真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑

2005-06-01 03:35:10 | オリジナル小説
今や美咲は西澤を愛していた。と同時に信頼もしていた。
出会いは最悪であったが、その後の西澤の態度の潔さ、紳士的な態度、さり気ない気遣い、それら様々な事に好感を持ったせいもあるが、美咲が一番惹かれたのは、西澤の持つ孤独であったのかもしれない。
西澤の周囲に人間は大勢いたが、トップに立つ者は常に孤独である。社員やその家族、その他付随する人々の生活に責任を持ち、若き起業家として生き残っていくのは並大抵では無い。
ましてや両親も既に亡く、親類縁者の話も聞いた事がなければ、妻やそれに相当する女性の話も聞きはしない。
最初からそんな風に考えたり知っていたりしたわけでは無いが、美咲も西澤とは違った立場で、全てを背負い、孤独であったが故に、西澤が隠し通しているつもりの”孤独”を敏感に感じ取り、その”孤独な西澤”をこそ愛したのかもしれない。

愛すると同時に信頼もしていたからこそ、美咲はポケットベルの番号を西澤に手渡した。
まだ携帯電話など、一般には普及していない頃の事である。個人対個人で、他人に知られずに連絡を取るにはポケットベルが一番確実な方法であった。
だが美咲が番号を書いたメモを手渡してから数ヶ月、ベルが鳴った事は無かった。
そんな西澤が初めて美咲のポケベルを鳴らした日、美咲は仕事は休みの日であったのだが、迷わず受話器をとり、表示される番号を押していた。
期待に胸を膨らませてダイヤルした美咲であったが、受話器の向こうの西澤は酷く具合が悪そうであった。
聞けば数日前から酷い風邪と過労で寝込んでいるらしく、それでもワンマン経営の西澤は仕事を手放すわけにもいかず、会社近くにある自分専用の仕事場でふせっているのだと言う。
「こんな状態は社員には格好悪くて見せられないし、医者を呼んだら入院させられかねないしな。今俺が入院などするわけにはいかないし、この部屋は俺の隠れ家みたいなものだから無闇に人に知られたく無いんだ。迷惑だとは思うが、もし美咲の都合が悪くなかったら数日身の回りの世話をしてくれないか? 店には俺の方から連絡を入れておくから」
こう言われて美咲が断る理由など無かった。それどころか喜んで、いや、病身の西澤を思うと、喜んでしまう自分を不謹慎だと思いながらも、自分への信頼を示してくれた事で胸が浮き立つのは否めなかった。

西澤の言う住所を慌ててメモに取り、父母の世話をヘルパーの者に頼み自宅を後にした。
途中出すぎた真似かもしれないとも思ったが、病身でも食べやすそうな食料を仕入れ、念のために体温計など細々としたものも買い入れた。
自宅はどうかは知らず、仕事用の隠れ家となれば、そういった物も無いのではないかと心配したのだった。
地下鉄を乗り継ぎ、西澤の言う住所に辿り着いた時には、まるで新妻のような気さえしていた。

西澤の言うマンションは、美咲が想像していたよりも相当にセキュリティーはしっかりしているようで、そういった建物に慣れていない美咲は、いささか緊張しながら西澤の部屋のチャイムを鳴らした。
思ったよりも具合が悪いようで、西澤本人はインターフォンから「鍵は開けてあるから入ってくれ」と応えたのみであった。
ドアを開け、室内に入ると、そこはガランとした空間だった。、どうやら奥にベッドルームがあるようで、そちらから声が聞こえてきた。
遠慮しながらもそちらの部屋に向かうと、そこには意外な事に、全く元気そうな西澤が広いベッドルームに待ち構えていた。
具合は大丈夫なのか? 何か不自然なものを感じながら口を開こうとしたその時であった。
美咲よりも一足先に西澤が口を開いた。が、それは美咲に話しかけるためでは無かった。

西澤は部屋の外に呼びかけるように声をかけ、するとどこに隠れていたものか、見知らぬ男達がゾロゾロと現れたのであった。
以前西澤が連れ歩いていた遊び仲間とも違う、かといって会社の人間とも思えない男達は、一様に荒んだ生活をしている様が見て取れ、西澤のこの高級マンションとはどう考えても結びつかない男達であった。
皆程度の差こそあれ不潔ななりをし、荒んで澱んだ目をしていた。
だがその澱みの中に、今は明らかに凶暴なものを感じ取り、ギラついた目つきに晒された美咲は、わけが分からず西澤のほうに目で助けを求めた。
だがその頼みの綱の西澤までもが、今や皮肉な笑みを浮かべ、くすくすと笑い出し、そしてそれは徐々に大きな哄笑へと変わっていった。
「くっくっくっ。。。ふっ、ふ、はははは あははは、はぁはぁはぁ」笑いすぎて息も切れ切れになる程に身を捩り、そして言い放った。
「美咲、お前は俺が本当にお前みたいな女を信用したり、ましてや愛したりなどしているとでも思っていたのか?」
皮肉な笑みを浮かべ続ける西澤は、初めて出会った日の西澤とも違った。いや、今の西澤と比べたら初めて出会った日の西澤など慈愛に満ちていたと言える程の皮肉と、怒りと、そして憎しみと蔑みを込めた表情で美咲をねめつけていた。
美咲には今のこの状況が飲み込めるはずなど無かった。
この人は何を言っているのだろう?いや、自分の目の前にいるこの人は一体誰なのか?それすらも分からなくなりそうであった。
そしてこの大勢の男達は一体なんなのだろう? 分からない事だらけで、言葉一つさえ出て来はしなかった。
呆然と立ち尽くす美咲を見ていた西澤は、かけていたベッドから立ち上がると、周りの男達に話しかけた。
「これが話していた女だ。どうだ、上玉だろ。この女は俺が飼ってる女だ、約束通りお前らの好きに弄んでやってくれ。
こいつは真性のマゾなんでな、嫌だという顔をしていても構やしない。陵辱されて嫌がってる風でよがり狂うような淫乱だ。
俺一人じゃどうにも手に負えやしないし、これはこいつの希望でもあるんでな。」

言葉は耳には届いていた。しかしそれを理解する事はできなかった。
この場の状況が、西澤の言葉の意味が、言語としては理解できても美咲には理解しろという方が無理な事だったのだ。
「な...に いって る、の? ねぇ 何言ってるの? 何言ってるのよぉ!」
訳の分からないまま、やっと美咲は言葉を発し、ついには叫び出していた。言葉と同時に涙がとめどもなくあふれ出している事さえも気付かぬままに、西澤の背中に叫んでいた。
「冗談でしょ? ねぇ、悪い冗談なのよね? ねぇ! 嘘よ!! 嘘だって言ってよぉーーー!!」
叫ぶ声も虚しく、今や美咲の方を一瞥もせずに部屋を出て行こうとしている西澤は、背中越しに言った。
「あぁ、心配しなくても24時間丸々一週間は貸切で店には連絡してある。金なら色をつけて払ってやるから心配するな。それと、後で俺も楽しめるように写真と8mmで撮影するのは忘れないでくれよ」
後の言葉は男達に言ったものだろう。
結局西澤は、直接美咲に話しかけもせず、理由も話さず、振り返る事さえせずに部屋を出ていってしまった。
後に残されたのは、欲望をむき出しにしてギラついた眼差しを向ける男達と、美咲の悲鳴だけであった。