真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

インスタントヒーロー

2007-11-07 05:55:09 | オリジナル小説
現代に真のヒーローなんていやしない。そう信じて僕は生きてきた。
毎日のように大量生産される事件。そしてその都度生み出される数々のヒーロー達。
だが、ヒーローでいられる時間などたかが知れている。
大抵は時間と共に忘れ去られ、ごく普通の通行人Aに戻るか、若しくはヒーローから一転、悪役へと転落していくのだ。
物事にはいろんな側面があり、ある側面からはヒーローに見えたものを、違う側面から悪役にしてしまう事などたやすい事なのだ。
そして人は飽きやすい。
祭り上げた側から、すぐに退屈して、今度はけなし罵倒する事を楽しむものなのだ。
だから僕はヒーローになるつもりなんて更々無かった。はなから通行人Aでいるつもりだったのだ。
それは本当に偶然で、本当にただの気まぐれだった。
車道に飛び出した子供を見掛け、反射的に歩道へと引き戻そうと腕を引っ張った。そしてその反動へと放り出され、迫ってくる軽トラに曳かれるハメになったのだ。
良い事をする気も犠牲になる気も無かった僕は、それで全治二ヶ月の重傷を負った。
「こんなはずじゃなかった」
これが正直な気持ちだ。
軽いきまぐれがこんな結果を生むなんて。
茫然と、自分のした事の愚かさに呆れていた僕の病室にノックの音が響いた。
一人の少年とその母親らしき女性が現れ、涙を流していきなり土下座した。
「すみません。うちの子を助けて頂いたばかりに、こんな目に遭わせてしまって・・・」
その言葉を聞いて、改めて少年の顔を見つめた。
──あぁ、そうか あの子はこんな顔だったんだ──
初めてみたその顔は、涙にぬれながら輝いていた。
「お兄ちゃん、僕を助けてくれてありがとう。」
生きる喜びに満ちたその姿。
僕は二人を見ながらぼんやりと考えた。
──ヒーローってのも時には悪くないかもな──
痛み止めの点滴でぼやけた頭の幻想かもしれない。でもこんな幻想なら、例えすぐに消えてしまうとしてもアリなんじゃないのか? いや、やっぱり気の迷いかもな。
段々と重くなる瞼を閉じながら、いつしか僕は苦笑していた。