福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

汚染原油の行方

2008-09-25 10:39:22 | 研究

北極海や北海などの海底油田。原油掘削の過程で、常に海洋への原油汚染がつきまといます。原油に含まれている化学物質の多くは高い生物毒性を示します。特に、パラキシレンは毒性が高く、微生物にとって分解され難いとされています(難分解性有害化学物質)。

海底で漏れた、毒性の高い原油化学物質はどのような運命を辿るのでしょうか?

Drnakagawa0805 酸素を含まない海底下でパラキシレンが長い時間をかけて完全分解されることを中川達功さん(現在:日本大学生物資源学部助教)が発見いたしました。酸素のかわりに硫酸イオンを使って、パラキシレンを分解する硫酸塩還元バクテリア(嫌気性菌)です。

このバクテリアたちは、パラキシレンを食べて、最終的に二酸化炭素と水に完全分解します。何と、2倍に増殖する(細胞の数が倍に増える:倍加時間)のに119日もかかります。大腸菌の倍加時間が約20分ですから、いかにゆっくりと増殖するバクテリアであることが容易に想像できます。

中川さんが、学部の卒業研究として、このテーマに取り組んでから12年の歳月を経ち、ようやく日の目を見ることができました。

Tatsunori Nakagawa, Shinya Sato and Manabu Fukui  (2008)
Anaerobic degradatoin of p-xylene in sediment-free sulfate-reducinh enrichment culture
Biodegradation 19: 909-913
DOI: 10.1007/s10532-008-9192-4