Con Gas, Sin Hielo

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「ムーンライト」

2017年04月01日 20時31分50秒 | 映画(2017)
抜け出せないけど、少しだけ救われる。


今年のアカデミー作品賞や助演男優賞を本作が獲得したのは、昨年の「白過ぎるアカデミー」への反動やトランプ大統領を生んだ時代へのメッセージという声がある。

確かに本作は登場人物がすべて黒人であり、黒人社会に未だはびこる問題を深くえぐる力作である。

ただそのバックにはしっかりB.ピットが製作総指揮として名を連ねている。

ハリウッドはほぼ反トランプ一色のリベラリストが多数を占めており、その偽善的行動に対して時に嫌悪感を覚えることもあるが、本作の訴えは真っ直ぐ心に響いた。やはり大事と思うことをメッセージとして世の中へ発信することは重要だ。

黒人社会の中でも底辺と言うべき地域で暮らすシャロンの過酷な運命が、少年期、青年期、成人後の3時代に分けて描かれる。

少年期のシャロンは、学校ではいじめられ、母親は薬物に溺れて子供を育てるどころではない家庭状況にあった。いじめの現場に偶然立ち会った男性・フアンは恵まれない境遇のシャロンを気にかけ、いろいろなことを教えるようになる。

この話の何が重いかと言うと、シャロンの周りはすべて黒人の単一社会であるにも拘らず、格差の底辺に独りだけ閉じ込められてなかなか抜け出せないことにある。

黒人が同じ黒人に対して酷く当たる背景には、自分たちが虐げられているという自覚がある。そして比較的裕福なフアンでさえ、薬物の売人としてシャロンの母親を含めた多くの、おそらく黒人の人生を踏み台にして生きている。

少年期パートの最後の場面でシャロンはフアンに「薬物の売人なのか?」と尋ねる。フアンは正直に応えるが、あまりの恥ずかしさに顔を上げることができない。

しかしそのシャロンも巡り巡って行き着く先は同じなのである。わが国でも貧困の固定化が問題視されるようになったが、薬物、暴力、犯罪といった事象は、どう善悪を説いたところで一定の範囲において再生産されている。

シャロンは極めて劣悪な環境で育ったが、フアンとの出会い、そして唯一心を許せる級友のケヴィンという存在があった。

この2つの関係がなかったら、シャロンの人生は底が抜けて大人になることすら叶わなかったかもしれない。愛情によりシャロンは救われて、かろうじて再生産の軌道に乗ることができたとも言える。

最後の場面は、愛があればその日暮らしではあるけど何とか生きられると安堵する一方で、どうやっても再生産を超えた世界には辿りつけない閉塞感に心が痛んだ。

(80点)
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