日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 今さらなのですが、中共政権下における8月1日は建軍節、いわゆる人民解放軍の誕生日です。正確な由来は周恩来や朱徳らが1927年の8月1日、江西省・南昌で国民党に対して武装蹶起したことによります。

 これまた今さらなのですが、実は人民解放軍というのは中国共産党に属する軍隊であって、中華人民共和国の国軍ではありません。当然ながら国家よりも党中央の命令を優先することになっています。それが証拠に、軍の機関紙『解放軍報』が節目節目に掲載する重要記事には、

「在黨的絶對領導下」(党の絶対的な指導のもと)

 という言葉が必ず出てきます。節目節目と書きましたが、人民解放軍にとって一年における最大の節目がこの「八一建軍節」。「八一」と聞いて私が思い出すのは先代の最高指導者・江沢民です。軍事経験が全くないため、いかに「党の絶対的指導のもと」と言っても所詮は文官。意気軒高たる制服組に軽侮されかねません。

 軽侮されずに逆に軍を自分の掌握下に置こうと、江沢民は当時、色々苦労した形跡がみられます。その最たる例が、おめでたい「八一建軍節」を前に将官や佐官クラスに新しい階級章(昇進)をプレゼントして軍のハートを掴もうとすることでした。たぶん国防予算が膨脹を続けているのも、ひとつには軍部懐柔という側面があるかと思います。

 で、江沢民の後継者として軍権を手にした現在の胡錦涛も文官です。舐められちゃいけない、軽く見られたくない、ということで、上述した江沢民の方法を踏襲しているようです。最近、軍や武装警察に対して階級昇進またはポスト昇格といった大盤振る舞いを行っています。それについては当ブログ「『中共人』たちの熱い夏、始まる。」(2005/07/21)で紹介しましたが、その後にも将官を昇進させたりしています。

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 話が横道にそれてしまいましたが、人民解放軍にとって節目の中の節目ともいえるのがこの「八一建軍節」です。

 最高の節目ですから、この日付の『解放軍報』は毎年必ず社説を掲載します。これがいわば軍の所信表明のようなものと位置付けられており、プロでもアマでも私のような素人でも、中国観察をたしなむ人であれば必ず一読はするものです。

 で、もちろん今年も出ました。もちろん読みました。昨年の社説とも比較しました。あとは書くだけだったのですが、残念!前回のコメント欄で「Unknown」さんに教えて頂いたように、『産経新聞』に先を越されてしまいました。

 ……いや素人がプロに混じって「先を越された」なんていう思い上がった真似はケツバットものですが、この『産経新聞』の記事(伊藤正北京特派員)は実に秀逸で、要所要所をしっかりと押さえていて私などぐうの音も出ません。皆さんも是非ご一読を(以下は要点のみです)。

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 ●中国・胡主席 軍掌握なお時間 強硬派、平和路線不満も
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050802-00000010-san-int

「解放軍報社説は、『党の絶対的指導』ないしそれに準じた言葉を17回も繰り返して党への服従を訴え、軍内に指導部への不満があることを示唆している。中国筋によると、軍内には中堅幹部を中心に、指導部の対米協調路線などや装備近代化の遅れへのいらだちがあるという。」

「中国国防大学の朱成虎少将が先月、外国人記者に対し、台湾独立問題に関して核戦争も辞さないと公言、内外で波紋を広げた。台湾独立阻止は、国防力増強の口実にもなっているが、朱発言には思想的準備の意味が濃いと香港の中国系紙『大公報』は分析している。」

「遼寧省軍区司令官の銭南忠少将も7月27日付『光明日報』紙で、『軍隊は戦争のためにあり、戦争に勝つには思想と訓練の強化を怠ってはならない』と『平和ボケ』を戒めた。今春の反日運動に大きな影響を与えたといわれる中国空軍の劉亜州中将も現状への危機感は一致している。」

「米国の軍事力に対抗できる装備を求める声に対し、胡錦濤政権は経済建設優先の立場から、平和路線を基本にし、米日などとも協調する政策をとってきた。(中略)だが西側軍事筋は、中堅幹部の批判が表面化しているのは、胡錦濤主席の限界と指摘、平和路線では軍は掌握できないとしている。」

「こうした中で、胡主席は建軍記念日直前、抗日戦の拠点になった山西省を訪れ、退役老兵らを慰問、抗日戦勝六十周年のキャンペーン促進を図った。今月中旬から、台湾への威圧や米日への牽制(けんせい)が目的とみられるロシアとの大規模な合同演習を遼東半島で実施する予定であるなど、軍部の不満に配慮を見せだした。」

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 ……と、こうも美しくまとめられてしまって、私に何を書けというのでしょう(笑)。

 とりあえず昨年との比較を行うと、今年の社説は、「党の絶対的指導」ないしそれに準じた言葉を確かに17回使っています。これが昨年はたった4回ですから違いが際立つというものです。

 「党の絶対的指導」を社説に織り込んだ以上、「党の絶対的指導」に反対ないしは疑問視する勢力が軍内部に存在するということです。昨年のように4回だけなら枕詞のようなもので気にするほどでもないのですが、これが17回も使われれば、尋常ならぬものを読み手は感じざるを得ません。

 要するに「党の絶対的指導に従わない傾向のある勢力」が軍内部にはっきりと存在しており、しかもひと握りに潰すことができないほどの容易ならぬパワーを擁している、ということでしょう。建軍節の社説で「党の絶対的指導」をかくも連呼しなければならないほど、党中央に対する軍の絶対服従の原則がいま揺らいでいるのです。

 当然のことながら、これは胡錦涛による人民解放軍掌握がまだ十分に進んでいないことを示すものです。

 ●軍部の意向を無視できない
 ●軍部の言いなり
 ●軍内部の一派によるクーデター寸前

 ……さあ、いまはどの段階にあるのでしょう。この夏、この「権力闘争の夏」を終えた後に開かれる「五中全会」(第16期中央委員会第5次全体会議)で、その結果を私たちはみることができるでしょう。

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 昨年との比較でもう一点際立っている部分があります。

「『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』などの誤った思想の影響を断固排除し、終始一貫して党の軍隊に対する絶対的指導を堅持し、政治的にも、思想的にも、組織的にも党が部隊をしっかりと掌握することを確かなものにし……」

 というのは、昨年の社説において注目された部分でした。「誤った思想の影響を断固排除し」とわざわざ書いているのですから、これまた実際に「軍隊非党化・非政治化」や「軍隊の国家化」(国軍化?)を企図する一派が軍内部に存在していることを示すものです。

 これは昨年の「八一社説」以降も節目節目で言及されていることから、そうした勢力がなお存在しているとみて間違いないように思います。

 ……というよりいまなお健在のようで、今年の社説にも同じ言い回しが登場するのです。ただし、今回は頭に一句加えられて、主語がより明確になっています。

「敵対勢力は我々に対して『西側化』『分裂化』といった戦略的策謀を強めており、『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』を鼓吹して、わが軍の性質を改めようと企てている」

 『産経新聞』の記事はこれについて、

「『策謀』の根源である米国への対抗意識が強まったと中国筋はいう。」

 と消息筋に解説させています。米国が「敵対勢力」ということでしょう。ただ「軍隊非党化・非政治化」や「軍隊の国家化」は昨年から一貫して軍内部に一派をなしていたのですから、「策謀」に対して呼応ないしは共鳴する勢力が軍内部に存在しているということになります。

 これについては取りあえず、「民主化による富国強兵の実現を唱えていた劉亜洲少将たちのことだろうか」(「呉儀事件で始まった新たな物語・補」2005/05/30)とでも考えておけばいいのではないかと思います。いずれ色々な動きが出てくることでしょう(実はもう出ていたりしますが)。

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 とりあえず、昨年と今年の『解放軍報』八一社説を読むことで、軍人さんたちがいまグラグラと揺れていることはわかるかと思います。ひとつには「党の絶対的指導に従う」という原則が動揺しており、その一方で対外的には常に一枚岩を示してきた軍自体が、分裂とは言わないまでも、同じリズムでステップを踏めなくなっている勢力がいるらしいということです。これは当然ながら政情不安につながりかねません。

 書き忘れていました。今年の社説で上に掲げた部分、

「敵対勢力は我々に対して『西側化』『分裂化』といった戦略的策謀を強めており、『軍隊の非党化・非政治化』や『軍隊の国家化』を鼓吹して、わが軍の性質を改めようと企てている」

 ですが、昨年の社説のように、

「誤った思想の影響を断固排除し、終始一貫して党の軍隊に対する絶対的指導を堅持し、政治的にも、思想的にも、組織的にも党が部隊をしっかりと掌握することを確かなものにし……」

 という趣旨の文章が続きます。一種の決意表明ですね。ただ今年は「策謀」云々からすぐ「決意表明」ではなく、その間にひとくだりあるのです。

「わが国の経済・社会は正に深刻な変化の中にあり、様々な利益関係が新たな調整を行い、各種の思想や文化が互いに動揺しつつある……」

 これはまるで、

「……わが国の改革・発展はまさに正念場にさしかかっている。それは『黄金発展期』でもあり、『矛盾突出期』でもある。改革が絶えず深化していくなかで、必然的に利益関係の調整にも影響が及び、異なる人、異なる集団の間で改革・発展の成果を享受する程度が違ってくるのは避けられないことだ……」

 とした『人民日報』の署名論評(「庶民も国家も食い物にする連中。」2005/07/29)のようでもあり、共産党の先進性保持教育活動(「政府は『集団的事件』に打つ手なしかよオイ」2005/07/16)のようでもあります。

 要するに「だからここはひとつ団結して頑張ろう」と社説は強調しているのでしょうが、強調されているだけに、「貧富の差の拡大」「貪官汚吏の跋扈」「失地農民」(※1)といったような社会状況の悪化が軍内部にも影響を与え、「党中央の絶対的指導」を疑問視し、行動に移らんとする一派が(例えば日本の二・二六事件のように)いるのかも知れない、と勘繰りたくなる一文です。


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【※1】土地を収用され指定された移転先に引っ越す農民。移転先の土地が農業に適していないケースが多く、支給された補償金がわずかなため転業資金にもならない。いきおい移転前の生活レベルを維持できず、日雇い労働のようなその日暮らしの生活に堕ちてしまうことが多い。中国の歴代王朝が滅亡する前兆として発生する流民に等しい存在、といえなくもない。ちなみに「失地農民」という言葉は昨年の十大流行語のひとつにも選ばれている。



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