日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 「氷点」といえば皆さんもう御存知でしょうが、『中国青年報』の週末版(付録)です。これが当局、具体的には党中央宣伝部によってこのほど停刊(事実上の廃刊)に追い込まれました。

 日本でも報道されていますね。

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 ●中国週刊紙を停刊処分 歴史教科書批判で(共同通信 2006/01/25/19:03)
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006012501002601

 【北京25日共同】中国有力紙、中国青年報の付属週刊紙「冰点周刊」が、先に掲載した中学校歴史教科書に関する評論記事が原因で当局から批判され、25日までに停刊処分を受けた。胡錦濤指導部によるメディア締め付け強化を示すと同時に、中国での歴史認識問題の敏感さを浮き彫りにした。
(後略)

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 で、「氷点」編集長(主編)の李大同氏が海外のブログに今回の件に関する手記を発表。これを香港紙など(電子版含む)が転載するなどして、波紋が広がりつつあります。

 ●「明報即時新聞」(2006/01/26/16:55)
 http://hk.news.yahoo.com/060126/12/1kr6a.html

 内部事情を明らかにした手記を公開するというのは、中共政権においては自殺行為です。ただ海外メディアに取り上げられることが一種の保険となって、闇討ち粛清、なんてことにはならないという計算は李大同氏にもあるでしょう。

 とはいえこの挙に踏み切ったことで待ち構えている結果は、よくて軟禁、悪くて投獄。当然それを覚悟している筈ですから、李大同氏もついにキレて国際世論を背景に中央宣伝部に対してガチの勝負に出た、というところでしょうか。いずれにせよ、非常な勇気を要する行動です。

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 李大同氏の手記は私も読みました。読みましたが、それによって全容が明らかになるような内容ではありません。ただ得心がいきました。共同通信が報じているような単純明解な筋立ての事件ではない、ということです。

 そもそも『中国青年報』は胡錦涛・総書記の御用新聞です。胡錦涛の出身母体で胡錦涛人脈の中核をなす共青団(中国共産主義青年団)、その全国組織を束ねる共青団中央の機関紙が『中国青年報』なのです。胡錦涛派の大看板といっていいでしょう。

 当ブログが再三指摘しているように、中共における政争は往々にしてメディアによる代理戦争(何かのテーマに関する論争や関連記事の応酬など)の形で進行します。胡錦涛派がそういう際に代弁者として掲げるメディアが他ならぬ『中国青年報』であることは、過去に豊富な実例がありますし、当ブログも幾度もふれているところです。……ただもちろん年中無休で政争をやっている訳ではありませんから、『中国青年報』も必要なときに戦闘モード、つまり御用新聞の鎧を身につけ、胡錦涛派の拠点に徹するのです。

 「戦時下」でない、平素の『中国青年報』は比較的ラディカルな印象のある新聞です。個人的な感想をいえば、庶民派ではないものの、問題意識にあふれた編集スタイル、といったところです。将来、エリートとして国政に参与せんとする共青団中央らしい青雲の志や意気込みを反映したものかも知れません。

 それはともかく、胡錦涛の大看板である『中国青年報』の付録「氷点」が廃刊に追い込まれた、というのは尋常ならぬ事態です。合戦でいえば総大将たる胡錦涛の本陣近くまで敵に斬り込まれたといったところでしょう。

 「氷点」の首級を挙げた「敵」が中央宣伝部だと李大同氏は手記に記しています。確かにそうなのかも知れませんが、中央宣伝部が党上層部にあって屹立した、胡錦涛の御用新聞に手を出せるほどの強力な戦闘組織、という訳ではないでしょう。

 中央宣伝部は戦場を馳駆する数ある敵方の騎馬武者のひとりであり、その遥か背後に高々と馬印を掲げた総大将が控えている、と考える方が自然ではないでしょうか。……ええ、政争の香りがします(笑)。李大同氏には気の毒ですが、「氷点」廃刊は敵方にとって勝利条件ではなく、一種の見せしめとして晒し上げられた存在であるように思います。

 ひそやかではありますが、これは政争です。……となると考えることが色々あって憶測がどんどん湧いてきて、私も片っ端から思うままに書き並べたくてウズウズしているのですが(笑)、久しぶりの大ネタですからここは着実に外堀から埋めていきたいと思います。最初に申し上げておきますが、今回は外堀攻略に一意専心。本丸にまではとてもとりつけません。

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 という訳で、突然ですがここで江沢民です。……ではなくて胡錦涛の話から始めなければなりません。1月12日から16日にかけて胡錦涛は福建省を視察し、現地で重要講話も発表しています。

「これからの経済成長は効率重視でなきゃいかん。そういう方向に切り替える」

 というこれはこれで意義深い内容なのですが、本題とは関係ないので割愛。それよりも、福建省といえば対岸は台湾です。そういう特殊な地域を視察すること自体が一種の政治的デモンストレーションであり、簡単に言えば、

「台湾問題は俺が仕切る」

 と改めて宣言したようなものといえるでしょう。あるいは、殊更にわざわざそうやって宣言しなければならない政治状況があったのかも知れません。例えば対台湾政策をめぐる主導権争いが中共指導部に存在した、とか。

 ……台湾問題に長年関わってきた汪道涵・海峡両岸関係協会会長(当時)が昨年末に死去した際、告別式には江沢民も姿を現わし、中央からは曽慶紅・国家副主席(党中央政治局常務委員)が出席しました。

 曽慶紅が北京から出向いたのは故人との縁が深いためとされましたが、この曽慶紅は胡錦涛政権における香港・マカオ問題、つまり「一国家二制度」の担当者でもあります。そこで今後は台湾問題も曽慶紅に任されることを示唆しているのではないか、という観測が親中紙の『香港文匯報』(2005/12/31)に出ています。

 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0512310004&cat=002CH

 まあ親中紙といっても噂なんて煙みたいなものですから、笑い飛ばしてもいいのです。でも憶測ではなく、関係者の肉声が記事になったものには留意せざるを得ません。

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 ●対台湾政策も「胡四点」時代へ(香港文匯報 2006/01/19)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=TW0601190001&cat=003TW

 「江八点」11周年記念活動が1月19日に幕開けする。今年は大陸(中国本土)における「江八点」活動は非常に地味に扱われており、しかも中央によって統率された記念活動は行われず、北京の台湾関連各部門がそれぞれ実施する運びとなる。この地味な扱いへのランクダウンは、中国の対台湾政策がすでに「江八点」時代から「胡四点」時代へと移り変わったことを示唆している、と分析する向きがある。

 全国台聯研究室の楊陽毅・副主任は本紙の取材に対し、「『胡四点』は『江八点』の延長線上にある指導思想で、『江八点』の継続及び発展であり、現段階における対台湾政策の大方針だ」とコメント。
(中略)2006年の対台湾政策について楊副主任は、「『胡四点』の精神に基づいて、昨年やり残してまだ未完成の案件を引き続きしっかりとやり遂げ……」(後略)

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「江八点」というのは江沢民が総書記&国家主席だった1995年1月30日、台湾問題の解決方式について行った「八項目提案」のことで、いわば台湾統一を実現する上での8原則ともいうべきものです。これに対して台湾側は李登輝・総統(当時)が「李六点」というものを提示して素早く切り返し、「江八点」を袖にしています(笑)。

 
「胡四点」は2003年、国家主席に就任した胡錦涛が同じテーマについて「江八点」に気兼ねしつつも自己主張した「4項目の意見」が、翌2004年9月に開かれた「中国和平統一促進会」において「胡四点」として認知されたものです。江沢民が引退し、胡錦涛政権が発足して1年余りが経過したことで、対台湾政策でも胡錦涛カラーを前面に押し出したものにする、ということでしょう。

 そのために胡錦涛はわざわざ「江八点」記念日近くを選んで福建省を視察したのだと私は思います。軍主流派の支持なくしては指導力を発揮できない観のある胡錦涛にとって、旧正月手前の歳末気分のなか、「最前線」の部隊を慰労・激励するという意味合いもあったでしょう。……ともあれ、「胡四点」を掲げた中央は「江八点」記念活動を率先して手掛けることなく、目立たせずに地味に地味に扱って流してしまおう、という訳です。

 この
「中央は『江八点』記念活動を行わず、関係各部門が各自実施する」というのは台湾・中央通信が中国国務院台湾事務弁公室筋からも確認しており、

「『江八点』は過去のものとなった。忘れよう」

 という中央の意思をみてとることができます。時代は胡錦涛、そして胡錦涛の「胡四点」、という訳です。

 ●「胡四点」時代が到来、「江八点」記念活動は地味な扱いへ(中央通信 2006/01/22)
 http://tw.news.yahoo.com/060122/43/2sibb.html

 ……ところが、事態は意外な展開を迎えることになるのです。


「下」に続く)



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