魅惑の日本映画

日本がこれまでに生み出した数々の名作、傑作、(珍作?)の映画を紹介していきます。

世界大戦争★★★★

2008年01月29日 | Weblog
【概要】
記者クラブの運転手・田村(フランキー堺)は戦後を生き抜き、地道に働いていた。ところが世界情勢は緊張を増し、ついに戦争へと突入してしまう。田村は妻・お由(乙羽信子)と娘・冴子(星由里子)、息子と共に最後の夕食を共にする。冴子は将来を誓い合った恋人の高野(宝田明)にモールス通信で電文を打つ。「…コーフクダッタネ…」。やがてミサイルが東京を襲い、世界最後の日が訪れる。
Amazonより抜粋


【感想】
特殊撮影については、出来不出来賛美両論ですが、当時としては最高水準です。
でもまあ、今の日本の特殊効果技術に比べると、ミニチュアと分かっていても迫力がありますねえ。

この映画は当初、橋本忍脚本、堀川弘道監督で進行していたのですが、最終的には八住利雄脚本、松林宗恵監督で決定しました。(橋本氏の政府に重点を置いた作品も見てみたかった)
東宝特撮映画全史によると、その間12回にまで及ぶシナリオの改訂が行われたそうです。第三次世界大戦と言う、日本映画にとっては未知数の、かつ本格的な近未来戦争映画を作るにあたって、製作者の熱意が伝わってきます。
この映画が公開された翌年、ついにキューバ危機が起こり、まさに世界大戦争は絵空事ではない、事実起こりえるものでした。

世界大戦争の宣伝プレスに書かれている森岩雄専務の言葉。
「最近の国際情勢を見てみると、いつ、どんなことで戦争の危機がはじまるかわからない。(中略)映画人である吾々は映画でそれを世界の人々に訴える。どこの国の人よりも吾々はこの映画を作る権利と義務がある。だから、東宝の人間がやっているのではなく、日本人がこれを作っているのだと思っている。」
現代人に、これほどまでの映画を作る熱意があるだろうか?やはりSFといえども、当時を経験したことのある人でなければこの映画は作れなかっただろうと思います。

それから、音楽もいいです。邦画史上屈指の出来栄えです。
団伊玖磨の美しく切ない旋律と、星由里子と宝田明のモールス信号で最後の会話を交わす場面が重なるシーンでは号泣です。(星由里子は当時19歳。若い!そして可愛い)
フランキー堺と乙羽信子のコンビも最高。
やり場の無い怒りをベランダでぶちまけるフランキー堺と、モールス信号のシーンは名場面です。

一応、政府関係の描写はあるものの、あくまでもフランキー堺、庶民の視点で描かれているため、どうすることも出来ない悔しさ、悲しさが浮き彫りになります。
開戦の経緯があまり描かれていないと言う意見もあるようですが、先程書いたとおり、世界情勢が切迫した状況を考慮すれば、これだけ反戦のメッセージを込めた映画を作ったことにただただ感心するのみです。
東宝特撮だけあって子供にも見られるように作ってあるので、普通の戦争映画と違って非常にわかりやすく、ストレートに戦争の残酷を伝えています。
一面の焼け野原の東京をバックに、「この物語は架空のものであるが明日起こる事実かもしれない。・・・・・・だかそれを押し止めよう。・・・・まだそれが起こらない中に」というメッセージが映し出されて物語りは終わります。

このメッセージを説教くさいととるか、とらないか。
そのへんでこの映画の評価も相当変ってくるでしょう。

平和をどうどうと願えるってことは、とても幸せで素晴らしいことです。


監督 松林宗恵
脚本 八住利雄、木村武
特技監督 円谷英二
音楽 團伊玖磨

田村茂吉 フランキー堺
高野 宝田明
お由 乙羽信子
田村冴子 星由里子
江原早苗 白川由美
船長 東野英治郎
総理大臣 山村聰
外務大臣 上原謙
官房長官 中村伸郎
ワトキンス ジェリー伊藤(モスラでは悪役でしたが…)
江原 笠智衆

1961年度東宝作品(カラー・シネスコ)