男達の欲望は際限が無いかのように思われた。
恐らくは職にあぶれ、その日暮らしやホームレス生活を送っている男達を金で雇ったのであろう。
西澤ならその程度の事は雑作も無い事だったし、そのために部屋を用意する事だとて大した負担では無かったはずだ。
西澤から、事前に余程過激な要求をされていたのか、それとも溜まりに溜まった欲望と鬱憤を吐き出したものなのか、美咲への陵辱は、性交とも呼べず、強姦と呼んでもまだ生ぬるい程に過激で苛烈なものであった。
口臭や汗の臭い、垢にまみれ髭も伸び放題の男達に、無理矢理に衣服を剥ぎ取られ、ありとあらゆる場所を舐め、味わいつくされ、唾液や精液さえ飲む事を強要された。
抵抗したところで、女一人の力で10人以上いる男達に抗えるはずも無く、一人が口腔性交を、一人は胸をしゃぶりつくし、またある一人は美咲の秘部に挿入し、と同時に西澤にさえ許した事の無い場所にまで犯され、なおかつその様を眺めながら自慰に耽り、美咲の顔面に白濁を飛ばす者までいる始末であった。
ひとしきり精を吐き出すと、今度は”マゾ”だと聞かされている美咲への執拗な責めが始まった。
荒縄で縛られ、乳首には歯型がつくほどに強く噛み付かれ、悲鳴を上げると更に男達は興奮し、SMの道具は勿論、美咲の持ち込んだ食材なども道具として使われた。
何度気絶したか分からない程であったが、それを美咲が達したと勘違いしたのか、意識のある無しに構い無く、苛烈な性の饗宴は数日間続いた。
もう痛みを痛みとも感じられなくなった頃、気が付くと男達は部屋からいなくなっていた。
そこには男達の代わりに、今度は黒ずくめの服装に身を包み、黒いサングラスをかけた西澤が立っていた。
朦朧とした意識の中で、かろうじて西澤の存在を認めた美咲は、自分を陵辱した男達に対するよりも強い恐怖を感じ、再び意識が遠のくのを感じていた。
男達が立ち去った後の部屋は、惨憺たる状態であった。
唾液や汚物、精液、それに血生臭い臭いの立ち込める部屋の中に、汚液にまみれ、血にまみれ、傷だらけの美咲が意識も無く横たわっていた。
立ち去る前に男達が縛めた下肢は、これ以上は無理なぐらいに大きく拡げられ、その惨状を晒していた。
美咲の着ていた衣服は、ビリビリに引き裂かれ、下着などは明らかに刃物で切り裂いた様子が見て取れた。
真性のサディストも混じっていたのであろうか、美咲の身体には多数の傷があり、顔は実の親が見てもすぐには判別できないであろう程に腫れ上がっていた。
次に美咲が意識を取り戻した時、部屋の中は綺麗に片付けられていた。
美咲の身体も綺麗に拭われていて、傷には手当てがされていた。
床に転がされていたはずが、リネン類の全て取り替えられたベッドに横たえられ、サイドテーブルには食べ物と飲み物も用意され、痛み止めの薬まで置いてあった。
状況の理解できない美咲であったが、とりあえず動ける状態では無かったので、大人しく食べ物と飲み物を摂り、薬を飲んで再び横になった。
誰が着せたのか、ちゃんと傷にひびかないナイトウェアを着せられてはいたが、とにかく動けるようになってからでないとどうしようも無かったのだ。
何日が過ぎたのか、やっと美咲が痛む体ながらも動けるようにり、寝室から出て見つけたのは、またもやサングラス姿の西澤だった。
「ほう、顔の腫れもかなりひいたようだな。しかし美咲もあそこまで好き者だったとはな」
クックッと口角を上げて皮肉な笑みを浮かべる西澤に、未だ現実とは信じられない思いを抱いていた。
「あいつらが撮った8mmを見たが、お前があんなによがり狂う様は初めて見たよ」
そんな西澤を、美咲はただ呆然と見詰めていた。
西澤は実に楽しげで饒舌であった。
「まったくお前も娼婦になるために生まれてきたような女だなぁ。いやぁ、楽しませて貰ったよ。大枚叩いた甲斐があったってものだ」
次々と鋭利な刃物のような言葉を投げつける西澤に、やっと美咲は口を開いた。
「なぜ? なぜこんな真似を? 私が何かした?」
焦点の定まらぬ目つきのままで問いかける美咲に、西澤は激昂した。
「なぜだと?あぁ? お前は自分を何様だと思ってたんだ? ただの売春婦だろうが! 売春婦が偉そうに愛だの恋だのなんて夢見てたって言うんじゃないだろうなぁ? はっ、笑わせるな! お前の代わりの女なんて掃いて捨てる程いるんだよ。
なのにどうしてわざわざ淫売風情とまともに接しなきゃならないんだ? お前が澄ました聖女気取りでいやがるから化けの皮を剥いでやっただけの事だろうが」
「いいか、お前らなんてものは所詮金、金、金なんだよ。世の中全て金で回ってるんだ!せっかく貸しきって、お前がまた売春できるまでの間の費用まで払ってやるっていう親切なお客様だ。感謝こそすれ恨み事など言われる覚えは無いはずだがな」
「思った以上に楽しませて貰ったから、店には今月いっぱい貸し切っておいた。お前の取り分はそこのスーツケースに入れて置いたし着替えも用意しておいてやった。今月いっぱいは別にここにいても構わないが、外に出られるツラになったら勝手に帰って構わないからな」
見かけによらず気は強い美咲だが、これだけ罵倒されたにも関わらず、ただ茫洋とした眼差しを送るだけであった。
そんな美咲に拍子抜けしたのか「あぁ、言っとくがここはオートロックだ。一度部屋から出たら俺が開錠しなきゃ入れないからな。出て行く時は持つモンはちゃんと持って出て行くんだな」
それだけ言い残すと、踵を返し、2度と振り返る事なく立ち去った。
そしてこれが西澤と美咲との最後の別れとなった。