教団「二次元愛」

リアルワールドに見切りをつけ、二次元に生きる男の生き様 (ニコニコでは「てとろでP」)

試作機ってホントに強いのか?

2014-08-17 20:04:21 | 科学




「アニメやゲームなんかだと、試作機ってのはやたら強い場合があるけどさ、試作機ってホントに強いわけ?」

とはまあ、多くの人が1度は疑問に思うことなんじゃなかろうか。

兵器の話ではないんだが、実際に仕事で試作機ってのをホントに何度か作ったことがある我輩がそのホントのところを話したい。



試作機ってなぜ強いのか?

そう問われるならば、ゲーマーは
「試作機はコスト度外視で高性能なものを作ろうとした結果できたものであり、対して量産機は性能よりコスト優先で作られたものだからだ」
と答えたくなるはずだ。

だがそれは9割がた間違っている。

それが正しい1割の部分についてまず解説する。

試作機というのは試しに作ったらおしまいである。
あたりまえだがちょっとしか作らない。

なので、量産時にはイニシャルコストはかかっても量産コストは安くなる鋳物にする前提で、試作だけはイニシャルコストがかからない切削で作るなんてことはよくある。
また発注数量が100個と100万個だと単価が何桁も変わることもふつうであり、量産時には安くするという約束をとりつけた上で試作用だけは大幅に割高な値段で部品メーカーに発注することもふつうにやる。
だから試作機の制作コストは無視されている部分はたしかにある。

しかし。
「試作機はコスト度外視で高性能なものを作ろうとした結果できたものであり、」
というのは間違いだ。

量産コストの大半はアーキテクチャや設計の段階で決まる。
設計が済んだあとにコストダウンしようとしてもほとんど下げられない。

「試作機はコスト度外視で高性能なものを作っておいて、量産時にコストダウンしよう」
なんていうエンジニアがいたとしたら、そいつはあまり商品開発に従事した経験がないヤツだ。

要求時期が迫ってくると、どうしても発売日最優先でコスト軽視になってしまいがちではあるんだけどさ、まあそれはおいといてだな(笑)。

では!
どういう場合なら試作機というのがありうるのか?

モデルケースを2つほど考えてみた。



[1]
たとえば、ジオン公国第2位の実力者であるキシリア様の大のお気にいりの某大佐の強い要請で作られた、紙装甲でいいから3倍の速さで動くモビルスーツ。

これは非常に発言力の強い特定の顧客へのカスタム対応をあてがった試作機という場合に該当する。
だいたい特定の顧客へのカスタム対応品というのはよその会社にそのまま売れないので、それ専用という扱いにならざるを得ない。
ガンダムだってシャア専用ザクって言ってたじゃあないですか。

こいつはザクの塗装をデフォルトの緑から赤にしろというくらい注文が細かく、エンジニアはさぞめんどくさかったろうと心中お察しいたしまする。



[2]
たとえば、近接戦闘できるモビルアーマー作ったら最強なんじゃね?…ってコンセプトで試作したら、兵器としては使い物にならない駄作ができてしまい、試作のまま永久にお蔵入りするハメになったモビルアーマー。

なんでもそうだと思うが、とりあえず現物を作ってみないことにはわからないものというのはいくらでもある。
近接戦闘できるモビルアーマーは、モビルアーマーであるがゆえに可動部が少なく、それゆえに連邦軍の学生パイロットにまで攻撃が単調すぎるとナメられてしまう有様だった、悲運すぎる運命のザクレロ。
現実世界でたとえていうならパンジャンドラムといったところか。
こういうのを見てしまうと「作る前にそれくらい気がつけよwww」と言うかもしれないが、それはあくまで外野だから言えることなわけさ。

世の中には日の目を見ずにお蔵入りになる開発試作品などいくらでもある。



これだけ読むと
「試作機なんてロクなもんじゃないのか…」
と思うかもしれないが、唯一そうではない点がある。

それは、誰が作るかという点についてである。

試作機を作る意義は、ハード設計のバグ出しみたいなのが強い。
だから試作機だとマトモに動かないことはよくある。

ジオン軍だって、これまでより桁違いに出力を増強したバーニアを搭載したリックドムは試作機の燃焼ノズルの耐久性が低かった…という設計上の不具合が見つかったなんて史実があったとしてもおかしくない。
そういうのを見つけられたことこそ試作機を作った意義があったというものだ。

しかし。
試作機を作るのはエンジニアである。

エンジニアは、何をすればどういう不具合が出るのかをよく理解していて、無意識に製造工程上の不具合がなるべく出ないように試作機をくみ上げる。
なぜ試作機を作るのがエンジニアなのかというとだな。
工場の作業員に作業してもらうためには作業手順書を完備しておかなければならないのだが、
しかしながらその作業手順書は現物がないと書きにくく、
にもかかわらず現物を工場で作ってもらうためにはその作業手順書が必要…
という悪循環があるので、最初の1発目はエンジニアが作らざるを得ないことはよくあるということだ。

工場の作業者が日本人の場合、大変丁寧な作業をしてくれるものの、エンジニアではないので何をすればどういう不具合が出るのかという因果関係についての知識は無い。
その点をついた製造工程上の不具合が多発するケースはよくある。

いや、無いというか、工場側の管理職はそういうことまでいちいち自分たちが踏み込みたくないから設計者がそこらへん全部面倒見ろよというセクショナリズム感を強く感じる役割分担がなされたことによってそうなってしまっている面もある。
まあそれはおいといてだな。

たとえばモビルスーツでいうとだな。

通常ならねじ止め部分の材料と材料のすきまには空気があり、それによって余分に上昇する熱抵抗が決まるのだが、宇宙空間は真空であるためすきまにあった空気がなくなってしまい、地球上(またはコロニー内部)とはけた違いに熱抵抗が上昇する。
だからザクが宇宙空間でオーバーヒートするかどうかは装甲のとりつけかた1つで決まる。

そういうことをよくわかっていない作業者がアサインされてしまうとだな。
コロニー落とし目的でサイド5近海の宇宙空間へザクを投入した瞬間にあっという間に壊れるような不良品が量産されてしまうってぇこった。

これがエンジニアがハンドメイドで組み立てた試作機ならそんな問題は起きないはずだ。
唯一それくらいが試作機のいいところかな。






追伸:

「試作機と量産機とどっちがいい?」
と聞かれたら、
「コレクターズアイテム目的でないなら量産機のほうが絶対いい。さらに言えば、新しもの好きでないならファーストロットではないもののほうが絶対いい。そのほうが壊れにくい」
と、我輩ならそう答える。

絶対の自信をもって試作機をすすめられるのは、綾波レイか惣流アスカラングレーの使用済エントリープラグつき試作機の零号機か弐号機が手に入るときだけ…くらいじゃね?