真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第二章

2005-06-02 23:54:24 | オリジナル小説
・・・あれから数年の時が流れた。
バブルの残滓も感じられない、世の中は確実に世界不況への道を歩み始めていた。
西澤は美咲との一件があって以来、美咲のいた店へも顔を出す事はハタとなくなっていたし、また美咲からの連絡も当然無かった。
実際世界不況へと走り始め、混迷を極める日本経済の中で生き残るには、いかな西澤といえども遊び歩く余裕などありはしなかったし、精魂尽き果てる程に働いても、西澤の会社も規模の縮小、リストラの結構を行わないわけにはゆかなかった。
そうして努力に努力を重ねた事と、西澤の仕事がITに関連した事業を中心とし、他の業務への拡大をいち早く放棄したお陰で、かろうじて大規模な人員整理も、倒産の憂き目も見ずに済んだのは、やはり西澤の先見の明と才能と、経営者としての才能ゆえと言えた。
バブル当時の起業家仲間や、遊び仲間達が次々と破産、倒産の憂き目を見る中、なんとか被害を最小限に食い止め、社員の生活を守れたのはそれ程に奇跡的な事だったのだ。
一家心中や失踪した知己も多数いる中、現在の地位に踏みとどまり、今後も発展の見通しのある数少ない業界の一端に食い込めたのは僥倖と言わずして何と言おう。
そして西澤の下に集った社員も、そんな西澤の経営者としての才能を信じればこそ協力し、また才能のある者には年功序列の枠を飛び越えて出世の道を開き、才能を存分に開花させようとする西澤を慕い、有能な若手技術者達も、企業の規模は小さいにも関わらず、多数集まってくれていた。
西澤はバブル経済破綻の荒波を生き残った、数少ない成功者と言えたであろう。
とはいえ以前の様な羽振りの良さは当然望めなかったし、また西澤も年齢のせいか、接待や懇親会で飲みに出かける程度で、派手な遊びからはすっかり手を引き、落ち着いた生活を送っていた。

以前はワンマン経営の西澤であったが、現在の西澤は性格も比べ物にならないくらいに温厚となりーーいや、以前も仕事上では冷静で、決して激しやすい方では無かったのだがーー経営に関しても周囲の意見を取り入れるようになっていた。
とりわけ西澤が右腕とも思い信頼しているのが、役職こそ無いが、秘書とも補佐役ともいうべき川村であった。
女性ながら沈着冷静、頭脳明晰な彼女は、学歴こそ大したものでは無かったが、面接の際にその有能ぶりを遺憾なくなく発揮し、入社後もめきめきと頭角を現し、西澤のみならず、他の社員の信頼をも得たキレ者であった。
有能な女性にありがちな驕り高ぶったところも無く、人当たりも柔らかい川村は、容姿こそ地味ではあったが、その人柄で男性からも人気が高かったのだが、浮いた話一つ出ない川村に”きっと以前からの恋人がいるのだろう”と噂されていた。
実際西澤の右腕という地位にありながら、西澤との色恋沙汰という噂も、当初こそあったものの、極めてクールな様子の2人に”そんな事は無いだろう”というのが皆の感想であった。
ましてや以前の西澤の放蕩時代を知る者にとって、川村という女性は西澤の好みとは思えないタイプであったし。

川村直子という女は、実際他人に対してクールな一面があった。
日ごろはそんな素振りは決して見せないし、男性とも女性とも親しく接し、気軽に会話を交わし、一見社交的かとも見えるのだが、その実川村直子の私生活まで踏み込んで付き合っている友人は社内にはいなかった。
だが決して冷たい人間というわけでは無い。恐らく仕事とプライベートはきちんと区別したいという川村の主義なのだろう。
しかしその有能さは疑うべくも無かったし、社にとっても、社長である西澤に次いで必要な人材であった。
未だ独身を貫いている西澤であったから、仕事上の付き合いでのパーティーやレセプション等には川村に同行を頼む事が必然的に多かった。
同伴者を必要としないパーティーも勿論あったのだが、外国語は英語と、あとは片言のドイツ語程度の西澤に比べ、英・独・スペイン語に中国語まで操る才媛の川村が同席する事は、非常に有益で、ウケも良かったのだった。
才媛でありながら、川村直子という女は決して出過ぎない。あくまで社長の西澤を立ててくれていた。
それは海外の企業人や技術者には「ヤマトナデシコ」の美徳と取られ、日本人の企業人、特に年配の企業人には「今時生意気な女が多いなか、出来た女だ」と、中には西澤よりも川村との会話をこそ楽しみにしている人間までいる程であった。