真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第三章

2005-06-30 05:27:59 | オリジナル小説
西澤と直子は非常に仲の良い夫婦であったのだが、他の夫婦と違っていた点は、それぞれの過去を知らないという点であった。
夫婦であるのだから訊いても構わない事柄だというのに、なぜかどちらも遠慮してしまい、相手が話さなければ訊けない空気が生まれてしまい、それが二人の唯一のわだかまりとなっていた。
だが”氏素性や過去の経歴ではなく、それぞれお互い自身を愛したのだから訊く必要は無い”と、自に言い聞かせつつ現在まで来てしまったのだった。
その”逃げていた”部分がついにしっぺ返しを始めた。

封筒の中身は短い文章ばかりであった。それは添えられた写真の内容を説明したものであり、紛れもなく事実であった。

差出人の名は無い。無かったが、西澤には聞くまでも無かった。
そこにあったのは、美咲が無残に陵辱される様であり、それが西澤の指示によるものだという事を裏付け、非難する内容であった。
西澤が西澤である以上、差出人は美咲以外には考えられない。

黙ってただ涙を流し続ける直子に、西澤は話しかけようとしたが、何を話してよいのか、何から話せばよいのか分からず、ただ沈黙するしかなかった。
誹謗中傷であるなら誤解を解けば良い。だがこれは全て事実だ。
自分が過去に犯した重大な過ちを、いくら過去だからといって言い訳してどうなるというのだろう。
過去の派手な女性関係や遊びであれば、過去の事で、今は悔い改めたとも言えるだろうが、西澤の犯した過ちはあまりにも大きすぎた。
女性の直子にとっては、美咲の受けた陵辱は時が経っても忘れられるものでも許されるものでも無いであろう。
それが分かるが故に、謝罪の言葉さえ喉の奥につかえ出て来なかったのだ。

ひとしきり涙を流した後、西澤の様子から、これらが全て事実であると確信した直子は、やっとのことで「事実・・・なのね?」とだけ訊いた。
「そうだ」という一言さえも発する事ができなくなっていた西澤は、黙ってうなづくしか無かった。
それを確かめた直子は、暫く黙り込み、大きく一息すると、黙って家を出て行った。

あまりに重く、息苦しい静寂だけが暮れて行く日差しの中に残されていた。