真昼の月

創作?現実? ちょっとHな虚実不明のお話です。
女の子の本音・・・覗いてみませんか?

運命の微笑・第三章

2005-06-29 20:47:31 | オリジナル小説
月日の流れは、その人間によって感じ方が違うというが、西澤と直子 二人の時間は非常に濃密且つやわらかに過ぎていった。
夫婦となって数年とはとても思えない、まるで長年連れ添い、一緒に年を重ね幸も不幸も共に過ごし乗り越えて来たかのような空気を纏い、仕事上のパートナーとしても、妥協したり馴れ合う事も無く、共に会社を盛り立て支え合って生きてきた。
そんな二人を理想の夫婦像とし、憧れる者も多かった。

勿論西澤と直子とて、夫婦になってから何も波風が無かったわけでは無い。
だがその”波風”は、世の大多数の夫婦が経験するものとは少々種類が違っていたのだが。

西澤と直子は、お互いの素性こそはっきりしていたが(社員であった直子は当然の事ではあるが)、お互い電撃結婚と言える程の急速な接近と、その後には即行の婚姻であったので、お互いのプライベートな部分を知る時間はほとんど無かったのだ。
結婚後も二人共に仕事を続け、忙しい毎日を過ごしてきていたので、あまりその部分に関しては知る機会も無かった。
お互いの食べ物の好みや趣味、生活習慣、癖などは一緒に暮らせば自然と理解できたが、子供の頃の話や家族の話等はほとんどする機会も無かったし、結婚式にもお互いの親族はいなかったので、話し好きな叔父や叔母が延々と子供の頃のエピソードを語るという、ありがちなシーンも無かった。

お互いの両親が既に故人である事は知っていたので、あまり深く話す必要を感じなかった事もあり、二人の束の間の会話にそういった話題が出る事は無かったのだが、二人がその話を口に出さざるをえない時は唐突にやってきた。

きっかけは一通の手紙であった。
それは「西澤社長夫人様」という宛名で送られていた。 差出人の名は当然無かった。
こういった宛名で各種の勧誘や寄付の依頼の手紙が届く事は珍しく無かったが、なんの飾り気も無い市販の白封筒に、宛名のみ書かれている事は無く、大抵はその会社や組織の存在を主張する印刷やロゴ等が入っているものだ。が、その封筒には何の飾り気も無く、見るからに不自然であった。
外見通りに、中身も普通の内容では無かったのだが、当初直子はその手紙の事は西澤には隠していた。
だがその後その手紙は繰り返し送られて来、直子の様子を不審に思った西澤に問い詰められ、その存在を知られる事となった。

10通以上にも及ぶその手紙を見た西澤は、顔色を失い、同時に直子が手紙を隠していた理由を知ったのだった。
その手紙・・・それは過去から送られて来たものであった。