朝、外に出るなり冬を感じた。
手の甲がぴりぴりと痛い。
鶏小屋の水鍋がこの冬初めて凍り付いていた。
まだ雪こそ積もってないけれど、季節はもう紛れもなく冬になっている。
昨日に続いて、先日の嵐でだいぶ綻びてしまった鶏小屋の風除けカーテンを修繕する。
飼料袋を縫い合わせて作った手製のカーテン。
吹雪から鶏たちを守ってくれる、彼らにとって唯一の防寒具だ。
今の時期は、家の中も外も、人も動物も植物も、 . . . 本文を読む
これが、30年の栗の木、
そしてこれが、20年さ。
お爺さんは言った。
そして丸太になった栗の木の肌を手で撫でる。
30年と教えられた木は、根株のところで直径50センチほどか。
生々しい切り口に命の色が見て取れる。
私は今朝急に近所のお爺さんの依頼を受けて、
彼が自分ちの裏山で伐り倒した栗の木を運び出しているところだ。
細い部分は既にトラクターで引っ張り出されているが、
問題は根元の方の太い . . . 本文を読む
障子を開けて顔を出したのは、カツ子のお婆さんだった。
マルも小さい時からこのお婆さんを知っている。
かなり気難しい人で、マルもカツ子もよく怒られたものだ。
確か病気になって、どこかの病院に入院したという噂を聞いたことがある。
お婆さんは、深くお辞儀して部屋に入って来た。
「あ、どうも、お邪魔してます。」
マルの挨拶を気にする風もなく、お婆さんは言った。
「どうも、おばんでがす。
いっづもカツ . . . 本文を読む
晩秋、
山里の夕暮れは早い。
日中暖かいと思っても、午後3時ともなるともう陽は山の端に隠れてしまい、
家も畑もすっぽりと日陰になってしまう。
陰の部分は見る見るうちに広がり、やがて西の空は鮮やかなオレンジ色に染まり始める。
マルは幼馴染みのカツ子の家に遊びに来ていた。
彼女とはお互い中学のソフトボール部でバッテリーを組んだ友達同士だ。
隣りだったから、子どもの頃から何かにつけて一緒に遊んだ . . . 本文を読む
この間ぁ 堆肥の山を切り返してたら
土の中から かぶとむしの幼虫が
ころころ ころころ
転がり出して来たわいな
もう枯れかけた草っぱの上に
真ん丸い姿のままで
なんかのお菓子のように
ころころ ころころ
後から後から出て来たわいな
機械で切り替えしてたから
あわや潰しちゃいかんと思い
何度も 何度も 降りて行っちゃあ
かぶとむしの拾い集め
ひょいひょい ひょいひょい
何十となく拾 . . . 本文を読む
よく「仕事は何をしてるのか」って訊かれるけれど、
確かに私のしていることは世間一般の「職業」の範疇に当てはまらないかもしれない。
今やお金を介さない「暮らし」のための「百姓」は、農業には含まれないようだし、
たつきを得るための業からすれば、
強いて言えば「何でも屋」みたいなものだろうか。
今まである仕事頼まれる仕事を、なりふり構わず「何でも」して来たようなものだから。
昨日からは暗きょを掘ってい . . . 本文を読む
鳥になりたい 雲に乗りたいと思っていた
夏の日を思い出す。
幼い頃の蒸し暑い日
縁側に切り取られた青い空に
ぼくの心は羽ばたこうと
もがいたのだったよ。
夕陽が当たって
薄暗くなるまで
もがいていた。
それからこの方
ブラウン管に映る仮面ライダーに
スペシウム光線を放つウルトラマンに
白馬に跨る変身忍者に
ぼくはなりたいと思い続けてきた。
愛と誠の主人公に
冒険好きな大金持ちに
涙の恋のヒーロ . . . 本文を読む
そろそろ明るんだ寒い朝
田中の道をスコップ下げて
犬のスヌーピーと一緒に歩く
田んぼに降り敷いた真白い霜の葉
もうからだ中で
冬を感じるよ
その中を駆け回るスヌーピーも
いつしかこの景色に馴染んでしまった
3週間も前に頼まれていた暗きょの仕事
ジッちゃんの田んぼは水はけが悪くて
なかなか乾かない
今朝もスコップで側溝を掘る
田の下20センチはもう石だべや
石に泣いてきたこの
この人たちの哀 . . . 本文を読む
ふとマルは、我に帰った。
炬燵に寝転びながらうつらうつらしているうちに、
どうやら夢を見たようだ。
でも、それは普通の夢とはどこか違っていた。
あ、そうだ。
あれはうちの猫たちがまだたくさん生きていた頃に、
実際に起こった出来事だった。
どうしてそれを10年も経った今、夢に見たのだろう。
マルは今、ひとりで東京に暮らしている。
中華料理店でアルバイトをしながらのアパート暮らし。
今はたまたまちょ . . . 本文を読む
ヨイショのふぎゃふぎゃ
ふふふのふ
もひとつふぎゃふぎゃ
うにゃにゃのにゃ
夜中に目が醒めたら、外で声がしていた。
マルが小学2年生の夏休み。
みんなが寝静まった真夜中、何かしら大勢で掛け声を掛けているみたい。
その声は遠くのようでいて微かに、
風に漂うように聞こえてくる。
なんだか眠気も吹き飛んでしまったので、マルは外に出てみることにした。
その声にはリズムと抑揚があって、何とも言えない面 . . . 本文を読む
ぬばたまの 常世の闇の 黒き淵
月と見えしが
月にあらざる・・・
漆黒の闇夜に女の悲鳴が響き渡った・・・・・
最近この界隈に、発狂する者が多いという。
ごく当たり前の人間が、ある時急に変わり、
欲望を丸出しにして、人に襲い掛かったり物を盗んだり、
果ては殺人さえも犯すという。
そういう発作的というか、発狂的というか、
そんな事件がこのところ立て続けに起こるようになった。
最初それがひ . . . 本文を読む
今朝は畑から大根を抜いて
堰の水でよく洗い
稲藁で2本ずつ結わえて
軒下の長木に吊るした
ずらりと並んだ大根の列
つい5日前に比べて今朝の水は
随分と冷たく感じる
藁を繰る指が
凍えてうまく動かない
今年も知らないうちに秋が来て
風が巡り木の葉が色づき
溜池の水がもうこんなに冷たくなったんだ
盛岡では、昨日初雪が降ったそうな
こうしていつの間にか
今目の前のこの世界も
次第に雪に覆われて . . . 本文を読む
BLOGをしてる人間は
寂しいんじゃないかって思った。
ひとりっきりの冷えた部屋で
洗い終わらない洗濯物を気に掛けながら
うわっ滑りな酒を飲む
今こんな時にBLOGをする人間は
きっとそうなんだろうなって
思った。
醤油差しも、とんかつソースもなんだか
笑ってるみたいさ
可笑しいよ。
コーヒーカップに酒をついで
そのカップも、しばらく洗ってなかったりする
毛玉の思いを喉元に引っ掛けながら
夜更 . . . 本文を読む
八ヶ岳山中
今しも高圧鉄塔を押し倒し、足元の樹林を踏み潰しながら麓の町に向けて移動する巨大ロボットに、
オーブクローラーのレーザービームが吸い込まれる。
貫通したレーザービームは足下の藪を焦がす。
ネズロボットは動きを止め、徐々に内部爆発を誘発し出した。
そして大音響とともに、ロボットは粉々に砕け散り、
樹海の藻屑と消えた。
「なんなんだよ、アイツ。
ガラが大きくて、頑丈だけがとりえのロボ . . . 本文を読む