日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 仁義なき戦いです。

 2006年は武装農民がトレンドになる、ということを以前書いたかと思いますが、旧正月の大型連休も明け切らぬうちにその「武装農民」が躍り出てきてしまいました。

 ただし今回は官民衝突ではなく村同士が打ち物を手にしての大喧嘩。中国語でいう「械闘」という伝統行事です。いや行事ではないのですが王朝時代以来の悠久の歴史が育んだ村落同士の闘争のカタチなのです。

 「械闘」は境界線争いとか水争いなどに起因することが多いのですが、今回は境界線を跨ぐ形で通っている道路の補修工事を巡るトラブルが発端になっており、やはり数千年の伝統を踏んだ形となっています(笑)。

 ああその前に場所でしたね。広東省は湛江の呉川市、その管轄下にある小牧陳村と大牧陳村の境界線付近が舞台となりました。面倒なので「小牧」「大牧」と呼ぶことにします。

 詳細はいまなお不明なのですが、原因は上述したように境界線を跨ぐ形で走る道路の補修工事。両村は以前からこの件で揉めており(具体的に何で揉めているのかが不明なのです)、上級部門である県政府や鎮政府が介入して調停を試みたこともあるのですが、「小牧」「大牧」とも自らの主張を押し立てて相譲らず、調停側も匙を投げたという経緯があります。

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 事件が起きたのは一昨日(2月3日)の午前9時ごろ。「小牧」側が道路工事にかかる準備に着手したという噂が「大牧」側に伝わり、「大牧」はこれを妨害せんと村民300余名を緊急召集。いずれも鍬や鉄パイプや刀を手にし、腕には同士打ちを避けるために目印の赤い布を巻き付けて戦闘準備完了です。

 合言葉まで準備されていたかどうかは不明ですが、打ち物にせよ赤い布にせよ、ショートレンジでの白兵戦を想定したものと思われます。ちなみ香港のチンピラグループ同士の抗争だと、味方の目印は赤い布ではなくストロー。ちょっと滑稽ですがストローを口にくわえて出撃するのです。

 さて、準備を整えた「大牧」勢は道路工事現場を奇襲せんものといざ出陣と相成ったのですが、何と現場にはすでに「小牧」勢200余名が待ち伏せていました。「大牧」側のただならぬ気配を察して機先を制し、先に陣を敷いて手ぐすねを引いていた模様。中国語だと「厳陣以待」という四文字でまとめてリズム感を出すところです。

 人数でいえば「大牧」勢が上回っているのですが、実は「小牧」勢、待ち伏せていただけでなくライフル銃や手製の手榴弾など充実した火力を用意していました。まさに「厳陣」だったのです。

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 かくして開戦。銃器を持たない「大牧」勢は衆を恃んで接近戦に持ち込むべく一斉に突撃を開始したのですが、「小牧」勢はこれにライフル銃で応戦。要するに実弾射撃を行ったのです。

 そのうち十数名は迷彩服に身を包み、顔をマスクで覆って頭には鉄兜、手にはライフルか防盾と完全装備。銃隊が前線で代わる代わる発砲し、弾丸を撃ち尽すと防盾隊に守られながら後方に下がり、銃弾を装填しては再び前線に出てくるという鮮やかな進退をみせたとのこと。

 さらに「小牧」勢は用意していた手榴弾を「大牧」勢に投げ付けるなどして寄せつけず、これには「大牧」勢も損害を出すばかりなので、数度の突撃を試みた後にとうとう退却を余儀なくされました。要するに「長篠の合戦」を双方2個中隊程度の小規模にしたようなもので、「大牧」勢は武田騎馬軍団、「小牧」勢は鉄砲足軽を三段備えにした織田・徳川連合軍とみておけば間違いないでしょう(笑)。

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 さすがに火力を使われるとかないません。「大牧」勢は30名ほどの負傷者を出したようですが、死亡した農民もいるという情報も流れています。……以上は香港紙『明報』の報道に拠ったものですが、親中紙『香港文匯報』だと負傷者は少なくとも19名。『成報』は負傷者29名でうち2名が重体、例の迷彩服部隊は40名前後と報じています。

 ●『明報』(2006/02/05)
 http://hk.news.yahoo.com/060204/12/1ky2k.html

 ●『香港文匯報』(2006/02/05)
 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0602050019&cat=002CH

 ●『成報』(2006/02/05)
 http://www.singpao.com/20060205/international/809279.html

 昨年以来、党幹部の汚職疑惑を正式な法手続きによって追及しようとした広州市番禺区・太石村の「農民による民主化運動」を叩き潰し、土地収用で騒ぐ農民を武警(武装警察=準軍事組織)が突撃銃で掃射、さらにこれも死者を出した中山市での官民衝突や北江でのカドミウム垂れ流し……と不祥事続きの広東省当局もこの事件にはびっくり仰天。数千名の武装警察を動員して両村を戒厳令状態にしたうえ、省当局からトップクラスの幹部が現地に入り、事後処理が始まっているということです。

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 えーと、これはもう「凄い」としかコメントのしようがありません(笑)。得物に赤布の目印という「大牧」勢は恐らく先祖代々伝えられている伝統的な「械闘」の形式をそのまま踏襲したものと思われますが、「小牧」勢が近代的装備で待ち受けていたために一敗地に塗れてしまいました。気分としては伝統のルールを無視した「小牧」勢に教育的指導を出したいところです。

 で、手製の手榴弾はともかく、ライフル銃や鉄兜や防盾といった近代的装備はどこから持ってきたのかと私は聞きたい。しかも迷彩服だし統制された進退だったようですし(笑)。思うのですが、恐らく「小牧」出身の武警や防暴警察(機動隊)が装備持参で呼び集められたのではないかと。カネで雇われた他郷出身の同僚武警などもいたかも知れません。

 以前、「諸侯」たる地方政府が武警を私兵化しているのではと書いたことがありますけど、それが現実になったケースではないかと思うのです。あるいは民兵でしょうか?村落同士の激突でこれほどの合戦になるのですから、こちらはただ驚くしかありません。「小牧」勢のように、一村落が「いざ鎌倉」で火力を有した一定レベルの戦闘力を即座に整えられる、という事実にも注目です。

 まあ今回も広東省ということで香港メディアのアンテナに捉えられた訳ですが、きっと報道されない可視範囲外でも類似の事件が発生しているのでしょう。ええ、たぶん全国各地で。武装農民は是非その鉾先を「官」に向けてほしいところです。

 それにしても、中共政権は初めて村落単位にまで精密な統治を及ぼすことに成功した「王朝」だった筈ですが、それもいまや昔話で、中国社会はその末端レベルで綻びや崩れが顕在化しつつあるといった印象です。



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