何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

静かな静かな杜

2015-03-03 18:33:49 | ニュース
<下鴨神社境内に集合住宅 式年遷宮費調達へ苦肉の策>  産経新聞 3月3日(火)7時55分配信 より一部引用
 
 世界文化遺産の下鴨神社(京都市左京区)は2日、境内の「糺(ただす)の森」に高級集合住宅を建設すると発表した。50年の期限付きで、敷地を年間8千万円で不動産開発会社などに貸し出す。収益の一部は今年行われる式年遷宮の費用などに充てる。今年11月に着工し、平成29年春に完成する予定。
 京都市内では近年「億ション」と呼ばれる高級マンションの需要が高まっており、首都圏など全国の富裕層に人気がある。京都御苑に隣接する梨木神社も同様の手法でマンションを建設しているが、全国に知られる世界遺産の資金調達としては異例の手法だ。
 発表によると、世界遺産の指定区域には該当しないが、周辺環境を保護するための緩衝地帯に当たる。現在は神社の有料駐車場や研修施設があるため、これらを解体した上で森を再整備し、8棟を分散して建てる。いずれも鉄筋3階建ての和風建築で、1戸当たりの専有面積は約80平方メートル。107戸を定期借地権付きで分譲する。価格は未定。
 下鴨神社は今年が21年に1度の式年遷宮に当たる。関連費用のうち、国の補助金を除く約22億円を自己負担する必要があるが、寄付が約10億円しか集まっていないため、新たな収入源の確保を模索していた。入居者には祭事への奉仕や世界遺産の保全活動への協力も求める。新木直人宮司は「神社を次世代に残すためには、これしかないと思った」と話している。



かなりショッキングなニュースだ。

京都の建築物の厳しい高さ制限や、拝観税創設に伴う裁判・拝観停止は、過去には大きな社会問題になったが、下鴨神社の糺の森にマンションが建つというニュースが、さほど大きなニュースとして扱われないことも、自分としてはショッキングだ。

葵祭の行列を下鴨さんで迎えようか上賀茂さんで迎えようかと迷う雅で呑気な学生時代を懐かしんだり、糺の森のみたらし池に湧き出す水の泡を形取って作られた団子の味に郷愁を感じたり、金鵄に(かってに)縁を感じている自分としては、そこにマンションが建つというのは、
「これも時代の流れか」ではすまない寂しさがある。
が、考えてみれば神社の台所事情というのは、どうなっているのだろうか。

我が家も氏子として、地元の鎮守様に春と秋の例祭には幾許か包ませていただくが、お寺さんの世話になる方が、やはり多い。
お寺さんには、お彼岸・お盆のお参りがあり、納骨堂に墓地に葬式(永代供養や戒名も)がある。もっとも最近では直葬とやらが流行っているらしいので、早晩、世界遺産のお寺にもマンションが建つことになるのか。
時代も環境も変わるので、一切の変更を拒むという頑なな姿勢では却って本体を失うという本末転倒になりかねないが、時代に即した変化を受け入れつつ、根本だけは守っていく場合、その「根本は何か」を見極める高度な精神性と智慧が要ると思われる。

あの非日常の静かな糺の森に、生身の人間が生息するマンションが建つという。
根本は守られることを祈りつつも、着工の前に今一度、下鴨さんにお参りしようかと思っている。


ところで、糺の森も賀茂神社も、昔から歌にも物語にもよく登場している。
百人一首89番目は、賀茂神社の斎院として有名な式子内親王のお歌である。

玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よはりもぞする

このニュースを知って、このお歌を思い浮かべると「なんともはや」な感もあり、下鴨さんで流し雛が催される今日、このニュースを知るとは、
やはり寂しい限りである。

皇太子様の誕生日に発表されるお写真では、皇太子ご一家が御揃いで百人一首の本を読んでおられるお姿もあったが、
先頃、敬宮愛子内親王殿下は、校内の百人一首大会でお一人で40枚とる大活躍で一位になられたと報じられていた。

皇太子御一家におかれましても、着工前に、ぜひ静かな静かな糺の森を歩いて頂きたいと願っている。



無粋な蛇足
お歌から恋心を引いた現代語訳

我が命よ、絶えてしまうのなら絶えてしまえ。このまま生き長らえていると、堪え忍ぶ心が弱ってしまうと困るから。
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