真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

Heaven's Gate

2006-05-26 03:24:37 | オリジナル小説
”僕が彼女を見間違えるはずが無い”・・・・そう思う事の根拠は、何もありはしない。
だけども、僕は強くそう信じている自分を感じていた。
だって、僕が覚えているのは、彼女の姿形や、服装や、そんなものでは無いのだから。

大学の先輩達が聞いたら”童貞の純愛”とか”女を知らないから思い込む”とか笑われるんだろうなぁ。 でも、客観的にはそう思われるって分かっていながら、どうしても僕は、自分のその考えを否定できずにいた。


再会はすぐにやってきた。
当然だ。彼女は僕の生徒になったのだから。
彼女の入塾は、他の生徒達にとっても奇妙で興味深い事件だったのだろう。
受験以外には、大した刺激の少ない”塾”という閉鎖空間の中で、彼女はちょっとした時の人として注目を浴びていた。
そんな人目を嫌がっているのか、それとも日頃からそういう態度なのか、顔見知りの生徒と軽く、当たり障りの無い談笑を交わす程度で、あとはひたすらひっそりと、参考書やら、小説やらを、独り読み耽っていた。
どうやら群れて過ごすのは苦手なようだ。

なんだか嬉しい。
僕には甘えて、我儘を言って、冗談も言い、うるさいぐらいに纏わり付いていた彼女が、他の人間は無言の内に拒絶している。
僕はなんだか、彼女の”特別”になった気がして、彼女にとっては良い傾向では無いと思いながらも、内心ほくそえんでいたのだった。

彼女の顔見知りの生徒達・・・それは、成績の良し悪しに関わらず、ことごとく良家の子女と呼ばれる子達ばかりだった。
当然だ、彼女自身が、バリバリの良家の子女。それも恐らくトップクラスの家柄と財力を誇る家の娘なのだから。
この塾の生徒自体、ほとんどが程度の差こそあれ、いわゆる”良家の子女”である以上、平凡な公務員の息子の僕なんかは、恐らく20年後には、今の生徒達を”雲の上の世界の人間”として見る事になるのだろう。
なんといっても家柄と財力があるというのは、現代でも強い事なのだ。
本人がさほど優秀では無くても、親が力があれば、適当なポジションを与えられ、過分な収入を保証してやる事はできる。
娘の場合でも、出来が悪いと思ってはいても、家柄が釣りあい、親同士の暗黙の了解があれば、いくらでも同じレベルの家の人間と結婚し、裕福な生活を送るだろう。
もしくは、親が優秀な部下を選び、娘との婚姻を条件に重要な地位に取り立てるという事も、世間にはいくらも転がっている話だ。

なんだか、そんな事を考えていると、僕みたいな人間のあがきが空しく感じてくるな。。。
ヤメヤメ! 考えても無駄なんだから、僕は地道に僕の選んだルートに乗って歩かなくては!

彼女の事を考えていたはずなのに、いつのまにか自分の事に話が回ってきてしまった。 僕ってやつはやっぱり自分勝手なのかな?

Heaven's Gate

2006-05-23 02:29:15 | オリジナル小説
”桜井沙織”・・・名前だけが記号のように木霊し、塾長と桜井氏の会話にもただ機械的に相槌を打つ。
きっと僕は、さぞかしボーッとした、頼りない講師に見えた事だろう。
かろうじて、彼女を凝視せず、視線を成績表に集中する事が、僕にできる精一杯の偽装工作だったのだ。

結局その日は挨拶だけと言う事で、桜井氏とそのご令嬢(なんだか自分で言いながら笑ってしまうが)は、塾を後にした。
「ふぅ、政治家ってヤツは相手するのも気を使うよ、君ぃ。」
うんざりと言った風情で、妙に親しげに僕に同意を求めてくる塾長に、
「は、はぁ、そうですね。。。 桜井さん、政治家なんですか。」と返す。
「なんだ、君は公務員のご子息なのに、桜井氏も知らんのかね。 桜井範和と言えば、次期大臣の呼び声も高い民自党の大物じゃないかね。 昨年先ほどの沙織さんのお母上と結婚されて、資金面でも万全となった事だし、今一番勢いのある議員じゃないか。少しはニュースも見たまえ。」
僕は正直バカでは無いと思うが、あまり政治や経済に明るい方では無い。ましてやゴシップなら尚更だ。
「沙織さん、桜井さんの実の娘さんじゃないんですか?」
「ん? あぁ、そうなんだよ。沙織さんの母上は、あの西崎グループ会長のお嬢さんでね、一度は会長の部下と結婚して沙織さんが産まれたわけだが、ご主人を亡くされて、で、桜井氏と再婚となったわけだ。」
「はぁ、そうなんですか。」

相変わらず茫洋とした返事しか返せない僕を残し、塾長は妙に忙しげな顔で立ち去ってしまった。
どうやらこの塾にとって、桜井沙織が入塾するというのは大事らしい。
それだけ桜井氏と西崎グループの力が大きいという事か。
それも当然だ。桜井氏を知らない僕でも、西崎グループぐらいは良く知っている。
知っているといよりも、当初は単なる工業機械のメーカーだった西崎工業だが、巨大コングロマリットと化している現在の西崎グループは、日用品からIT、株、海外支援事業、人材育成から、当初からの工業製品まで、ありとあらゆるジャンルに手を伸ばし、ことごとく成功を遂げている、日本、いや、世界でも有数の大企業なのだ。嫌でも覚えてしまう名だ。

それにしても・・・そんな家の出身の母親と、政治家の父親を持つ深窓の令嬢が、本当に彼女なのか?
急に自信が無くなってきた。

だって、僕が知ってる彼女は、そんな手の届かない「違う世界」の人では無くて、ちゃんと体温があり、手を延ばせばそこにちゃんと存在する人間だったのだ。
もしかしたら他人の空似? にしては似すぎている。。
態度や服装は全く違ったけれど、どこかで僕は思っていた。
”僕が彼女を見間違えるはずが無い”と。。。

Heaven's Gate

2006-05-20 20:32:01 | オリジナル小説
沈む心を抱えても、浮き立つ日々を過ごしていても、時は万人に同じようにその影を落とす。
彼女との不可思議な一夜以来、僕の心の中の時は、その歩みを緩慢に、限りなく静止に近い状態で動いていたのだが、どうやら僕の気持ちなんてものはクロノスに届くわけもなく、気が付いたら年末年始の受験直前対策集中ゼミが始まろうとしていた。

僕のバイトしている塾は、超一流とまではいかないまでも、それなりに有名な中学・高校への進学を狙うための塾だ。
勿論立地のせいもあるが、比較的裕福な家庭の子女。いわゆるお坊ちゃんお嬢ちゃんが多く、従ってあまり問題を起こす生徒もいない。
そんな子達だから、絶対的に有名校に幼稚舎、小学校、遅くても中学から入学して、ほぼエスカレーター式に進学していく者が多いのだが、中にはお受験に失敗し、若しくは編入学、親の意向で学校を変えるために受験する者も数多い。
だけど、よくTVで見かけるような、鉢巻巻いての猛烈特訓なんて空気はありはしない。
あくまで比較的恵まれた子供達なのだ。
親の期待に応えられず、切羽詰った気持ちを抱えている生徒もいるが、そんな生徒はごく一部だ。
そんな生徒達に”受験気分”を刷り込み、テンションを上げさせるために行われるのが強化ゼミだ。

その強化ゼミ直前になって、珍しく滑り込みで入塾希望者が訪れた。
いかにも裕福そうな、仕立ての良い三つ揃えに恰幅の良い身体を包み、塾長に親しげに話しかけている中年男性に連れられて、有名私立中学の制服の女の子が立っていた。
塾長に呼ばれ、僕は3人のところへと近づいた。 どうやら僕の授業を採るらしい。
「ご紹介します。こちらが当塾の数学担当の鈴木先生です。大学生ですが、こうみえてもウチでは一番の講師です。彼に任せておけば絶対に大丈夫ですよ。 いや、元々桜井様のお嬢様は成績優秀でいらっしゃいますから、心配には及ばないでしょうが」
媚びた笑いを浮かべながら、その桜井という紳士と会話を続けながら、僕に入塾テストの結果を渡して寄越した。
確かに・・・どの教科も素晴らしい成績だ。どうやら現在の学校で落ちこぼれたから、どこかに編入したいという事では無さそうだ。
「鈴木君、桜井様のお嬢様 沙織さんとおっしゃるんだが、ご両親のたっての希望で、現在の桜林学院から清陵女学院の高等部を受験される事になったんだよ。宜しく頼みますよ。」
桜林から清稜だぁ? 確かに清稜はお嬢様学校として世間に名を馳せる名門校だけど、偏差値からいったら桜林はトップクラスじゃないか!
桜林なら、大学だって国立・私立共にトップクラスの学校に大量の合格者を出している、超名門校だ。リベラルな校風と共に、多数の著名人も輩出している。
なぜわざわざ桜林から清稜に?
成績のせいでは・・・無い。この成績なら桜林でも優等生だろう。第一桜林から清稜なら、この成績なら塾に通う必要なんてあるのか?

僕の頭には”?”マークが乱立していた。
妙な親もいるものだ、と思いながら成績表を眺めていると
「さぁ、沙織、先生にご挨拶なさい。」
父親の声に促されて、俯いて父親の大きな躯の陰に隠れていた少女が顔を上げた。
「初めまして、桜井沙織です。宜しくお願いします。」
蚊の鳴くような声で挨拶する少女を見ながら、僕もなんとか尋常に挨拶をした。
「数学担当の鈴木です。こちらこそ宜しくお願いします。」

かろうじて挨拶はしたものの、僕の心臓は早鐘を打っていた。
桜井沙織・・・初めましてなんかじゃありはしない。桜井沙織は、この目の前の大人しげにひっそりと佇んでいる少女は、確かに”彼女”だ!

急激に加速する、僕の時間。
再会の喜び?驚き? 僕に聞かないでくれ。今の僕には自分の気持ちも、この偶然も、どう理解して良いか分からず、ただ馬鹿のように立ち尽くすしか無かったのだから。

Heaven's Gate

2006-05-07 14:31:30 | オリジナル小説
彼女との、とても不可思議な、そして僕にとっては忘れられない印象的な一夜を経て、僕らは恋人同士になった・・・・ワケはない(苦笑)
彼女にとって、あの口付けは、あくまでコミュニケーションの手段であり、自分自身の心を開くための手段の一つなのだろう。
だから、僕も自然に口付け返す事ができたのだろう。 僕が彼女を受け入れるという表現手段として。
なぜだろう? 人の心の機微なんて、鈍すぎるぐらいの僕が、彼女の心だけは、気のせいかもしれないし、自惚れかもしれないけど、たぶん他の人間よりは、多少なりとも理解できている気がしている。

それはとても不思議な事だ。
僕と彼女は、似たところなんて見つけようにも見つからない。
強いて言えば、社会人では無いという事ぐらいだろうか?
性別は勿論違うし、もし同じ集団の中にいたら、彼女は大勢の人間の中心に咲く、華やかな薔薇の華。 僕は集団写真で、隅っこの方からピースサインを出して、かろうじて写っている、そんなタイプ。
真面目で成績もそこそこだから、教師のウケは良いが、翌年には忘れられてしまうそんなタイプ。
彼女はといえば、いろいろ問題を起こして教師を悩ませるだろうが、後々まで印象に残り、怒られはしても実は気に入られている・・・そんなタイプだろう。

僕には分からない。 なぜそんな彼女がヤケを起こしたような行動をしていたのか? なぜ見ず知らずに近い僕なんかの部屋を訪れて、押し殺した涙を流すのか?

僕が彼女のような存在だったら、世界はもっと楽しくて仕方ないだろうにと思うのにだ。
同性からも羨まれるだろう、整った容姿。 会話してみると分かる、頭の回転の速さ。 人好きのする笑顔。 悪戯をしても、どこか憎めない愛らしさetc.
僕の贔屓目もあるかもしれないけど、少なくとも、僕みたいに、自分の存在のありふれたちっぽけさを嫌になるような事なんて無いはずだ。
友達だって、彼女になら沢山いるだろう。
それなのに・・・

彼女は孤独だ。 少なくとも孤独な面を持っている。
口付けた唇を通して、肌から伝わる体温を通して、僕はそれを実感した。
少なくとも彼女は自分の”孤独”を、僕には見せてくれたのだ。

だが、そんな微かな自惚れをあざ笑うかのように、その後ぱったりと彼女は僕の前に現れなくなった。

そして僕はと言えば、彼女を探す術も分からず、探して良いものかどうかも分からず、ただ呆然と、以前と同じ平凡で退屈で、平穏無事な毎日を送っていた。
探したい気持ちはあった。でも、もし探しても、彼女が嫌がったら? そう思うと怖かったし、そんな自分が馬鹿みたいだと思うとできなかった。

そうこうするうちに、街は寒さを増して行き、僕とは無縁の華やかなショーウインドーには、赤や緑の飾りつけが目立つようになっていた。
僕の心とシンクロするかのように、風は冷たく乾き、凍える手を温める息は白く、浮き立つ恋人達を横目に、僕の心は時を止めていた。

どうもすみません(^^;

2006-05-07 14:04:27 | オリジナル小説
すっかりご無沙汰しております。
著者yurikaです(^^;

決して放置プレイしていたわけでは無いんですけれど、思うところありまして、暫くネット世界から離れておりました。

”Heaven's Gate"も、途中で放ったらかしで可哀想な扱いにしてしまってますけど、ちゃんと完結するまで書かせて頂きますのでよろしくですm(__)m