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新銀行東京に学ぶ経済学~その2

2008年03月13日 13時46分12秒 | 経済関連
理論の中の話や考え方を現実世界に適合させるにはどのように組み立てていくか、ということが必要になることは多い。学問というのはそういう意味において、実社会に役立つのである。現実世界には「生きた教材」があるのだ。新銀行東京の例は、まさに優れた教材の一つであろう。そこには、社会の構造とか実態が浮かび上がってくるかもしれない。

最初に山口氏の至極当然のご意見をご紹介。

H-Yamaguchinet 他人の金を他人のために使う話

『何しろ経営が回復する見込みなのだ。この状況で出してくるんだから、まさか民間から資金を引っ張れないほどのいいかげんな再建計画ではあるまい。「たったの」400億円だ。堂々と民間金融機関やらファンドやらに資金拠出を持ちかけたらいいではないか。東京都に頼ろうとなんかするから、経営が甘くなるのだ。民間で調達できるなら、わざわざ再び都民の血税を400億円「も」投入するまでもあるまい。なんなら、融資先に対してやるような審査を、自行に対してやってみるといいんじゃないかな。』

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本当に新銀行東京に将来性があって、収益見込みとか事業再建の可能性が高いのであれば、金融業に参入したい民間企業や経営に参画したいとか高いリターンを得たいファンドから資金を引っ張れるはずだ、ということだ。石原都知事曰く、まず400億円を投入した後でならそういう話も出てくるかも、とかふざけたことを言っていたが、そうなると民間企業等に400億円を都民がプレゼントしろとでも言うのであろうか(笑)。所詮、殿様商売だから。自分が400億円払うわけではないので、屁でもないぜということかと。


それから、もっと悪辣な話が出ていたのがこちら。

いよいよ瀬戸際、新銀行東京 SAFETY JAPAN 大前 研一氏 日経BP社

是非全文を読んで頂きたいのですが、私の評価として重要な点を挙げておくと、次のようなことです。
①新銀行東京は先に貸していた(大手行等)金融機関にカモられた
②東京都の関連出入り業者たちに融資を受けさせる腹積り(港湾局長談話)

大前氏も山口氏の意見と同様にデューデリジェンスによって新銀行東京への出資を検討すべし、ということも述べています。メトロポリタン銀行の話は始めて知りましたが、それにしても役人たちの仕事ぶりというのは、所詮こんなものなのかもしれません。餅は餅屋、ということで、民間に任せるものは任せた方がいいのでしょう。言ってみれば、壮大なプロジェクト立ち上げですから、これにまつわる利権だのオコボレだの、数え切れないくらいあったのでしょう、多分。銀行の土地建物、様々なシステム、他に思いつかないけれど、看板だのロゴだの印刷物だの、ありとあらゆるものがあるでしょうね。ま、これは今はおいておく。


①について:

第一に、恐らく新銀行東京は「一番最初の貸し手」となることは少なく、他の金融機関から既に借入していて苦しい経営状況にあった借り手が多かったのではないか、ということになるだろう。最初の貸し手になれたのは、他で全て断られたベンチャーのような借り手だけではないだろうか、ということ。

日本人に特有?かどうかは不確実ではあるが、所謂「多重債務」という気質のようなものに起因するかもしれない。アメリカ人と日本人では異なる、という部分だ。これは昔の時点でも言われており、取り上げたことがある。
貸金業の上限金利問題~その9
この中でHiraの論文というのがあるのだが、日本においてはどういうわけか「複数の金融機関・貸金」などから次々と借入てしまう、という傾向があることが指摘されていた。これが多重債務なのである。

たとえば住宅ローンがあるとする。アメリカ人は今のサブプライムローンで問題となっているように、ローンが払えなければ「住宅差押え」を選ぶ方が普通だ、ということ。金利10%の住宅ローンの支払が滞れば、別に「20%のローンから借入て資金調達し払い続けようとする」ということは少ない、ということだ。ところが日本人では、破産への心理的障壁が高いのか、破産コストが高いせいなのか、差押えを選択することは少なく、消費者金融から高利で借金してはるかに低利の住宅ローンを払い続けようとするのだ、ということ。個人の民事再生は昔よりも若干増えたと思うが、利用は多くはないだろう。日本人は、「借金を必ず返さなければいけない」という倫理観が定着している為なのか、返済できないことを申し訳なく思うのでどうにかして返そうと必死で努力するのだと思う。この性質があるからこそ、ヤミ金の取立ては可能になるし、多重債務者への貸し込みというウマミが出てくるのである。返せないことを苦にして自殺する人が多いのも、こうした気質を反映しているのではないかと思う。

この傾向は恐らく事業者においても同じであり、銀行借入の返済に困ると、「次の貸し手」を探し求めて借りてしまうのである。それ故、大前氏の指摘のように大手行が新銀行東京のような「次の貸し手」からカモることが可能になるのである。ある企業があって、大手行から5000万円借入しているとしよう。経営が苦しくなって返済に度々行き詰ると、銀行から取引停止処分などを食らうかもしれない。そうなれば信用を失い事業継続が困難になるだろう、と経営者が考える。で、大手行への返済原資を得る為に、「次の貸し手」を探すということになる。それが新銀行東京のような銀行であった、ということだろう。つまり、大手行は新銀行東京よりも先んじて回収に成功できる、ということになるのである。返済してもらうのは、元を辿れば「新銀行東京が出したお金」ということに他ならない、ということを大前氏が指摘しているのであろう。つまり、「次の貸し手」が登場する限り、まるで川の流れのように金が移動していく、ということになるだろう。上位から、大手行、地銀、信金・信組、公的金融機関や制度融資、ノンバンク、消費者金融、のようになっている、というようなことだろう(順番は必ずしも正しくはないだろうが、最初と最後は多分そうだろう)。つまり、大手行に返済する為に、次の貸し手に借り、次の貸し手に返す為にまた次の貸し手に借り、というのが順繰り行われる、ということになるだろう。これこそが多重債務の本質なのである。再生手続や清算を選択することは、日本人気質的には困難だ、ということだろう。今、新銀行東京がもがいているさまが、まさしくそのものだろう。

こうして新銀行東京が貸したお金は、先に貸していた大手行の返済に回され大手行の不良債権を軽減したが、新銀行東京には返済に苦しむ債務者が残された、ということ。これが、大手行にカモられた、ということだろう。


第二に、新銀行東京の話とは別にして、大手行からは「絶対に新銀行東京なんて拾ってやらんぜ」という総スカンを食らう理由があるのではないだろうか、ということ。それは石原都知事に起因するものだろう。石原都知事は銀行設立前に、かなり痛烈に大手銀行批判を行っていたこと、そして例の外形標準課税を巡る東京都と銀行団とのバトルだ。こうした要因があるので、他の銀行さんたちからしてみると、本音の部分では「ざまあ見ろ」ということなのではないか。これはあくまで私個人の見方なのだが。そもそも銀行経営のド素人のくせに、とか、できるもんならやってみ、とか、冷ややかに見ていたのだろうと思う。で、大きく躓いて、やっぱりな、と。腹の中では大笑い、と。まあその気持ちは分らないでもない。だって都が銀行を持つとか経営する必要性なんて全然ないもんね。

それと、既存金融機関の現場では、「ウチでは貸せませんが、あくまで独り言として聞いて欲しいんですが、新銀行東京なら貸してくれるとか噂話を聞いたことがあります」みたいに暗に紹介するとか、できるかも。すると、そっちから金を引っ張ってきてもらえれば、自分の所には返済してもらえることが分っているから、紹介するインセンティブは十分有ると思える。


②について:

大前氏のご指摘どおり、優越的地位の利用に他ならないだろう。まるで抱き合わせとか、そういうのとも同じだろう。物語が直ぐに思い浮かぶよ(笑)。こんな感じ。

都の仕事が欲しいって?そうだよね、わかりますよ。
その場合、新銀行東京に預金1本(百万円)と、それを担保に新規融資300万円を受けてくれないかな~。
イヤなら別にいいんですよ、イヤなら。
他の業者さんも仕事を欲しいって毎日見えてますからねえ。最近では都の仕事をなかなか自由には割り振れないので、困っているんですよ。新銀行東京の話は、別に深く考えなくてもいいですよ、内部的な事情なんで。新銀行東京の融資を受けないからといって、仕事が回らないってことはないですから。ええ、大丈夫ですよ。けど、業界の競争は厳しいからねえ、いまどき。上のほうから号令かかってるから、融資実績とかで優先的に割り振られたら、私にはどうにもできないんですよねえ~笑

 ◇◇◇

日本人的気質のせいかわかりませんが、「融資を受けたければ~」とか「仕事を取りたければ~」といった条件をだされても、こうした殺し文句には逆らえないのですよ。交渉力が対等とか、借り手が顧客だとか、そういうのは幻想なんですよ。かつて政府系金融機関の統合話の頃に書いた(熱闘!官業金融~第1Rの続き)けど、銀行が優位なのであり貸し手が強いのですよ。だからこそ、酷い取立てとかが成立してるんですよ。


とりあえず、新銀行東京を存続させるかどうかは、まずデューデリジェンスを都の役人がやるのではなく、全く外部の買い手同様の立場の人にやってもらわねばダメだね、ということ。


後で追加します。




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