巨匠スティーヴン・スピルバーグ念願の『ウエスト・サイド・ストーリー』がついに公開!
先日ノミネーションが発表された第94回アカデミー賞で、作品賞を含む7部門にノミネートされた『ウエスト・サイド・ストーリー』(公開中)。本作で史上3位タイとなる8度目のアカデミー賞監督賞ノミネートを果たしたスティーヴン・スピルバーグ監督は「ずっとミュージカルを作りたいと思っていた。挑むべき作品を探しつづけてきました」と、幼少期からの夢を叶えた念願の企画であることを明かす。 【写真を見る】伝説のミュージカルが現代によみがえる!華やかな『ウエスト・サイド・ストーリー』の世界 ウィリアム・シェイクスピアの代表的な戯曲「ロミオとジュリエット」を下敷きに、レナード・バーンスタインが作曲、スティーヴン・ソンドハイムが作詞を手掛けたブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド物語」が初演されたのは1957年のこと。その後ミュージカル映画全盛期の1961年には巨匠ロバート・ワイズとミュージカル版の原案を務めたジェローム・ロビンスの共同監督で映画化され、第34回アカデミー賞で11部門ノミネート、作品賞を含む10部門を制した。 物語の舞台はニューヨークのマンハッタン、ウエスト・サイド。夢や自由を求める多くの移民たちが生活し、若者たちは差別や偏見に満ちた社会のなかで仲間と結束を強めていた。あるときポーランド移民で構成された“ジェッツ”というチームの元リーダーであるトニー(アンセル・エルゴート)は、対立するプエルトリコ系移民の“シャークス”のリーダーの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)と出会い一瞬で恋に落ちる。しかしそれが、多くの人々の運命を変える悲劇の幕開けとなるのだった。 「1930年代から1940年代、1950年代と全盛を極め、ロバート・ワイズとジェローム・ロビンスの『ウエスト・サイド物語』はもちろんのこと、近年の『シカゴ』など、人々は常にミュージカルで表現されるストーリーに魅了されてきました。
『ライオン・キング』や『美女と野獣』、『リトル・マーメイド』を観せに子どもたちを映画館に連れて行くのも同じです」。 ちょうど半世紀前に『激突!』(71)で注目を集め、劇場用長編デビュー作となった『続・激突/カージャック』(74)以降はヒューマンドラマからサスペンス、SF、アクション、史劇にコメディ、ひいてはアニメーションに至るまでありとあらゆるジャンルの映画を世に送りだしてきたスピルバーグ監督。しかしそのフィルモグラフィーに監督作品としてのミュージカル映画は一本もなかった。
「ミュージカルでは、会話をしている登場人物たちが一旦中断して歌って踊り、そしてまたストーリーを語るために会話をします。ミュージカルを観るということはある意味で、自分のなかのシニシズム(冷笑性)を取り去らないといけないということでもありますし、それによって多種多様なエンタテインメントを楽しむことができるのです。現代は、かつてないほどシニシズムにあふれていると感じています」。
オリジナルのミュージカル版と1961年の映画版、いずれも半世紀以上前に生まれた作品ではあるが、本作においてはその基本的なストーリーから設定、テーマも忠実に引き継がれている。同時にこの物語の根幹である移民問題に加え、近年世界中で問題となっているジェントリフィケーション(都市の富裕化現象)への言及もオリジナルより強くなったことが見受けられる。「ニューヨークのウエスト・サイドにあったスラム街は、リンカーン・センター・フォー・ザ・パフォーミング・アーツという文化センターを立てるために取り壊されました」とスピルバーグ監督は説明する。
「ジェッツという白人のチームとシャークスというプエルトリコ系のチームは、双方共にこの新しい建物のために縄張りを奪われながら、まだその縄張りをめぐる戦いをしていくのです。この映画で描くのは、そうしたひとつの街のなかで生まれる“分断”にほかなりません」。本作の企画が本格的に進み始めてからおよそ5年。その間に世界ではさまざまな出来事が起きた。「考えの異なる人々の分断というのは昔からあります。しかし1957年のシャークスとジェッツの分断よりも、いま私たちが直面している分断の方が深刻だと気付きました」。 そしてスピルバーグ監督は、2020年代にふたたびこの物語を呼び起こした意義と、本作で伝えたいメッセージを語る。「人々の分断は広がり、もはや人種間の隔たりは一部の人の問題ではなくなりました。観客すべてが直面する問題なのです。私は『ウエスト・サイド・ストーリー』はミュージカルであると同時にとてもオペラ的な作品だと思っています。あらゆる世代に訴えかける深いテーマを備えた物語で、そこにはどんな隔たりをも埋める愛があるのです」。
北米公開を目前にした昨年11月、「ウエスト・サイド物語」の作詞を務めたスティーヴン・ソンドハイムが91歳でこの世を去った。スピルバーグ監督は「天才的な作詞家・作曲家であり、これまでもっとも輝かしいミュージカルドラマをいくつも生みだしたアメリカ文化における偉大な人物でした。彼は私たちに、愛することがどれほど偉大で必要なことなのかを教えてくれる作品群を残してくれましたし、これからも作品が教え続けてくれるでしょう」と哀悼のコメントを発表していた。 時代を経ても色褪せることない普遍的な愛のメッセージを、この再映画化によって新たな時代へと伝えていく。ミュージカル映画らしい華やかさと珠玉の楽曲の数々に彩られた本作は、この世界を愛で満たしてくれることだろう。