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遊行七恵、道を尋ねて何かに出会う

「遊行七恵の日々是遊行」の姉妹編です。
こちらもよろしくお願いします。
ツイッターのまとめもこちらに集めます。

INAXギャラリー、LIXILギャラリーで見てきたもの その1

2020-05-16 00:01:52 | 展覧会
悲しいニュースが飛び込んできた。
LIXILギャラリーの閉館である。出版も終わるという。
INAXギャラリーの時代からとてもとても楽しませてもらってきただけにつらい。
無料でこんなに遊ばせてもらってよいのかといつも思ってきたが、ついに閉ざされることになってしまった。
途中で親会社の名称変更に伴いギャラリーの名も変わったが、内容の充実度は変わることがなかった。
わたしの場合、主に大阪のギャラリーに行ったが、近年は東京の方にもよく行った。
基本的に巡回展が多いので、見損ねたのを見たり、再訪したりということである。
尤も、近年の大阪のLIXILギャラリーはグランフロントの中のけっこう乗り換えが面倒な場所に移転したので、そちらに行くより東京の京橋の方がわたしには行きやすい、という奇妙な個人的事情もあった。
キタの人間の言うことではないかもしれないが、月一東京へ出る身としては、その方が合理的なのである。

階段物語り展


これまでに通った展覧会のデータを挙げる。
19891223 リカちゃんハウス INAX 大阪
19910725 グリコおまけ INAX 大阪
19920604 上方の細工見せ物 INAX 大阪
19920613 上方の細工見せ物 INAX 大阪
19921219 金鯱 INAX 大阪
19930116 金鯱 INAX 大阪
19930624 立版古 INAX 東京
19930913 遊牧民の暮らし-ゲルのコスモロジー INAX 東京
19931010 立版古 INAX 大阪
19931127 夢の軌跡 INAX 大阪
19940130 ゲルのコスモロジー INAX 大阪
19940211 電話ーコミュニケートジャングル INAX 名古屋
19940417 階段の物語 INAX 大阪
19940503 大阪松竹座-なつかしのデザイン INAX 大阪
19940514 耳の建築 INAX 東京
19940522 大阪松竹座-なつかしのデザイン INAX 大阪
19940805 見立て絵 INAX 東京
19940924 見立百景 INAX 大阪
19941113 見立百景 INAX 大阪
19950225 INAX大阪・10年の歩み INAX 大阪
19950414 飛騨古川の建物 INAX 大阪
19950422 芝居小屋の空間 INAX 大阪
19950427 キューピー20世紀の天使 INAX 名古屋
19950520 芝居小屋の空間 INAX 大阪
19950721 絵画の中の床模様 INAX 東京
19951006 鋪地・中国ペーブメント INAX 東京
19951208 光悦の村・再現 INAX 東京
19960713 漆 INAX 大阪
19961214 建築の色と形 INAX 大阪
19970322 新・坪庭考 INAX 東京
19970719 タイル INAX 東京
19970823 新・坪庭考 INAX 大阪
19980307 蜂の巣 INAX 東京
19980314 道具の謎解き INAX 大阪
19990417 宮大工 INAX 大阪
19990807 人間住宅 INAX 大阪
19990904 土佐物部村・神々の形 INAX 東京
19990904 銀座建築祭り INAX 東京
19990918 道具の心理学 INAX 大阪
19991218 物部村・神々の形 INAX 大阪
20010407 林 丈二的考現学 INAX 大阪
20010420 林 丈二的考現学 INAX 大阪
20011104 秘土巡礼 INAX 大阪
20020413 月と建築 桂離宮と月の放物線 INAX 大阪
20030412 土木の水辺-神戸堰・豊稔池ダム・水路閣 INAX大阪
20030906 緑をまとう家 INAX大阪
20031213 動物園のデザイン INAX大阪
20041204 建築のフィギュア フォトモ・紙粘土模型・ジオラマ INAX大阪
20050121 建築のフィギュア フォトモ・紙粘土模型・ジオラマ INAX大阪
20050210 建築のフィギュア フォトモ・紙粘土模型・ジオラマ INAX大阪
20050210 イスラムタイルの世界 INAX大阪
20050514 唐桑村の船大工 INAX東京
20050515 ハンガリーの建築タイル紀行-ジョルナイ工房- INAX大阪
20050917 泥小屋探訪 奈良・山の辺の道 INAX大阪
20051224 小さな骨の動物園 INAX大阪
20060120 肥田せんせいの なにわ学 INAX東京
20060211 小さな骨の動物園 INAX大阪
20060713 真似るは学ぶ  INAX大阪
20060909 『室内』の52年展 山本夏彦が残したもの INAX大阪
20061202 タワー -内藤多仲と三塔物語- INAX大阪
20070414 世界のあやとり INAX大阪
20070712 バードハウス 小鳥の住む家 INAX大阪
20071108 舟小屋 風土とかたち INAX大阪
20080329 クモの巣 INAX大阪
20080607 『子どもの科学』 INAX大阪
20080918 オコナイ INAX大阪
20081220 考えるキノコ 摩訶不思議ワールド INAX大阪
20090328 九州列車の旅 INAX大阪
20090711 チェコのキュビズム建築 INAX大阪
20090919 七宝 INAX東京
20091112 ゑびす大黒 INAX大阪
20100108 結城座 INAX東京
20100116 七宝 色と細密の世界 INAX大阪
20100130 七宝 色と細密の世界 INAX大阪
20100626 植物化石 五億年の記憶 INAX東京
20100911 植物化石 五億年の記憶 INAX大阪
20110212 夢みる家具 森谷延雄 INAX大阪
20110709 にっぽんの客船 タイムトリップ INAX大阪
20120607 聖なる銀 アジアの装身具 INAX東京
20120908 山と森の精霊 高千穂・椎葉・米良の神楽 INAX大阪
20130420 中谷宇吉郎の森羅万象帖 INAX大阪
20131012 ヴィクトリア時代の室内装飾 女性たちのユートピア lixilギャラリー
20140126 ブルーノ・タウト 工芸 lixilギャラリー
20150213 タイルが伝える物語 図像の謎解き lixilギャラリー
20150213 宮田亮平 海へ lixilギャラリー
20150922 鉄道遺構再発見 lixilギャラリー
20151114 マカオのアズレージョ ポルトガル生まれのタイルと石畳 lixilギャラリー
20161217 南極建築 1957―2016 lixilギャラリー大阪
20170320 武田五一 建築標本 lixilギャラリー大阪
20180113 織物以前 タパとフェルト lixilギャラリー
20180504 貝人列伝 lixil東京
20180624 海を渡ったニッポンの家具  lixil大阪
20190127 富士屋ホテルの営繕さん。 lixil東京
20190414 吉田謙吉12坪の家 lixil東京

随分と見たものである。
特に最初の四ツ橋にあったINAX時代の展覧会は何もかもがきらきらしていた。
ビルの二階のギャラリーへはいつも勝手口からの階段を上がって行った。
というのは大抵そこへ行くのには心斎橋から向かうので、長堀通から入ると勝手口が正面より近いのである。
御堂筋線で行く場合と四つ橋線とでは多少の行き違いもあったが、その当時はクリスタ長堀もなかったので、そう歩く方が合理的だった。
ビルの勝手口からの階段には綺麗なイスラムタイルが貼り付けてあり、それを見るのも楽しかったというのもある。

北摂の阪急沿線の者はキタ、つまり梅田までが自分の行く場所で、それより南にはほぼ行かないという人が大半を占める。
わたしは展覧会に行く都合があって、二十歳頃からミナミにも出るようになったが、それでも四ツ橋へは滅多に行かなかった。
かつて四ツ橋には大阪電気科学館があり、そこへは何度も訪れたが、わざわざ西梅田駅まで出て四ツ橋で下車して行くというルートを使っていた。それが阪急沿線の者には煩わしい。御堂筋は乗りやすいのに西梅田は遠いので、ということだ。
だからその界隈は気合を入れないとなかなか行かなかった。
ところがある日、心斎橋の工事中にか、かつてよく出かけたフランス料理店(閉店してしまった)の窓から長堀通を見て、左の方に電気科学館が見えたことで、ようやく位置関係を把握した。
これならわざわざ四ツ橋線に乗らずとも心斎橋駅から徒歩ですぐではないか。
ということで出向くようになった。

最初に行ったのは1989年だからもう31年前になるのか。
リカちゃんハウスの展覧会があるというのを新聞で見て飛んで行った。
昼休み時間にご飯も食べずに行ったのだから、わたしも随分と情熱があった。
20分しかいられなかったが、とても嬉しかったのを覚えている。
道も間違えなかったのは前述の理由から。
そして91年7月のグリコ展がこれまた楽しかったのだが、その流れでか、翌月には芦屋市立美術博物館でもグリコのおまけ展があり、その時初めて芦屋の美術館にも出かけたのだった。こちらのチラシは手元にある。

というわけで、しばらく回顧記事を挙げてゆこうと思う。



振り返る 1996年に何を見たか その3

2020-05-06 17:17:00 | 展覧会
いよいよラスト。
画像は全てサムネイル。

19960903 ヴィクトル・ユゴーの世界 近鉄アート館  ユゴーの寝室の派手さには本当にびっくりした。すごいな。「レミゼラブル」の挿絵が全点出ていた。そして何よりもわたしにとっていちばん興味があったのが次女アデル…

19960907 田辺三重松 奈良そごう  黄色い背景に石のある絵がよかった。いまだに他では見ていない。
19960907 南越王の至宝 京都文化博物館  前漢時代の金ぴか。
19960908 メタモルフォーゼ 手塚記念館  思えば確かに手塚はメタモルフォーゼを描くマンガ家だった。メルモ、奇子、IL、W3、バンパイア…
19960913 ロートレック 郡山市立美術館  福島の友人に誘われて福島界隈を遊んだ。その時に見た展示。ムーランルージュ関連、千鳥の女二人など、けっこうナマナマしい作品が多い。常設展もよかったが、何故かほぼ絵はがきがない美術館。
19960915 常設 斉藤茂吉記念館  上ノ山温泉のところ。青山脳病院の素晴らしい洋館の模型があり「楡家の人々」の様子がうかがわれる。音声が流れるがけっこうヤバイな。改めて斎藤茂吉は日本第一の歌人だと思った。
19960926 竹久夢二とその時代 高槻西武  こたつに入るのを描いた屏風など。他に華宵なども。
19960928 京洛の四季 奈良そごう  京都新聞社連載分のまとめ。これは多分後年京都文化博物館に収蔵された分かな。
19960928 十二支の動物たち 大阪市立美術館  なかなか楽しい企画展。絵はがきのいいのも出た。ちょっとポップで。十二支の連中の着物がそれぞれのアイテムの文様なのも楽しい。日本版トリビュートなわけだよ。
19960929 京の絵本 アクティ大丸  遂に刊行された「京の絵本」を記念しての原画展。箱は松篁さん、中身は中堅の方々、一寸法師、羅生門、酒呑童子…着物の表現に千代紙を使うのもあって、そういうの好きだな。そして出口ではこれらの映像が流れていた。
これは今も時折保管先の京都文化博物館で展示されもする。
19961004 棟方志功 鎌倉記念館所蔵品 大丸心斎橋  「鍵」「瘋癲老人日記」挿絵が出ていた。とてもよかった。久しぶりにやはり志功はいいなと思った。
19961010 常設 三渓園・原三渓記念館  御舟や仏像など展示していたが、ここの庭園の素晴らしさにおおおおおになった。金木犀ならぬ銀木犀を知ったのもここ。友人が教えてくれた。
19961010 常設 ブリキのおもちゃ館  七年ぶりにマリンタワーに。もう南洋の鳥とかいなかったな、別フロアだけど。

この日は十月十日つまり双十節。中華街のお祭りにいき、2時間にわたって獅子舞の後をついて回り、硝煙の匂いを想いきり楽しんだ。

19961011 織田一磨と創作版画 DO!FAMILY美術館  大正の新版画・創作版画の魅力はつくづく深い。織田の作品は「知る場所の昔の様子」なのが多いので、よけいに惹かれるし、自分も彫りたくなるのよね。
19961012 常設 朝倉彫塑館  とても楽しかったが、あいにく猫の像がみんななかったなあ。
19961012 江戸時代の時計・上田愚朗コレクション 大名時計博物館  森まゆみさんの谷根千の地図を手にして朝倉からここへ向かうが、ヒマラヤスギをふっとまがった瞬間に出た。入り口でおばあさんがたまねぎを干す準備していた。雑木林がすごくよかった。時間が停まってたなあ。大名時計も面白かった。で、そこから弥生へむかうわけです。
19961012 大正ロマンの挿し絵 弥生美術館 
19961012 異国浪漫-西洋文化への憧れと外遊 弥生美術館  夢二のアメリカツアー失敗の軌跡を追ってた。
19961012 浮世絵に見る歌舞伎 たばこと塩の博物館  たいへん魅力的な展示なのにこういう時に限って時間がない…
19961019 美しの日本・崇高の中国 大阪市立美術館  パスカードをいただいたのがとても嬉しかった。所蔵品の素晴らしいのを惜しげなく展示。すごかったなあ。地下にレストラン瑠樹もあり、味噌煮込みうどんが美味しかったなあ。

19961024 龍村平蔵・織りの世界 ナンバ高島屋  授業で知った初代龍村平蔵の苦難と成功、大谷探険隊の偉業、もお今に至るまでわたしの西域、シルクロードへの憧れは全てここにある。今も獅子狩文錦を見るだけでときめく。他方、平蔵が他の西陣の人々と権利のことで大変だったり、菅楯彦と決別したことを知ったりで、感慨深かった。

19961024 クマのプーさんの世界 大丸心斎橋  英国フェアの一環でミルンの原作の方の展示。丁度同時期にミルンの息子であり、物語のモデル・ロビン氏の訃報を知る。物語では仲良し親子だが、父は理想の息子を描き、息子は現実の父に見捨てられていたという切ない事実を知る。

19961026 正倉院 48 奈良国立博物館  なんでもこの年は50年記念展だそうで、第一回目の展示と同じ内容にしたそう。前年のがイマイチだったがこの展示は素晴らしく、あまりに良くて、結局この後もずっと見に行くことになった契機の展覧会。
19961026 志賀直哉の空想美術館 奈良県立美術館  志賀の編集した「座右寶」の中身を集めたもの。中でもやきものの鹿の表情がとてもよかった。生意気でロクデナシでシカトするロクすっぽ…まぁそういう鹿でした。dear deer
19961026 竹久夢二 岡山郷土美術館 奈良そごう  
19961026 ポール・デルヴォー アクティ大丸  チラシはいいが、中身がよくなかった。コンセプトを間違えたなと当時思った。どう間違えたか、ちょっとこれはニュアンスの問題か。

19961102 絵を読む心・物語と幻想 神奈川県立近代美術館  新館のみ見た。清方「お夏清十郎」、谷中安規、球子の安徳帝、志功の板画、三岸好太郎の詩とシュールな作品、Mエルンスト、ポー「大鴉」、それから抽象的なサロメとか…
19961102 ダダとシュール 横浜美術館  全然わからなかった。霧の酷い日でそこからランドマークが見えなかった。
19961102 グリコのおまけ 横浜ランドタワー 当時はみなとみらい線がなく、桜木町へ出るためにここへ入ると偶然開催。大好きなグリコのおまけがずらーっ
19961102 近代美術の巨人たち-帝室技芸員の世界 サントリー美術館  赤坂見附時代。光雲の像や工芸品の佳いのがたくさん出ていた。
19961102 常設 長谷川町子美術館  又造さんなど彼女のコレクションの素晴らしさを楽しむ一方、サザエさんにも目がゆく。
近くの松本かっぢギャラリーは5時までなので行けず。雪も降って寒い日なのにバスが待てども待てども来ず35分待ったところで脱出。他に並んでた人々はどうなったろう。砧はそれで諦めた。アワーズインの大浴場でようやく寒さが取れた。
19961103 役者絵の世界 跡見学園花蹊記念館  学園祭のバスに乗って出向く。朝霞だったか。赤羽で乗り換えるべきだった。しかし苦労して出かけた甲斐はあって、よいものをたくさん見た。学園祭はみなかった。
19961103 本郷座の世界 文京ふるさと歴史館  わたしの地元にあった呉羽座(現・明治村に移管)を思わせるところもある。資料はたくさんあり、見ごたえあるが図録がちょっと残念なので買わず。ジュサブロー展のチラシ発見。
19961103 白馬会の世界 ブリヂストン美術館  武二のこれが出ていた。とても嬉しい。明治の洋画界は面白い。
 
19961103 ジュサブロー 深川江戸資料館  タクシーで飛んで行ったが一瞬間違って両国へ行きそうになった。角刈りのおじいさん運転手がいかにも下町風の鯔背な感じがしたね。
素晴らしく佳かった。サイン本購入。狂気のような表情の人形がいた。時間ぎりぎりまでみつめあった。
19961107 マン・レイ アクティ大丸  6年ぶりに見る。キキの写真も多いが、海辺のバカンスのスナップ写真がやたら多い。
19961114 アントニオ・ロペス 奈良そごう  丸谷才一「裏声で歌へ君が代」「たつた一人の反乱」の表紙絵で知ったロペス。ファッションイラストレーターとしてラフォーレとも縁が深かったのか。
後年同名の他の画家も知るが、やはりこの人がけっこう好きなのだ。
19961116 大正時代と画家 メナード美術館  小牧まで行ったのだ…よい作品が多いがとても遠い。

19961116 國芳 名古屋市立博物館  とてもいい展覧会で大満足。この頃くらいから国芳の展覧会も大々的なのがうてるようになったな。図録が巨大。サントリーに巡回する。グッズもチラシもよかった。初めてきしめん食べた。
19961116 師と弟子 古川美術館  ここの学芸員さんの書くキャプションは楽しい。伊藤小坡がかなり多かった。よいなあ。

19961122 幕末の京焼き-道八・保全を中心に 湯木美術館  ここで初めて道八、保全の良さを知った。染付の美もいい。
19961201 漆と蒔絵 逸翁美術館 楽しむ・愛でる。
19961201 宝塚歌劇と阪神モダニズム 池田文庫  ポスターはモダニズムだったな。
19961207 激動の中世・京の町衆 京都文化博物館  ポスターにドキッ…とした。林屋辰三郎の唱えた「町衆」が当初は京雀には受け入れられなかったのに数十年後には自称するわけさ。「神事これなくとも山鉾渡らせたく候」。
19961214 美研の30年 大阪市立美術館  
19961214 建築の色と形 INAX 大阪

チラシも割と多く残っているし記憶もけっこうあるので、わりと一つ一ついろんなことを記せるが、この年はなかなか良い内容の展覧会が多かったなあ。
こういうのも楽しいわ。

振り返る 1996年に何を見たか (主に展覧会) その2

2020-04-30 01:43:18 | 展覧会
続き。画像は全てサムネイル。
19960706 谷中安規 奈良そごう その1で記したdo!で見たばかりの所へ大量に見ることが出来、本も買えた嬉しさよ。

19960706 ふろしき 思文閣美術館  絵ハガキをたくさん購入。個人コレクター万歳。
19960713 タイの遺跡と民家 コニカギャラリー  例の木の根元に仏顔のを見てヒーッ
19960713 漆 INAX 大阪
19960727 藍の器・祥瑞・呉須 湯木美術館  これがまたよくて絵はがき大量購入。
19960727 常設 東洋陶磁美術館  わからないことを質問したところとても丁寧に熱心に答えてくれはりました。
19960727 桃山・江戸の美-傾きの美 出光美術館大阪  桃山らしい傾いたものが多かった。風俗画も。
19960728 まちかど 平野町ぐるみ博  色々と出歩きました。楽しかった。
19960802 ドールハウス フジタTOY  再訪。素晴らしいものを見た。
19960802 明治の浮世絵師 DO!FAMILY美術館  芳虎、芳幾、芳年が並ぶ。
19960802 浮世絵の月の風情 太田記念浮世絵美術館  「月百姿」など。

19960802 昭和の日本画・2 山種美術館  より近代的な作品が。

19960802 近代版画に見る東京 江戸東京博物館  素晴らしく佳かった。本も買えてよかった。もともとここのショップで新版画の絵ハガキのよいのを総ザラエで購入して新版画の良さを知ったのだが、本当に良かった。

19960803 企業のアートコレクション 大倉集古館  小出の「六月の郊外風景」初見。あまりに惹かれすぎて二時間もこの絵の前を行ったり来たり留まったり。絵ハガキも購入したが現物の圧倒的な魅力には及ばない。不安のについて色々と考える。

19960803 日本画の美 大倉集古館  青邨などいろいろ。
19960803 日本の伝統芸能 東京STギャラリー  これまた素晴らしい。本も買う。非常に面白かった。
実はこの後三之丸の「小栗」を見に行こうとしたが道に迷い断念。
19960804 戦後の付録 弥生美術館  りぼんやなかよしなどのふろくがたくさん並んでいた。
19960804 夢二大正ロマンのグラフィックデザイン 弥生美術館  「婦人グラフ」がたくさん並ぶ。
この日は浅草から三囲神社から言問団子、東向島百花園、𦾔玉ノ井散策から根津へ。
19960804 福田繁雄 日本橋三越  あまり面白くなかった。グラフィックなものをもっと期待していた。
19960813 貝の博覧会 大丸心斎橋  世界中の貝がずらーっ綺麗だった。
この頃の大丸心斎橋は夏になると子供向けの展覧会や博覧会をよく開いていた。
19960825 役者絵の情報発信 池田文庫
19960831 未来都市の考古学 東京都現代美術館  大変素晴らしかった。今もよく思い出す。

何かあるとやはりこの内容を思い出す。
19960831 近代都市と芸術 東京都現代美術館  
19960831 常設 東京都現代美術館

振り返る 1996年に何を見たか (主に展覧会) その1

2020-04-30 01:42:49 | 展覧会
書けてない感想をあげるとかすればいいんだが、とりあえずツイッターで刺激を受けて、古い昔を思い出した。
1996年、当時既にめちゃくちゃに予定を詰め込んで、体力のあるのを幸いにあちらこちらへ出かけた。
この頃はノートに感想やチラシや雑誌の切り抜きをぺたぺた貼っていて、いま読み返しても大体の様子が思い出される。
そのまま出してもいいんだが、わたしが自分の為に書いたものなので、他者に丸ごと見せるわけにはいかない様相を呈している。
それでペタペタ貼ったのをピックアップしてちょこっとだけ書いてゆこう。
誰得な内容だが、こういうのも始めると面倒だが妙に楽しい。
それで画像はみんなサムネイルにするので見たい人は拡大してみてください。

19960106 日本映画のポスター 京都文化博物館  「薄桜記」ポスターが素敵だった。雷蔵さん…
19960114 マグナム・シネマ・フォト 近鉄アート館  キャパを始め当時の名カメラマンたちがシネマを手掛けていたそうだ。わたしは特にジョン・ヒューストン監督「白鯨」に非常に惹かれた。元々あの映画のファンだが、とてもよかった。

19960120 梅原龍三郎 奈良そごう 
19960120 國芳 大丸心斎橋 
19960209 リカちゃんとバービー フジタTOY
19960209 版画 太田記念浮世絵美術館
19960209 浮世絵 DO!FAMILY美術館
19960210 オルセー美術館 東京都美術館
19960210 華宵・未公開挿し絵 弥生美術館  「南蛮小僧」初見。もうときめいてときめいて…
19960210 常設 深川江戸資料館
19960210 女性に寄する展覧会・女性を捉えた美人画・小物 弥生美術館
19960211 線の芸 鏑木清方 目黒雅叙園  非常に良かった。やっと見れた作品も多い。
19960211 八島太郎 いわさきちひろ美術館  「からす太郎」の人、いいパンフ貰った。
19960211 ちひろの赤ちゃん いわさきちひろ美術館  3か月、6か月、9か月の赤ん坊の描き分け…
19960211 伊万里焼と色鍋島 栗田美術館  明治座の隣。今もあったらよかったのになあ。有田焼の名品ばかり。
19960308 春の人形 宝鏡寺  この時偶然同じ猫リュックの幼児を見かけ抱っこする。
19960308 陽明文庫-近衛家の雛 茶道資料館 
19960308 黄金のシカン文明 京都文化博物館  仮面がもう凄くてね。
19960308 衣装人形 京都文化博物館  パラソル持った大正はいからさん人形とか。
19960310 女流作家 池田文庫
19960316 ゴッホと印象派 奈良県立美術館
19960316 琳派 奈良そごう 
19960316 ナント市立美術館 京都市美術館
19960321 高山辰雄 大丸心斎橋  鳩とバラの絵や新作が多かった。
19960406 ブラックジャック 手塚記念館
19960406 北京-故宮 大阪市立美術館  西太后の髪飾りのあまりな豪華さにクラクラ。「大唐長安」のあれと通じるものがある。
19960420 殷周の青銅器 出光美術館大阪  饕餮文が大好き。
19960427 天野喜孝 プランタンナンバ
19960428 シカン文明黄金の仮面 京都文化博物館  再訪。
19960428 須田剋太 思文閣美術館 

当時の思文閣美術館素晴らしかったなあ。この日はママと一緒に行きました。哲学の道の八重桜見て歩いて若王子行ったり。
19960503 大唐長安の女性たち 兵庫県立歴史博物館  唐美人の衣裳の再現などがありこれが素晴らしかった。
残念なのは常設の敦盛人形が無くなっていたこと。あれ以来再会していない…
19960504 創画会 奈良そごう
19960511 大津祭 大津歴史博物館  神功皇后の人形があまりに美青年風でときめいた。登竜門、猩々など素晴らしかった。
19960511 鶴沢派 京大文学部博物館  鶴沢派初見。鶴の絵が多かった。
19960516 常設 NHK放送博物館  愛宕山、いいなあ。ラジオドラマ「笛吹童子」を聴いたり。虎の門界隈はこの当時はまだ古い民家も残っていた。
19960516 MOMA-NY近代美術館 上野の森美術館  三年ぶりのMOMA展。
19960525 印象派から現代へ 北海道立近代美術館  社内旅行で単独行動。これは巡回ものだった。
19960525 三岸好太郎 三岸好太郎記念館
19960526 常設 札幌芸術の森 団体行動。しかし特別展は「ハンガリー応用建築」展の巡回。95年の京都で見た最高に素晴らしい展示。もう一度見たかったなあ。現代彫刻を見て歩いた。
19960526 常設 小樽美術館 
19960526 常設 小樽文学館 色々と感銘を受ける。伊藤整「若き詩人の肖像」を思い出したり、小樽の坂、小樽商工に思いを馳せたり。
19960526 常設 石原裕次郎記念館
実はこれを見ましょうと総務にねじ込んだのだが、みんな大喜びしたのでよかったよ。
19960607 常設 NHK放送博物館
19960607 花咲ける日本絵画・近世から近代へ 大倉集古館
ほかに大観「みみずく」に惹かれたり。忠太の建物最高だな。
19960607 日本画・明治から現代へ 松岡美術館  当時は御成門にあったので歩いて行った。
19960607 鰭崎英朋 弥生美術館  「風流線」ありましたわ。最高。
19960607 夢二その生涯と芸術・明治大正昭和を駆け抜けた男 弥生美術館  
19960607 浮世絵師の肖像 太田記念浮世絵美術館
19960607 谷中安規と創作版画 DO!FAMILY美術館  ここで谷中を知ったのだ。素晴らしい。
19960607 ドールハウス フジタTOY  英国の囚人が一人でこつこつ拵えたドールハウスの大邸宅が圧巻。16室もあった。部屋にかけられたラファエル前派の絵などもよかったなあ。
19960608 文明開化・東京橋巡り テレパーク  NTTと郵政の資料もたくさんあった。
19960608 日本映画 早稲田大学演劇博物館
19960608 新収納品と岸田劉生 東京近代美術館  劉生の麗子4コママンガが面白かったわ。
19960608 日本画・明治から大正1 山種美術館
19960614 中原淳一と葦原邦子 ナビオ阪急  チラシが素晴らしすぎてクラクラ。葦原邦子の男役のハンサムなこと…
19960615 安田靫彦 茨木市立川端康成文学館  「桃」「日蝕」などが来ていた。川端の生家の模型がよかった。18分かかる道のりを12分で歩いたなあ。
19960615 サーカスがやってきた 兵庫県立近代美術館 
これがあまりに良すぎて曲馬団関係の資料にのめりこむきっかけになった。古賀春江「サーカスの景」も見れたし…

長くなりすぎるので前半終了。

六世中村歌右衛門展をかえりみる

2020-04-18 00:58:48 | 展覧会
中村歌右衛門は現在六世まで続いている。
本来ならば七世になるべき福助が体調不良のため、襲名できないままだ。
この大名跡は上方と江戸で大活躍し「兼ネル役者」の称号を得た三世以降、まことに素晴らしい役者が継いでは守り、更に大きくしてきた。
特に五世歌右衛門の逸話は非常に面白く、戸板康二「ぜいたく列伝」、川尻清潭「名優芸談」、お手伝いさんの目から見た歌右衛門屋敷の千駄ヶ谷御殿での日々を描いた本もあるが、豪華絢爛で豪勢でとても面白い。
その大邸宅で育ったのが六世歌右衛門である。
昭和を代表する偉大なる歌舞伎役者。
わたしは晩年の姿しか目の当たりに出来ず、あとは映像や写真資料のみで偲ぶのみだったが、それでもまことに素晴らしいことはよくわかった。
その不世出の名優・六世歌右衛門没して20年近くたち、縁の地・世田谷で大きな回顧展が開催された。

世田谷文学館で六世中村歌右衛門展が営まれ、それを見に行ったのは三月末の桜の満開の時だった。
文学館周囲の桜は非常に美しく、風で花びらが舞うと白拍子花子を演じる六世歌右衛門の看板が煌めいて見えた。
まさにこれこそ
「春風や まことに六世歌右衛門」
この句にふさわしい風情があった。

これは六世歌右衛門を襲名したとき久保田万太郎が詠んだ句だが、ほんにその通りで、久保田の数多い名句の中でも特に春風駘蕩な味わいがある。
少し久保田の俳句に移るが、彼の中でも屈指の名句といえば(大いに偏愛が出るが)
「湯豆腐や いのちのはてのうすあかり」
「竹馬や いろはにほへと ちりぢりに」
「鎌倉の春 豊島屋の鳩サブレ」
これらと並んで
「春風や まことに六世歌右衛門」
もまた素晴らしい。

さて、歌右衛門といえば早稲田大学の演劇博物館に寄贈したものが色々あり、展示されていたのを見たが、美麗な歌舞伎装束が並んでいた。
歌右衛門が大活躍していた時代、日本画家、文学者もまた絢爛な顔触れがそろっていた。
歌右衛門と最も関係が深い文学者といえば三島由紀夫であり、ドナルド・キーンであるが、今回の展覧会でも三島の資料が出ている。
「氷結した火事」と歌右衛門を評したのは三島だった。
少し長くなるがその文を引用する。
「今度の歌右衛門の特徴というべきは、あの迸るような冷たい情熱であろう。芝翫の舞台をみていると、冷静な知力や計算の持つ冷たさではなくて、情熱それ自身の持つ冷たさが横溢している。道成寺のごとき蛇身の鱗のつめたさがありありと感じられ、氷結した火事をみるような壮観である。芝翫の動くところ、どこにも冷たい焔がもえあがり、その焔は氷のように手を灼くだろうと思わせる。」(「新歌右衛門のこと」昭和26年)

ところでわたしは前掲の「春風や」の句を春風駘蕩と記したが、歌右衛門の芸はそれとはむしろ真逆のもので、誰も真似の出来ない高みにあると言うだけでなく、その峻厳さに慄くことが多かった。
むろんわたし程度のものでは本当には歌右衛門のその「至芸」のなんたるかを論ずることは不可能ではある。
だが、全く見ないままでこのような感想をあげているわけではないことも事実ではある。
生兵法は怪我の元、とは言うが敢えてその生兵法で歌右衛門について、この展覧会の事柄ともども記したいと思う。



子どもの頃の写真があるが、例の生まれつき股関節脱臼していて手術したという頃のもの。
誰の聞き書きかわすれたが、読んだところによると、非常に我慢強くリハビリにも耐えたそうだ。

千駄ヶ谷御殿の映像があった。
これは嬉しい。いつか見たいと思っていた。「ぜいたく列伝」で読んで以来とても憧れていた大邸宅である。。
なおこの邸宅については戸板康二研究家の藤田加奈子さんがこの記事内で詳しく記されている。
こちら


やがて若手役者として働き始めてからの写真資料などが現れる。
中でも何十枚もの写真を一堂に集めた壁面展示は良かった。
基本的に時代物それも大時代の身分の高い婦人が似合う方ではあるが、意外な役もしていたことを知る。
一番びっくりしたのは「梅暦」の仇吉。そのブロマイドを見て思わず「なんでやねん」とツッコミを入れずにいられなかった。
よりによって何故。いやしかし、こうした世話物の色っぽい芸者というのもまた…
(ああ驚いた)

そういえばかなり晩年になってからだが「伊勢音頭」で万野をしている。
その良さときたらもう、ほんまに絶品。
ただのイケズな中年婦人なのではなく、色気水気もまだあり、商売に熱心で、太客には笑顔も見せる。あてのないような福岡貢にはそりゃああいう態度にもなるわな。
…ということを物凄く納得させてくれたのであった。
品の良い人がああいうお役をなさるとこういう味がにじむというのがよくわかった。
あの時はお紺が梅幸、お鹿が田之助だったと思う。
団扇を使う手と言い、その表情と言い、こういうのを見せてもらえたことは後々まで響き、今もすぐにその姿が浮かんでくる。

芸の巧さ・役の掴みがニンの違いを力技でねじ伏せて、違和感から始まってもしまいに素晴らしいとなる道筋が歌右衛門にはある。
なのでニンに合わないように見えても最後にはその役をやりおおせるのだ。
これは現代ではほかに今の吉右衛門もそうだ。彼もニンが違っても芸で見せてしまう。
ただし、歌右衛門の芸は誰にも真似できない。

融和しない。
融和しない代わりに周囲がついてゆかざるを得なくなる。
同じお役をしても菊五郎劇団で育った梅幸さんは周囲に合わせる。
二人の玉手御前の違いを思えば納得できると思う。

歌右衛門の玉手は何をするかわからないところがあり、それが非常によかった。
梅幸さんの玉手は事情を知らぬものが見ても「本当は何かあるのでは、何か秘密があるのでは」と思わせるような優しさがあった。
歌右衛門の玉手を見ていると、継子への許されぬ愛に激情を見せる女ではなく、それを超えてしまって何をしでかすかわからない恐怖をよく感じた。
これはあくまでもわたしの勝手な感想だが、「わたしが、わたしが、わたしが」というのが物凄い圧になってこちらに来るのである。
わたしは玉手御前はそうした自己愛に熱狂する女、という見方をしているが、これはかつて見た歌右衛門の玉手から感じたことが脳に刻まれている可能性が高い。
もっとはっきり言ってしまうなら、あの「しんしんたる夜の道」で庵室につき、「かかさん開けて」と佇む玉手の姿を見て、「可哀想」と感じるより「うーわ、イカレタのがキター」と思うのが歌右衛門の玉手なのだ。
梅幸さんのは「可哀想」が先に立つ。
玉手の扮装も歌右衛門と梅幸さんとでは違う。
片袖と頭巾と。
そこがまたいい。

わたしは昔の三世梅玉の玉手のブロマイドをみたとき「水の底にいる女」だと思い、ぞわぞわした。
ただしその玉手は座敷に座る姿で「かかさん開けて」ではない。
この三世梅玉の玉手と歌右衛門の玉手が好きすぎて苦しい。

話がそれるが途中から「梅幸さん」と記しているが、これはただ単に「梅幸さん」だからで、歌右衛門へのリスペクトが低いというわけではない。
「松園さん」「松篁さん」「又造さん」と書くのと同じ。
漫画家の方なら「近藤ようこさん」「有間しのぶさん」「雁須磨子さん」と書く一方で「諸星大二郎」と書くのと同じ。どういう違いかは発音と字の長さによる、というのが本当のところなので、これ以上は自分でもよくわからない。

展示で素晴らしいと思ったのは「道成寺」の白拍子花子の動きの連続写真を並べているところ。
これは言えばコマ割りの楽しさで、一つ一つ目に追うのがとても楽しい。
映像で見ているものがこうして分解されることで、改めてその連続性の美しさを思い知らされるわけである。
全き美の結晶がここにある。

ただ、この演目は海外公演ではさして好評ではない。
着せ替えショーのように見なされているらしい。レヴューとして楽しまれないのは残念だ。
海外で多くの人が歌右衛門の名演に感じ入ったというのは「隅田川」だった。
わが子を探し求めて狂気に陥り、果てはその塚にたどり着く憐れな母親。
普遍的な悲しみを演じる歌右衛門の演技に多くの人が感銘を受けている。

海外といえばこれは紹介されていなかったが、歌右衛門はアフリカも大好きだそうだ。
動物大好きな歌右衛門はケニアで大喜びしたという。
またラスベガスでは大胆なギャンブラーとなったそうで、これは展示にも出ていた。

個人的なことを少し書くと、わたしは1990年代までは非常にたくさん芝居を観た。
それが今世紀に入ってから観劇も映画鑑賞も激減し、「演劇界」も読まなくなってしまった。
なのでわたしの知識は20世紀までのものが大半なのだということを、今更ながら挙げておく。
つまりその当時までの役者論や芸談がベースとなっている。

歌右衛門はとてもぬいぐるみが好きで、特にくまちゃんのぬいぐるみが好きだったそうで、あふれる様子が紹介されているのがとても微笑ましい。随分前のTVのインタヴューでもそれが出ていたのでなんとなく覚えている。
他にも可愛がっていたわんこのエピソードも覚えているが、それは紹介されていない。
その時の映像で最も衝撃を受けたのは、歌右衛門のお辞儀の美しさだった。指先まで完璧な美そのものだった。
あまりに綺麗な形・様子にわたしも真似てみたいと思ったが、到底不可能な話だった。
あれは何十年もの真摯な身体への訓練と意思の力による芸だったのだ。
もう随分昔になるが今も脳裏に焼き付いている。

パネル展示で歌右衛門のモダンな邸宅が出ていた。
とてもかっこいい。これが世田谷の邸宅なのだ。
歌右衛門のカッコいいところが出ている。

多くの文学者・画家との交流についての展示もいい。
歌右衛門とドナルド・キーンといえば思い出すのが2013年に早稲田大の演劇博物館の歌右衛門記念室でのドナルド・キーン展。
キーンさんは「まるでこの世の人ではないようでした」と「うるわしき戦後日本」で歌右衛門の美について言及している。

円地文子の「女形一代」も出ていた。わたしの偏愛の書である。歌右衛門がモデルの小説で、若い頃の出奔のこともあからさまに描かれている。作中で功成り名遂げた後のかれが昔のその相手と再会するシーンがいい。やさしさがにじんでいて、何度読んでも飽きない。

高名な日本画家たちの手描きの装束なども多い。そしてかれ自身の絵の才能も高く、それらが出ていたのも嬉しい。
展示はされていないが、橋本明治が描いた歌右衛門の絵はわたしも好きな一枚で、あの美しい物腰と静かで強靭な意志力が絵の中に再現されていた。
楽屋の様子も出ている。祇園守の紋がよいなあ。


展示が終わりに近づくにつれ、円地文子の前掲の小説での主人公の終焉を描いた情景が蘇ってくる。
よい終わり方だった。
そしてわたしは歌右衛門の最後の舞台を思い出す。
島田正吾を後白河法皇に迎えての「建礼門院」の出家後の姿である。
あれは前半を雀右衛門が演じ、尼僧になってからの「大原御幸」をほぼ二人芝居で演じた。
元々はTVドラマ「十時半睡」での島田のよさに惹かれた歌右衛門側からの招聘だったという。
実際、あのドラマでの島田正吾の十時半睡の良さは将に絶品だった。
演技者としての歌右衛門が島田と共演したいという気持ちがとてもわかるように思う。

わたしも歌舞伎座でその芝居を見たが、瞋恚と怨毒が消え、生きながら解脱してゆく建礼門院徳子の魂の在り方を目の当たりにし、静かな感動を覚えた。
「おお」と言いながら白い顔をやや上空に挙げたときのあの表情。
魂の浄化をそこにみた。
同じく顔をあげ嫣然とわらう八ッ橋とは全く違う笑顔だった。

最後の最後までときめく展覧会だった。
佳いものを見せてもらった。
好き勝手なことを書き連ねたが、本当に行けてよかった。

あの日みた桜をあげておく。

この桜に出迎えられて六世中村歌右衛門展を見たのである。