全人代(全国人民代表大会=立法機関)が先日閉幕したばかりです。過去に反対派の抵抗から何度も流産していた「物権法」がようやく成立し、例によって「科学的発展観」と「和諧社会」が強調されてお開きになりました。
「科学的発展観」というのは「規模よりも効率を重視しろ」というもので、いくらGDP成長率が高くても実になるカネの使い方でなければ意味がないから無駄遣いはやめろ、という意味。これに「緑色GDP」(環境保護にも留意しろ)というパッチが当てられます。
「和諧社会」は「調和のとれた社会」ということ。この「科学的発展観の徹底」及び「和諧社会の実現」を大目標に掲げている点が胡錦涛政権のオリジナルなのですが、江沢民時代にやりたい放題やってしまったため、胡錦涛や温家宝でなくても、つまり誰がトップになってもこれ以外に選択肢がない、という袋小路状態で採り得る唯一の政策といえるかと思います。
限られた資源を有効に活用し(科学的発展観)、約30年に及ぶ改革・開放政策、特に江沢民時代を経て残された「負の遺産」、具体的には不平等、不均衡、様々な格差といったものを是正しよう(和諧社会)、それから乱開発による環境汚染を何とかしよう(緑色GDP)、ということです。
あとは「法治の徹底」も今回の全人代では声高に叫ばれましたね。建国して60年近く、しかも21世紀という現在にあって未だ法治が実現していないことこそ「中国の奇跡」だと思いますけど(笑)、まあそれは措きましょう。問題はいくら法制が充実しても法治が徹底していないと何の意味もないということです。
庶民の私有財産を保護してくれる筈の「物権法」も司法が行政(というより、その上に座る中国共産党)からの干与を避けられないようではその有効性が危ぶまれます。結局はいままでの改革・開放政策下で「勝ち組」となった既得権益層がこの法律をタテに新たな汚職や利権で潤うだけではないか、と私は案じています。
――――
私有財産を認め保護する「物権法」については「社会主義・共産主義のタテマエが崩れる」という根強い反対意見があり、それゆえこの法律が成立するまでに時間を要しました。その論議自体とても価値あるものではありますけど、基本的に私の頭の中では、
「中国=一党独裁国家」
であり、中国を社会主義国と思ったことはありません。前にも書きましたが、
「中共が自分で社会主義をやっているというのだから社会主義国なんだろ(笑)」
というスタンスですから、当然ながら社会主義のタテマエが云々という議論には全く興味がありません。「物権法」の導入で社会にどういう化学変化が起きるか、ということにのみ関心があります。
そもそも物権法自体がイデオロギーの問題でもあるのです。1990年代前半なら「姓社姓資」論争(社会主義的な政策といえるかどうか / 資本主義的な政策ではないか?)になるところでしょう。そういうイデオロギーを掲げたぶつかり合いはトウ小平が1992年初めの南方視察(南巡講話)でその「姓社姓資」論議を封印し、「とにかく改革・開放」という潮流をつくり上げて以来のことかと思います。
●全人代、今年はちょっと面白いかも。(2006/03/03)
と以前ふれましたけど、1992年当時と違うのは、「物権法」反対派には理屈があっても政治勢力としての実力は無いこと。要するに「口だけ達者」であって、以前のように「改革派vs保守派」によるイデオロギー論争が権力闘争に発展するということはまずない、ということです。
実際、今回は全人代を前に温家宝・首相が「社会主義初級段階論」を持ち出して反対派に対して予防線を張りました。南巡講話が「姓社姓資」論議を封印したのと同じ効果を狙ったものだと思います。そしてその全人代では「物権法」案に修正意見が出るなどそれなりに揉めた形跡はあるものの、採決をとったら賛成票が圧倒的多数でした。
この法律が「効率重視」を呼びかけなくてはならないほどムダ遣いが多く、「調和」を呼号せざるを得ないほど「不調和」で、しかも「法治」を強調しなければならないほど「人治」が浸透していておまけに一党独裁制、という中国社会にどういう作用を及ぼすのか。……という点について私は興味津々なのです。
――――
そうでなくても中国社会には、
「上有政策,下有對策」(中央の定めた政策が地方レベルでは骨抜きにされてしまう)
という言葉があるほどです。……で、「物権法」の効果が出るのはまだ先の話でしょうから、今回は別のケースでもって「上有政策,下有對策」の実例を示そうと思います。まあ闇炭坑の存在なども典型例ではありますが、それよりもビジュアルの方がインパクトがあるでしょう。
中央によるチェックが届きにくい地方政府の末端に近いレベルになると「やりたい放題」だという具体例をまとめた画像記事を国営通信社・新華社がこのほど配信したので紹介します。
●「新華網」(2007/03/19/07:36)
http://news.xinhuanet.com/lianzheng/2007-03/19/content_5864338.htm
――――
●御殿としか思えぬ鎮政府庁舎(重慶市)
●近づいてみると天安門もどきが出現(重慶市)
●区政府庁舎敷地内につくられた人造湖(河南省)
●区政府の会議場と公園と見まごう緑地帯(河南省)
●職員10名の部門でこの庁舎(山西省)
●その部門の職員用住宅(山西省)
●県レベル政府でこの豪華庁舎(雲南省)
●その豪華庁舎の正門がこれ(雲南省)
●県政府庁舎の内部(浙江省)
●県レベル市政府の豪華庁舎(山東省)
●市政府庁舎は宮殿(安徽省)
●都市部の最末端機関である町会レベルの街道弁事処(重慶市)
●これまた立派すぎる県政府庁舎(河南省)
――――
どうしようもない、としかいいようがありませんね。身分相応に身分不相応なことをしている、といったところでしょう。
なるほど胡錦涛も「無駄遣いはやめろ」と言いたくもなるでしょう。これに加えて特権ビジネスやら何やらがあるのですから、暴動も起きる訳です。
このやりたい放題の「官」とそれを怨嗟する「民」との間の距離が臨界点に達したとき、中共の統治制度は崩壊することになるでしょう。
すでに村落のような最末端ではそういう「立ち腐れ」、つまり「官」と「民」が抜き差しならぬ対立関係に発展してしまったケースが一部でみられます。
枝葉末節においてはすでに枯れ始めている部分がある、ということです。
| Trackback ( 0 )
|
|
特に安徽の市庁舎は、どこかの半島の総督府みたいで(笑)河南の公園管理人も緑色塗料でなく、ちゃんと水をまいてるようで感心しました。
余計なお世話ですが、このエントリはカレンダーやトップから入りにくく、見逃してしまう人が多いかも。
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。