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香港功夫映画と共に

龍熱の昭和プロレス放談85 ドリー・ファンクJr☓アントニオ猪木(後編)

2024-05-03 11:18:53 | 龍熱の昭和プロレス放談
遂にゴングが鳴ったドリー・ファンクJr☓アントニオ猪木激突!NWA世界ヘビー級選手権。その挑戦者である猪木が若き世界王者ドリーが得意とする幾つかの必殺技で警戒するフィニッシュ技が3つありました。
それらがファンク一家直伝のスピニングトーホールド(ドリーはこの技でジン・キニスキーからNWA王座を奪取)。さらにはハイアングルから相手を叩き着けるバックドロップ。そしてテキサスブロンコ(ダブルアーム)スープレックスの3つでした。試合開始から10分、20分と時間が過ぎていく中、ドリーは不用意にヘッドロックを取って来た猪木をこの急角度から落とすバックドロップでマットに叩き着け、満員の観客から一斉に悲鳴が起こります。
そして30分が過ぎ、観客たちはこのドリーと猪木がお互いに1本も許さずに終始アグレッシヴに動きまくる気迫が漲った試合展開に大声援を送り始めます。

猪木は当初から自分が目指した「60分3本勝負のこの試合、敢えてお互いが1本も取らずに動いて動いて動きまくる!」という言わば“未知の挑戦”を、王者ドリーが真っ向から受けて立って来た事に心の中で感動さえ覚えていました。
そしてドリー自身も自分と同年代の日本人の挑戦者が挑んで来た純粋で崇高なストロングプロレスに対して、心の中で静かなる闘志を燃やしていたのでした。「イノキよ、ユーがババとは全く違う新しいファイトスタイルでミーと闘う事でババにも勝とうとしている事は判っているさ。ミーもNWA世界チャンピオン、それこそ毎日が60分フルタイムの連続だ。それも世界各国のトップレスラー相手にな。ミーは60分フルタイムならその60分の攻防で15分1本勝負を4回やるつもりで闘う。そう、観客は15分に1回、私のスープレックスやバックドロップが炸裂する度に総立ちになるんだ。さあ、イノキ、残り30分でミーの底無しのスタミナにユーが何処までついて来れるか見せて貰おうか!」
試合は40分を超え、ドリーのテキサスブロンコスープレックス、猪木のブレーンバスターが交互に決まり、さらには冷酷な王者振りを見せるドリーがセコンドのハーリー・レイスのアシストを得て負傷した猪木の指を攻める事で観客は大興奮状態となります!
そして55分が過ぎ、さらに残り1分となった時、猪木のコブラツイストがドリーを捕えます!!王者ギブアップか!?それとも時間切れで逃げ切り防衛か!?試合は懸命にロープに手を伸ばしたドリーが猪木と同体でコーナーに崩れ落ちた瞬間、60分フルタイム引き分けのゴングが鳴ったのでした。
目の前で珠玉の名勝負を目撃した大阪府立体育館の観客が万雷の拍手で2人のプロレスラーを讃える中、ドリーと猪木は疲れ切った身体と共に無言で歩み寄り、お互いにリング中央でガッチリと握手を交わしたまま暫しの間、立ち尽くしていました。それは自分たちが挑んだ“未踏の境地”を共に全力で走り切った2人のプロレスラーだけにしか判り得ない“真実の瞬間”だったのです。


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龍熱の昭和プロレス放談84 ドリー・ファンクJr☓アントニオ猪木(前編)

2024-05-03 11:18:33 | 龍熱の昭和プロレス放談

昭和44年12月2日の大阪府立体育館は久方ぶりのNWA世界ヘビー級タイトルマッチに超満員となっていました。挑戦者は“若獅子”アントニオ猪木、王者は“闘う機械”と言われた無敵王者ジン・キニスキーを破り若干28歳でNWA世界王者となった新時代の旗手ドリー・ファンクJr。
今回がNWA世界王座初挑戦となる猪木は心中大いに期する物がありました。それは王者ドリーに対してだけでなく、自分の試合の翌日に同じくドリーに挑戦が予定されている宿命の好敵手ジャイアント馬場に対してでした。何としても馬場を乗り越えたい猪木はドリーとの世紀の一戦を前にこう固く決意していました。
「恐らくドリーと馬場さんの試合は定番通りに3本勝負をお互いの得意技を駆使して1対1からの引き分けだろう。あの馬場さんがNWA王者相手にセオリーを無視した試合をするはずがない。だとしたら俺が馬場さんの試合を超えるインパクトを観客に与えるにはどうすればいいか?馬場さんと同じ内容の試合をしたって永遠に馬場さんには勝てないぞ。そうだ、60分3本勝負の試合なら、敢えてお互いに1本も取らずに60分間動いて動いて動きまくるってのはどうだ?これだ、これしかない!」
幸いにして当日の試合のレフェリーは猪木派のユセフ・トルコで、この猪木の熱きモチベーションを全面的に支持する事は間違いなし。ただ猪木の唯一の気がかりが世界王者のドリーがこの猪木の意気込みに対してどう試合で応えて来るか、でした。
そして試合当日、先に父のドリー・ファンクSrとハーリー・レイスを従えリングに上がっていた世界王者のドリー・ファンクJrはお気に入りの毒蛇のリングガウンに身を包み、これまたセコンドに吉村道明と大木金太郎を従えて颯爽とリングに駆け上がってきた猪木を冷静な眼差しで「ジッ」と見つめています。
TV中継するNET(現テレビ朝日)がこのドリー☓猪木の世界戦を中継録画し、大晦日の怪物番組である紅白歌合戦に真っ向からぶつけるべく万全の態勢を整える中、遂に運命のゴングが鳴った!!(以下、後編に続く!)


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