真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第二章

2005-06-06 07:36:48 | オリジナル小説
ある年の瀬の事。年末年始と立て続けに続く、退屈なパーティーや懇親会であるが、仕事の顔つなぎのためにはご機嫌伺いに顔を出し、売り込む事も社長としての必要不可欠な職務とあきらめ、結局川村にも何回も同行をさせる事になってしまった。
さすがにクリスマスイブに独身女性である直子を仕事で拘束してしまった事には後ろめたさを感じたのか、日ごろは口にしない問いをつい発していた。

「クリスマスイブにまで仕事に付き合わせてすまなかったね。川村君の恋人に怒られてしまうな」
「本当はせめて早めに君だけでも帰してあげたかったんだが、いかんせん君のシンパが多くてね。」
苦笑混じりに詫びる西澤に、「いえ、イブを一緒に過ごすような相手はいませんから。かえって一人で侘しくイブを過ごさないで済んで良かったですわ」と、相変わらずそつのない川村であった。
「信じられないな。君のような女性がイブを過ごす相手がいないなんて。。。遠距離恋愛でもしてるのかな?」
立ち入った質問だとは思いながら、酒の酔いも手伝って、つい口にしてしまった言葉であった。 が、一度訊いてしまうと歯止めが利かなくなった。
「いえ、私、本当にお付き合いしてる方がいないだけなんです。お恥ずかしいんですけど。私の恋人は目下のところ仕事ですわ。といっても”目下”だけじゃなく、このまま売れ残りになりそうですけど(笑)」
謙遜してみせる直子であったが、川村に魅かれている者は、自分の部下だけでも何人もいる事を知っている。
そしてそのことごとくが、スマートにかわされ、またそのかわし方のスマートさで益々熱を上げている者もいる事も社長である西澤の耳には入っていた。
「君ほどの女性を放っておくなんて、世の中の男が見る目が無いのさ。実際俺が知っているだけでも君に熱を上げている男は何人もいるし、見合いの引き合いだって山のように来ていて、断るのに四苦八苦しているんだぞ」
いつの間にか”私”から”俺”に一人称が変わっているのは、酒のせいだけであっただろうか?
「社長、あまり社員をからかわないで下さいね。社長こそ、イブまで仕事じゃあ社長の恋人に私の方が恨まれてしまいますわ」
話の矛先を上手く西澤に向け、自分への問いをかわした直子であった。
大抵の男なら、こう綺麗にかわされたのでは引くしか無くなるものだ。
相手に恥をかかさず、持ち上げた形でするっと逃げる・・・これが直子の交際術の特徴なのかもしれない。
が、今夜の西澤は少々悪酔いしていたようであった。
「俺にもイブを過ごす相手などいないさ。妻子がいるわけでなし、親兄弟がいるわけでなし、特定の恋人がいるわけでなし。。。寂しいもんだよ」
「あら、”特定の”だなんて、おモテになってる証拠ですわ。」
「はは、失言だな(笑) 白状します、特定も何も相手がいないだけです」
笑いながらおどけて頭を下げて見せる西澤だが、直子が信じている様子は当然無かった。
「はいはい、誰にも言いませんからご安心下さい」

酒の酔いと、イブだという少々浮かれる気分が西澤をそこで止めさせなかったのだろうか?
「川村君、君、本当に恋人がいないなら何故見合い話を片っ端から断るんだ? どの話も良い話ばかりだったらしいというのに」
「・・・・社長こそ、そろそろ誰か一人にお相手を決めて身を固められてはいかがですか? そうすればイブには奥様同伴でご出席できますでしょ。」
「いーや、そんな事じゃ誤魔化されないぞ。仕事で君を縛り付けて、独り身にしてしまうのでは俺の申し訳が立たない!」
「君は独身主義者ってやつなのか? それとも、まさかとは思うが”男”がダメとか・・・まぁ、その、それなら別にそれは個人の自由だが。それならそれで女性でも構わないから良いパートナーを持って、君には幸せになって貰わないと。」
「”じゃないと俺の申し訳が立たない”ですか(笑)」
「いや・・・」
そう言ったきり、西澤は深く息を吸い、目を瞑った。てっきり眠ってしまったのかと思った頃、目を閉じたまま返事が遅れて返って来た。
「じゃないと俺の嫁さんにしちまうぞ」
それだけ言うと、今度は本当に寝息を立てて眠ってしまったようだった。
気まずい空気が流れたが、眠ってしまった者の勝ちであった。

「悪い。。。冗談ですわ」 気まずい空気の後に、やっと直子は微かに呟いた。