日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 もう1カ月あまり前のことですが、山西省のレンガ工場で誘拐した子供や出稼ぎ農民を騙して強制労働させていた事件を御記憶の方も多いと思います。

 ●誘拐した子供をレンガ工場で強制労働、に下衆の勘繰り。(2007/06/25)

 この事件がセンセーショナルに報道されたおかげで、やはり少年工を酷使させていた北京五輪グッズメーカーの件がうやむやになってしまいました。国際組織のレポートで明らかになった問題ですが、その後どうなっているか、報道がないので全くわかりません。

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 ともあれ山西省の事件では、被害者である子供たちに1人当たり20万元だか30万元の賠償が行われるという話でした(確か新華社電)。炭鉱事故で死亡した労働者に支払われる補償金とほぼ同額なので手厚い扱いだといっていいでしょう。

 この事件には中央から特別調査チームも相次いで現地入りして事件の全容解明に努めていたので、これは中央政府というか党中央の肝いりというべき措置だと思います。

 被害者にこれほど手厚い補償がなされているのですから、レンガ工場主やそれを黙認していた地元当局者、さらには監督責任としてさらに上級レベルの当局関係者にも累が及ぶのは必至だ。……という意気込みを現地発の報道から感じていたのですが、早くもその裁判が行われ、山西省人民高級法院で一審の結果が出ました。

 大甘判決です。主犯は死刑1名、無期懲役1名、懲役9年1名。脇役は懲役3年の実刑判決とか執行猶予付きとか、まあそんな感じで、世間を騒がせた事件の割に主犯以外の罪状は軽いものとなっています。

 ●「新華網」(2007/07/17/15:29)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2007-07/17/content_6389082.htm

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 これではネット世論が憤慨することでしょう。まあ憤慨する書き込みはサクサクと削除職人に刈られてしまのかも知れませんけど。

 だいたいこの記事(裁判所の記者会見)が言い訳くさいのです。

「社会各方面の監督のもと」
「千人にのぼる民衆や関連監督部門の職員が後悔された法廷での裁判を傍聴した」
「法廷におけるメディアの取材が許された」
「罪状は十分な証拠に基づいて定められた」
「判決は法に基づいて厳格に下された」

 などなど、私たちの感覚では言わずもがなの言葉で飾られています。要するに、

「社会各方面の監督を受けない」
「関係者の傍聴やメディアの取材活動を許さない」
「証拠不十分でも有罪認定が出される」
「法に基づかない裁判」

 ……が一般には行われているということでしょうか。

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 この件は今朝の毎日新聞(2007/07/18)も報じています。



 ●中国:農民虐待のれんが工場 経営者実刑、監視人死刑--地裁(毎日新聞東京朝刊 2007/07/18)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/china/news/20070718ddm007030164000c.html

 【上海・大谷麻由美】中国山西省のれんが工場で農民が強制的に働かされ、虐待されていた事件で、傷害や拘禁の罪などに問われた工場経営者の王兵兵ら5被告に対する判決公判が17日、同省臨汾市中級人民法院(地裁)で開かれた。新華社通信によると、王被告に懲役9年▽工場監督者の衡庭漢被告に無期懲役▽労働者1人を暴行して殺害した監視人の趙延兵被告に死刑▽その他の2被告に懲役2年--の判決がそれぞれ言い渡された。

 5月に事件が発覚してから約1カ月半で処分や判決が下される「スピード解決」となった。胡錦濤政権には、事件が社会不安や不満の拡大を招くのを抑えたい意図があるとみられる。

 同法院などによると、衡被告らは06年1月、経営者の王被告かられんが工場の監督を請け負い、無許可のまま、河南省や陝西省の駅などで知的障害者9人を含む農民31人をだまして工場に連行した。5被告は06年3月~07年5月末、労働者が逃走しないよう暴力を振るい、監禁した。

 判決後、山西省高級人民法院(高裁)の劉冀民副院長は記者会見し、省内での強制労働・虐待事件は計七つで計29被告に対する裁判が行われたと述べた。




「胡錦濤政権には、事件が社会不安や不満の拡大を招くのを抑えたい意図があるとみられる」

 という指摘はその通りだと思います。要するに安定重視。来年は北京五輪、いやそんなことより今秋には5年に1度の党大会が予定されているのですから縁起の悪いものは早く片付けてしまいたい、という気持ちはわかります。だから安定重視。

 ……では、胡錦涛政権が恐れた「不安定」とは何なのかということになるでしょう。ここが判断に迷うところです。

 実は上の裁判は法に基づくものですが、一党独裁制のお国柄、党による処分も下されています。これに引っかかったのは合計95名。さらに詳しくいうと、県当局クラス(処クラス)幹部18名、郷当局クラス(科クラス)幹部40名、一般党員37名。

 ●「新華網」(2007/07/16/11:18)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2007-07/16/content_6382407.htm

 処分は党籍剥奪から警告まで軽重様々ではあるものの、いずれも県当局クラス以下の党幹部であり、上級レベルの市当局や山西省の頂点である省当局に対してはほぼお咎めなしです。山西省高級人民法院の下した判決と符合しているかのようです。ええ、甘い甘過ぎる、といった点において。

 そこで、胡錦涛政権が恐れた「不安定」とは何なのか判断に迷う、ということになります。とりあえず考えられることは2点。

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 まずは党大会を控えて権力闘争の激化を回避したという線です。山西省長の于幼軍は胡錦涛直系の共青団(共産主義青年団)人脈、いわゆる今をときめく「団派」のホープです。この于幼軍、事件発覚後は全容解明を誓い、事件には断固たる姿勢で臨むと強調し、温家宝・首相主宰による国務院常務会議にも出向いて自己批判しています。「自分にも責任がある」ということでしょう。

 これでいわゆる「みそぎ」が済んだということなのか、その後の于幼軍は責任者よりも弾劾者としての立場を鮮明にして事件の調査を督励する立場に回りました。もちろん今回の裁判や党紀処分にも引っかかっていません。省当局、市当局にも具体的な断罪は行われず、結果からみれば「とかげの尻尾切り」に終わりました。

 要するに胡錦涛が自派の若手有力者である于幼軍をかばった、ということです。「団派」の次世代を担う存在としてはより有力な李克強・遼寧省党書記や李源潮・江蘇省党書記も、相次ぐ炭鉱事故や太湖汚染事件などトップとしては不祥事ともいえるミスを犯していますが、これまたお咎めなし。

 于幼軍、李克強、李源潮とも、敵対勢力が元気であれば無事では済まないところです。それが無事なのは、中国政界が党大会に向けて、基本的に胡錦涛ペースで進んでいることを示すものでしょう。

 最近は胡錦涛が6月25日に行った演説、いわゆる「胡錦涛6.25講話」の学習活動がヒステリックなほどに呼びかけられ、全国各地から学習活動が行われたという記事が飛び出してきます。軍主流派もその言動や人民解放軍機関紙『解放軍報』の論調から、胡錦涛支持のスタンスであることをうかがわせます。

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 もう一点、これは「中央vs地方」という対立軸で語られる問題です。いわゆる各地方勢力たる「諸侯」がやりたい放題で中央政府の言うことを聞かない、ということの反映が大甘判決なのではないかと。胡錦涛政権が「諸侯」に譲歩したことになります。

 さらに具体的にいうとすれば、「小中央たる省当局」と「地生えの諸侯たる末端当局」の対立です。末端といっても県当局レベルあたりの「小諸侯」が最も有力です。省当局の目が届きにくいのと、意外に裁量権が大きいことで「割拠」してしまえるという訳です。

 このクラスは地元出身の党幹部、いわゆる地方のボスが仕切っていますから、その下の鎮当局まで手なずけていたりします。ですから中央政府が問題にしている地方当局の豪華庁舎が県や鎮レベルに多い、といった事態も発生します。

 いくら胡錦涛が「団派」を省長や省党書記といった「小中央」の筆頭ポストに送り込んでも、地生え幹部によっていいように祭り上げられ、丸め込まれてしまうのです。

 恐らく省当局内部にも「小諸侯」たる地元のボスと結託している連中が少なくないのでしょう。この線から考えると、于幼軍が北京に出頭して国務院常務会議で「自己批判した」というのは、むしろ中央に泣きついた、というニュアンスなのかも知れません。

 県当局の権勢のすさまじさは、最近になって中央が「省管県」政策なるものを打ち出したことでもわかります。これは省当局が県当局に対し容喙する権利を拡大し(あるいは県当局にあった権限の一部を回収し)、一方で県当局の持つ権限の一部をひとつ下のレベルである鎮当局に分権化しよう、というものです。

 「中央vs地方」という対立軸は以前から存在していますが、「上海閥」や以前の「広東閥」といった独立王国的な存在は別として、多くは上述したような「小中央(省当局)vs小諸侯(県当局)」といったレベルでの対立が一般的です。

 頻発する農村暴動や都市暴動をみても、県当局以下のやりたい放題に起因するものばかり。しかも「小諸侯」たる県当局は省当局内に後ろ盾がいたりするから話がややこしくなります。

 今回の大甘判決も、要するに中央(北京)や小中央(山西省当局)が地元のボスたる「小諸侯」に対し、十分に斬り込めなかったことを示すもの、とみることもできるのです。

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 ……あるいは「団派」の保護と「小諸侯」の抵抗といった2点が絡み合った結果なのかも知れませんが、中国の政治・経済面における問題の一端をはからずも明らかにしたのが今回の判決なのではないか、と考えているところです。

 ちなみに例のオリンピック記念グッズ生産工場で少年工が酷使されている件、前述したように続報のないままです。「小諸侯」がほくそ笑んでいるのかも知れません。




コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (日本人)
2007-07-18 19:41:53
国家権力のあり方を換え、腐敗をなくし地方を治める方法はないのでしょうか?中共政権が国を収めきれないことに問題がある。それには民主主義体制という発想がこきんとーにはないのでしょうか?

いまさらながら、日本からは計り知れないシナ魔大陸、暗黒大陸。
日本にシナ発災難が及びませんように。
 
 
 
国家反逆ORG開始しちゃった! (五香粉)
2007-07-18 20:42:51
御家人さんの本編と関係無い事を最初にお詫びしておきます。本日、ひょっとしたきっかけでお隣の女子高生とお話をする機会がありました。彼女は、中国人にしては英語が出来る子で、中国語と英語を使っていろいろお話をしました。知りたがり屋さんなので、話しの流れで天安門事件のことをつい語ってしまいました。無抵抗の市民が人民解放軍に大量虐殺されたことを言うと、信じられないという顔をしていました。もっと詳しく教えろと言われたのですが、詳細に語れる知識が無いことと、国家権力に逆らう恐ろしさで逃げてしまいました。またお話をするというにしましたけれど。本当に今の若い子達は何も知らない。けれど、今の自由が(制約つきですが)盲目的国家追従を否定する世代を生んでいることを確信しました。やっぱり、共産党怖えー!というのが本日の教訓。
 
 
 
さすが一党独裁 (おむら)
2007-07-19 03:15:40
すでに話題になってますが。

中国の輸出、製品の安全性めぐる海外報道で打撃
http://today.reuters.co.jp/news/articlenews.aspx?type=worldNews&storyID=2007-07-17T150221Z_01_NOOTR_RTRMDNC_0_JAPAN-269101-1.xml&rpc=112

(前略)
 副局長は、品質問題をめぐる報道内容について、国内メディアは中国政府の方針に順ずるべきだとした上で、状況を改善させることが国内メディアの責務だとの認識を示した。

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えーと、都合の悪い事は報道するな、と。なるほど。
 
 
 
でもって、 (いとのこ)
2007-07-19 03:59:11
>報道するな
を、外国の報道機関、というか政府にも言う、と。

メディアの前に各企業、いや、人民の意識の更生が先でしょう。
とは思うんですが………、無理か。
 
 
 
やらせ (芋焼酎)
2007-07-19 12:36:38
「ダンボール肉饅はやらせでした」と謝罪しているようですが、
大方の反応が「謝罪のほうがやらせだろう」には笑った。

中国の言うこと、やることは信用できんと言うのが相当浸透してきましたね。
 
 
 
↑うわっ。 (いとのこ)
2007-07-19 18:36:54
笑っちゃうほどあからさま。



かなり痛かったようですね、今回のネタ。

それとも、たまたま目に付いちゃっただけかな?



張りついて監視してるような感触では無さそうだし。

組織的と言うにはチトしょぼいですな。

 
 
 
Unknown (しましま)
2007-07-19 21:20:53
県の権限を削ると同時に、幹部を地元以外の人間にしたらましになるとおもうのですが…

 
 
 
みなさんコメントありがとうございます。 (御家人)
2007-07-20 00:09:00
>>日本人さん
>国家権力のあり方を換え、腐敗をなくし地方を治める方法はないのでしょうか?
 いまの中国にはないと思います。一党独裁制の弊害を抑えつつ少しはマシにする、ということはできるかも知れませんが、「中国人」である前に「中共人」である連中にとっては既得権益を手放すことになります。受け入れられないでしょう。そもそも共産党政権が日本や台湾のような民主主義制度になじみません。愛国主義教育という名の愚民教育を進めている現状には期待できません。
 では中共をぶっ倒したらどうか、ということになりますが、民度が低いのでいきなり民主主義といわれても戸惑うだけでしょう。民度の低い連中の中から一部の政治的成功者が権力を握る訳で、国民も政権も民度の低いまま。権力を守るための新たな愚民教育が始まるだけかと思います。中国三千年の歴史はそのまま「官」が「民」から無慈悲かつ不条理に苛酷な収奪を行う歴史でしたから、政権に対する不信感は中国人の身にしみついています。ですから明後日のことよりも明日のことを、明日のことよりも今現在の利害得失を考えるという漢民族独特の行動原理が現在の中国関連報道の中にも随所に顔をのぞかせています。

 こういうことは言っちゃあいけないんでしょうけど、多国籍軍でも駐留して国際的な監視の下に,要するに西側先進国によって中国を委任統治に近い形で収めるのがいちばんいいのではないかと。


>>五香粉さん
 タイトルをパッと見てから「女子高生」という単語が目に飛び込んで来たので、また業者の迷惑コメントかと思って削除しそうになりましたよ(笑)。「ORG開始しちゃった!」ってそんな危険なことしちゃいけません(笑)。

>本当に今の若い子達は何も知らない。けれど、今の自由が(制約つきですが)
>盲目的国家追従を否定する世代を生んでいることを確信しました。
 全くその通りだと思います。都市部限定とはいえ、インターネットが半端に普及しているから現状肯定派を増やすことになります。もちろん愛国主義教育がそれに拍車をかけている訳ですが。……ともあれ危ない活動はお控えになった方が。

 それより東莞は暑くて15人死亡とのニュースが流れていますが大丈夫ですか?五香粉さんだとDIYでPCを組み上げていたりしそうなので、暑さで爆発するんじゃないかとその方が心配です。


>>おむらさん
 先進国とか台湾や香港という教材から色々学べばいいんですけど、たぶん学びとるだけの学力(民度)や政治システムがないんでしょうね。ブランドイメージの大切さも「CHINA FREE」になっちゃいましたし、公害当たり前で環境というか生態系をここまでぶっ壊してしまうというのは、やはり学力とシステムの問題だと思います。
 それから先日別エントリーでdokataさんが指摘していた通り、パクリ遊園地とか知財方面もやりたい放題で、しかも外国から叩かれると居直りますからね。やれやれです。


>>いとのこさん
>メディアの前に各企業、いや、人民の意識の更生が先でしょう。
 人民の意識よりも「中共人」の思想改造が必要かも知れません。ちなみに『中国青年報』には例の歯磨き粉事件で問題の成分の排除をメーカーに指示した件について、「輸出に影響するからとかメーカーが損失を被るからとかではなく、政府は『人民の衛生のため』という理由をなぜ先頭にもって来ないんだ!」という怒りの評論が掲載されていました。

>↑うわっ。
>笑っちゃうほどあからさま。
>かなり痛かったようですね、今回のネタ。
 全て削除しました。でもあれって業者の迷惑メールだと私は思っていたんですけど、当ブログに対する嫌がらせだったんですか?毎日午後になると出現するので、アクセスランキングの上位に来るブログが狙い撃ちにされているだけかと思っていました……。


>>芋焼酎さん
>大方の反応が「謝罪のほうがやらせだろう」には笑った。
 ですよねえ。便所みたいなところでプーアル茶を製造していたりとか、ニセ医薬品製造とか、実例はいくらでもありますから。

>中国の言うこと、やることは信用できんと言うのが相当浸透してきましたね。
 一般消費者の生活に直接関わる問題ですから、これは日本でも関心が持たれるでしょうね。中国のブランドイメージがこういう形で確立されるというのは喜ばしいことです。


>>しましまさん
>県の権限を削ると同時に、幹部を地元以外の人間にしたらましになるとおもうのですが…
 その通りです。そして、現実にはそれができないから「諸侯」とか「割拠」という言葉が出てきます。要するに党中央も省当局も、よほどのことがないと県レベルに根を張っている地元のボスを叩き潰せないということかと思います。今回の事件でも県のトップ(県党書記)は処罰されていなかったと思います(記憶モード)。

 有名なエピソードですけど、広東省が独立王国然としていたころ、省当局のトップに近いポストに目付として中央の党幹部が就任しました。ポストプレイですね。で、どうなったかというと、最初の会議から何から一切が広東語で進められて、目付は手も足も出なかったそうです。
 
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