悲しみよこんにちは。
今年のアカデミー賞の主演男優賞と脚本賞を獲得。この2つの栄冠はまさに本作の群を抜いて秀でた要素であり、至極納得の結果である。
映画は海を走る船のシーンで幕を開ける。乗っているのは3人の男性で操舵士以外の2人、大人と子供が船尾で釣りをしている。
会話から子供と操舵士が親子でもうひとりの大人は親戚らしいということは分かるが、名前は明かされない。
舞台は一転し、住宅街でアパートの修繕屋として細々と毎日を暮らしている男・リーの日常が映される。
仕事は器用にこなすものの顧客への気配りはまったくできず、覇気がないのかと思ったら時に感情を爆発させて周囲に当たり散らす始末。
観る側がリーの心の闇を十分に認識したところで、突然兄・ジョーの訃報が飛び込んでくる。
リーが車で向かった先こそが冒頭の港町マンチェスターバイザシーであり、彼が抱える苦悩のすべての源がある場所であった。
辛いことがあったとき人は様々な反応をする。悲しみに暮れたり、怒りをぶつけたり。しかしすべてに耐え切れなくなったときには消えてしまいたいと思うのかもしれない。
逃げるは恥だが役に立つというくらいで、本当に辛かったら逃げるのは有効な手段である。ただその後の自分をどう生きていくかが次の大きな問題として必ず立ちはだかる。
ジョーの死の後始末をすることで否応なしに過去の生傷と正面から向き合うことになってしまったリー。ただ、目の前の慌ただしさが先行するうちに、彼は今まで気づかなかった時間の経過を実感することになる。
本作の脚本で特筆すべき点は、悲しみに直面した人たちを個性豊かに描き分けているところにある。
ジョーの息子パトリックは最たるもので、父親が亡くなった直後の夜にガールフレンドを自宅に泊めてしまう。その後も別の女の子と親密になるなどリーの常識を遥かに超えた行動をとる。
ジョーの遺言でパトリックの後見人になってしまったリー。2人の凸凹ぶりは最初こそヒリヒリした空気を感じさせるが、やがてコミカルな関係に、ついにはお互いの心の拠りどころとなっていく。かつて同じ船の上で仲良くしていたときのように。
その他にも、リーの元妻や幼くして離別したパトリックの母親などが登場しては、それぞれの複雑な感情を吐露する。そしてその度に脚本は、こんな悲しみへの対処法もあるんだと優しく受け止める。
ラストも素晴らしい。優しい視線は保ちつつも、決して現実より極端に甘くせずに今後の登場人物たちにエールを送る。
物語を盛り上げた演出の効果も忘れてはいけない。
名前が明かされない冒頭と同様に、劇中でリーの過去の出来事が何の説明もなく幾度も挿入されるのだが、これらがまったく混乱することなく、むしろ現在の彼の心情を強く印象づける効果をもたらしている。
特に、苦悩の原因となった最大の過失に関しては、現在と過去を間隔短くフラッシュバックすることで極めて強い緊張感を生み出すことに成功している。
最後に主演男優賞に輝いたC.アフレック。一見して分かる派手なテクニックを用いたものではないが、過去の苦悩と現実の生活の狭間で微妙に揺れ動く感情を、抑えた演技で見事に体現して見せていた。
(90点)
今年のアカデミー賞の主演男優賞と脚本賞を獲得。この2つの栄冠はまさに本作の群を抜いて秀でた要素であり、至極納得の結果である。
映画は海を走る船のシーンで幕を開ける。乗っているのは3人の男性で操舵士以外の2人、大人と子供が船尾で釣りをしている。
会話から子供と操舵士が親子でもうひとりの大人は親戚らしいということは分かるが、名前は明かされない。
舞台は一転し、住宅街でアパートの修繕屋として細々と毎日を暮らしている男・リーの日常が映される。
仕事は器用にこなすものの顧客への気配りはまったくできず、覇気がないのかと思ったら時に感情を爆発させて周囲に当たり散らす始末。
観る側がリーの心の闇を十分に認識したところで、突然兄・ジョーの訃報が飛び込んでくる。
リーが車で向かった先こそが冒頭の港町マンチェスターバイザシーであり、彼が抱える苦悩のすべての源がある場所であった。
辛いことがあったとき人は様々な反応をする。悲しみに暮れたり、怒りをぶつけたり。しかしすべてに耐え切れなくなったときには消えてしまいたいと思うのかもしれない。
逃げるは恥だが役に立つというくらいで、本当に辛かったら逃げるのは有効な手段である。ただその後の自分をどう生きていくかが次の大きな問題として必ず立ちはだかる。
ジョーの死の後始末をすることで否応なしに過去の生傷と正面から向き合うことになってしまったリー。ただ、目の前の慌ただしさが先行するうちに、彼は今まで気づかなかった時間の経過を実感することになる。
本作の脚本で特筆すべき点は、悲しみに直面した人たちを個性豊かに描き分けているところにある。
ジョーの息子パトリックは最たるもので、父親が亡くなった直後の夜にガールフレンドを自宅に泊めてしまう。その後も別の女の子と親密になるなどリーの常識を遥かに超えた行動をとる。
ジョーの遺言でパトリックの後見人になってしまったリー。2人の凸凹ぶりは最初こそヒリヒリした空気を感じさせるが、やがてコミカルな関係に、ついにはお互いの心の拠りどころとなっていく。かつて同じ船の上で仲良くしていたときのように。
その他にも、リーの元妻や幼くして離別したパトリックの母親などが登場しては、それぞれの複雑な感情を吐露する。そしてその度に脚本は、こんな悲しみへの対処法もあるんだと優しく受け止める。
ラストも素晴らしい。優しい視線は保ちつつも、決して現実より極端に甘くせずに今後の登場人物たちにエールを送る。
物語を盛り上げた演出の効果も忘れてはいけない。
名前が明かされない冒頭と同様に、劇中でリーの過去の出来事が何の説明もなく幾度も挿入されるのだが、これらがまったく混乱することなく、むしろ現在の彼の心情を強く印象づける効果をもたらしている。
特に、苦悩の原因となった最大の過失に関しては、現在と過去を間隔短くフラッシュバックすることで極めて強い緊張感を生み出すことに成功している。
最後に主演男優賞に輝いたC.アフレック。一見して分かる派手なテクニックを用いたものではないが、過去の苦悩と現実の生活の狭間で微妙に揺れ動く感情を、抑えた演技で見事に体現して見せていた。
(90点)
ここが素晴らしいし、悩みやトラウマを体験した人たちの共感を呼びますね。
現実の厳しさをちゃんと描いてくれている。
そんなに簡単に傷は癒えないものだという現実を否定することなく
それでもあたたかく見守る優しさがあふれていましたね。
今年一番の映画でした。
悲しいことがあったとき、悲しい思いをした人がそばにいるときに、
どういう意識で対処すれば良いのかはとても難しい問題です。
もちろん答えは一つではないけれど、
様々に考えをめぐらせることで少しでも良い方向に近づけていけるのではないかと思いました。