日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)








 異例。確かに異例です。とはいえ実効支配を進めるための行政的手続きに加え、政府による抗議も一蹴され、さらに軍事演習までやられてはさすがに黙っていられなかったのでしょう。ベトナムの首都ハノイで12月9日、反中国デモが実施されました。



 ●越で異例の反中国デモ 南沙、西沙の領有権主張(共同通信 2007/12/09/23:09)
 http://www.47news.jp/CN/200712/CN2007120901000339.html

 【ハノイ9日共同】ベトナムの首都ハノイにある中国大使館前で9日、ベトナムや中国などが領有権を主張する南シナ海の南沙、西沙諸島をめぐり、ベトナムの領有権を訴える市民ら約300人が、両諸島は「ベトナムのものだ」「中国に抗議する」などと叫び、約1時間にわたってデモを行った。

 ベトナムで反中国デモが起きたのは極めて異例。共産党1党体制のベトナムでは、政治的な主張を掲げた集会などは厳しく規制されるのが通例だが、今回のデモでは警官隊監視のもとで黙認された。デモ隊の主張がベトナム政府の主張を反映しており、時間限定で容認したとみられる。

 南沙、西沙諸島をめぐっては、11月に中国が西沙諸島で軍事演習を行ったとしてベトナム政府が抗議。中国政府は「ベトナム側の非難に道理はない」と一蹴していた。




 この問題については
「実効支配を進めるための行政的手続き」について当ブログで既報しています。事態の推移を追う上で、まずこちらを御一読頂ければ幸いです。

 ●領土問題で直轄自治体を極秘設立、その野蛮さがちょい羨ましい。(2007/11/20)

 この「行政的手続き」である「X市問題」については香港紙がすっぱ抜いて、中国側が慌ててネット上の関連記事などを削除したりしました。それでも削除忘れの手抜かりな部分などがあり、素人のやっている当ブログでもそこに喰いついたくらいですから、領有権争いの当事者であるベトナム政府も状況を把握していたことでしょう。

 当然ながら対中警戒感が高まったものと思われます。中国とベトナムは陸上及びトンキン湾の国境線画定を目指して協議を続けているところなのです。神経質にならざるを得ません。

 ところが中国はこの領有権争いのある南シナ海において、あろうことか軍事演習を実施しました。11月下旬のことで、米国の「キティーホーク」空母戦闘群の香港入港が中国によって拒否された理由のひとつには、この演習を近海で観察されたくなかったという説があります。

 ともあれ演習は行われ、ベトナム政府はこの件で中国政府に抗議した模様です。それに対する中国側の反応(11月27日の外交部報道官定例記者会見)は尖閣諸島問題のとき同様、門前払いともいうべきものでした。



 ●中国外交部報道官定例記者会見(中国外交部HP 2007/11/27)
 http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/1032/t384784.htm

 ――ベトナムは中国が西沙諸島で軍事演習を行ったことについて、ベトナムの「主権」を侵犯するものとして抗議したとの報道がある。この件についての見解は?

「皆さん御存知の通り、中国は西沙諸島及びその付近の島嶼に対しし争う余地のない主権を有している。中越間にはこの問題においていかなる争議も存在していない。中国海軍が西沙諸島の海域で定例訓練を行ったのは、完全に中国海域内で行われた正常な活動であり、中国の主権範囲内でのことである。ベトナム側の非難には全く道理がない」




 この物言いは厚顔ではありますが、こと領土に関する話である以上、日本も尖閣諸島問題に関してはこの姿勢で臨むことが必要かと思われます。もちろん、軍事演習をやるかどうかは別として、です。

 ところが中国は軍事演習をやって、ベトナム政府がこれについて抗議すると一顧だにせず、厚顔の2乗とでもいいますか、再び西沙諸島近海での軍事演習を計画していた模様です。これが上記ベトナムでの反中デモを受けて急遽中止になった形跡が人民解放軍機関紙『解放軍報』にみられます。

 ●『解放軍報』電子版(2007/12/10/06:17)
 http://www.chinamil.com.cn/site1/jbzsc/2007-12/10/content_1050545.htm

 演習は南海艦隊の某強襲揚陸艦支隊によるものとのことで、要するに敵前上陸訓練ないしは敵支配下の地域に対する隠密上陸を想定したものと思われます。この記事によると中止命令は「11月上旬」となっていますが、中止決定理由について支隊司令部は、

「演習の時期選定が適切でないため、訓練によって得られる効果が限定的になってしまう」

 と説明しています。この場合「訓練によって得られる効果」云々は後づけの理屈であって、
「演習の時期選定が不適切」という部分に注目すべきです。

 中止になった演習がいつ実施される予定だったのかについてこの記事は言及していませんが、南海艦隊は11月下旬、実際に一度演習を行い、ベトナムから抗議されました。外交部は中国国民及び海外メディアが見ている手前上それを一蹴したものの、再度の軍事演習という形でさらに無理押しすることで、ベトナム、ひいてはASEANとの関係が悪化することを懸念したのではないでしょうか。

 そもそもこの西沙・南沙・東沙・中沙の各諸島についての領有権争いは中国とベトナムだけのものでなく、台湾やフィリピン、マレーシア、ブルネイなども自国への帰属を主張しています。

 ――――

 演習中止は恐らく党中央から出された指示で、中央軍事委員会を通じて南海艦隊に下達されたものでしょう。焦点となっている海域での軍事演習は示威行為にもなりますから、実戦部隊とすれば中止命令には従ったものの、当然ながら不満は残ったでしょう。現場指揮官にとっては、

「何だい中止かよ。ガッカリだな」

 といった士官・下士官・兵の士気低下を懸念するところです。主席の胡錦涛・総書記以外は全て制服組という中央軍事委員会にもその感覚に同調するところがあったかも知れません。何たって、

「国家主権・領土の統一と保全」

 を「神聖なる使命」として掲げている人民解放軍です。待ったがかかれば
「何でだよ(怒)」という空気になるのは不自然ではないことと思います。

 国家の軍隊ではなく中国共産党の私兵である人民解放軍には「党中央の絶対的指導に従う」という鉄の掟があります。各軍区と党中央の間でパイプ役となるのが中央軍事委ですが、
同委はその一方で、党中央に対する制服組の代弁者でもあります。そこら辺の微妙な温度差を胡錦涛がうまく処理できたのかどうか、気になるところです。

 ――――

 ……とは、飛躍した邪推になりますが、これは日中関係にとばっちりが及んでいるかも知れないからです。前回の件、つまり東シナ海ガス田紛争やそのつながりで出てくる尖閣諸島問題とリンクすることになる可能性もある、ということです。

 いや、すでにリンクしているのかも知れません。福田首相が訪中して日中首脳会談が行われ、その場で東シナ海ガス田問題についての「政治的決断」を双方が行って現在の摩擦面を解消するという水面下の合意が日中両国によってすでに達成されているとすれば、日中中間線付近で操業しているガス田は現在中国側の独占状態にあるため、中国側も「政治的決断」で何らかの譲歩が必要になります。

 これは、制服組にとっては面白くないことでしょう。台湾問題がヤマ場にさしかかっている時期でもあります。

「あっちもダメ、こっちもダメかよ。いい加減にしろ」

 という空気は必ず軍部において生まれることと思います。胡錦涛はそれを慰撫しなければならず、そのために日本側から東シナ海ガス田問題とは別の譲歩をさらに引き出す必要がある、それがひょっとすると「南京」かも知れない、というのが私の邪推です。

 注目すべきは、これまで例の
「共同文書を勝手に一部削除」について関連報道を国内メディアに禁じてきた形跡のある中国当局が11日、外交部及び商務部の会見で日本側の抗議に反論する形で中国国内でも公開し、問題の存在をぶちまけてしまったことです。

「この問題について譲るつもりは全くない」

 という意思表示に他なりません。



 ●ハイレベル対話の共同文書削除、中国「違反ない」と反論(読売新聞 2007/12/11/20:24)
 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20071211id21.htm

 【北京=寺村暁人】北京で1日に開かれた「日中ハイレベル経済対話」で合意・発表された文書の一部を中国側が一方的に削除していた問題で、中国外務省の秦剛・副報道局長は11日の定例記者会見で、「文書は、共同文書でも共同発表文でもなく、内容に違いがあるのは正常だ」と述べ、文書を「共同文書」だとして発表内容の訂正を求めている日本政府に反論した。

 秦副局長は、「それぞれが発表する文書なのだから、内容が違ったとしても国際ルールには違反していない」と述べた。


 ――――

 ●外交:中国、プレス・コミュニケの文書削除指摘に反論(毎日新聞東京朝刊 2007/12/12)
 http://mainichi.jp/select/world/asia/archive/news/2007/12/12/20071212ddm005010010000c.html

 中国商務省の呂克倹アジア局長は11日、日中ハイレベル経済対話のプレス・コミュニケの内容を中国側が一部削除して公表した問題について緊急会見し、「(日中)双方の(正式の)共同文書でも共同コミュニケでもなく、それぞれが会合の内容を紹介した文書」と指摘、内容に相違があるのは「正常」との見解を示した。また、文書の性格について「発表前に明確になっていた」として日本側も事情を了解していたとの認識を示し、中国側が勝手に削除したとの日本側の指摘について「事実と違う」と強調した。【共同】




 中国側のこの姿勢に対して日本側も態度を硬化させて福田首相の訪中に影響が出るという形にするのか、あるいは初動からしてそうであったように、なるべく騒がすに事態をうやむやのまま収拾して首相訪中を優先させるのか、要するに日本側の今後の態度が一種のバロメーターになるかと思います。

 ――――

 余談に流れてしまいましたが、ベトナムの反中デモの話。冒頭に掲げた外電だけではなく、例によって中国国内からアクセス可能な海外の親中系メディアも事件をそのまま報じました。内容は「星島環球網」の方が詳細ですが、香港の「大公報」は紙面でも報じていますから、こちらの方が中国国内への伝播力は高いかも知れません。

 ●ベトナム、中国大使館前で数百人が三沙市設立に抗議のデモ(星島環球網 2007/12/10/07:34)
 http://www.singtaonet.com/euro_asia/200712/t20071210_688006.html

 ●ベトナムの大学生、中国の三沙市設立に対し反対デモ(大公報 2007/12/10)
 http://www.takungpao.com/news/07/12/10/ZM-834817.htm

 また、米国在住の「歩厘」さんがAFP電についてコメント欄で紹介して下さいました。



 ●嫌われる中国人(歩厘) 2007-12-10 12:28:27
 http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/6069663a83e0fd74ef48939c6b42cadb(コメント欄)

 ベトナムのデモの件ですが、AFPが詳しく書いてますね。

 http://afp.google.com/article/ALeqM5j2rw7qqR9vew-eOrGCoDgp6S69Kw

 この記事によると、

 ●まず、この手のデモは「まれ」であること、
 ●御家人さんも論じていた「X市問題」はどうやらベトナムでもかなり議論されたらしく、怒ったベトナム人が中国政府のウェブサイトをハッキングし、「侵略阻止」などと書き込んだこと、
 ●ベトナムでは、通常、デモはすばやく鎮圧されるのに対し、今回のデモは警察によって許容され、尚且つ、地元や海外のマスメディアの同行取材さえ許されたこと、

 などが報じられています。中国は、自分達が日本に対してやったのとちょうど同じことを、今度はベトナムにやられたわけですね。デモの参加者は250人ほどで、平和裏に終わったようですので、「官製デモ」の可能性が高いと思われます。ベトナムとしては、7月に中国軍によって南沙諸島の付近にいた漁民が射殺され、なおかつ、「X市問題」が出てきたとあっては、到底黙っていられないということなのでしょう。
(後略)



 「歩厘」さん、レポートありがとうございます。個人でできる情報収集は限りがあるので、こういう助太刀は本当に大助かりです。デモ自体は官製モノの気配が濃厚ですが、三沙市設立に中国が動いた(もう設立した模様)ことに対してハッキングのような積極的な動きがあったとは知りませんでした。予想以上に大きな反発を呼んでいるようですね。

 これについては中国も強腰を崩しておらず、三沙市のことは伏せられているものの、ベトナムで反中デモが起きたことは「共同文書を勝手に一部削除」事件同様に、外交部がぶちまけてしまっています。



 ●ベトナムで中国に対しいわゆる抗議デモ活動が発生したことについて(中国外交部HP 2007/12/11)
 http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/t388867.htm

 ――12月9日にベトナム・ハノイ市とホーチミン市で中国に対するいわゆる抗議デモ活動が発生したとの報道がある。中国側の見解は?

 中国は南シナ海の諸島及びその周辺海域について争う余地のない主権を有している、というのが中国政府の一貫した立場である。ベトナムが時期ごとに様々な主張を行っていることは、われわれも承知している。中越両国の指導者はこれについて意見交換を行い共に努力し、対話と協商を通じて問題海域につての争いを適切に処理し、南シナ海の安定と両国関係という大局を維持しようとしてきた。

 ベトナム国内で最近発生した両国関係を損なう一連の事態について、われわれは非常に注目している。ベトナム政府が責任ある態度を以て適切に有効な措置を講じ、事態の深刻化に歯止めをかけることで両国関係が損なわれることを回避するようわれわれは望んでいる。(秦剛・外交部報道官)




 この記事によってベトナムでの反中デモを中国国民が広く知ることになった訳ですが、前述した11月27日の外交部報道官会見に比べると、領有権は譲れないとしつつも紛争の存在を認めている点において、強硬姿勢がやや緩和された印象が残ります。ベトナムだけでなくASEAN全体に対する中国のイメージ悪化に配慮したのではないかと思います。

 日本はこういう時機を捉えてASEANに対しポイントを稼ぐべきではないかと思うのですが、「相手の嫌がることはやらない」いまの政権の顔ぶれ(媚中派シフト)ではそういう機敏な働きは全く期待できそうにないですね。
フフン♪







コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )



« 「共同文書を... 2007.12.13:... »
 
コメント
 
 
 
ベトナム人 (que)
2007-12-12 13:41:25
ベトナム人は中国、華人が嫌いなのがデフォルトですからね・・・。

ベトナムに在住していた2年間。
あるベトナム人に「○○さんのことなんですが・・・」と話を切り出したところ「あのひとは中国人(華人の意)ですから・・・」とまだ内容にも触れてないのにいわれたことが何回かありました。
当時、たぶん、2004年ごろだったとおもいますが、ベトナムの漁船が中国軍に撃沈され何人かが死んだ事件がありました。知り合いのベトナム人は、「ベトナムは小国です。悔しい。いつもこうだ」といってました。

どの町の通りの名前も、ハイ・バー・チュン(むか~し独立のために戦ったチュン姉妹)、チャン・フン・ダオ(元と戦った名将)などの対シ戦争の英雄の名前がついています。
 
 
 
ベトナムの続報 (歩厘)
2007-12-12 18:58:56
ベトナムのデモに関する続報ですが、ハノイの中国大使館前だけではなく、ホーチミンの中国領事館前でもやったようです。

http://www.intellasia.net/news/articles/governance/111238000.shtml

ベトナムを代表する南北2大都市でデモをすることによって、「ベトナム全土が怒っている」ということを示したかったのでしょうか。

それと、上記の記事によると、先週の金曜日に、ベトナムが中国・香港籍の船を3隻拿捕しています。理由は、「許可なくベトナムの領海を侵犯した」というもの。ベトナムは結構本気ですね。

問題はなぜこの時期にこのデモなのかということですが、対岸のインドネシアで先日まで行われていた地球温暖化防止会議に当てたのかなと邪推してしまいます。アメリカのゴア元副大統領が地球温暖化問題でノーベル賞を受賞するなど、今、この問題に世界中の関心が集まっています。当然、中国も環境汚染先進国(?)として参加していたわけですが、今デモをやれば、会議に参加している各国代表の耳にも、この領土問題に関する件が入るだろうし、何より中国のメンツを潰せると考えたのかもしれません。

そういう意味では、『解放軍報』が急遽、軍事演習の中止を発表したのは、ベトナムに対してというより、地球温暖化防止会議に参加していた各国代表(より正確には欧米諸国代表)に向けられたものかもしれません。「中国は平和ですよ~」ということでしょうか(笑)。

仮にそうであったなら、それはそれでベトナムには屈辱的ですが、軍事演習中止という言質が得られたので、今回のデモは一定の成果があったということになるかもしれません。

まあ、あくまで私の推測ですが・・・。
 
 
 
Re:ベトナム人 (御家人)
2007-12-16 17:07:18
>>queさん
 ベトナム人は正に不撓不屈の歴史を歩んできましたからね。南シナ海の領有権争いでも過去に小競り合いが起きてますね。まあ空母とか衛星破壊ミサイルとか、それから今回の件とか、中国は事を急ぎ過ぎているというか、ちょっと野心を見せ過ぎなのでは(笑)。今回の件でASEANとの関係に隙間風が吹くことを期待したいです。
 
 
 
Re:ベトナムの続報 (御家人)
2007-12-16 17:07:37
>>歩厘さん
>ホーチミンの中国領事館前でもやったようです。
 そのようですね。中国外交部の声明にホーチミン市も出てきたのであれ?と思いました。ベトナムは小国ですけど、対中衝突の歴史を重ねていますから喧嘩上手ではないかと思います。ここは退いたらいけない、という間合いを心得ているのではないかと。しかし拿捕情報とはありがたいです。m(__)m

 地球温暖化防止会議と演習中止のリンクについては私の守備範囲外で何ともいえません。ともあれ南シナ海の問題はベトナムだけでなく他国も領有権を主張していますから、中国からすれば相手はベトナムだけではないということになります。各当事国のスタンスがみえてくれば面白いかも知れません。
 
コメントを投稿する
 
現在、コメントを受け取らないよう設定されております。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。