おざわようこの後遺症と伴走する日々のつぶやき-多剤併用大量処方された向精神薬の山から再生しつつあるひとの視座から-

大学時代の難治性うつ病診断から這い上がり、減薬に取り組み、元気になろうとしつつあるひと(硝子の??30代)のつぶやきです

薬物依存の原点を探すとき-「化学物質が問題を解決してくれる」という幻想に憑かれて-

2024-08-16 07:02:50 | 日記
ハクスリーは、小説『素晴らしい新世界』のなかで、気分が良くなる万能薬を「ソーマ」と呼んだ。

この名前は、2500年前に、サンスクリット語で書かれた聖典から取られたものである。

ソーマは、神の名前であり、祭典で供される飲み物でもあった。

行動を刺激し、薬効や精神的効果の高いソーマは、聖典に在る数多くの賛歌で讃えられている。

ソーマに含まれる刺激成分は、おそらく麻黄で、今でも、薬品に使用されている化学物質であり、パフォーマンス向上薬として、また、メタンフェタミンを作る原料として用いられている。

ハクスリーの向精神薬についての態度は、かなり幅があり、明確ではなかったが、生きてゆく中で、向精神薬によって、ハクスリー自身の体験が広がったことを認識して、彼の考え方は大きく変化した。

1932年に出版された『素晴らしい新世界』の中では、ソーマは、「人間の精神を麻痺させ、人間を人間以下の存在に貶め、人々を危険に導くもの」であった。

しかし、26年後の、1958年、ハクスリーは、『Drugs That Shape Men’s Minds(人間の精神を形成する薬物)』というエッセイのなかで、
「薬物は人間が自らの魂を見出し、知覚を研ぎ澄ます一助となる有効な手段である」
と述べている。

気持ちの良い幻覚状態を十分に体験してしまうと、薬物に極めて懐疑的で自制をしていた人であっても、とびきりの信奉者になってしまうようである。

私は、マルクスが、「宗教は民衆のアヘン」と言ったことは、言い得て妙だ、と思う。

受け容れがたい問題から、アヘンの気持ちの良い幻覚により逃避し、根本的な解決をせずに生きるアヘン中毒者と、
目を向けたくない世の中から、宗教によって、目を背け、受け身の姿勢を取りながら、根本的な解決をしないどころか、社会を否認することを助長する民衆の行動を重ねているからである。

今では、向精神薬が人々を良い気分にさせて社会を否認することを助長している。

現に、アメリカの成人のほぼ3分の1が、肉体的もしくは精神的苦痛を和らげる目的で、合法の、あるいは違法な薬物を摂取しており、また、非常に多くの人々がさまざまな薬物を同時に摂取しており、薬物の過剰処方が主な死因のひとつとなっているほどである。

ハクスリーは、薬物愛好家の古くからの伝統に倣っているようだ。

考古学や人類学で示された証拠に拠れば、人類はその歴史が始まったときから、薬物による興奮状態を経験している。

さらに、ほかの動物は、人類が登場する以前から薬物による興奮状態を経験していた。

つまり、薬物中毒は種の違いを超えて生じてしまう弱みであり、人間が作り出したものではないのである。

私たち霊長類の祖先も、自然がバーテンダーとなって出してくれる飲み物を好んで飲んでいた。

地面に落ちて発酵した果実はアルコールを醸成し、それにより高いカロリーと心地よい陶酔感を摂取する者に与える。

リンゴは、アダムとイブに見つけられるまで、どのくらいの時間、地面に落ちていたのだろうか。

神がアダムとイブに果実を食べないように命じたのは、ふたりがアルコールの虜になり、さらには、虜になりすぎて、アルコール中毒者になることを恐れたことも一因なのだろうか。

また、植物が、寄生虫や若芽を食べる動物から身を守るために出すさまざまな自然由来の精神作用物質を、野生動物も乱用している。

そして、私たち人間も、そのような物質を好む。

アヘンの原料はケシ、マリファナは大麻、コカインはコカ、サイロシビンはキノコ、ニコチンはタバコ、カフェインはコーヒーである。

アラビアアチャノキには、アンフェタミンに似た興奮物質が含まれる。

馬はロコ草が好きだし、猫はイヌハッカ、ジャガーは精神作用のある熱帯性のツタ、トナカイはキノコ、ワラビーはケシ、豚はカンナビノイドを含むトリュフを好む。

自然はまるで、精神作用薬を各種取り揃えたドラッグストアである。

人間は、自然の薬物をもとに創意工夫を凝らして、ますます強い薬物を作り出した。

人間のシナプスは、100以上の神経伝達物質の効果のバランスを取るように進化しており、各物質は、調和の取れた平衡状態を維持するチームの一員として働く。

しかし、現代の薬物は、いわば神経伝達物質のオーケストラピラミッドを占領し、オーケストラの他のメンバー(物質)を完全に圧倒している状態である。

例えば、コカインとアンフェタミンは、シナプスから放出されたドーパミン回収を阻害し、報酬系をこれまで意図されなかったレベルにまで急激に活性化させるが、その後、ドーパミン濃度の急上昇がなくなると、避けがたい禁断症状に襲われて無性に薬物が欲しくなる。

体外から侵入した薬物が、快楽を司る報酬系を完全に支配し奴隷にしてしまうのである。

コカインから引き離された中毒者が、コカインを得るためにとんでもない行動を取ることがあるのは、そのためである。

ニコチンとカフェインは、ドーパミンにそのように大きな影響はあたえないが、それでも何億という人々が中毒になるという意味では、強力な効果を持つ物質である。

ヘロインと処方薬のオピオイド系麻薬は、このような物質と似てはいるが、快感を脳内で司るエンドルフィンの働きをさらに危険な形で圧倒し、命に関わる可能性もあるのだ。

オピオイド受容体部位が飽和状態となることによって、普段は、制御され有効に働く報酬系が著しく活性化され、薬物に対する抑えきれないほどの強い欲求が生まれる。

大脳皮質が薬物の使用を止めたいと思っても、貪欲なオピオイド受容体との戦いに負けてしまうのである。

現在、アメリカは、これまでで最悪のオピオイド中毒の蔓延に直面しており、今やそれは、全世界に広がってしまっている。

毎年、4万人以上が亡くなり(新型コロナの影響下で7万人を超えた時期もある)、何百万という人々が医療行為を原因とする中毒にかかっている。

ケシは、医薬として、精神を高揚させるものとして、また、気晴らしとして、長く用いられてきた。

ケシは、確かに、常に何らかの害をもたらしてはいるが、今のオピオイドほど惨憺たる状況になったことはないだろう。

今日のオピオイド中毒の蔓延は、医薬品業界が薬物を強力に売り込んだことに加え、ますます強いオピオイド誘導体を合成したことも大きな原因である。

例えば、カルフェンタニルの作用は、モルヒネの1万倍である。

この鎮痛剤の不用意な処方の根本的な原因は、医者や患者の間で、
「どんな問題にも対処できる薬物があり、どんな痛みや苦痛も、すぐに抑えることができる」
という期待が広まっていることにある。

個人であろうと、社会であろうと、複雑な問題に対して、簡単な解決策を求めると、事態をさらに悪化させることが多いのである。

薬物依存の蔓延は、多くの人々の人生に破壊的な影響を与えるのみならず、病んだ社会に至る危険を伴っている。

化学物質が即座に問題を解決してくれることを期待する社会は、誰かが、何かがすぐに問題を解決してくれるという、安直な期待を持つ社会に繋がりやすいのではないだろうか。

薬物にまみれた人が、その人の幻想の中だけで生きるように、薬物にまみれた社会は、社会の幻想を助長し、幻想を抱く人を助けてしまうだろう。

社会の成熟を否認することを止めて、ありのままの現実に向き合える成熟した社会を実現したいと願うのであれば、私たちは、かつてない薬物依存の現実から少しずつでも、抜け出さなくてはならないであろう。

ここまで、読んで下さり、ありがとうございます。

台風が接近しています^_^;

気をつけて、対策して過ごしたいですね( ^_^)

今日も、頑張りすぎず、頑張りたいですね。

では、また、次回。