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塩野七生さん著「ローマ人の物語」とギボンの「ローマ帝国衰亡史」

2022年04月09日 | 歴史探訪
 塩野七生さんの「ローマ人の物語」全15巻を読了した後、同著者の「ローマから日本が見える」という本を読んだ。
 私は、最初、ギボンの「ローマ帝国衰亡史」を読もうと思っていた。
 しかし、同時代に日本語で書かれた、塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んだのだった。
 実は、「ローマ人の物語」を読む前に、同著者の「ギリシャ人の物語」を読んだのだ。

「ギリシャ人の物語」は、「ローマ人の物語」よりも後に書かれたのだが、私は、ギリシャに興味があったので、まず、「ギリシャ人の物語」を読んだのだった。
 この「ギリシャ人の物語」全3巻を読了して、この塩野七生さんの著作が、大変わかりやすくて、面白く、いわゆる事実に基づいた歴史小説ということもできる本でもあるのに、巻末に原語の参考文献が多数羅列掲載されていて、これは、学者の書物を上回る出来上がりだ、と思ったのが、何より、同著者の「ローマ人の物語」をギボンの「ローマ帝国衰亡史」の前に読もうと思った最大の動機だったと言ってもよいと思う。

 そして、私は、この選択は大正解だったと思っている。
 なぜなら、「ローマ帝国衰亡史」は、なぜ、偉大な文明でも衰退していくのか、という原因探求がメインテーマになっているらしいということだった。
 それに対して「ローマ人の物語」は、前753年のロムルスの建国以前、神話のような時代から始まり、西ローマ帝国が滅亡の少し後まで15巻を通して書かれているのだ。

 これでこそ、ローマ史全体を把握し、衰亡の原因もおのずから、考えさせられるというものだ。
 高校の世界史の教科書で「ギリシャ・ローマ文明」は必ず扱われるが、教科書のほんの一部に過ぎない。それを1冊300-400ページもある単行本に全15冊にわたって、それも1年に1冊、15年をかけて書いているのだから、その勉強・研究量と執筆するためのエネルギーは、並大抵のことではない。

 それを、読者は、個人差はあろうが、頑張れば数か月、長くても1年以内くらいには読めてしまうのだから、本というものは本当にありがたいものだし、筆者の塩野七生さんには、改めて感謝をしたいものだ。
 その労力を考えれば、本というものは、本当に安いものだ。筆者には悪いが、お小遣いが足りなければ、古本という選択もあるわけだし。

 もうひとつ、「ローマ帝国衰亡史」ではなくて、「ローマ人の物語」を先に読んで良かったと思ったことは、「ローマ帝国衰亡史」は、同じヨーロッパ圏の、意識する、意識しないにかかわらず、どうしてもキリスト教文明に影響された、著者の著作であるということだ。
 八百万の神々の国、日本のメンタリティーとは、違って当り前だが、ローマは、キリストが生誕する800年も前からの歴史があり、ギリシャ文明の影響もあり、ユピテル神を尊重するが、30万もの神々を祭った多神教のローマであったのだ。

 キリスト教がメジャーになるのは、紀元300年以降のコンスタンティヌス帝や紀元400年に近くなってのテオドシウス帝からなのだ。ヨーロッパを作ったといわれるカエサルは、紀元前100年の生まれで、キリストの生誕前に暗殺されてしまっている。

 ずっとのちの「ローマ法大全」にまとめられるが、ローマ人は法を重んじた民族だった。
 ユダヤ人は宗教、ギリシャ人は哲学、そしてローマ人は法を規範にして行動したのだった。

 もちろん、神殿はどこにも建てられ、留学はアテネやロードス島、アレキサンドリアなどに行って、哲学も学ぶことも行われていた。
 こういう背景で、18世紀に生きたギボンは、キリスト教文明の影響を意識する、しないにかかわらず、受けてしまっているのはやむを得ないことだった。
 日本人とは、バックグラウンドが違っている。

 一神教の影響と、日本のような多神教の背景をもつ国民とは、違っていて当然だが、キリスト教普及以前の、カエサルが構想し、アウグストゥスやティベリウス、五賢帝時代を経たローマ帝国を、日本人とは違った視点で見てしまうことはやむを得ないのだろう。
 ギボンのローマ帝国衰亡史は、イギリスの教養階級と呼ばれているような人たちのは、ベストセラーであって、現代も読み継がれている。

 それにもかかわらず、私は、今書いてきたような理由もあって、ローマ人の物語を先に読んで良かったと思うのだ。