アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

完璧主義

2024-03-30 17:41:08 | 思い
若いころ、食器を洗う時は使う前よりもきれいになるまで洗う、という言葉を聞いたことがあった。そうかそれがいいのだなと思って、長い間そんなことを真面目に心掛けていたりした。しかしよくよく考えてみると、これは噴飯ものである。モノは使えば必ず消耗する。いずれは壊れるなり摩耗して原形を失う。これは自然界の摂理であり、およそすべてのものに当てはまる。それなのにいったい誰があんなことを言い出したのだろう。まあ、だいたい想像はつくが。これには言葉の裏に、他を支配操作するという意図が隠れているのである。
私は生来、完璧主義的なところがあった。絵を描くにも、なにか作品を作るにも、だからこそかなり良いものができたと思う。それはそれでもちろんいいことなのだが、しかし行き過ぎるといけない。特に人にそれを求めてしまうと何もかもが面白くなくなる。またなによりそれにこだわりすぎると、事ごとにつけ自分自身を苦しめてしまう結果になる。楽しいはずのものを、苦しみながらやることになってしまうのである。
例えば農業を見てみれば、およそ完璧などという言葉はあって邪魔なだけである。完璧を求めても自然界は必ずその不自然さを修正しにくる。またそれでも押し通そうとすれば、自然の摂理を敵に回して必然的に化学物質や機械力に頼らざるをえなくなる。だから地球は今日このようにボロボロの姿になってしまった。そもそも人が農業に依存して暮らし始めたのは、たかだかこの数千年の出来事である。更にそれで健康になったかと言えば、かえって弱くなってしまっている。いったい「農業」というもの自体、果たしてヒトに必要なものなのだろうか。疑問に思うが、これはまた違うトピックになるのでここでは深く触れない。
人が「完璧」という言葉を使う時、それは往々にして完璧な人、完璧な仕事といったように、「非の打ち所の無い」「欠点の無い」的な意味合いで使う。しかし実際、そのような人やものごとはあるのだろうか。いや、無い。そんなのがいれば、世の中はその人だけで賄われてしまうので、他の人々の価値は無いということになってしまいかねない。そもそも先にも言ったように、自然界はある意味大きな輪の中で、他が他を補完し巡り巡るようにできている。例えば「完璧な雨」があればそこは水の底になってしまう。「完璧な乾燥」があれば、そこには元素しか存在できない。生命も循環も生まれない。この意味で「完璧」という言葉は、実際は存在しない、人が作った単なる概念に過ぎない。ただ思考するためだけの便宜的言葉の産物である。
もちろん他の意味で「完璧」という言葉が用いられるときはある。例えば宇宙の創造のメカニズムは完璧である。大自然は完璧に調和して存在している。斯くも多様な生物層を維持する地球本来の生態系は完璧である。などなど。しかしこれは通常私たちの使う「完璧主義」という言葉の意味ではない。
余談だが、私はあまり掃除はしない方で、去年母屋の床を張ろうと思って実に十数年ぶりに掃除機をかけた。したところ一つの個所、例えば箪笥を動かしてそこを掃除すれば、それだけで掃除機が満杯になるのである。一部屋掃除するのに何度も掃除機のゴミを出した。でも一方で、作業台の上などは、結構こまめに掃除している。このように(あまりいい例ではないかもしれないが)人はどこかに突き出たところがあれば、必ずどこかにその反対のところがあるものである。だからこそ大きな輪としての循環が成り立つ。なにも不得意なところを無理してやる必要はない。大勢で、互い互いに補完し合えば済むことである。もともと人は単体で生きるようにはできていない。
自分の完璧主義が、他ならぬ自分自身を苦しめる元だと気づいたときに、私は自分から「完璧主義」を外すことに決めた。それからは適当に、無理なく、気楽に生きようと心掛けている。もちろん好きなこと、例えばモノ作りやなにやらで、今も細かいことを追求することはあるのだが、それはそれであくまで趣味や好みの範疇だと割り切ってしている。そう思うことで、自分のズボラさを許し、他の人のすることも受け入れることができるようになる。大きな視点で物事を見ることができる気がする。

大昔、地上に降り立った支配者たちは、奴隷たちを使役する便のために「完璧主義」という概念を組み入れることにしたのだと思う。そしてそれがあたかも素晴らしいこと、称賛されるべきこと、美徳であるかのように彼らの信念体系を調整した。その結果、奴隷たちの生産性は向上し、他の動物では見られないほどの成果を得たし、また使役するにも楽になった。「完璧主義」という一見素晴らしいことのように見える信念の陰には、そのような意図を感じてしまうのである。
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