問題に関連して「(北朝鮮は)今のままでは先細り、いずれは消滅してしまうのではないか」と述べ、北朝鮮に核兵器を放棄し、国際社会と足並みをそろえるよう強く求めた。軍事的な「中国脅威論」については「私はどちらかといえば楽観的な立場にある」と語り、中国を敵視しない姿勢を示した。
 インタビューは16日の日米首脳会談後に収録された。首相は北朝鮮について「独立国として自立していくことを希望するならば核兵器は放棄すべきだ」と指摘。さらに、「経済の自立を考えた場合、日本の経済的な協力も必要だから、当然、日朝間の拉致問題の解決も必要だ」と述べた。
 「核兵器を放棄しないと北朝鮮が破壊されるということか」と問われると、首相は「破壊されるかどうかではない。(非常に鎖国的な、閉鎖的な国家で、人々は非常に不幸な状況にある。)自由社会と全く違う体制を組んでいる社会だから、自立とはいえない」と述べた。そのうえで「いずれは消滅してしまうのではないか」という表現で北朝鮮の変化を求めた。米国の北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除問題には言及しなかった。
 中国の軍事計画については「今はそれほどのものではないが、今のペースで増強されていけば、将来大きな脅威になる」と指摘。一方、「問題は(軍事力を)持つだけでなく、その意思だ」との考えも示し、「中国が攻撃的な軍事力を持つことになれば、世界中の脅威になる。それは許されないと思っているから、私はどちらかといえば、楽観的な立場にある」と語った。
 インド洋での給油活動中断に関連して、「地球規模での安全保障の責任を日本が果たすかどうか」を問われた首相は、「議会、国民の間でさらに議論をつめる必要がある」と、憲法改正には慎重な姿勢を示した。>

 福田首相は初の外国訪問先に米国を選び、11月15日に訪米、ブッシュ大統領と会談、そして東アジア首脳会議に出席するために11月19日午後政府専用機で羽田空港を出発、同日夜シンガポールに到着した。

 そして11月21日、当地でミャンマーのテイン・セイン首相と会談。その読売インターネット記事(07.11.21./ 22:34)。

 ≪日本・ミャンマー首脳会談、福田首相が民主化の進展求める≫

 <福田首相は21日、シンガポールでミャンマーのテイン・セイン首相と会談した。
 福田首相は「(民主化指導者の)アウン・サン・スー・チーさんと実質的な対話をすべきだ。ぜひ変化を示してほしい」と述べ、ミャンマーの民主化の進展を強く求めた。
 これに対し、テイン・セイン首相は、「国連との協力の成果も出ている」と強調。西側諸国が課している経済制裁が民主化の進展を阻害していると反論した。
 福田首相はまた、ジャーナリストの長井健司さんが治安部隊の発砲で死亡した事件について、真相究明と遺留品の返還など誠実な対応を要求した。(シンガポールで、花田吉雄)>

 一方我が日本の誉れ高い外務大臣高村正彦「間違いなく持っていた物が返ってきていないのは、客観的事実。特にビデオみたいな物は、真相究明に役に立つ物ですから、返るまで求めていく」(07.10.9/ABC WEBNEWS)と表明したのは10月9日

 このことに関連した外務省・「ミャンマー情勢」報道官会見記録(平成19年10月9日(火曜日)17時10分~ 於:本省会見室)

 <(問)ミャンマーの件ですが、長井さんが銃撃された後、その映像、画像等が報道されており、それによると所持品などを治安当局関係者から取られているようですが、外務省はその辺の映像等は確認されているでしょうか。また、今後の対応については如何でしょうか。
 (報道官)長井さんの件については、今2点あり、長井さんが殺害された状況の真相究明ということと、殺害した人物の処罰にかかわる問題等がひとつ。それから、遺留品の返還に拘わる問題がもうひとつあります。それらの近況だけをお話しますと、まず長井さんの殺害の関係では、先週、長井さんのご遺体が日本に到着し、その日の内に杏林大学で司法解剖が行われ、その結果も公にされています。更に、警察当局の方で、殺害された時の映像がありますので、その映像・画像の分析が現在行われており、その結果を得ましたら、改めてその内容を私どもからミャンマー側に伝えて、真相の究明を強く求めるという流れになっていくだろうと思います。
 もうひとつ、遺留品の関係ですが、これは新たに殺害後、問題となっているビデオカメラ、長井さんのものと思われるビデオカメラを軍の関係者が所持している映像が出て参りましたので、その映像の話をミャンマー側に伝えており、先般、薮中外務審議官から遺留品、特にビデオカメラの問題について返還を強く求めておりますから、今回、軍の関係者がそのビデオカメラと思われるものを持っているという映像があるという話をミャンマー側に伝えて、その返還を督促しているというのが現在の状況です。
 (問)長井さんが銃撃された時刻と死亡推定時刻はどういう風に把握されているのでしょうか。
 (報道官)私の手元には殺害された正確な時刻がどうという資料はないのですが、撮影された画像から推定される状況等をミャンマー側に話して、且つ、その画像から判断するに至近距離から撃たれたとしか思えないという状況を伝えているということです。その点に関しては、警察の方で専門的な観点から画像の映像を分析するという作業をしてくれておりますので、そのような根拠も踏まえて改めて真相究明を求めるということになっていくと思います。
 (問)軍関係者がビデオを所持している映像が出て来たということですが、新たに出て来たのですか。
 (報道官)その映像についてはご覧になられている方も多いと思います。私もテレビで見ました。その映像によれば確かに数名の軍関係者が現場と思しき場所でビデオカメラのようなものを手に持っている場面が出てまいりましたので、そのことをミャンマー側にも伝えたということです。
 (問)その映像を受けて、日本政府ないし外務省として、問題のビデオカメラが今、ミャンマーの軍関係者に押収されている可能性が以前よりも高まったという認識なのでしょうか。
 (報道官)元々、そのビデオカメラについては、物理的にどういう状況になっているかまでははっきりとしていなかった訳です。ただ日本側の関係者の手元には戻ってはいないということだけははっきりしておりましたので、ミャンマー側にはそれを見つけて返却して欲しいということを言っていた訳です。しかし、今回の映像を以て、軍関係者自身がそれを持っているのではないかと推測される状況になりましたので、私どもで画像を見た感じをミャンマー側に改めて伝えました。外交ルートを通じ、今申し上げたような情報も踏まえて、ビデオカメラの所在をはっきりさせて日本側に速やかに戻してもらいたいという話をしているということです。
 (問)お伝えになったのは今日ですか。
 (報道官)今日だったか昨日だったか、ここ1、2日の間に、この画像を見る機会があり、その中身を先方に伝えたということです。ミャンマー側に伝えたのが、正確に昨日だったのか今日の午前中だったのかは別途確認したいと思いますが、週末の放送でそういう画像が出ていましたので、それを伝えたということです。
 (問)外務省としては、あの映像に映っていたのは長井さんのカメラであるという可能性が高いという印象なのでしょうか。
 (報道官)そういう印象を持ちました。画像としては複数の軍関係者が集まり、その中の1人がビデオカメラと思われるものを所持している様子ということで、その詳細の状況が分かるまでの画像ではなかったと思います。ただ、状況からして長井さんのビデオカメラである可能性が高いのではないかという印象を持ちましたので、そのことを情報としてミャンマー側に伝えたということです。

 何とも隔靴掻痒のもどかしさだけがあって、熱いものを感じない外務省の応対であるが、外務省はビデオ返還をミャンマー側に求めた。高村外務大臣が一旦真相究明と「返るまで求めていく」と断言した以上、それは政府の約束として外務省は履行の責任を有することとなる。

 だが、「返還」は遅々として進まなかった。高村外相が真相究明と「返るまで求めていく」と表明したのは10月9日。それから1ケ月も経過した11月4日、長井健司ジャーナリスト(50)所属APF通信社・山路徹代表が事件を国際刑事裁判所(ICC)で審理するよう求める考えを明らかにしている。

 <記者会見した山路代表は「事件について何も解明されていない。国際社会の同意を得て、殺害の責任の所在を明らかにして裁いて欲しい」と述べた。今月中旬にも遺族と共に高村外相と会い、日本政府としてICCに事件を付託するよう求めるという。
 (中略)
 ミャンマー政府の外務副大臣から2日、弔意を表す手紙が遺族に届いたことにも触れ、山路代表は「紙切れ1枚には何の意味もない。ビデオテープを返し、兵士が発砲に至った事実関係を明らかにしてもらいたい」>(07.11.4/19:59/asahi.com≪長井さん殺害、ICCで審理を 通信社代表が会見≫

 どのような経過を見ているのだろうか。自分が気づかないだけのことなのか、とんと報道がない。

 そして今回の東アジア首脳会議を機会に行われた11月21日の日本・ミャンマー首脳会談での福田首相の民主化要求と「遺留品返還に対する誠実な対応の要求」。

 その前日11月20日午前「長井健司ジャーナリスト射殺事件真相究明と本人所有のビデオカメラなどの返還を改めて求めた」高村外相対ミャンマー外相会談。

 そもそもの発端であるミャンマーの反政府デモを取材中だったジャーナリスト長井さんがミャンマーの官憲に謀殺されたのは9月27日。高村外相が真相究明と長井さん所有のビデオカメラを「返るまで求めていく」と表明したのは上記謀殺から12日後の10月9日

 日・ミャンマー外相会談で我が日本の高村外相がミャンマーの民主化とビデオ返還を求めたのが10月9日から1ケ月と10日の11月20日午前

 長井さん謀殺からほぼ2カ月経過している。東アジア首脳会談を機会として日本の首相と外相が再度ミャンマーの首脳に対して民主化要求とビデオ返還を求めたということは、2カ月間、二つの要求はまったく機能しなかったということの証明でしかない。

 アジアの盟主を任ずる日本(その地位と名誉は甚だしく頼りなくなってきている)が重要・不可欠な援助国の立場を以ってして被援助国たるミャンマーに対して「要求」が2カ月間機能しなかったということは、民主化要求もビデオ返還要求も形式のまま推移していたことを意味する。

 「政治は結果である」と言ったのはあの美しい国家主義者の前首相安倍晋三である。結果を伴わない政治・外交は形式で終わったとしか言いようがない。

 となれば、東アジア首脳会談を機に行われた福田首相の民主化要求・ビデオ返還も、高村外相の同じ民主化要求・ビデオ返還も、これまで形式で終わっていたのだから、今後も何ら成果も進展も見ずに形式で推移する危険性を多分に孕んでいると言える。いわば多分に日本国民に見せるために手続き上必要だから行った会談であり、要求した民主化とビデオ返還と言えないこともない.。少なくともそういった体裁で終わる可能性を含んでいる。

 軍事独裁国家ミャンマーが国際社会の民主化要求にしぶとく抵抗するのは何と言っても共産党一党独裁という似た者体制のアジアの大国・世界の大国中国の強固な後ろ盾があるからだろう。<中国は今年1月(07年)米英がミャンマー軍政非難決議を提出した際、国連安保理で「内政不干渉」を理由に、8年ぶりの拒否権を行使してまで採択を阻止し>(07.9.28『朝日』朝刊≪時時刻刻 ミャンマーを注視≫)てもいるし、今回のミャンマーの僧侶らによる反政府デモでの国際社会の批判に「内政干渉」だとしてミャンマー軍政擁護の姿勢を崩さなかった。

 東アジア首脳会談を利用して中国もミャンマー首相と会談し、民主化を求めているが、一方で国際社会の経済その他の制裁に「問題をさらに複雑化させるだけだ」と反対している。対ミャンマー民主化要求は日本の要求とまた違った意味で〝形式〟に過ぎないだろう。民主化によって得るものよりも失うものの方が多い可能性が予想されるからだ。現在の状況を見ると、軍政が維持された方が得るものばかりで、失うものは殆どないに違いない。

 大体が共産党一党独裁の中国である。世界から独裁国家が一つでも消えてなくなるのは肩身の狭い思いに駆られることになり、淋しい限りだろう。自身の独裁体制を維持するためには仲間はたくさんいた方がいい。

 ミャンマーが中国を強力な後ろ盾としている限り、民主化要求が形式化し、ビデオ返還要求も無効となる危険を限りなく抱えているとするなら、同じ形式化したとしても、中国そのものに民主化を要求すべきではなかっただろうか。

 しかし最初の記事の「米CNNテレビのインタビュー」では福田首相は中国に民主化を要求する言葉を一言も発していない。ミャンマーにできたとしても、中国にはできない民主化の歌を忘れた福田カナリヤとなっている。

 アメリカはかねがね機会あるごとに中国の民主化を要求している。今年9月のシドニーで行われたAPECでも面と向かって中国に要求した。
 
 ≪北京五輪を機に民主化を 米大統領、中国に促す≫(07/09/07 10:34【共同通信】)

 <【シドニー7日共同】ブッシュ米大統領は7日、シドニーで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)ビジネスサミットで演説し、来年開かれる北京五輪を契機に、中国が「開放性と寛容」を示すべきだと述べ、中国指導部に一層の民主化を呼び掛けた。
 また、北朝鮮に対して人権状況の改善を求めたほか、ミャンマー軍事政権の民主活動家抑圧を強く非難した。
 6日に中国の胡錦濤国家主席と会談したばかりのブッシュ大統領は、北京五輪が「全世界の目が北京に注がれる瞬間となる」と指摘。人間の尊厳を尊重することなどを訴え、より開かれた社会を目指す取り組みを中国指導部に促した。>

 まずはミャンマーの民主化・ビデオ返還を実現させるためには、アメリカと共同歩調を取る形で中国に対して民主化要求の少なくとも圧力を掛けてミャンマーに対する中国の後ろ盾を弱めることが先決問題ではないだろうか。

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