各新聞記事から。
≪「靖国」上映中止 「一番懸念した状況」 上映側萎縮に危機感≫(08.4.1/『朝日』朝刊)
映画「靖国 YASUKUNI」ガ予定された12日には公開されなくなった。上映を決めていた5館がすべて中止を決断した。多く名トラブルを警戒しての先回りの自粛だが、実際に厭がらせを受けた劇場もあった。関係者には、表現の場を奪われていくことへの懸念が広がる。
31日夕、東京都内で開かれたメディア向けの試写会の冒頭、配給・宣伝会社アルゴ・ピクチャーズの宣伝担当者は、12日からの上映注視を口頭で発表した。そのうえで、「こういう結果になり、非常に残念。今後、ぜひみなさんに上映を応援していただければと思っている」と、集まった約50人に呼びかけた。都内の上映館はすべてなくなったため、上映してくれる映画館を今後探す、としている。
実際、既に前売りしている名古屋シネマテークは、5月中旬の上映に向けて日程調整中という。
一方、上映中止を決めた大坂・シネマート心斎橋の野村寛支配人は「悔しい。素晴らしいドキュメンタリーなのでぜひ上映したかったが、シネマートグループ全体の判断として中止を決めた」と話した。
同日、日本映画監督協会(崔洋一理事長)は、「表現の自由を侵害する恐れのあるあらゆる行為に対し、断固として反対する」との声明を発表した。声明は、「一部の国会議員が文化庁を通して特別に試写会を要求した行為及びその後の言動に等に対し、強く抗議の意を表明する」と指摘している。
映画監督の立場として崔洋一さんは31日夜、取材に「一番懸念した状況になった。批判でも肯定でも、上映が保障される社会の規範が民主主義だ。映画館側が圧力や抗議をイメージして、上映を取りやめるのは、民主主義の根幹が崩れつつあるのではないかという危機感を抱く。作り手や上映側の萎縮を恐れる」と語った。
(今に始まったことではない。昭和天皇の死去時の過剰な自粛状況も右翼の「圧力や抗議をイメージし」た退行現象ではなかったか。稲田の功績は、日本人の民主主義がいまだ未発達なことを明らかにしたこと。)
ジャーナリストの大谷昭宏さんは「厭がらせで言論活動が次々と中止に追い込まれることは危険な兆候だ。映画館は理不尽なことに断固と戦って欲しい」と話した。
この作品を見たいと言う稲田議員側の要請を受けたアルゴ側にフィルムの貸出しを求めるなど、試写の実現へ向け当初仲介役を果たしたのは文化庁だった。同庁の清水明・芸術文化課長は「一般論で言えば、映画など芸術文化の発表の機会が、外部からの厭がらせなどによって妨げられることはあってはならないと考えます」と話した。
「中止は残念」稲田議員
稲田朋美衆議院議員は31日夜、「日本は表現の自由も政治活動の自由も守られている。一部政治家が映画の内容を批判して上映をやめさせるようなことは許されてならない。今回、私たちの勉強会は、公的な助成金が妥当かどうかの1点に絞って問題にしてきたので、上映中止という結果になるのは残念。私の考え方とはぜんぜん違う作品だが、力作で、私自身も引き込まれ最後まで見た」と話した。
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≪クローズアップ2008:映画「靖国」上映中止 揺れる表現の自由≫(毎日jp/2008年4月2日 東京朝刊)
靖国神社を舞台にしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止が、波紋を広げている。グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)が今年2月、日本教職員組合の教育研究集会の会場使用を拒んだのと同じ構図が、映画界にも波及したとみられるためだ。中止を決めた映画館周辺では、右翼団体による抗議活動が確認されている。【勝田友巳、棚部秀行、野口武則】
◇「自己規制、生まないか」
「やむにやまれぬ判断。劇場内には三つのスクリーンがあり、安全な上映環境を確保できるか、不安がぬぐえない。表現の自由を守れと言われても、限界がある」。上映中止を決めた映画館「銀座シネパトス」(東京・銀座)を運営するヒューマックスシネマの中村秋雄・興行部長は戸惑いを隠さない。昨年10月に上映を決めた際にはこんな事態は予想もしなかったという。中止決定から一夜明けた1日は代わりの作品の選定などに追われた。
一方、3月31日に国会議員の試写などへの抗議声明を出した直後、上映予定全館での中止を知った日本映画監督協会も事態に驚く。崔洋一理事長は「映画の表現の自由は映画館での上映があって守られる。作り手が自己規制する空気が生まれないか心配だ」と話す。
問題の発端とみられるのは、自民党の稲田朋美衆院議員が2月12日、文化庁に「映画の内容を確認したい」と問い合わせたこと。稲田氏は、文化庁管轄の独立行政法人「日本芸術文化振興会」が製作に750万円を助成したのを問題視していた。文化庁は配給協力・宣伝会社のアルゴ・ピクチャーズと協議し、3月12日夜に国会議員向けの試写を行い、自民、民主、公明、社民4党の40人が参加した。
この時点で映画は都内4館、大阪市内1館で、今月12日から公開されることが決まっていた。しかし「バルト9」(東京・新宿)が3月18日「営業上の総合的判断」を理由に公開中止を発表。他の上映予定館周辺では街宣活動が行われたり抗議電話がかかってきた。右翼団体が稲田氏らの動きに刺激された可能性がある。バルト9の中止決定から約1週間後、他館も「観客や近隣に迷惑がかかる」などの理由で、相次いで公開を取りやめた。
過去には92年に「ミンボーの女」の伊丹十三監督が暴力団員に襲われ、翌年、伊丹監督の「大病人」が上映中、右翼団体員にスクリーンを切り裂かれた。98年には「南京1937」のホールなどでの上映会が右翼の街宣活動で相次いで取りやめになった。00年には「バトル・ロワイアル」の暴力描写を、石井紘基衆院議員が問題視して国会で取り上げた。しかし映画館での公開が中止に追い込まれたのは極めて異例だ。
◇自民議員「反靖国だ」--勉強会、怒声も
「稲田氏の行動が自粛につながったとは考えないが、嫌がらせとか圧力で表現の自由が左右されるのは不適切だ」。町村信孝官房長官は1日の記者会見で、上映中止問題について一般論で応じた。
国会議員向け試写会の翌日の3月13日、自民党の保守派でつくる「伝統と創造の会」(会長・稲田氏)と「平和靖国議連」(会長・今津寛衆院議員)が、文化庁などを呼んで合同勉強会を開いた。
両団体とも首相の靖国参拝を支持する議員の集まり。試写後、映画を「靖国神社が侵略戦争に国民を駆り立てる装置だったというイデオロギー的メッセージを感じた」と論評した稲田氏は勉強会で日本芸術文化振興会の助成金問題を集中的に取り上げた。
約10人の出席者からは「反靖国の内容だ。大きな問題になるから覚悟した方がいいよ」との怒声も飛んだ。稲田氏は3月31日「問題にしたのは助成金の妥当性。私たちの行動が表現の自由に対する制限でないことを明らかにするためにも中止していただきたくない」とのコメントを出した。
一方、警視庁によると、上映予定の映画館に対する右翼団体の街宣活動は複数回確認されていた。しかし「際立った抗議活動は把握していない」(警視庁幹部)という。警察白書によると、07年の右翼の検挙数は1752件2018人。5年前は1691件2217人で件数は増加したものの人数は減少し全体ではほぼ横ばいの状態だ。
右翼の事情に詳しい関係者は「大部分の右翼にとって靖国神社は特別な存在。過敏に反応してしまう傾向はある」と指摘した。
李纓監督
◇李監督「作品を見て健康的な議論を」
李纓(リイン)監督(44)は1日、毎日新聞の取材に今回の動きについて、「市民から『考える自由』を奪う危険な事態。まずは作品を見て健康的な議論に生かしてほしい」と話した。
中国広東省出身の李監督は、大学で文学を学んだ後、国営中国中央テレビに入局。チベットの伝統芸能祭の復活を追ったドキュメンタリーなどを製作したが、中国での報道に限界を感じて退局し、89年に来日した。
97年には、南京大虐殺を否定する趣旨の集会に参加した。「日本兵の名誉回復を熱心に訴える人々の姿に衝撃を受け、理由が知りたくて靖国神社でカメラを回し始めた」。10年間撮りためた映像を123分にまとめて、「靖国」を作った。「靖国神社の空気をできるだけ静かに、先入観なく感じ取ってもらえるように、あえてナレーションは付けなかった」と説明する。【福田隆】
◇映画館に責任ない--映画監督の羽仁進さんの話
「靖国」は非常に慎重に作られており、靖国神社に対する批判を強硬に打ち出している映画ではない。文化庁が助成金を出したのは、映画の出来を評価して、一般の人に見てもらうため。もちろん政治家にも見てもらいたいが、彼らが文化庁に文句を言うのは筋が違う。また、映画に反対する人たちが映画館や近隣の人に迷惑になるような形で意見表明することは、社会のルールを壊している。上映中止の責任を映画館側に押しつけてはいけない。
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■ことば
◇映画「靖国」
第二次世界大戦中の靖国神社境内で、軍人に贈る「靖国刀」を作った刀鍛冶(かじ)へのインタビューと境内でのさまざまな出来事で構成。軍服姿で参拝する団体や、「靖国支持」という看板を掲げる米国人、A級戦犯合祀(ごうし)に抗議する台湾人遺族らの姿がナレーションなしで映し出される。
監督は日本在住約20年の中国人、李纓さん。自分が日本で設立した製作会社「龍影」と中国電影学院などが共同製作した。日本芸術文化振興会のほか韓国の釜山国際映画祭から助成を受けている。
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