日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 中国政治にちょっと動きが出てきましたね。もう少しのんびり眺めていたいところなんですが、途中経過報告ということでふれておきます。

 その「動き」なるものが「靖国参拝」と関係があるかといえば、それはあるでしょう。ただむしろ当ブログでいうところの「擁胡同盟」(胡錦涛擁護同盟)と「反胡連合」(反胡錦涛諸派連合)の争いが再燃した、あるいは表面化した、という方が正確なように思います。「靖国参拝」はその主要なきっかけのひとつ、といったところです。

 結論から言ってしまうと、主導権は一応「擁胡同盟」が握っているものの、「靖国参拝」などでちょっと脇が甘くなったところを「反胡連合」に衝かれた、という印象です。ただ、「反胡連合」の反撃がどれほどのものになるかはまだ未知数。

 何せ世代交代・大型人事が一斉に行われる第17回党大会が来年に控えていますし、はや目前となった今秋にはその前哨戦である「六中全会」(第16期中央委員会第6次全体会議)が開催されます。人事を巡る主導権争いが「中共人」(特に上層部)たちにとっては最大の関心事です。

 大型台風?何それ?てなもんです。「サンメーイ(桑美)ゆーかばーみーづーくかーばーねー」……と、これは不謹慎でした。もちろん楽曲に対する不謹慎。

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 今回の小泉首相による靖国神社参拝は、みんな当然「八・一五」にやるだろうと思っていますし、首相自身も「適切に判断する」と言いつつそれを暗示するような発言を繰り返しています。つまり今回は開演時間が決まっていて、序幕前のざわざわがある。それだけに日本国内でも中共系メディアでも序曲めいたものが流れてやかましいのです。

 いや、中共系メディアは日本メディアが色々小細工するのをいちいち引き写しているだけで、中共自身は抑制された姿勢に終始しています。例えば2004年の日中首脳会談当時のように「靖国神社を参拝するな」とは言わない。婉曲な表現で「参拝しないことが日中関係を利する」とするにとどめている。安倍官房長官の4月参拝が「突如発覚」(笑)したときも、その姿勢を崩しませんでした。

 http://news.xinhuanet.com/world/2006-08/04/content_4921130.htm

 日本のマスコミが騒ぐ以上、例えば外交部報道官定例記者会見で質問がこの話題に及ぶこともあるでしょう。そうなると一応は唱和しなければなりません。抑制した動きにとどめ「小泉参拝」によるダメージを最小限に食い止めたいであろう「擁胡同盟」としては、こうした日本のマスコミの動きを有難迷惑ぐらいに思っているのかも知れません。

 実際、中共政権は以前、尖閣諸島付近の日本側EEZ(排他的経済水域)内に中国の海洋調査船が無通告で調査活動を行ったときには周章狼狽した「らしくない」対応をみせましたし、東シナ海ガス田の問題も事を荒立てる方向に向かわないよう対応しています。

 ●口喧嘩と腕相撲、そして尖閣事件。・五(2006/07/11)

 最近では前回報じた通り、香港の基地外が尖閣諸島に上陸すべく船出しようとする企てを事実上阻止してもいます。そういえば外相会談もやっちゃいましたしね。……水面下では日本側との暗闘が繰り広げられているのかも知れませんが、表面上は「対日融和路線」(当社比w)なのです。「当社比」とは江沢民時代と比べてもいいですし、昨年11月後半あたりの胡錦涛政権と比べても歴然としています。

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 その江沢民ですが先日、『江沢民文選』なるものが鳴り物入りで発売されましたね。私は現物に目を通した訳ではないので日本や香港の報道を通じて耳にするしかありませんが、

「日本に対しては歴史問題を永遠に言い続けなければならない」

 と明記された部分があるそうですね。

 http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060810i111.htm

 また香港紙『蘋果日報』や『星島日報』の報道によると、天安門事件(1989年)に関連した故趙紫陽・元総書記批判も本文に含まれているそうです。

 私は「新華網」(国営通信社の電子版)で1巻から3巻までの「主要な内容」とされる記事は目にしましたが、そういう敏感な部分はさすがにありませんでした(私の見落としでなければ)。公刊されているので一般国民にも読まれる訳ですが、メディアでそれを煽るのは控える、といったところでしょうか。こうした匙加減の微妙さがたまりません(笑)。

 これは「新華網」で目にしましたが、『江沢民文選』はまずトウ小平理論を掲げて改革推進を訴えていますね。効率重視・格差是正を旨とする胡錦涛オリジナルの「科学的発展観」「調和社会」が登場する前の時期の江沢民談話を本にしたものですから当然なのですが、イケイケドンドンで効率無視・成長率第一・様々な格差などは小事、といった粗放で歪んだ経済成長路線を容認し、その歪んだ部分を重視することなく高度成長に大肯定を与えた時代です。

 で、地下のトウ小平が聞いたら激怒するでしょうが、この江沢民路線においては、

「黒い猫でも白い猫でも鼠をとる猫はいい猫だ」(黒猫白猫論)
「条件のあるものから先に豊かになる」(先富論)

 といった「トウ小平理論」の中の片言節句が都合良く解釈されて錦の御旗として掲げられていました。「黒猫白猫論」は主として計画経済時代の悪弊として根強く残っていた悪平等(親方五星紅旗)やイデオロギーに偏った硬直的思考を批判したものですし、「先富論」には「先に豊かになったものがまだ豊かでないものを引き上げる」という後段があるのですが、そこら辺は無視。

 たぶんその風潮は省・自治区・直轄市よりも県・鎮・郷といった末端の行政レベルで甚だしかったのではないかと思います。

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 で、そうした内容=江沢民路線というのはGDP信仰・成長率重視を戒め、むしろ格差是正や民生や効率、それに省エネや環境保護を優先させろとする胡錦涛路線とは対立するといっていいものであり、少なくとも「科学的発展観」や「調和社会」を補強するものではありません。

 はっきり言ってしまえば、それは「反胡連合」の主軸であろう各地方勢力、つまり「諸侯」たちが奉じている方針といっていいでしょう。実際に「諸侯」たちは「科学的発展観」に面従腹背といった形で経済面では江沢民路線をいまも堅持している模様です。その結果が今年上半期のGDP2ケタ成長であり、中央政府による相次ぐ対策措置や督察チームの全国派遣、また経済過熱懸念が公然と語られ地方当局を批判する記事が「新華網」を飾る現状です。

 「対日融和路線」に転じて、日中外相会談もやって、いま「靖国」を目前にしながら過剰に騒がずにいる、といった「擁胡同盟」の脇腹のガードが最も甘いところで出された『江沢民文選』。時機を狙って出したということはないでしょうし、香港の報道によれば党中央は本来、『江沢民文選』を地味目に扱うつもりでもあったようです。

 なるほど、一見すれば高々としたファンファーレとともに登場した観はあります。発売初日にはそのニュースが『人民日報』の1面トップ+社説で報じられ、新華社もトップニュース扱い。さらに「擁胡同盟」の拠点である『中国青年報』や『解放軍報』までがこれを記事にしました。

 ただ、これは江沢民の面子を立ててやったというもので、「擁胡同盟」の拠点が相次いで陥落した訳ではありません。一日二日のサービスなのです。『中国青年報』は翌日から平常に復しています。

 ただ人民解放軍機関紙の『解放軍報』は二日目にも同紙オリジナルの賞賛記事を掲載しました。あくまでも「胡錦涛同志を総書記とする党中央……」という枠をはめていますが、同紙において久しぶりに江沢民の名前が連呼されたのは事実で、「八一建軍節社説」が「科学的発展観」一色に塗り上げられたことを思えば、『中国青年報』に比べてちょっと動揺している観がなきにしもあらず、といったところです。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-08/11/content_551918.htm

 胡錦涛サイドにすれば、このあたりが懸念材料でしょう。たぶん「靖国参拝」よりも怖いのではないかと思います。

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 前例があるのです。江沢民の対台湾政策「江八点」の13周年記念を胡錦涛ら党中央は地味に扱うつもりだったのに、実際には末端レベルで積極的な記念活動が行われ、党中央機関紙の『人民日報』までそれに引きずられてしまった、というものです。

 ●突然ですがここで江沢民です。・上(2006/01/27)
 ●突然ですがここで江沢民です。・下(2006/01/27)
 ●マスコミに連日躍る「江沢民」――でもこれは外堀ですから。(2006/02/01)

 ただ、「江八点」には13周年記念日というタイムリミットがありました。ところが今回はそれがありません。そして、発売翌日には早くも怪しげな記事が新華社から配信されました。

 ●各地の幹部や民衆『江沢民文選』を真剣に学習すると表明(新華網 2006/08/11/19:48)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-08/11/content_4951207.htm

 ほーらこの通り。末端レベルの賞賛報道ひとつひとつは断片にすぎなくても、それをひとつにまとめ上げて全国ネットが報じると意味合いが違ってきます。こうした幾筋もの細流が合流していき、まとまった大きなムーブメントに発展する可能性があるから怖いのです。

 記事のタイトルが「各地の幹部や民衆」と「各地」を殊更につけているのは、恐らく党中央の意向を反映したものではない、というニュアンスを含んでいるのでしょうが、展開次第では「反胡連合」に引きずられる可能性もあるでしょう。対する「擁胡同盟」は「靖国参拝」と「経済過熱」という難題を両手に抱え、いま最も打たれ弱い時期に入っています。『解放軍報』がこの新華社電を早くも転載しています。不穏です(笑)。

 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2006-08/11/content_552289.htm

 両政治勢力とも「六中全会」における人事の主導権獲得が念頭にある訳です。とすれば3カ月以内の直前短期決戦。状況次第では「反胡連合」の巻き返しがあるかも知れない、といえるかと思います。

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 さて、そうした政治状況とこれは関係があるのかどうか、中国外交部がきのう(8月11日)、靖国問題に関して声明を発表したという報道が香港から飛び出しました。

 ●『明報』電子版(2006/08/11/12:15)
 http://hk.news.yahoo.com/060811/12/1r6q9.html

 ●『星島日報』電子版(2006/08/11/03:14)
 http://hk.news.yahoo.com/060811/60/1r6y3.html

「我々はかねてより日本の指導者が第二次大戦のA級戦犯を祀っている靖国神社を参拝することに反対してきた。この立場は明確かつ断固たるものである。日本の指導者が歴史と人民そして未来に対し責任ある姿勢を持って、過った行為を改め、正確な決定を行うことを望む」
(『明報』電子版)

 という内容らしく、前述した8月4日の声明に比べれば大きく踏み込んだものとなっています。日本メディアの報道の引き写しでなく主導的な姿勢、しかも公式声明ということで注目に値するといえるでしょう。

 ……ところが、この声明の真偽、さらにその存在自体の有無が未だ不明なのです。

 第一報の『明報』(電子版)と続いた『星島日報』(電子版)では基本的に同じ内容ながら字句はかなり異なっており、紙やメールといった形で出されたプレスリリースではないらしいことがうかがえます。

 さらに肝心の外交部自身がそれを報じていません。同じ日に出された台湾批判の声明は外交部のサイトに掲載されていますが、「靖国」声明は出ていないのです。

 中国国内でこれを報じたメディアも、私が調べた限りではひとつもありません。日本でも報道されていないのではないでしょうか。唯一シンガポールの親中紙で中国国内からその電子版にアクセスできる「聯合早報網」が記事にしていますが、これも『明報』からの転載。親中紙といえば、『香港文匯報』も『大公報』もこの声明を全く報じていません。要するにウラが取れていないネタなのです。

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 まあ謎は謎のまま転がしておいて様子をみるほかありません。ともあれ『江沢民文選』が「反胡連合」にとって絶好のタイミングで出版されたことにより、日中関係ばかりか中国政治の雲行きも怪しくなってきたというところです。

 ……あ、靖国問題は日本の国内問題ですから中共政権による容喙は内政干渉。よって小泉首相が参拝したから日中関係に影響するという言い方は間違いですね。日中関係の悪化は、中国の度重なる内政干渉、日本での中国人犯罪、サッカーアジアカップ(2004年)や昨春の乱痴気騒ぎでみられた過剰な、かつ内政上の都合により国策として醸成された反日気運によるものです。

 ともあれ、

「小泉首相の靖国神社参拝で悪化した日中関係……」

 という言い方がテレビや新聞などで出てきたら、「違う!」とすかさずツッ込む習慣をつけ、覚悟を決める必要が日本国民には求められています。中国や韓国の内政干渉を一蹴し非難し排除してから、靖国神社に関する問題は純然たる国内問題として、日本国籍を有する者のみによってその是非を論じ、決しようではありませんか。


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コメント
 
 
 
日中の違い (てんてけ)
2006-08-12 22:32:55
日本ではテロや犯罪を犯した犯人より、

犯行をさせた者、犯人をそこまで追い込んだ者のほうが大きく責任を問われる文化ですけど、

そういうのって世界でも特亜でもどう見られているのでしょう?

防諜・防犯の責任者が任免者から責任を取らされてっていうレベルじゃないですよね。

反日暴動の原因は靖国参拝にあるという理屈、他に応用されてるんでしょうか?
 
 
 
不可解な靖国声明 (aki)
2006-08-13 01:09:59
11日に外交部が出したとされる靖国問題に対するコメントですが、産経新聞が共同通信伝として報じているのを見つけました。

http://www.sankei.co.jp/news/060811/kok091.htm

その内容ですが劉建超が先日来日した際に日本メディアとの会見の中で述べたものをトレースしたものではないでしょうか。

日本の報道ではどれも不完全なのですがロイターがそのときに雰囲気もうまく伝えています。

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/07/AR2006080700142.html

「安倍の参拝が発覚しても中国がおとなしいのは方針が変わったからか?」との質問を受けて「そんなことはない云々」と答えたようです。中国の方針が変わったとの憶測を打ち消すためにコッソリと流したのではないでしょうか。

外交部が公表していないということと、いつもなら鬼の首を取ったように嬉々として報じる日本メディアが静かなのが不可解なのですが。

 
 
 
謎といえば謎 (nanashiko)
2006-08-13 18:24:29
意志薄弱で方針転換の上手い小泉首相が、靖国参拝に強くこだわる背後関係も知りたいものです。ただの“頑固者”には、全く見えないのですが。江沢民グループと仲良くしたがっているようにも思えませんが。
 
 
 
みなさんコメントありがとうございます。 (御家人)
2006-08-14 03:27:57
>>てんてけさん

 そのあたりは私にもよくわかりません。昨春の反日騒動の原因はいくつかあったのですが、扶桑社の教科書に絡んで「歴史問題」に集約され、デモ&プチ暴動にまで発展したように思います。それにしてもあの無秩序なデモをみて煽動側である筈の反胡錦涛諸派連合まで慌ててしまい、すぐ政争に手打ちを行って、後には「SAYURI」まで上映禁止にするのですからずいぶん懲りたのでしょう。ちなみに政治的には、つまり中国共産党は「愛国無罪」と叫んで行われたあの数々の行為に対してダメ出しをしていません。



>>akiさん

 私も日付と内容から劉建超談話なのではないかと勘繰りました。ただ『明報』も『星島日報』も「外交部が声明を出した」ということしか書いていなくて、北京から出た声明のようなニュアンスなので不思議です。「日本を訪問中の劉建超が」と書いて構わない筈なのに。劉建超談話であれば『明報』と『星島日報』の間に声明の語句の異同があることは納得できます。英文の外電に基づいたということでしょう。御指摘のように劉建超談話も外交部は公表していません。あの内容であれば公にして靖国参拝が行われても胡錦涛に傷はつかないと思うのですが……。



>>nanashikoさん

>意志薄弱で方針転換の上手い小泉首相が、靖国参拝に強くこだわる背後関係も知りたいものです。

 私個人の見方は、日中関係の構造改革を果たさんとしているからだと思います。上下関係のない対等な二国間関係の構築です。価値観や歴史観の違いが存在してもそれを乗り越えて実務的・現実的な関係を保てる、もちろん内政干渉や歴史観の押しつけなどのない成熟した関係。それを志向しているのではないかと勝手に考えています。靖国参拝をやめないというのはそのための象徴的なパフォーマンスではないかと。「中国や韓国が(靖国に)行くなというから行かない、というのはおかしい」なんて言葉は、以前の日本の首相には到底口にできなかったものではないでしょうか。

 
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