帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (三十三と三十四)

2012-04-05 00:08:32 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 紀貫之の云う「歌の様」を知らず「言の心」を心得ないで、近世以来、解き明かされてきたのは歌の清げな姿のみ。歌の「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解け、生々しい人の心が「浮言綺語の戯れのような歌言葉のうちに顕れ」、貫之の云う通り「絶艶の草」と実感できるでしょう。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(三十三と三十四)


 わがせこが衣はる雨ふるごとに 野辺のみどりぞ色まさりける 
                                    (三十三)

(わが夫の衣洗い張る、春雨降る毎に、野辺の緑ぞ、色増したことよ……わがせ子の身も心も張る、春のお雨のふる毎に、の辺のみどりも、色まさったことよ)。


 言の戯れと言の心

 「せこ…背子…夫…夫子…おとこ」「ころも…衣…心身を包んでいるもの…心身」「はる…張る…洗い張りをする…季節の春…春情」「雨…男雨…おとこ雨」「のべ…野辺…山ばではない」「みどり…緑…松…女…草…女」「いろ…色…色彩…色艶…色香…色情」。



 ひぐらしの鳴く山里のゆうぐれは 風よりほかに訪ふ人もなし 
                                    (三十四)

 (ひぐらし蝉の鳴く山里の夕暮れは、風より他に訪う人もいない……日暮らし泣く、山ばのさ門の火の果ては、心に吹くあき風の他に、訪う人も、ものもなし)。


 「ひぐらし…蝉の一種…初夏の夕暮れに鳴く蝉…日暮らし…一日中」「なく…鳴く…泣く」「やまさと…山里…山ばの麓…や間さ門…女」「ゆうぐれ…夕暮れ…ことの果て…ものの終わり」「かぜ…風…心に吹く風…飽き風…厭き風」「人…客人…男」「も…
もう一つ添える意を表す」。


 春、さらに色まさる女のありさまを詠んだ男の歌。対するは、秋、ものの色衰えたありさまを詠んだ女の歌。

 
 先ずは、おとなの男たちが、歌の「心におかしきところ」を楽しむための歌集である。それなのに、
今や、歌の「清げな姿」しか見えていないのは、ゆゆしきことである。



 伝授 清原のおうな 

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。