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中小貸金業者が淘汰されるとはどういうことか

2006年11月19日 17時48分55秒 | 社会全般
上限金利引下げに関連して、貸金業者の大半が淘汰されてしまう、という意見が出されている。確かにそういう一面はあるかもしれない。このことをもう少し考えてみよう。


まず、他の企業だとどうなのだろうか、ということを考えてみよう。

地方なんかだと、大型店の出店で「地元の商店街が打撃を受ける」とか、「価格競争では太刀打ちできないから、止めてくれ」とか、そういう意見が出される訳ですが、消費者にとっての利益はある訳ですよね。効率の悪い業者が撤退させられるのが「悪だ」ということを賛成している人は、「経済!経済!」言ってる人たちには余り見かけませんね(笑)。


弱小の洋品店、金物屋、家具店、時計屋、米屋、八百屋、酒屋、・・・・色々とある訳ですが、こういう個人経営とか中小規模の店なんかは、大手企業の出店攻勢で多くが「敗退」し、業者数は大幅に減少したのではないでしょうか?これを「業者数が減るから、競争が阻害され寡占化だ!」とか言いますかね。そうはならないと思うが。これまで、廃業してきた人たちが多く存在したじゃないですか。貸金業界の従事者全部よりもはるかに多くの人たちは淘汰されてきたでしょ。

少なくとも「業者数が減るから」というのは、反対の論拠としては説得力に欠ける。しかも零細貸金業者が消える最大の直接的な理由は、資本金規制なのではないかと思うが。資本金5千万円以上、というのが大半の零細業者にとっては厳しい条件だからであろう。単に上限金利の問題ではないですよ。


次に、中小貸金業の審査・回収能力等で本当に競争力を有していると仮定してみよう。他のノンバンクや銀行なんかには「真似のできない」特殊なノウハウや能力を有している、ということだ。銀行なんかだとそういうノウハウがないので、そのマーケットには「参入できない」、ということであるらしい。大手貸金業者にも「参入できない聖域?」のようなもの、ということだろう(もしも、大手が参入可能なのであれば、代替されるので中小業者が撤退していっても問題ないだろう)。


中小業者では、資金調達コストなんかを見ると大手業者よりもコスト率は「高い」し、勿論大手貸金よりも低い調達コストのノンバンクや銀行なんかと比べれば、その差は広がる。ということは、「中小業者が資金を調達してくる必要性はどれくらいあるのか?」ということが問題になるのではないか。仮に銀行等の民間金融機関が資金調達をして貸付原資とするなら、安く済むはずである。

大雑把ですが、大手業者の占有するマーケットを9兆円、それ以外の業者が1兆円とする。これを「大手」と「ニッチ」という2つの業者であると見做すことにする。「ニッチ」が貸し出してる1兆円の調達コストは、6%ならば600億円かかるわけです。

「ニッチ」のコスト構造を次のように考えてみる。

貸倒償却率 8%
調達コスト  7%
その他費用 8%
営業利益率 4%

合計で27%、つまり平均約定金利を27%で貸す、ということですね(今までのグレーゾーンだ)。ここで、調達コストとその他費用が15%あるのですから、その部分を金融機関に代わってもらうと考えれば済むことではないかと思えます。つまり、貸出資金や広告等の経費は全て金融機関が出せばいいのです。貸し手は金融機関(又は系列業者)とし、15%あった調達コストや広告費等の経費は金融機関が引き受けるのです。元々ATM網を持っているので、そこでの経費も小さくできますね(範囲の経済の効果が働くはずでしょう)。従って、審査・回収等のノウハウ提供と信用保証機能を貸出額1兆円の14%とし、金融機関は4%の取り分とすればいいのではないでしょうか。平均貸出金利が18%でもやっていけるのでは。金融機関は貸倒リスクがなく鞘が取れると思いますけれども。そもそも従来の「ニッチ」が保有していた顧客層は全てここに流せる訳ですし。


これで考えると、平均貸出金利18%で

金融機関の取り分 4%
「ニッチ」の取り分 14%

となり、「ニッチ」は貸倒償却率がこれまでと同じ8%であっても、残り6%を獲得できます(ここから経費を払うが、殆どが人件費だろう)。貸倒率を改善できる自信があれば、利益幅は大きくなるはずです。本当に持っているノウハウに競争力があるのであれば、こうした代行業務を引き受けても十分商売が成り立つのではないかと思えます。それをわざわざ自分で割高な資金調達をして個々に少額を貸し付けているのが現状で、それよりも効率的であるように思えますが。ノウハウは人的要素が強いのであれば、それを金融機関に売り込めばいいのではないでしょうか。だって、金融機関は「貸したくて仕方がない」と思っているのに、貸出先がうまく見つけられないのですよね。それを「顧客グループ」付きで、特殊な貸出審査ノウハウと一緒に「売りに出てる」ようなものであり、本当にまっとうな商売ならば「垂涎のシロモノ」なのではありませんか?


なので、わざわざ高い調達コストの資金を中小業者が直接貸す必要性というのは、あまりなさそうに思えますけどね。銀行とかには、運用先の乏しい資金は結構あるので、国債を買うよりも成績が良ければ、当然そちらに乗り換えるはずでしょう。僅か1兆円の振り向けなんて、民間金融機関で十分可能であると思えます。

だが、まっとうな商売のやり方でないとすれば、売れんわな。誰も買わない。


貸金業協会のお偉方は、本当に自信があるのであれば、都道府県単位でも全国共通に一つでもいいのですけど、会社を作って、現状1兆円規模の債務を審査・回収する保証機関を設立したらいいと思うよ。地域性も反映されるし、長年培ってきたノウハウは必ず活かされるのではないでしょうか。そう思えば、保証料はかなりいい商売ではないかと思えます。だって、業務の質というか中身は同じですよね?自分の金を貸すのと、ヨソの金を貸す違いくらいで、保証に伴う審査業務は「貸出審査と同じ意味合い」ですし、焦げ付きの回収業務にしてもこれまでと基本的に同じなのではありませんか?

これをやれば中小業者の廃業に伴う失業はかなり回避できるし、合法的な優良業者ほどいい顧客を持ってるから貸倒は少ないし、違法取立てをしなくても「回収」できる能力を元々持っているはずではなかろうか、と。タダの不良業者とか「貸し込み業者」でしかないのであれば、まあできない事業であるかもしれんけどね。今まで言ってた、「他が貸さない、リスクの高い借り手だけが借りる」とか、「中小ほど審査は厳しく、貸出管理している」とか、そういうのはあまり当てにはならんな、ということですわな。大半の業者が違ってた、と。そう解釈せざるを得ませんわな。


それと、ありがちな「病院代とか、生活費用に現金が必要」という理由があるんですが、今時病院だって「カード払」が可能なところは結構あるし、食料品とか生活用品の買い物で「カード払」は比較的容易なスーパーなんかもあるのですよね。つまり、それらを「リボ払い」した方が、同じ金額をキャッシュで借りて払うよりも適用される金利は低いことが多いでしょう。必ずしも全部を「現金」で借りなければならない、ということはないでしょう。割と大きいスーパー(ヨーカドーとかジャスコとか・・・地元系スーパーなんかの一部にもあるな、生協にもあるし)だと、提携カードがあるのは珍しくない。貸金から10万円を借りて10万円で生活するよりも、一部だけを借りて他をカードで買って払う方が、金利負担は若干軽減されるだろう。


そういえば、大手貸金業のどこかの社長が国会で泣き言を語ってたな。量的規制で、800万人に影響が出る、とか何とか。これは、上限金利じゃないですよ?

NIKKEI NET:経済 ニュース


あくまで年収基準ですけど、坂野論文を「論理的に」支持していた人たちは、何故黙っているのでしょうか?借入額は「破産の説明要因でない」とか言ってみればいいのではないですか?

ひょっとしたら、「いくらでも借りられる」とか、経済学理論で証明してくれるかもしれんよ(笑)。


因みに、ハッキリ言っておきますが、総額規制を書いたのも、賛成したのも、私ではないですからね。どちらかと言えば「難しいだろう」と書いてますから。

貸金業の上限金利問題~その12


年収基準の総量規制は官僚の考えたことですので、しょうがないでしょうな。金融庁の官僚なのかどうかは知らんけど。あんまり貶されたもんで、ビビッて総額規制を採用してしまったのかもしれないし(笑)。身内批判が一番堪えたのかもね。

経済学に大変お詳しい、優秀な官僚の方が考えてくれたことなんですから、まあ、折角ですから受け入れてあげたらいいんじゃないですか>業界の方々どの


それから、以前に記事を紹介(貸金業の不正)したのですが、その続編が出てました。

筆者のあまりにリアルな体験が含まれている為、その悲しみが伝わってきてしまい、私なんかだと、どうも同情的な読み方になってしまうのですが。情に流されやすいということで、水戸黄門的な、或いは感情的な世界観がモロに出てしまいます。


コラム:Biz-Plus


マーケット全体がある程度正常化するまでは、色々な手を考えるしかないのでは、と思います。銀行が手を引いていったことが、逆にマイナスに作用した可能性もあると思うし。金融不安や銀行の危機、不良債権への誤った処方箋などで、消費者金融市場も一緒に壊れていったのでしょう。多くの中小企業の息の根を止めたのとも、シンクロしているような気もするしね。


政府系金融機関改革の時の、ユーザー側代表者たちのヒアリングの光景が忘れられない。あの言葉だ。

「たった3百数十万だ」

きっと多くの悲劇があったことだろう(熱闘!官業金融~第1R)。借金をするということの為に、それにまつわる悲劇はたくさんあったと思うよ。借り手がマーケットを作っていく、という夢物語を語っていた経済学者を到底信じることなどできなかったよ。


大銀行等の金融機関にはそれなりの役割がある、というのはその通りで、社会的責任も道義的責任もあってしかるべきだろう・・・・・。それならば、貸金への資金供給や儲け方も、社会的に望ましいやり方で行けるように考えて欲しい。高金利業者たちに、挑める資金力も政治力もあるはずなのであり、合法的にビジネスの世界で勝負すればいい。そこで不良業者が淘汰されたとしても、誰も文句は言わんよ。

消費者金融市場が正常化へ向かえば、かつてのように貸出総額規模はある程度戻せるかもしれないし、それ以上に伸びる可能性だってある。貸倒率も低下させられるはずで、利益もそこそこ生み出せるようになるだろう。貸倒率が3%を切る水準は、僅か10年程度前だったのだよ?


ところで、スティグマにも経済学的効用があるかもしれない、という研究はあるようですので、あながち悪いとも言えんかもしれませんよ、スティグマ。




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4 コメント

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前提をかえたらどうなりますか (吉行誠)
2006-11-19 23:57:11
残り1兆円の経営環境は、どんなだか予想できませんが、新規で借入1件、2件以内が、常時貸付額の半分近く占めるのと、5~8件で2/3が占められる貸倒費用は異なります。
前者の費用は、7%でしたが、過払いのための引当をつんでいることなどから、費用は8%には達しています。
5件以上の貸倒費用は、12~14%と予測されます。
そうする回収費用もかさみます。電話をしなくても入金してくれるのが、大手で75%だとして、残り1兆円市場では、どのくらいでしょうか。33~40%でしょうか。

貸倒れと金利を除いた経常費用が、大手で8%を越えていますから、規模の経済がはたらかない零細ではもっと係るでしょう。貸付金100~500億円では、10%に達しています。

銀行が参入できないのは、100万円以下の小粒ローンを18%で貸したとして、費用の点から収益が上がらないというに過ぎません。29%なら何とかやっていけた。それをノーハウというのか、ただ金利が10%余分に請求できたからやっていけただけではないですか。

いずれにしても、金利18%になれば、貸倒れ7%以上を許容できませんから、40%くらいには、信用縮小が発生するのは必然です。

また年収1/3規制では、債務者の50%近くの450万人以上が影響を受けることは、事実として認識する必要があります。もっとも年収の40%の借入のひとも影響を受けるという計算になりますから、11兆円の市場であれば、4兆円の信用縮小になるだけです。
そうすると銀行が肩代わりするという市場も前提が異なります。

貸金市場は1/3規制を受け入れられるような性格ではない状況になってしまっていたということです。
この規制は、金融庁にいた森雅子という弁護士の提案によるものとされていますが、わが国の貸金の商品・市場特性とは異なるアメリカのノースカロライナ州のanti-predatory lending反略奪貸付禁止規制を現実的検討なく物まね的に、注意を欠いて、金融庁が摂取し、自民党が承認し、議院が承認しようとする提案とみられます。議員にはそんなことを期待しても始まらないそうです。




黄門様へ (ばかんりょう)
2006-11-20 01:07:16
おら霞ヶ関ではたらいてるだが、官僚が理想に燃えてつくっだものが世に出るのはなかなか難しいだがね。
注目されているものほどそうだがね、政治家は民意を無視できないがね。結局国民のレベルを超えた政治なんて難しいんだす。それ相応の政策になるだす。黄門様の印籠には悪代官(族議員)もおののくだよ。これ本当あるよw
追伸 (ばかんりょう)
2006-11-20 01:53:33
ついでにいうと先生やあっしらばかんりょうは注目されてないところで好きかってやるのが大好きだがね。みんなますごみのたれながすにうすしかみとらんから、そのにうすのとこだけきいつけるようにきつくいわれとるだがね。
おいら身分が卑しいで議員の先生には頭があがらんだが、ここだけの話あとふじた先生なんかはかっこばっかつけやがってほんとに「死ねばいいのに」てうわさだっぺよ。
Unknown (まさくに)
2006-11-20 20:42:48
>吉行さん

コメント有難うございます。本記事の意図は、「中小業者がやっていけない」という理由を出してきている貸金業界代表の方々への意見です。恐らく単に「グレーゾーン金利があったから」経営的に成り立っていただけ、というのがほぼ実態に近いのではなかろうかと考えております。

しかし、「中小が貸してるのは別なマーケットではないか」、「借り手の対象が違うのではないか」、という意見も一部に散見されるため、弱小業者が自ら資金調達を行って貸し出すよりも有利な方法を選択した方がよいのでは、という意味で出しました。

記事中にも書きましたように、本当に代替不可能な特殊な能力・ノウハウがあるというのは、大半が違うのではなかろうか、と。もしも、本当に大手すら参入できず、ましてや銀行等にもできない、となれば、そのマーケットで保証業務は成り立つはずだろう、と考えました。

>ばかんりょうさん

>国民のレベルを超えた政治なんて難しい

それは以前に他の元官僚の方も指摘していました。すると、議員や官僚というのは、国民が考えること以上には決してできないということで、平均的な国民以下なのでしょうか。ならば、平均以下の賃金に下げるべきということになってしまいます・・・・

>注目されてないところで好きかってやるのが大好き

冗談ならばいいのですが、実態もその通りであるなら、「やっぱり」というところでしょうか。国民のモニタリングの届かない所で、好き勝手やってきた結果が今なのだな、と受け止めたいと思います。

>かっこばっかつけやがって~

私はテレビでしか知らず、実際どうなのか知らなかったので、勉強になります。奥様が美人ですし、ご本人もカッコイイので、かっこつけてるというのは本当なのかもしれませんね。カッコ悪い人だと、カッコつかないでしょうし・・・・

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