テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ポケット一杯の幸福

2009-04-23 | コメディ
(1961/フランク・キャプラ監督・製作/グレン・フォード、ベティ・デイヴィス、ホープ・ラング、ピーター・フォーク、トーマス・ミッチェル、アーサー・オコンネル、アン・マーグレット、ミッキー・ショーネシー、エドワード・E・ホートン/136分)


 キャプラが初めてアカデミー賞にノミネートされた「一日だけの淑女(1933)」をセルフリメイクした作品。未見の前作は白黒ですが、今作はカラー。どうやら遺作のようであります。
 台詞と役者のアンサンブルで魅せる人情コメディで、最後の奇跡的な展開には思わず涙ぐんでしまいました。【原題:POCKETFUL OF MIRACLES】

 禁酒法時代のニューヨークから話は始まる。
 施設出身でニューヨークのギャングのボスにまで上り詰めたデュードにはジンクスがあって、何か大事な事を始める前には必ずリンゴ売りの老婆アニーからリンゴを一つ買うことにしている。アニーに言わせるとリンゴの中に妖精がいて、妖精は彼を好いているらしい。
 ある日、仲間の葬式を済ませてそいつの身辺整理をしていると一人の娘がやって来る。田舎町からやって来た彼女は死んだ仲間の忘れ形見で、デュードは一計を案じて彼女を目玉にしたキャバレーを開く。店は彼女クィーニーの人気もあり大当たりを取るが、やがて禁酒法が無くなり店も閉じようとする頃、シカゴの大ボスがニューヨークを乗っ取りにやって来る。
 さて、リンゴ売りのアニーには秘密があって、若い頃に授かった一人娘をスペインの修道院に預けており、毎月仕送りをしていた。成人した娘ルイーズに母親は自分は上流階級の人間だと嘘をついており、仕送りにはNYの一流ホテルの便せんを使った手紙を添えていた。ホテルのポーターと懇意にしており、彼の助けを借りているわけだ。ところが、最新のルイーズからの手紙で彼女がスペインの伯爵の息子と恋仲になり、彼氏とその父親を連れてニューヨークに会いに来ると知らせてくる。
 デュードはシカゴの大親分との交渉に臨むのでアニーのリンゴが必要なわけだが、肝心のアニーは絶望の淵で落ち込んでいる。アニーの仲間に頼まれ、クィーニーに諭され、デュードはアニーを1週間だけ上流階級の貴婦人に仕立て上げようとするのだが・・・。

*

 デュードに扮するのが製作にも関わっているグレン・フォード。西部劇から現代劇、シリアスなものからコメディまでこなす人で、昔はテレビの洋画劇場でよく見かけた俳優です。「アメリカングラフティ」でも流れた、ビル・ヘイリー&コメッツの「♪ロック・アラウンド・ザ・クロック」が使われた事で有名な「暴力教室」が割と知られている作品でしょうか。
 強面ながら人情にも厚い成り上がりのギャングが、シカゴの大ボスを相手にしながら老婆の心配もする。フォードにぴったりの役で、ゴールデン・グローブの男優賞(コメディ/ミュージカル)を獲得したそうです。

 デュードといつも行動を共にしているのが子分役のピーター・フォークと運転手役のミッキー・ショーネシーで、この三人のやりとりがトリオ漫才のようで笑わせる。特に親分のリンゴ頼みが気に入らないフォークが絶妙な可笑しさで、この年のアカデミー賞では助演男優賞にノミネートされたほど。なんと言っても「刑事コロンボ」が有名ですが、元々はこういうギャング役が多かった人ですね。

 リンゴ売りのアニーには大女優ベティ・デイヴィス。薄汚い老婆が貴婦人へと華麗に変身するのが見所で、娘の将来を思う母親の愛情も切実に表現されていました。貴婦人になってからの表情には気品と共にどことなく怖さも。翌年に、怖い怖い「何がジェーンに起ったか?」に出演してからは、演技的も恐ろしい女性の役が増えましたね。

 クィーニー役のホープ・ラングは昔から名前は知っているけれど、あまり印象のない女優さんです。初登場シーンでは生真面目な田舎娘だったのが、すぐにキャバレーの踊り子に変身。どちらもいけてる感じなんですが、顔に派手さが無いのが印象の薄さの原因でしょうか。モンローの「バス停留所(1956)」がデビューで、「プレイガール陥落す(1962)」ではシャルル・ボワイエの、「嵐の季節(1961)」ではエルヴィス・プレスリーの相手役でした。「狼よさらば(1974)」ではチャールズ・ブロンソンの奥さん役で、D・リンチの「ブルーベルベット(1986)」にも出ているようです。

 キャプラの「スミス都へ行く(1939)」、「素晴らしき哉、人生!(1946)」、先日紹介したJ・フォードの「駅馬車(1939)」にも出ていたトーマス・ミッチェルは、貴婦人となったアニーの仮のご亭主を演じる詐欺師の役。弁が立って知識の豊富な元判事という設定で、演技スタイルは「駅馬車」の酔いどれ医者とそっくりでしたが、似合ってました。

 アーサー・オコンネルはスペインの伯爵でルイーズの彼氏の父親役。
 ルイーズは、今作でデビューのアン・マーグレットでした。若い!!

 裏ネタですが、デュードのアパートに使われたセットは、「めぐり逢い」でデボラ・カーの部屋に使われたのと同じものじゃないでしょうか。ソファの位置まで一緒でした。
 デュードが在米のスペイン領事館の日本人雑役夫の真似をして電話をかけるシーンがあります。未見なんですが、沖縄が舞台のフォード主演作「八月十五夜の茶屋(1956)」との関連は?なんて勘ぐってみました。



▼(ネタバレ注意)
 デュード達の苦労が実って、伯爵はルイーズと息子の結婚を許すが、二人の婚約発表のためにアニーの友人達を招いたパーティーを開きましょうと言ってくる。つまり、アニーが当然付き合っているだろうニューヨークの名士達を集めなくてはいけないわけだ。それも100人。
 デュード達は子分を集めてにわか仕立ての紳士淑女を作ろうとするが、いざ当夜になって、警察が何事か計画しているらしいデュードを見張っているのでパーティーに出かけられない。
 やけくそになったデュードは全てを警察署長に打ち明けるのだが・・というのが終盤の落ちに続く。

 クィーニーと同じように、最後の奇跡には泣けてしまいますが、シカゴの大ボスとの駆け引きも上手くいってクィーニーとデュードもめでたしめでたし、というラストでした。
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・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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