Con Gas, Sin Hielo

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「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」

2017年04月08日 10時07分13秒 | 映画(2017)
愛と悲しみの破壊。


意味深な邦題が付けられているが、原題は"Demolition"=「破壊」。実にシンプルだ。

妻の死をきっかけに心の迷走を始める男の物語。原因は突然の変化に対する違和感と戸惑いである。

いちばん身近な人間を失ったのに何故自分は悲しみを感じないのか。主人公のデイヴィスは違和感を覚えながらも日常へ戻るが、これまで目に留まることのなかった事柄がやけに引っ掛かるようになったことに気が付く。

「心の修理も車の修理も同じ。隅々まで点検して組み立てなおすことだ」という義父の言葉を受けて、デイヴィスは気になった身の回りの物を分解し始める。もともと手先は器用ではない彼。そこには分解された部品が並ぶだけだった。

しかし彼の行動は収まるどころかエスカレートする。どうせ元に戻らないからであろうか、丁寧な分解は叩き壊す行為へ変わり、その対象は最初の違和感の元である夫婦関係へと移っていく。

デイヴィスは優秀な人間である。そして妻への愛がないわけでもなかった。それだけにうやむやにできない自然な感情が湧いてきたのかもしれない。

一度壊れたものが完全に元の通りに戻ることはまずない。破壊の果てにデイヴィスが知る真実は重いものであった。ただそれでも彼にとって真実を知る意味は大きく、誰を恨むでもなくすべてを受け入れて前へ進もうとする最後の場面には救われる思いがした。

迷走を続けるデイヴィスに寄り添うシングルマザーのカレンとの関係も印象的だ。奇妙な違和感を正直に語るデイヴィスに親近感を抱くも彼女にはデイヴィスを手助けする余裕などまったくない。

どんな関係に発展させたいという思惑がないままに交錯し影響し合う二人。一連の心の旅が一区切りした後も二人の距離が縮まらない流れには感心した。

不器用でも真っ直ぐに生きることが人々の共感を呼ぶということであれば、つい小賢しく振る舞いがちな自分にはやや耳が痛くなる話である。

主演のJ.ギレンホールの眼力は本作でも健在。違和感について熟考する静のときも、破壊行為に邁進する動のときも、台詞なしで奥深くの心の揺れ動きが伝わってくる様子は、まさに適役であった。

(75点)
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