まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

安定のヒロと姐さん〜aterlier結心の4th Christmas

2022-12-26 17:45:10 | 日記
「はい、アトリエ結心でございます。はい。はい。あー。申し訳ありません完売です。またよろしくおねがいします。」

サンドするいちごをスライスしながら、私はマスクの下で苦笑い。完売のお知らせをゆっこちゃんがホームページに掲載したのは12/3なのだけど、それからもずーっと同様の問い合わせ電話が鳴り止まない。店頭にも貼り出してあるにもかかわらず、ふらっと入ってくるお客もいて、そのたびに謝ってるゆっこちゃんは大変だ。

今年はクリスマスが25日の日曜日なので、23日の金曜日から三日間で140台の限定販売。去年は24、25日の二日間で100台、11月下旬に予約完売。だからみんなそろそろ覚えたほうがいいと思う。ゆっこちゃんのクリスマスケーキを食べたかったら11月の早いうちに電話して。

ワンオペのケーキ屋で140台のクリスマスケーキを作るのはとても大変なので、ゆっこちゃんの家族や友人が手伝いに来る。なかでもスーパースペシャルな助っ人はヒロ。ゆっこちゃんがかつて製菓の企業に務めてたころ面倒みてた後輩である。普段は介護の仕事をしてるが、「クリスマスシーズンは先輩のケーキ屋で仕事するんで休みます。」と最初から宣言してるという頼もしさ。お世話してるお年寄りに「次四日後に来るからね。それまで元気でね。」と握手してきたんだって。年に一度とは思えない、鮮やかな手付きでケーキを次々と組み立てて行く。ナッペが美しすぎて前後がわかんない。(回転台で側面をならし、パレットナイフを離したところが後ろになる。たいてい継ぎ目が残る。)

ゆっこちゃんはヒロに、クリームの硬さなどについてちらっと指示する以外、ほとんど任せている。それに、ここは確認したほうがいいな、というポイントをヒロも心得てるので、必要最低限のやりとりで物事がするすると進む。ヒロはゆっこちゃんと前職で一緒に働いた期間は一年くらいなのだそうで、チームワークってチームが結成されて継続してる時間というよりは、構成してる人どうしの信頼や理解によってクオリティがあがるものなんだなと思う。

4年前初めて会った朝のヒロは、ゆっこちゃんからものすごいブレインストーミングを口頭でぶちかまされていて、「それはあとでやりましょう」「じゃあ今やっちゃいましょう」とさくさくとタスク整理をしてたんだった。そんな話を思い出しながら、「姐さんも落ち着きましたねー」と笑ってるヒロは楽しそう。

私の仕事はイチゴのヘタ取り、スライス、スポンジにシロップを打つ、ヒロの塗ったクリームのうえにスライスしたイチゴを並べる、トップのデコレーション、箱詰め、洗い物など。デコレーションのデザインがとてもよく考えられているので、私にでも可愛らしく華やかに配置ができる。しかも時間に余裕があるから、慌てなくていいのだ。もしこれが大手のケーキ屋だったら、こんなにちんたらやってたら蹴飛ばされるが。お店にとっては140台のうちの1台だけど、お客さんにとっては唯一の特別なケーキ。箱を開けたときの笑顔を思いながら丁寧に飾り付ける。幸せな仕事だな。



今年のランチは初日にピザ、二日目にお寿司をごちそうしてもらった。一回目の受け渡しが終わり、二回目のお渡しケーキが完成したところで、店のシャッターを閉め小さなテーブルを三人で囲む。家族の話や仕事の話、将来の話や過去の思い出話。それからアトリエ結心の素敵すぎるお客さんたちの話。

うちのお客さんってみんないいひとなんだよね、っていうのがゆっこちゃんの口癖。でももちろん、偶然なわけではなく、こういうひとに来てほしいというゆっこちゃんの狙いがしっかり決まってるということだ。そして、その中にはランドセル背負って通りがかりに覗き込み、ゆっこちゃーん、と声かける可愛いお客もいる。私はみんなを見守ってるつもりだけど、実はみんなに見守られてるんだよね、とニコニコしてるゆっこちゃん。お金持ちにはなってないけど、やりたいことの150%ができてる、と言い切れるオーナーパティシエール、眩しすぎる。

それもみんな、家族の理解があるからだというゆっこちゃん。特に夫のMさんの協力は絶大で、私が娘の結婚式のケーキをゆっこちゃんに頼んだ際には、車で都内まで運搬してくれた。普段はゆっこちゃんのほうが帰宅が遅いので、夕飯をよく作ってて、だんだん腕を上げてくのが素晴らしい。
だけど、家族だからってなんでもわかってくれるってもんじゃないので、理解してもらえるようにきちんと努力して会話してることがすごいと思う。

私自身はしがないサラリーマンだけど、周りにはゆっこちゃんのように個人で事業をまわしてる才能あるひとたちが何人もいる。そのなかの何人かから、例えば子供の運動会、卒業式などに誰にも遠慮することなく仕事を休めるのが、個人事業主の特権だと聞いたことがある。なるほどそういう自由度は確かにあるだろうなと納得したんだけど、ゆっこちゃんは家族に対して、もし家族の誰かが急病になっても速攻で駆けつけることはできないかもしれない、と言ってあるそうで、なぜなら「誕生日や記念日の大切な瞬間にうちのケーキをオーダーしてくれたお客さんに、自分の都合でケーキ作れなくなりましたとは言えない。もちろん不測の事態になったら、考えられる最善策は取るけど、優先するのはお客さん。そういう覚悟でこの仕事してるんだよね。」って。

でも辞めるときはめっちゃいさぎよく辞めるとおもう、ときゃらきゃら笑うので、ヒロとふたり、いやいやこんなに楽しいクリスマスを取り上げんといてな、と押しとどめておいた。



今年は4月の娘結婚パーティのプチギフトラッピング、7月のアトリエ結心臨時スタッフお食事会、そして12月のクリスマスとたくさん一緒の時間を過ごすことができた。ひとの心を結ぶ、の屋号のパワーをあらためて感じる四年目の冬。

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