テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ジョニーは戦場へ行った

2007-12-12 | 戦争もの
(1971/ダルトン・トランボ監督・脚本/ティモシー・ボトムズ、キャシー・フィールズ、ジェイソン・ロバーズ、マーシャ・ハント、ドナルド・サザーランド、ダイアン・ヴァーシ/112分)


 <ネタバレあります>

 封切時に観て、大変衝撃を受けた作品。但し、同時に翻訳本も読んだので、強い印象を残したのが映画のせいだったか、本のせいだったか、はたまた残酷な題材のせいか自分でも分からなくなっています。
 今年、初めにNHKーBSの録画で再会しました。【原題:JOHNNY GOT HIS GUN

*

 第一次世界大戦に参加したアメリカの若者が主人公。オープニング・タイトルのバックでは勇ましいドラムの音が鳴り続け、映画の開始早々、雨中の戦場の若者めがけて落下音と共に爆弾が落ちてくる。思わず、エッ!と絶句するが、次のシーンは病院の中だ。

 若者はベッドの上。横たわっているが、脚は見えない。お腹の上にカゴを被せたような形に布を膨らませて覆い、顔にも白い布が顔の表面から浮かすように被せてある。
 若者のモノローグが始まる。
 ここはどこだ? 周囲の状況を少しずつ確認していく。このプロセスが恐い。

 若者には脚がない。爆弾に飛ばされたのだ。両腕もない。そして、なんと口もない、鼻もない。胴体と性器はあるようだが、口と一緒に喉も声帯も飛ばされちまったので、話すこともできない。(はっきり覚えてませんが、確か耳も聞こえないはずです)
 想像してください。自分がそんな状態になったことを。身の回りを認識するのは、寝ているベッドを揺らす振動、それと肌に伝わる空気の感触だけです。
 つまり意識はあるのです。前頭葉もしっかり残っているので、考えることも出来るのです。しかし、その事、自分には自分の状態が分かっているというその事を伝える術がないのです。むしろ、何も感じない方が幸せかも知れない、そう思ってしまいます。

 この病院の担当医も、この若者にはすでに意識が無く、ただ息をしているだけ、時々動くのも神経の作用だと思っています。ただ一人、若者を担当している看護婦だけが、あることから彼には意識があり、コミュニケーションをとろうとしていることを知ります。

 暗い部屋はイヤだ。夜中にネズミが顔の周りをうろつくような所はイヤだ。窓のカーテンも昼間は開けていて欲しい。そうすれば、“今”が昼なのか、夜なのかが分かるから。昼にはガラス越しに差し込む陽の光が額を暖めるから気持ちいいのだ。

 しかし、看護婦から彼が意志を持っていることを聞かされた医者は、その事を公にしないように言う。公表するにはあまりに残酷だし、またとない研究材料なのだから・・・。

*

 反戦映画ですな、明らかに。
 ラストは、「ノー・マンズ・ランドド」のように、虚しく、苦しい思いだけが残り、戦争への怒りが沸々と湧いてくるわけです。

 50年代の赤狩りによって、ハリウッドを追われた脚本家ダルトン・トランボが、自らの小説を生涯ただの一度だけ監督をした作品。1971年のカンヌ国際映画祭で、審査員特別グランプリを受賞したそうです。

 現在の病院の中のシーンはモノクロ。ベッドの上の彼が思い出す、出征前の色々な思い出、幻想的な夢や空想はカラーで描かれています。
 幻想のシーンには明らかにキリストをイメージさせる男(サザーランド)が出て来ますが何の救いにもならず、これは神の不在或いは無力を意味しているのでしょう。
 過去の思い出では、出征前にぎこちなく彼女とベッドを共にしたこと、父親と魚釣りに行ったこと等を思い出します。
 このまま生きて帰った時に、父親に見世物として晒される夢もみます。勿論、これは自虐的な夢で、父親はそんな事をするはずはありません。

 数十年ぶりに今年観た印象は、モノクロとカラーを使い分けたり、幻想や夢のシーンを織り交ぜたりしているが、画の構成には技巧的なモノは見当たらなかったこと。それに正攻法の迫力を感じるか、物足りなさを感じるかで評価が別れるでしょう。
 幻想シーンのエピソードは、それ程効果的ではなかったように感じました。

・お薦め度【★★★=強烈な反戦映画、一度は見ましょう】 テアトル十瑠

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8 コメント

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もう・・・・ (viva jiji)
2007-12-12 10:40:51
どうにも、こうにも、なんとも・・・・

ああああ~~~~・・・

思い出すだに凄い映画でしたね。

読みましたよ、私も、原作ぅ。

71年ですかぁ~~~

「ジョニーは戦場に行った」
この題名もすばらしい。

傑作!と言わせてください。

十瑠さんのグッド・チョイス、
読ませていただきました。
ありがとうございます。
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反戦映画 (十瑠)
2007-12-12 13:50:39
幾つも作られているのに、今だに世界中で銃声の聞こえない日はない。
バルカン半島から、いつまでも火薬が無くなりませんね。

「アビス」の異星人達に、ガツン!とやって欲しいくらいですなぁ
返信する
以心伝心? (オカピー)
2007-12-12 15:12:58
おおっ!
今日私めは、銃器が席捲する世界を風刺した「ロード・オブ・ウォー」をUPしましたですよ。テレパシーというか、以心伝心というか、偶然というか(笑)、viva jiji姐さんとはよくあるのですが、十瑠さんとは初めてかなあ。

以前十瑠さんからコメントも戴いた記事をTB致しました。
私が満点を付けなかったのは余りにも凄惨だから。ショックの度合いから言えば、満点でしたよ。

技術を駆使しないのが本作最大の技術であると、思います。最近の作品とは全く逆ですね。
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おぉ! (十瑠)
2007-12-12 16:04:56
「ロード・オブ・ウォー」はニコラス・ケイジの映画ですな。観てないですが、ブラックな反戦映画のようですね。

>viva jiji姐さんとはよくあるのですが・・

私はアップの件数が少ないので、なかなか。
「野いちご」はほとんど同じ日でしたネ。

>技術を駆使しないのが本作最大の技術であると、思います。

30年ぶりでしたが、カラー映像のエピソードがしっくりきませんでした。ゆっくりと観れなかったのかも知れません。(^^;)
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SOS・・SOS・・ (anupam)
2007-12-12 22:50:18
ジョニーの発信するメッセージは誰にも聞こえません。「SOS、誰か自分を殺して欲しい・・」

そんな叫びは誰にも受け止められることなく、彼は「物」として生かされ続きます。

こういうことって本当に実在したのかも・・ホラーなんか吹っ飛ぶ本当の恐怖と哀しさ・・

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実話がモデル、ですと (十瑠)
2007-12-13 09:30:54
goo映画の解説に原作は、「戦場で両手、両足、耳、眼、口を失い、第1次世界大戦が終わってから15年近く生き続けたイギリス将校が実在したという事実をヒントに、ダルトン・トランボが1939年に発表した小説」と書かれています。
第二次大戦前の発表ですから、当時の戦意昂揚ムードにはマイナスに働いたでしょうね。ハリウッド・テンに選ばれた訳は其処にあったのでしょう。
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記事を書く時に初めて (宵乃)
2016-02-09 12:00:57
DVDのパッケージを見て、勝利と平和を意味するピースサインに考えさせられました。
戦争が終わっても、彼の孤独との闘いは続くんですよね…。本当に戦争なんてなくなってほしいです。

上の十瑠さんのコメントで、実際に彼と同じような兵士が15年近く生きたと知って、さらにラストの絶望感が…。
せめてお日様とあの看護婦さんを返してあげてほしいです。
本当にインパクトのある作品でした。
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ピースサイン (十瑠)
2016-02-09 17:58:47
今どきはV(ブイ)サインと認識している若者もいるんじゃないかと思ってます。
なんだかなぁ。

>ラストの絶望感が…。

積極的に再見したいとは思わなくなってしまって。
でも一度は観るべきとお薦めはしますね。(★★★)
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