学部3年の頃の講義で『音楽教材研究』と言うのがあって、今でも強く印象に残る内容があります。それは、「鈴木メソッド」。鈴木鎮一氏が創始した方法で、バイオリンの実践指導を通して、どんな人間でもトレーニング次第でその才能を花開かせることができるし、あるレベルの能力を身につける事ができると言うもの。彼の才能教育の理念のうち、私を最も印象づけたのは、「教師や親(すなわち大人社会の環境)は、高い水準に保たれるべきであり、子供にとってより良い学習環境を提供できるように成長し続けなければならない」。教育する側への戒めです。
以来、この「鈴木メソッド」が頭から離れなくなってしまいました。
先日、愛媛大学沿岸環境科学研究センターの鈴木 聡教授とお会いし、お話をしているとき、ふと「鈴木メソッド」を思い出しました。鈴木教授の「研究教育」に関するメソッドも、独創的。ちょっと長いのですが、参考までに、ここに引用いたします。
<海洋分子生態学研究室心得(最低限のルール)>
0. 自覚
一つ、己が鈴木・野中研究室の一員であり、研究はチームプレーであることを自覚しましょう。
自分が大人であり、社会人であることの自覚(自分の行動に責任をもつこと。教官への甘え・依頼心をもたないこと。大学も社会の一部であり、研究室のルール以前に社会のルールがあることを自覚すること。)
研究室の一員であることの自覚(例:無くなりかけた薬品・消耗品の発注、生物管理や短期プロジェクトへの協力を惜しまないこと。図書・卒論などを大切に扱うこと。個人所有の書籍などは必ず許可を得て使うこと。)
自分の周囲のことも理解する(例:自分が使わない機械、仲間の研究内容、研究室が関与している全般的なことに対しても知識を持つこと。)
1. 研究
一つ、テーマの内容(concept, history and perspective)をよく理解しましよう。
(教官と常にコンタクトを持つこと。)
一つ、研究は自らの意思で行いましょう。
(受け身にならない。自分の頭脳で考え、教官への提案、オリジナルな発想を積極的に行うこと。)
一つ、実験は熟考したうえでスタートしましょう。
(なにを知るためにどんな観測・実験を組むか、つねに考えること。)
一つ、無駄な無駄はしてはいけません。無駄は有益でなくてはなりません。
(データをとるために有効でないと分かっている実験は禁止。つねに何かを得るために金と時間を使う意識を徹底すること。)
一つ、時間は無限ではないことを知りましょう。
(だらだら実験しない。一ヶ月単位でまとめる癖をつけること。次のステップへ進む時は必ず総括を終えてから。)
一つ、すべての実験結果はなにかを語っていることを知りましょう。
(実験結果を自分の判断で闇に葬らないよう、教官に見せて判断の仕方を学ぶこと。)
一つ、研究は国際雑誌へ投稿しましょう。
(卒論,修論といえど、研究は全て国際的土俵で戦うので、それ相当の意識と気構えをもつべし。)
2. 研究室生活
一つ、朝は8時40分までには全員が来て掃除をすませましょう。
(この時間に間に合わないときは必ず連絡すること。遅刻の多い者には何らかの罰則を考えます。)
一つ、夜は意味なく研究室に残ってはいけません。
(危険性、データの信憑性。早く来て夕方には切り上げること。)
一つ、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は頻繁にしましょう。
(自分の所在を教官や仲間に知らせること。ボードの活用、口頭・メモ連絡を欠かさないこと。)
一つ、一般社会規範・常識をもって行動しましょう。
(危険な身なりの禁止。夜中心の生活時間禁止。無理なバイトの禁止など。)
一つ、研究室ではマンガ、ゲームは禁止です。ヘッドホンで音楽を聞くのも自粛しましょう。
(大学は遊び場ではない。仕事場である。大部屋のメリットを活かして集団生活に慣れよう。コミュニケーションをとろう。静寂が欲しければ家へ帰ろう。)
3. 安全管理
一つ、研究室は危険な所という認識を持ちましょう。
(危険性のこと…機器の使用法・危険性を認識する。試薬のこと…毒・劇物の管理を徹底すること。狭いので実験ベンチ上の試薬の置き方に注意。危険なゴミの分別など。)
一つ、試薬管理、ガス、水道、電気には常に気をはらいましょう。
(電気ガスの付けっぱなし、水道の出しっ放し禁止。試薬はあった場所へもどすこと。こぼした時の処置。火事地震の際にすべき行動を考え、危機管理を徹底すること。危険物受け払い簿の記入を忘れないこと。)
一つ、研究室外・学外の人間を無闇に研究室に入れてはいけません。
(試薬泥棒、実験のじゃま、事故などの理由による。各部屋の鍵の管理に気をつけること。)
一つ、体調不調の時は帰宅しましょう。
(他人へ感染、集中できず実験失敗の恐れ、などの理由による。)
4. 総 括
卒業してから「大学が一番きつかった、社会は楽だ。」といえる研究室生活にしましょう。
当研究室に向いている人(カッコ内は向いていない人)
1.朝から元気なひと(時間のけじめのない人)
2.持続力のある人(よく休む人)
3.実験が大好きな人(手を動かすのが嫌いな人)
4.海が好きなひと(室内ゲームばかりする人)
5.今までの勉強は棚にあげて,将来の夢を語れる人(夢のない人)
6.人とのコミュニケーションが好きなひと(さめた人,コンパ嫌いな人)
7. 大学院志望のひと,国際的に活躍したい人(中四国や関西に留まりたい人)
さてさて、ここ低温研はどうだろう? 教育なんてしなくても良いのだと勘違いしている先生はいませんか?