真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第三章

2005-08-28 18:40:39 | オリジナル小説
「ねぇ、暫くここで過ごさない?」

涙を拭うと唐突に言い出した直子に、西澤は少々困惑した。
「過ごすっていっても、仕事を放りっぱなしにするわけにはいかないから...だが、そうだな...ろくに休みも取っていないんだし、一度戻って急ぎの仕事の手配だけして、ついでに着替えも持って来れば1週間ぐらいならなんとかなるな。」
「よし、じゃあ急いで戻って そうだ、食料も仕入れて来よう。俺の手料理をご披露するよ。」

直子の突然の言葉に一時は戸惑ったが、決めてしまうと動くのは早い西澤だ。
あっという間に車中の人となっていた。

諸々の準備を済ませ、再び別荘へと向かう時には、直子はまるでピクニックに出かける子供のようにはしゃいでいた。
怒っていないわけが無い。悲しく無いわけが無い。
だが、笑顔でいてくれるなら...直子が笑顔でいてくれる事、幸せでいてくれる事、今はそれだけが西澤の願いであり、幸福であった。

「ねぇ、私たちのせいでみんなにはちょっと無理させちゃったわね。」
茶目っ気たっぷりに言う直子に、穏やかな笑顔を向け
「なーに、うちは働いた分に見合った給料は払ってるから大丈夫さ。 たまにはこのぐらい羽目を外したってバチは当たらないよ。」と答える。
不気味な程に穏やかで幸福だった。
決してそんな幸福を味わえるはずの無い、今の西澤の立場のはずなのに、直子は美咲の事も、自分の悲しい過去の事も、全て無かったかのように朗らかで楽しげであった。
”何故?” と問うのも恐ろしく、今のこの瞬間を壊したくなくて流されていた。

別荘に着いてからも、何事も無い、仲睦まじい夫婦のように、二人寄り添って散歩し、景色を眺め、庭でバーベキューを楽しみ、夜は普段はあまり酒を飲まない直子も一緒にグラスを傾け、至福の時間を過ごしていた。
しかし寝る段になって西澤はどうしていいものか分からなくなってしまった。
いくら何事も無いような顔をしてくれているからといって、直子と同衾して良いものかどうか?
別荘のベッドはダブルベッドである。ツインならまだしも、素知らぬ顔でいて良いものか? それとも客間のベッドを使うべきか? いや、それも嫌味にも取られかねない。
そんな風に西澤が逡巡している間に、直子はバスルームから出てきて、当然のようにベッドルームへと手を引いた。
逆らうのも棘が立つし、西澤とて直子と同じベッドの方が良いに決まっている。
だが、さすがにベッドへ入って、珍しく自分から接吻をしてきたのには驚いた。
「抱いて....」
たった一言の言葉だが、甘えて誘ってくる事はあっても、こうまでストレートに、情熱的に誘う事など無かった直子が言うと特別な言葉になる。
いつもよりも激しい接吻を交わし、激しく求め合った。
こんなにも淫らに、怪しく乱れた直子を見るのは初めてであった。
「愛している」どちらからともなくうわ言のように繰り返す言葉も、どこか切なげで、やはり二人の間には大きな鬱屈があるのだと、改めて思い知らされ、そして尚更高みへと追い詰められる。
何度も上り詰めた直子は、最後にはぐったりと西澤の腕に頭を預け、しどけない姿のまま眠りについてしまった。

あれほど抱きしめたいと願った直子が、今腕の中にいる。
だが、これ以上無い幸福感と共に言いようの無い寂しさも込み上げて来る。
直子が情熱的であればあるだけ、その心の奥にある傷を思い、それも自分のせいであると思うと愛しいと同時に胸の引き裂かれるような思いを感ぜずにはいられなかったのだ。

生きてはいますので(^^;

2005-08-26 12:02:44 | Weblog
いい加減お待たせしすぎのyurikaですが、生きてはいます(^^;
滅茶苦茶弱ってて書けないとかでもなく、点滴の関係で手の自由が利かないのでなかなか書けなくてm(__)m

もうあと少しでラストってとこまで来て因業ぶりを発揮してしまってますけど、近々ラストまで書き上げる予定ですので、もうちょっぴりだけヤキモキしてやって下さい(^^ゞ

運命の微笑・第三章

2005-08-06 06:57:13 | オリジナル小説
全てを話し終えた西澤は、まるで女神の審判を待つ羊飼いのようであった。
しかし、女神の役を演じるはずの直子の言葉は、意表をつくものであった。

「ご両親のお墓参りに行きましょう」

罵倒される事や殴られる事、泣かれる事は予想していたが、これは西澤にも予想外の反応であった。
あまりの意外な言葉に戸惑っていると、直子は西澤を急き立て、気がついた時にはハンドルを握って車を走らせていた。
西澤の両親の墓地へと向かっているはずなのだが、車は西澤の故郷の海辺の寒村へは向かわず、山間へと向かっていた。
不審に思った直子が西澤に問うと、両親の真実を知った後に、改めて墓所を移し、ちゃんとした墓石を買い、忌まわしい記憶の残る村ではなく、別の場所へと移したのだと言う。
そして墓石を移してからは、時折一人で花を携え訪れていたのだそうだ。
周囲は益々緑が増え、外気も数度下がっているようだ。
無言のドライブの後に辿りついたのは、霊園ではなく一軒の家であった。
豪奢という程ではないが、温かい印象のアイボリーを基調とした外観に、庭もきちんと手入れされている様子で、どうみても墓があるようには見えなかった。
その家の脇に車を停めると、直子を裏庭に当たる方へと誘った。

裏庭には、数々の植物と共に、ひっそりと一つの墓石が佇んでいた。
「これは直子の誕生日まで内緒にしておくつもりだったんだが・・・ろくろく旅行にも連れて行ってやれないから、別荘をプレゼントしようと思って買っておいたんだ。 庭の手入れや家の管理なんかは地元の人に頼んであるから中も綺麗なはずだ。」
「ここに親父とお袋を連れて来るときに、どうせなら一つの墓で一緒にいたいだろうと思って、同じ墓石に納骨し直したんだが、やっぱり別荘の裏に墓ってのは変かな?」

直子は西澤の言葉など聞いていないかのようだった。
真っ直ぐ墓前へと向かい、なにやら一心に話しかけてでもいるようで、最後に一言「ごめんなさい」と呟くと、一筋の涙を零した。
墓に向かったまま、直子は西澤に話しかけた。

「私もあなたに話しておきたい事があるの。私が子供のできない体だっていう事は以前に話したけれど、一度だけ妊娠した事があるの。以前・・・あなたと結婚する前に好きだった男性がいて、その人との間に子供ができたんだけど、妊娠している事にも気づいてあげられない内に、お腹の中で赤ちゃんが死んでしまって・・・それが原因で子供のできない体になったのよ。」
「まだ名前も性別も分からない私の子供には、墓さえ無いけれど、いつも忘れた事は無かったわ。小さな子を見る度に、生きていたらこのぐらいだったかしらって。。。 でもきっと今はここで、お祖父ちゃまとお祖母ちゃまと一緒に暮らしているわね。」
「でも、どうせならもっと早く全てを知りたかったわ。時間が戻せたらいいのに。。。 せめて私のこの子が死ぬ前の時間までだけでも戻せたら。。。 でも、もう遅いのよね。」

また涙が溢れてきている直子を、本当なら抱きしめたい! 抱きしめて、温めて、守ってやりたい。
だが、今西澤がそれをする事が許されるのかどうか。。。分からないままに直子の涙が止まるまで立ち尽くすしかできなかった。