テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

魚が出てきた日

2015-03-25 | コメディ
(1967/マイケル・カコヤニス監督・脚本・製作/サム・ワナメイカー、トム・コートネイ、コリン・ブレイクリー、キャンディス・バーゲン、イアン・オギルビー、ディミトリス・ニコライディス/110分)


 ギリシャの地中海に浮かぶ小島、カロス(仮名)島。
 ロードス島等と同じく穏やかな海に囲まれ、暖かな気候に恵まれているが、残念ながら自国の観光会社のコンピューターにもこの島のデータは皆無に等しかった。なにせ島全体が岩だらけのゴツゴツした殺風景な地形だったからだ。
 ある日、極秘任務を帯びたアメリカ軍の飛行機がこの島の上空で故障を起こし墜落せざるを得なくなった。二人のパイロットは二個の水素爆弾と核燃料を入れた金属製の箱にパラシュートを付けて落下させ、自らも脱出することに成功した。爆弾の一個は岩場だらけの磯に落ちたが、浅瀬でパラシュートも浮かんでいるので回収は可能であった。
 小舟で釣りをしていた島の若い漁師と散歩中の老人が海に墜落する軍機を見たと島のお巡りさんに報告し、警官も上層部に連絡をとったが極秘の軍用機の運航報告があるはずもなく、結局は幻でも見たんだろうと相手にされなかった。
 
 1966年にスペインのパロマレスで発生した米軍機墜落事故の二の舞はごめんだと、米軍当局は一計を案じた。
 観光ホテル業者がカロス島に進出、ホテル建設の事前準備にやってきたと見せかけ、爆弾等の回収を図ろうというわけだ。若い軍人達が白縁サングラスに派手な衣装の若者に扮し、地元の有力者の歯医者に接触しつつ情報を集め、爆弾が落ちたであろう場所に向かうのであった。
 一方、命からがら島に泳ぎ着いた二人のパイロットは、どちらもブリーフいっちょの格好でギリシャ語も話せない。同じアメリカ軍人の若者がすぐ近くにやってきても、そうとは知らない彼らはブリーフ一つの説明が出来ない為に大きな岩の間を右往左往するばかり。はてさてどうしたものか。

 そんな中、島のヤギ飼いの男が金属製の箱を見つける。どこかの金持ちが島に隠していた金庫が何かの拍子に出てきたんだろうと解釈した男は、独り占めをしようと女房と力を合わせて家に持ち帰るのだ。
 放射能が漏れないように分厚い特殊な金属で囲まれた箱で、到底ヤギ飼いの手におえる物ではないはずだったのだが・・・。

*

 映画の時代設定は1975辺りだったそうですが、ヒントを得た墜落事故の一年後にこういう作品を作り上げるバイタリティというか、思い切りの良さが凄いですネ。
 初めて観たのが確かTVの「月曜ロードショー」。その後にもう一度くらい吹き替え版を観たような気がするんですが、先日中古DVDを見つけて購入、いずれにしても数十年ぶりの鑑賞であります。今にして思えば月曜ロードショーの放送も1970年前後ですから結構早いTV放映だったんですねぇ。

 怖いお話でありながらコメディタッチで見せていく。このセンスが好きな作品です。
 ブリーフ一つで、しかも裸足で堅い石ころだらけの島をウロウロするパイロット二人は、その恰好だけでも笑えるのに、二人の性格の違いから生まれる衝突も人間臭くて笑えるし、ホテル業者に扮して島に乗り込んだはいいものの、お蔭で観光客が集まるかもと期待した島の村長らの思惑が波及して、そっと作業をしたかった軍人たちには不都合な事に、あちこちから観光客が集まってくるという皮肉も可笑しい。
 そして、彼らのシークエンスと共にカットバックされるのがヤギ飼い夫婦の金属箱との格闘記。斧で打ったり、歯医者から盗んだ治療器で穴をあけようとしたり。
 大きくはこの三つの話がパラレルに語られることになります。
 そこに、歯医者と人妻の不倫やら、ホテルマンから金をせしめようとする島民たち、浮かれ気分でやってくる観光客の様子などが群像劇のように描かれていきます。
 島の連中に道路整備の仕事を与えたお蔭で、遺跡が発掘され、その遺跡発掘事業に関連してやってきた連中が持ってきた道具がヤギ飼い夫婦に渡って最悪の事態になっていくのでした。

 サム・ワナメイカーは軍人たちのリーダー。
 トム・コートネイとコリン・ブレイクリーがパイロット二人組です。
 キャンディス・バーゲンは遺跡発掘に関連してやってくる派手な男好きの女性で、イアン・オギルビー扮する若い軍人とイチャイチャします。
 ディミトリス・ニコライディスはギリシャ版ミスター・ビーンみたいな歯医者さんでした。


 



 放射能の問題は今も切実ですし、今後も数十年、いや百年単位で向き合わなくてはいけないものでしょうから、いまだにテーマとしては古くないかもしれませんな。
 ギリシャ人の描き方も今考えると結構シニカルで、経済破綻問題もさもありなんと思わせて、なんともはや・・・。
 観光客らが踊り狂っていたダンスは何というんでしょうか?ほぼ記憶にない踊りでした。

 お勧め度は★三つ半。観光客の扱いが割と大雑把で間延びした気分になるのが減点分でしょうか。
 お話の構成、マッチカットやらシーン転換のセンスなど好きな感覚なので★半分おまけです。


・お薦め度【★★★★=ブラック・コメディ好きの、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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5 コメント

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弊記事までTB&コメントありがとうございました (オカピー)
2015-03-26 15:09:58
放射能を扱ったコメディーでは「博士の異常な愛情」に次いで記憶されるべき作品でしょうねえ。

1950年代から60年代にかけては冷戦で核戦争の恐怖が世界を覆っていたのでしょう。
黒澤明も関連作品を作っていますし、ミケランジェロ・アントニオーニが「愛の不毛」をテーマにした作品群を作ったのもこれに無関係ではないと思っています。

勿論核戦争の恐怖は今でもあるわけですが、もっと現実的な問題として原発があり、日本では暫くこのテーマの映画がぽつりぽつりと作られていくのではないでしょうか。
先日アップした「家路」もその一つですが、ご覧になった方は少ないらしい。日本人は本当に忘れっぽいのですね。実はわが町も福島県から持ち込まれた、放射能に汚染した物質を抱えて困っているのであります。

>経済破綻
大昔なら破綻しても対岸の火事でしたが、グローバル経済なので、僕の持っている投資信託に影響が出やしないかヒヤヒヤする日々。
そうした事情で失業率が高く、移民排斥問題で、排斥反対を訴えた歌手が殺される事件があったようです。
ギリシャ人も困ったちゃんです。
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オカピーさん (十瑠)
2015-03-27 18:37:51
ちょいと出かけてまして、返事が遅くなりました。

>「博士の異常な愛情」

お恥ずかしいですが、この超有名な作品も未見なのであります。いつでも観れる安心感が・・・。それとキューブリックだと構えてしまう傾向があるようです(^^)

>ギリシャ人も困ったちゃんです

観光業頼りがモロに表現されていたり、官憲の高圧的なのも「Z」を髣髴とさせたりしてネ。
返信する
キャンディス (anupam)
2015-03-28 10:54:49
若くてかわいい画像ですね~

でも、昔のインタビューでこの映画に出たことには触れて欲しくないって言っていたような記憶あり。

私は未見でわからないんですけど、なぜなんだろ?
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役柄が (十瑠)
2015-03-28 11:50:00
なんも考えてない、男漁りを続ける、ただの肉食系女ですから、なんじゃないでしょうか。
それか、撮影裏話的に嫌なことがあったとか・・・。

>若くてかわいい画像ですね~

可愛らしい上半身ですが、以外にも腰回りとか太ももとかズキュンとするくらいセクシーでおました。
返信する
「魚が出てきた日」について (風早真希)
2023-07-03 10:54:32
英国の俳優のトム・コートネイが大好きで、彼が出演しているので、この映画「魚が出てきた日」を観ました。
彼が出演した「ドレッサー」での名演技は、今でも心に深く残っています。

この映画「魚が出てきた日」は、「その男ゾルバ」「エレクトラ」等で知られるギリシャ出身のマイケル・カコヤニス監督の問題作ですね。

この映画の冒頭、スペインのフラメンコダンサーが登場して「原爆が落ちるのはスペインだけとは限らない」みたいな歌を唄います。

そして、舞台はギリシャの貧しい島に移り、その上空で爆撃機がトラブルを起こし、トム・コートネイとコリン・ブレイクリーのパイロットは、積荷の核爆弾2基、高濃度の放射性物質を閉じ込めた金属製の箱をパラシュートで落下させ、自分たちもその後を追って飛び降りるのです。

この件は、1966年1月17日、スペインのパロマレスという村の上空で、4基の核爆弾を搭載した米軍のB-52が事故を起こしたが、爆弾はパラシュートで落としたため、事無きを得たという事件が、実際に発生していたんですね。

この1年後に、その事件をいち早く頂戴して、近未来を舞台にSFブラックコメディに仕立てたのが、この「魚が出てきた日」なんですね。

二人のパイロットは、当局と連絡を取ろうと右往左往。
違うルートで墜落の情報を得た当局の連中は、ホテル業者を装って島に乗り込み、開発という触れ込みで、島の一部を買い取り、爆弾と金属の箱探し。

どうにか2基の爆弾は回収出来たが、最もヤバイ金属の箱がどうしても見つからない。
では、その箱はというと、貧乏な羊飼いの夫婦がこの箱を発見し、お宝に違いないと思い、こっそりと家に持ち帰り、あらゆる手を尽くして開けようとしていたのだ--------。

真っ赤に日焼けし、パンツ一枚の姿でお腹を空かして、うろうろする二人のパイロット。
ド派手なリゾートファッションに身を包み、その状況をエンジョイするホテル業者に化けた兵士たち。

そんな彼らの出現に、島の未来を確信して浮かれまくる村人たち。
新しいリゾート地登場という情報を得て、徒党を組んで詰めかける観光客-----そんな様子が過剰過ぎるほどデフォルメされたマイケル・カコヤニス監督の演出で描かれていきます。

一応、舞台が近未来なので、衣装も未来仕様だが、今見るとシルク・ドゥ・ソレイユっぽいサーカス風で、派手過ぎて滑稽なくらいだ。

こういう描写が長いので正直、観ていて疲れるのだが、羊飼いがひょんなことから金属の箱を開ける方法を見つけたあたりから、そういう疲れが吹き飛ぶような展開が待っている。

とりわけ、原発事故が継続中の今の日本では、この展開はあまりにも怖すぎますね。
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